シロクニさんの異世界転生録   作:SMS Kaiser Franz Ⅱ/Ⅰ

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ノリと勢いで書きました。
続くかは不明です。


始発駅:転生したんだと思います

 

 

 

 天井から落ちてきた雫が額にあたり、その冷たさに驚いた私は急激にその意識を浮上させられた。

 

 「ぅひゃあっ!?…っぎゃぅ!~~っあぁぁ~…!」

 

 突然の事に、情けない声を漏らしながら私は上半身を浮かしかけ、勢い不足で起き上がれずに後頭部を床に強打した。後頭部に走った鋭い痛みに呻く事十数秒後、すっかり目が醒めた私は、今度はきちんと上半身を起こした。

 

 「っあぁ~、痛ってぇ…。まだ頭の後ろジンジンする…。…んぁ?あれ、何処よココ?」

 

 いまだ痛む後頭部を擦りながら、私はようやくここで自分が今居る場所が見知った場所でないことに気が付いた。出口から入り込む淡い光と、そこから見える光景から察するに、どうやらここは森の中の洞窟の中らしい。木が風に吹かれる音や、鳥の鳴き声が聞こえるのだから間違いないだろう。そして数秒間の硬直の後、私は事態の異常性に気が付き、叫び始める。

 

 「ファッ!?いや何処ここ!?なんで俺こんなトコ居んの!?え、なにこれ。俺こんなトコ来た記憶無いよ!?もしかしてアレか!?誘拐されたとかそんな感じか!?それか夢遊病になったとか!?と、とにかくここから出ないと…ってうおっ!?」

 

 訳が分からず、私は混乱しながら叫び続ける。そして洞窟から出るために立ち上がろうとした私は、体の感覚が何故か違う事によりバランスを崩し倒れこんだ。そしてここでようやく自分の体の違和感に気が付いた。

 

 「アイタタ…、何でだ、体の感覚がいつもと違う…。…ってあれ、俺の髪の毛こんな長かったっけ…?てか、よく考えたら声もなんだか女の子っぽいし…。」

 

 そして私は視線を自分の体にやる。紺色の作業着に身を包んでいるが、それ越しでもよく分かる程の立派な胸部の双丘、括れた腰、細い指、腰まで届く漆黒の艶やかな髪の毛があった。私はそれを数秒間じっと見つめ、また叫び始めた。

 

 「アイエエエエエエエエエ!?オッパイ!?オッパイナンデ!?な、なんでだ!?なんで、なんで俺が、お、女の子になってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 洞窟の奥まで木霊する程の音量で、俺は力の限り叫んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力の限り叫び続け、喉が枯れかけた頃になってようやく私は落ち着きを取り戻し、記憶を整理する事にした。

 そうしてやっと分かった事だが、今の自分には記憶の大部分が失われているようだった。こうなる前は男で、歳はだいたい二十代くらいの日本人だった事と恐らく趣味だったであろうモノの事などは覚えているが、自分の名前やかつての容姿、親や友人の顔、どんな仕事をしていたかなんてのは靄がかかったかのように思い出せなかった。何となく自分とは()()()()()と混濁してて、それらに邪魔されているような気がしたのだ。

 幾ら頭をひねり、唸ったところで結局思い出せなかったので、まぁいいかと楽観的な思考で私は思い出すのを諦める事にした。出て来ないモノは幾ら唸ったって出て来てくれないからね、シカタナイネ。

 

 「しっかし、一体全体どーなってんだぁ?コレは所謂性転換って奴なんだろうけど…。」

 

 だがしかし、普通にただ性転換しただけならこんな意味不明な状況にはならんだろうから、別の要素も含まれていると考えるのが妥当だろう。自身が分かる範囲の記憶(主に趣味だったであろうモノの記憶群)から類似的な事象を検索したところヒットしたモノがあった。

 

 「…てことは、俺は一度くたばって女の子として転生したってことなのかねぇ?」

 

 思いつくモノの中で納得しやすいモノはこれくらいしか無いだろう。まぁ、無論秘密裏に研究されていた性転換技術の被験者になっちまった挙句、口封じのために人里離れた山奥に捨てたって説も考えられるが、それは無いだろうと思う。だって口封じなら直接殺せばいいのだし。

 そうやって明確な答えを得られない疑問に付いて思考を巡らせていたが、やがてそれに飽きた私は考えるのをやめて立ち上がる。

 

 「…ぃよっと、うーん、だいぶ慣れてきたけどやっぱ感覚が違うと動きにくいなぁ」

 

 腕を伸ばして伸びをしたり、上半身を回したりと、慣れない体を動かしながら呟く。ちなみに勢いを付け過ぎると胸が遠心力で引っ張られて痛かった。あとちょっと重い。これがよく言われる巨乳の悩みって奴か…。まさか自分が体感するとは思ってませんでした。(小並感)

 軽い運動を少々繰り返した後、私は一旦洞窟の外に出てみる事にした。

 洞窟の入口にぶら下がっているツル植物を押しのけ、外に出た私を出迎えたのは鬱蒼とした原生林だった。ここまで人の手が加わっていない森林もそうそうお目に掛かる事は無いだろう。苔むした樹齢何百年の巨木や倒木、そして巨石がいくつも連なり、辺り一面緑の幻想的な風景を演出していた。洞窟のすぐ傍には小川があり、とても澄んだ水が流れていた。

 

 「はぁ~、綺麗だなぁ…。どれどれぇ……、ぅっひょう!?つっめたぁ!?」

 

 小川の水を掬おうと無造作に手を突っ込んだが、予想外の冷たさに驚き手を引っ込める。これに懲りた私は、水を掬うのをやめて小川を覗き込む。

 比較的流れが緩やかなお陰で、水面に写ったモノがよく見えた。そこには髪の長い端正な顔立ちの少女が写っていた。可愛いというよりも、綺麗、美しいといった表現がしっくりくる感じだ。

 

 「ふーん、これが俺の顔ねぇ…。いまいちピンと来ねぇなぁ…。」

 

 そう呟きながら、私は頬を触る。そして水面に写る少女も同じように頬に手を持っていく。それを見て何故か楽しくなった私は何パターンかの変顔をやる。何発か女子がやっちゃいけないような顔をやった後、急にアホらしくなってやめた私は、再び立ち上がって付近の散策に戻る。といっても大したものも無く、おまけにこのまま行くには少々危険な場所も多かったため、素直に探索を切り上げて先程の洞窟に戻ってきた。

 

 「他には特に無さそうだし、今度は洞窟を少しばかり調べてみようかねぇ」

 

 と言っても、周りが原生林で地上に差し込む光量が少ないうえに、ツル植物が洞窟の入口を覆っている為に、洞窟内の明るさはたかが知れていた。ツル植物を一本程使用して、他のツルを纏めはしたが、大して変わらんだろう。下手に暗闇の中に進んでいってケガとか、果ては深い穴なんかに墜ちて死んだりとかしたら大変なのでギリギリ見える範囲で散策する事にした。

 ツルを纏めたのが多少は功を奏したのか、さっきよりは洞窟の奥が見えるようになった。

 

 「さて、と…。これで少しはマシになったろ。んじゃ、ちょっくら行ってみるか。…って、うん…?」

 

 歩を進め始めて数歩、目が慣れてきだしたのか、奥の様子が少しずつ分かり始めた。そこには自然物では無い、紛れもない人工物らしきモノが鎮座していた。まだ遠くて薄暗い為、はっきりとした全容は分からないが、その影には見覚えがあった。

 

 「あれは…、っっ!?」

 

 それを認識した途端、突然頭に痛みが走り始めた。

 それでも私はそれに構うことなく歩みを止めずに進んでいく。ナニカに突き動かされるようにその歩みは徐々に早くなり最後は駆け足になっていた。何故かは分からないが、あの人工物の所に行かなければいけない、そんな気がしたからだ。

 やがて私はその人工物の前にたどり着いた。そしてそれを見た私は、それまであった予想が確信に変わり、そして疑問へと変わっていった。何故だ、何故ここにこんなモノがあるというのだ。もしかして、私がここに居る原因はこれだというのだろうか?

 

 「…なんで、こんな洞窟の中にコイツが…、C62があるんだよ…!」

 

 日本国鉄の蒸気機関車C62形。

 洞窟の奥、そこに鎮座していたのは男だった頃の私が愛してやまなかったモノだった。

 私はさらに近づき、機関車の前面に歩み寄っていった。そこには『C62 3』と刻印されたナンバープレートが太く大きなボイラーの煙室扉に取り付けてあるのが辛うじて見えた。

 

 「…3号機、北海道の苗穂に保存されてるハズのコイツがなんで…」

 

 そう言いながら、何の気なしに連結器に手を触れた瞬間、さっきからずっと感じていた頭痛がさらに痛み始め、それと同時に数多の記憶が雪崩れ込んできた。

 

 「ッッあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 気絶しそうなほどの激痛の中、流れ込んでくる記憶は人では無いナニカの視点から見た記憶ばかりだった。ある時は特急を牽き、またある時は極寒の冬の山線で姉妹と共に急行を牽き、またある時は記念館に野ざらしで保存され、またある時は現役復帰して特別列車を牽き、またある時は再び引退して将来の復活を願い、またある時は一人の青年に…。

 

 「…ッッッ!!!…ハァッ、ハァッ、ハァッ…!!」

 

 頭の激痛と記憶の奔流は一人の青年が記憶の主を眺めている所で終わった。

 記憶の主は十中八九このC62-3号機で間違いないだろう。ならばあの青年は男だった頃の私なのだろうか。一瞬の事だったため、顔は良く見えなかったし、そもそも男だった頃の容姿を思い出せないから早計な判断は出来ない。だが、やはり私がこうなったのはこの機関車が原因なのやもしれない。確証は無いが、何となくそんな気がするのだ。

 その後しばらくC62の周りをうろつき、恐る恐る再び触れてみて何もなくてホッとしたり、運転台に登ったりとしてC62を眺めていた。

 どれくらいそうしていたかは分からないが、ふと喉の渇きを覚え始めた私は先程の小川に行って水を飲んで来ようと思い、踵を返そうとしたその時だった。ズズンと何か重いものが着地する音が響いた。何事かと思って振り返ったその先には、洞窟に入って来る一匹の猫がいた。

 そう、猫だ。だがただの猫ではなかった。とにかくデカいのだ。人間より少し大きいくらいの巨大な猫がそこには居たのだ。その口には、狩りで仕留めたのか一匹の鹿が加えられていた。私も同じ目に遭うのかな…。

 

 「……嘘だといってよバーニィ…。」

 

 考慮しておくべきだったのかもしれない。ここが猛獣の住処である可能性を。

 ゆっくりこちらに歩み寄って来る巨大猫に、私は思考を放棄した。

 

 

 

 転生初日、いきなり私は生命の危機に陥っているのかもしれない。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
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