生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。 作:ジグ
今日この話を投稿し、明日も投稿する予定です。明日は初の有栖視点です。同じ話にまとめてもいいと思いましたが、どうせなら2つに区切ろうということで。そのため一話一話の文字数は少なめです、ご了承を。……本当なら今日に二話同時投稿する予定だったんじゃ。二話書くか→でも身体の調子が悪いなぁ→熱はかろ→《38.4》→HAHAHA、コレハハヤリノインフルエンザデスカ?→パトラッシュ、なんだかとても眠いんだ(悟り)
「お、一ノ瀬さんじゃないか。君もここで勉強を?」
「んー、ちょっとね。あ、この人たちは?」
Bクラスのリーダーもといポイント大量所持者、一ノ瀬帆波のご登場。侑斗と一ノ瀬は知り合いのようで、侑斗はお得意の爽やかスマイルで一ノ瀬を迎える。対する一ノ瀬も大抵の男子をドキッとさせるであろうニコニコとした笑顔で返す。うーん、このリア充の空気感。付き合ってるわけじゃないのになんでだろうな、美男美女が揃うと出てくる特有の雰囲気。と、まあ。こんな重要人物が出ればAクラスのお姫様は黙っちゃいないわけで。
「坂柳 有栖です。Bクラスの一ノ瀬さん、でしたか」
「坂柳さんね。私はー……って、私のこと知ってるみたいだね」
「ええ。たまに名前は聞きますので」
普通に見れば美少女同士が交友を深めようとしている風に見えるのだが、俺からしたらそんなもんには全く見えない。絶対なにか裏がある
「あはは、少し照れちゃうな。坂柳さんと、……えっと」
一ノ瀬は俺の方を見る。直樹たちじゃなく俺の方を。ちらっと神室の方も見ていた辺り、この人直感鋭すぎるんじゃないんですかね。開幕から警戒心しか抱いていない俺だが、そんなことは微塵も顔に出さないようにいつも通りを装う。
「桐ヶ谷 黎耶だ。横のが清水 直樹、あそこでつーんとしてるのが神室 真澄さん。一ノ瀬さんの話はよく聞くからな、こうして一度会えて嬉しい」
にこっと、普段繰り返している笑顔を向ける。感情は悟らせない。中学の時に身に付けた特技。俺だけではなく他のやつの情報も与え、俺以外にヘイトを分散。笑顔の裏の真意を探られる前に相手を褒め、感情の行き先を逸らす。ここまでがテンプレート。思惑通り一ノ瀬は俺のことをじっと見つめることもせず、他の皆を見渡してはにこにこと笑顔を崩さないまま。
「君が桐ヶ谷くんか。里中くんからよく話を聞くから気になってたんだー」
「おい侑斗、何話したんだ?」
「ん? 一ノ瀬さんとの秘密」
うぜえ。とぼけた顔もイケメンだからうぜえ。何が秘密だよ、一ノ瀬はそんな小さいレベルじゃない秘密抱えてんぞ。100万を余裕で超えるポイントとか。そんな一ノ瀬は侑斗に便乗するようににやにやと俺に顔を向ける。
「そうだね。里中くんとの秘密、だから教えられないかな?」
「こええよ……」
本当に怖い。こういうリア充っぽい奴らの会話とか童貞の俺にはわからないね。あと、リア充とかカースト上位の奴ってどうしてこう秘密って言葉が好きなのか理解に苦しむ。秘密を作れば互いに裏切れないという暗黙の了解でも生まれるのん? それなら納得がいく。
「ふふ。里中くんと仲が良いみたいですね。ところで一ノ瀬さんは、どうしてここへ?」
俺が乾いた笑みを浮かべていると、有栖が横に割って入り楽しげに微笑む。そう見えるのは表面だけで、実際は一ノ瀬の情報を抜くためだろうが。有栖に問いかけられた一ノ瀬は依然としてにこっと笑い嫌な顔をひとつ見せない。
「借りてた本の返却に来たんだよ。もう少し前の時間に返そうと思ってたんだけど、ちょっと色々あってね」
そう言って一ノ瀬は一冊の本を見せてくる。学校の図書館によくある勉学の本だ。その本を借りること自体は、テスト期間中ということもあり不自然な点ひとつ見られない。しかしここで重要なのは何故返すのが遅れたか、だろう。一ノ瀬はもう少し前の時間と言った。今はもう少しで18時になる、わざわざこんな時間に返す理由もない。あとで確認することは色々とあるが、その“ちょっと”が最重要ポイントだ。が、しかし。
「なるほど。一ノ瀬さんは人気者のようですし、この時間帯に返すのも納得です」
有栖は表情を変えないまま呟く。ベストアンサーだ。今の俺たちには一ノ瀬にその“ちょっと”が何かを聞けるほど仲良いわけじゃない。里中ならワンチャンあるだろうがそもそも里中には聞く動機がないしな。今はこれ以上の情報を得られないか、と有栖は切り上げるようだ。
「あはは。テスト期間はどうしても忙しくなっちゃうよね。坂柳さんはいつもここで勉強会をしているの?」
「いえ、日によって変わりますよ。今日はたまたまここで勉強会をすることになっただけです」
最低限の情報しか与えない。一ノ瀬が現状Aクラスに何かしらする理由は無いと思うが念には念を、か。まあ実際、日によって変わるし。レストランとかでする日もあれば放課後そのまま教室ですることもある。
「そうなんだ。あ、私はそろそろ本を返してくるね」
腕時計を見た一ノ瀬は俺たちにまた話そうね!と終始変わらない笑顔を見せたあとに、たたたっ、と返却カウンターまで早足で駆けて行った。まるで嵐だな、おい。初見一ノ瀬帆波、あれは本当に裏表が無いのか。それとも櫛田みたいにやっぱり裏ありましたってパターンなのか。如何せん情報が全く足りない上、真意を悟らせない純粋な笑顔を向けてくる。現状は手詰まりだ。ある程度行動や性格を知っている龍園より、一ノ瀬の方が危険かもしれないな。
「それでは、皆さんまた明日」
「おーう!じゃな、坂柳さーん、黎耶ー!」
「かむろん、また明日ねー!」
「いつかますみんって呼ばせてもらうからね!」
「それじゃあ、また明日」
あれから1時間ほど経ち、夕陽が落ちて月が見えてきた頃。今日の勉強会はここまで、ということで皆それぞれ寮に戻っていった。彼らを見送り残ったのは俺に有栖、それに神室だった。その神室といえば今の言葉にはぁ、と大きく溜息を吐いている。
「かむろんって何……」
「良かっただろ。あだ名が貰え……何でもないです、すみませんでした」
言葉を紡ぎかけたところで、神室さんから虎をも射殺す視線を向けられたのですぐに誤魔化しました。怖すぎんだろ。本当に殺されるかと思ったわ。両手を上げる俺に神室はまだ睨んでいるが、やがて俺から視線を逸らした。次の向かう先は有栖のようだ。
「それで、私を残して何の用?」
「聡明な真澄さんならわかると思いますが。一ノ瀬さんの情報を探って欲しいのですよ」
「……そんなところだろうと思ってた」
不満があることを隠しもせず面倒くさそうにする神室。忠誠心の欠片も無いですね、弱み握られてる関係ですし無理もない。そんな神室の様子を知ったことか、と言うように有栖はにこっと笑ってはお願いしますね?と念押しする。俺には聞こえる、聞こえるぞ。「真澄さんの秘密をばら撒いてもいいんですよ?」と。黒いなぁ。
「期限はいつまで?」
「いえ、特にそういったものは定めません。情報が入り次第私に連絡してくれればそれでいいですよ」
「……わかった。用件はそれだけ? それだけなら私はもう帰るけど」
「ええ。今日はありがとうございました、真澄さん」
感謝なんてしていない癖に、とぼそりと呟いた神室は一度、夜空の中輝く月を見上げてはさよならの一言も無しに寮へと戻っていった。クールだな。そんな神室の背中を見送ったところで俺と有栖は公園の方へと歩き始める。
「すっかり暗くなったな、有栖」
二人きりになったので、名前で呼ぶ。これが会話の合図でもある。互いに建前を使わなくてもいい、という。実際俺たちは日常生活では嘘か建前、とにかく本音をまるで出さない。まあ俺の場合侑斗とか直樹とかには心をある程度許してはいるが。有栖の場合、自惚れじゃないが心を明かせるのは俺くらいだろう。……俺くらいだよな?
「そうですね。寮に戻る前に、少し話をしてもいいですか?」
「ん。断る理由がないな、むしろ歓迎」
「ふふ。相変わらず私の前では気持ちを隠しませんね」
「まあな。あそこの公園でいいか?」
「ええ」
夜独特の空気感が辺りを包んでいる中、二人の足音が響く。小さく、だがはっきりと。ここから俺が指差した公園の距離は近く、歩いていればすぐに着いた。ちょうど良くベンチが配置されてあり、そこに隣合わせで座って一息吐く。
「落ち着きますね」
「わかるな。この冷たい空気は好きだ」
「はい。他にもありますが」
「ん、他?」
夜空を見上げていれば視線を感じた。有栖のものだ。その他とは何だろうかとぼんやり考えつつ、有栖の方へと振り返る。
「ふふ」
「……有栖?」
俺が振り返れば有栖はひとりでに笑う。嬉しそうで、儚げに。その他の具体例は出さず、ただ笑っていた。何があったんですか、有栖さん。
「やはり、落ち着きますね」
「あ、ああ。そう、だな?」
そのままぼそりと呟く有栖に俺は首を傾げることしか出来なかった。一体どうしたというんだ、有栖は。いつもの有栖とは少し離れたその姿に、疑問に思いながらも、惹かれてしまった。きっと、こんな有栖は誰も知らないだろうから。
「不思議です。何故、黎耶くんと──」
その言葉は途中で途絶えてしまった。いや、正確には有栖が突然ハッとして口を閉ざした、の方が正しいか。有栖は何を言おうとしたんだ。自分の名前が出されただけに余計に気になる。それに。
「──何でもありません」
どうして、そんなに悲しげに笑うのか。
どうして、自分を責めるように笑っているのか。
どうして、自分自身に嘲笑しているのか。
その一言と共に浮かべたその表情の真意を読み取ることは、今の俺には出来なかった。
「風が吹いてきましたね」
次の瞬間には、彼女はいつもの坂柳 有栖に戻っていた。冷静を装う有栖がびゅうっ、と音を立てる夜風を迎えるように髪を抑えている。最近の有栖はどこか不安定なように思える。前回の時も、きっと不安定だった。その原因は、一体どこにあるのか。心の奥底で燻る答えを理性が抑えている。
「なぁ、有栖」
「何でしょうか?」
風が強く俺たちの間を吹き抜けていく。空しい音が静寂の中に響いている。
「……一体、何に迷っているんだ?」
だから、聞いた。理性が導くままに。有栖は何かに迷っている。人間、弱みを他の人に基本的には見せないし、見せたくない生き物だ。誰だって知られたくない秘密や想いがある。きっと、有栖の根幹にあるのはその二つのどちらかだろう。人間が迷う時なんてそれらの存在理由が揺さぶられた時だ。もちろん、他にも些細なことで迷ったりはするが、有栖に限ってそれはない。そんなことはわかっている。
だから、聞いた。
そんなことじゃない秘密がわからないから。
ただただ空しい風の音が耳朶に触れている。
「……おかしいことを言いますね、黎耶くん。私は何にも迷っていませんよ?」
「本当にか?」
嘘と知っている。だが聞いた。揺さぶるために。俺の知っている坂柳 有栖はきっとここで受け流していた。だが、受け止めた。つまり、嘘だと。それに、一瞬だが間が生まれていた。普段の彼女ならこんな質問でも間を空けることなどないだろう。
「……ええ、迷ってなんかいませんよ」
「今一瞬答えるのに躊躇ったのにか?」
「っ…」
正直、責めるように有栖に問いかけるのは心が痛い。童貞ですし。だが、それでも知りたいのだ。坂柳 有栖という少女を。わかりたいのだ。坂柳 有栖という人間を。理解したいのだ。坂柳 有栖という存在を。例えまだ出会って半年も経っていないとしても。それでも、知らなければいけないと、心のどこかが叫んでいる。きっと、これは異常だ。彼女と付き合うことを初めての夢と掲げた俺の心の歪みだ。何がなんでも叶えてやるという壊れた願いだ。だが、それでも確かにそれは本能が出した答えだ。だから、この感情に逆らうことは出来ない。
「……ませんよ」
有栖は俯く。その声は微かに震えていた。声量は言わずもがな小さい。最後の辺りしか聞き取れなかった。もう一度聞き返そうと口を開こうとしたその時、有栖は顔を上げ、そして。
「わかり、ませんよ。……黎耶くん。教えて、下さい。私は、何に迷っているのでしょうか」
泣いていた。静かに、坂柳 有栖は泣いていた。涙は流さず、顔は俺の方を向いて。だが、それでも確かに泣いていた。声は震え、霞み、潤んでいた。まるで、何かに恐怖するかのように。まるで、何かから逃げるように。まるで、行き場を失くした子供のように。
「有栖、お前は……」
「……すみません。私にもわからないことを、黎耶くんに聞くなんて。今日の私はどうかしているようです」
言葉が出ない。待て、待ってくれ。
「私はもう戻りますね。……また明日、黎耶くん」
彼女が去っていく。違う、そうじゃないんだ。
彼女の姿が遠ざかっていく。何故だ。
なんで、言葉が出なかったんだ。なんで、言えなかったんだ。
──それが正常なんだ、と。
5000字なのは許してください(ぐったり)
明日、昼辺りに次話を……坂柳さん成分を…。