生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。 作:ジグ
……ふぅ(深呼吸)。どうも、ジグです。
1週間投稿を空けてすみません、金曜日にやっとインフルエンザが過ぎ去りまして。毎年この時期注意しても駄目ですね。
と、まあ、そんなことはさておき。
坂柳part2です。3で一先ず終わります。正直なところ、通常の黎耶くんがメインの時より数十倍書きづらいんですよね。まだまだ坂柳さんは謎が多いので。
「桐ヶ谷くん、飲み物は何にしましょうか」
授業という退屈な時間を過ごし、訪れた放課後。あの日から、……私が久しぶりに仮面を外した日からおよそ十数日が経った。それまで何かあったか、と言えば特に例に挙げて言うものは思い当たらない。あの日以降もしっかりと
「んー、まあ無難に紅茶かな。坂柳は?」
「私も紅茶にしましょうか」
「りょーかい、んじゃ頼んでくる」
私の注文を聞くと桐ヶ谷くんはカウンターへと向かっていく。私が何も言わずとも自分から店員へオーダーする辺り、男性だな、と。1分程して桐ヶ谷くんは私の向かいの席へと戻った。少し注意深く見てみると彼は目を泳がせてそわそわしている。冷静を保とうとしているのだが、私には動揺しているのが目に見えてしまう。
と、言うのも。
あの日以降。いや、正確には私が感謝の言葉を送った後からほとんど崩れなかった彼の冷静さが、私が軽く悪戯するだけで崩壊してしまう。前は顔を寄せられてもまだ冷静だったというのに、言葉一つで瓦解してしまうとはおかしな話だ。もっとも、彼が動揺し顔を赤くする姿は
「中々放課後時間が取れずすみません。気づけば小テストの後になってしまいました」
「いや、坂柳が空いてる時間もあったのに、その日に予定を入れてた俺も悪いから」
この件に関しては溜息が出る。が、私にとっても仕方ないことだ。スクールカーストが一日で形成はされないのと同じように、私の立ち位置、覇権を握るのも一日では当然達成出来ないため、小テストを挟んだ後もあまり放課後に取れる時間の余裕がなかった。といっても、色々と他クラスや他学年の情報を調べるといった個人的な用事もあったのでクラスに関わることは週に3、4回といったところだ。まあもっとも、これら全ては
「お互いの地位の為ですし仕方ありません」
「だな。俺のために時間作ってクラスのリーダー枠取れなかったら俺が申し訳ないし」
「ふふ、二人きりと言うのにやはり異質な話題になってしまいますね」
「情報交換も兼ねてるんだ、それにこういう事話すためにここを選んだしな」
──大人しくしていて下さい。
カチッと鍵を掛けて、
それからは小テストの話に。内容は抜き打ちではあったが、高校生に出すような出題レベルのテスト。もっとも、後半の残り数問程だけは異常な難易度を誇っていたが。その問題の範囲で言えば進学校でも習わないような、そんな問題。だが、実際あの問題自体にさほど意味は無い。重要なのは前半の問題を如何に完璧に解けたか、だろう。前半の問題はレベルで言えばそれこそ中学一、二年生がやるようなものだった。真嶋先生がテストを配る前に放った言葉、「成績には関係しない」とは、まさにその通りこのような問題を成績に反映しても意味が無いということ。もちろん本当の意味はプライベートポイントに関わるものなのだろうが、あの言い方は妙に引っかかる。それは桐ヶ谷くんも同じようで、やはり私のその推測が当たっている可能性は高いとの結論が出た。
「ふふ、同じ考えのようでよかったです」
「ま、あれくらいの問題で減点食らうようなやつはいないと思うけど」
私の予想でいえばAクラスはきっとエリート、というより、比較的高水準の能力を持った人の集まりだ。もちろん例外はいるにはいるが。その中でも、きっとこの男は葛城くんと並んで……いや、能力だけで言うならば葛城くんよりも上だろう。Aクラスでも間違いなくトップクラスの逸材。こうして私と二人きりでも優位を取られず話せているのがその証拠、いや、そもそも
「最後の数問以外は簡単でしたからね」
「……全問解いたんだな、坂柳」
「そうなりますね。桐ヶ谷くんはどうでした?」
そう願ったのだ。
私は完璧であるように。
もう、壊されないように。
敗北を味わうことのないように。
絶対的な強者足り得るように。
全てはあの日に、願ったこと。檻を作り、閉じ篭り、仮面を作り、それを被った。
「国語の難読漢字だけ。後はお手上げだ」
「ふふ、それでも凄いことじゃないですか」
「はぁ、そりゃどうも」
思考が乱れていた。直せ、戻せ。私は
「ため息を吐いたら幸せが逃げますよ、桐ヶ谷くん」
「……逃げた分、目の前から補給するから大丈夫だ」
……え?
照れ臭そうにその言葉を放つ彼の顔が急に見れなくなった。
目の前から補給する、何を? 幸せを。
彼の目の前には何がある? 私がいる。
幸せを目の前から補給?
──わたし、から、ほきゅ、う……?
思考回路が止まる。心臓の鼓動が早くなる。
何故だ、一体何故。駄目だ、わからない。何故、顔に熱が帯びる。何故、胸の動悸が激しい。何故、彼の顔が見れない。
その瞬間。
カチリと、
「っ。ふふ、そうですか」
少しだけ冷静を装い
「とりあえず、小テストの話はここまでにしておきましょうか」
「ん。あ、紅茶の他に何か頼むか?スイーツとか」
「そうですね、ではこのパフェを」
すると彼はスッと手を上げ店員に再び注文を。どうやら彼はクレープを頼んだらしい。その間彼は何故か妙にキリッと表情を作り、オーダーを聞いた店員に笑顔で手を振っていたが。何を考えているのか。
「桐ヶ谷くん、今何か変なことを考えていませんでしたか?」
「そんなことないぞ?」
彼は一瞬だけ目を逸らしたあと、冷静そうに答える。どうやら当たっていたようだ。どうやって浮かべていたかな、あの笑顔。いつも
「そうですか、ではそういうことにしておきましょう」
そのまま私は彼から視線を外し、夕暮れに染まる木々たちを見つめる。
二重人格に近いような現状だが、正確には少し違う。確かに私と
いつか、また一人に戻れるのだろうか。
その為に
私たちが歩んでいる道は本当にこれでいいのか、と。
私たちが救われる道は他にもあるのではないのか、と。
答えのない問いだ。それが見つからないから仮面はずっと頑張っている。ようは、私が元に戻ればそれでいいのだ。壊れたこの体が、この心が修復されればいい。
「桐ヶ谷くん?」
見える世界がずっと彼ではなく、彼の横の自然を見つめていたからか彼がずっと私に向けていたらしい視線には気づけなかった。私が振り返ると桐ヶ谷くんは、なにか慌てたように少しだけ顔を赤く染める。
「なんでもない、見とれ……気を抜いてた」
見とれていた、の本心からの言葉が出かけたらしい彼は咄嗟に口を塞ぎニュアンスが違う言葉に言いかえる。
だが、私にはしっかりと聞こえた。見とれていた、か。それは、
「……ふふっ、見とれていたんですね?」
私の言葉と笑顔に真っ赤になった彼はすぐに顔を私から逸らす。やはり楽しい、面白い。いつもは冷静な彼だが、私の行動一つでこうなってしまうのだから可笑しなものだ。
「……だったら、どうするんだ」
「いえ、どうもしませんが……あ、でも、そうですね」
一度何かの雑誌で見たことがある。“あーん”だったか。何故その名称になったかどうかはよくわからないが、とにかく今のシチュエーションだと出来そうだ。私の前に置かれているパフェの生クリームをスプーンにすくって乗せて、彼が顔を上げるのを待つ。私の予想ではそろそろこちらを向いてもいい頃合なのだが、と、そのすぐあと。
彼が未だ顔を赤くしながらも私の目を見つめたその瞬間。
「んぐっ!?」
生クリームを乗せた銀のスプーンを彼の口へと勢いよく突っ込む。その次に、私は無自覚に嗜虐的な笑みを浮かべ、
「私のパフェを食べさせてあげることにしましょう」
「っっ……」
予想通り彼の顔は更に赤く、まさに茹で蛸のように染まってしまった。その表情が見たかった。沸騰しそうなほどに真っ赤になるその顔を。慌てふためく桐ヶ谷くんの姿を。だが、これじゃまだ私は終わらない。私は知っている。“あーん”をした後にする行為を。……正直なことを言えば少し恥ずかしいが、羞恥心より好奇心の方が勝っているから躊躇はしなかった。
「ふふ、美味しいですね」
彼の口から戻したスプーンをそのまま自分の口内へと運ぶ。生クリームの甘みが口の中へと染み渡っていく。甘くて美味しい。スプーンに残っていた生クリームを全て舐め取りパフェへと戻す。その際には、余裕げにからかうように舌を出して。……とっても甘いです。生クリームだけじゃない、何かが入っていますね、これ。
「なっ……!?」
桐ヶ谷くんはその双眸を見開いたまま固まってしまった。少しやりすぎただろうか。そう思うと途端に羞恥心が湧き出てくる。彼が思ったことは私にもわかる、間接キスだろう。もちろん私が間接キスを異性としたのなど、彼が初めてだ。……駄目です、これ以上考えてはいけません。生クリームの中に彼の唾液が少し含まれていたとか、そんなことはないです。ただ私は桐ヶ谷くんをからかうためにしたまで。落ち着いて、私。冷静を装い、仮面を真似して。この羞恥心を誤魔化すように。
「どうかしましたか、桐ヶ谷くん?」
動揺する彼を見ると少しだけ落ち着いてきた。それにしても、本当に楽しい。私がここまで感情を抱くのは本当に久しぶりだ。心が躍る、心の底から愉快だと思える。だから、私の顔には自然と笑みが零れていた。
「……喋れないほど動揺していますか。大成功です」
夕焼けが私の瞳に反射する。そんな私の向かい側に座る彼の瞳は、まるで私しか映っていないようにただただ私を見つめていて。一切視線を外すことがなく、瞬きをしているかどうかすらも怪しいくらいだ。彼が再び動くまで待つのもそれはそれで楽しそうではあるが、
「ふふ、そろそろ戻って来て下さい」
私その声にビクッと身体が跳ねて反応した桐ヶ谷くんは、椅子に座り直しながらも未だ慌てた様子で言葉を紡ぐ。
「さ、坂柳……お前、何を……」
「私のスプーンについていたクリームを舐めとっただけですが」
「その前に、お、俺の口に突っ込んだろ……」
少しは落ち着いた様子だが、まだその表情からは動揺しているのが見え見えだ。まだ落ち着かせる気は無い、追撃するように私は次々と羞恥心を煽る言葉を浴びせていく。その度に攻撃する私も恥ずかしさを覚えたのはまた別の話だ。
「桐ヶ谷くんをからかうのは楽しいです」
私のその一言で、彼はハッとしたように深呼吸を取った。……よくわからないです。今の言葉は私の本心。桐ヶ谷くんと遊ぶのは楽しいし、こうして話していると心臓が高鳴る。
「そりゃ良かったな。……んじゃ、仕返しだ」
「桐ヶ谷くん?一体何を……きゃっ!?」
私の口の中に、クレープが突っ込まれた。それはまるで、先ほどの私の意趣返しをするように勢いをつけて。そんな現状を確認していると徐々に羞恥心が身体を苛んでくる。顔に熱が帯びる。むっ、と私自身の羞恥心と、彼に対しての反抗を込めて睨みつける。
「……んむっ、桐ヶ谷くん……!」
だが、これはまだ序の口と言うように彼はニヤッと笑う。私はそれで全てを悟ってしまった。意趣返しということは、これではまだ終わらない。つまるところ、彼はそのままクレープを自分の口へと運び、……私が口をつけた所を食べてしまった。
「~~~っ!?」
見えてしまった。理解してしまった。
思考回路が働かなくなる。なんだ、これは。なんなんですか、これ。だめです、何も考えられない。ただただ恥ずかしい。顔が熱い。心臓の鼓動が激しい。これが、ドキドキする、ということか。きっと今の私の顔は真っ赤だろう。私は攻められるのには弱いと知られてしまった。ああ、もうわけがわからない。彼の顔を直視出来ない。つい顔を逸らしてしまう。
「先にやったのは坂柳だ、俺にもやり返す権利はあるだろ?」
「っ…、まさかやり返されるとは思いませんでした。私もまだまだですね」
脳内の大半が痺れている中、唯一残る理性が何とか答える。味わったことのない、甘い痺れ。私の計算ではあのまま主導権を握れる筈だったというのに、これでは逆に握られそうではないか。……なのに、何故だろうか。こんな気持ちを抱いている自分も、悪くは無いなと。きっと
「攻められるのには慣れていないんだな」
「……そうなります。私にこのように攻撃する人などいませんでしたから」
「坂柳が楽しそうな理由がよーくわかったよ。攻めるとな」
言葉を口にすると冷静さを取り戻せてくる。いや、きっとそろそろ
「それは良かったですね、これからもからかってあげましょう」
「それじゃ俺は好きという気持ちをぶつけるとしよう」
「望むところです」
「「ふふっ(ははっ)」」
笑い声が共鳴する。嗚呼、駄目だ。心が躍る、楽しいです。お互いに思っていることがわかる。
「桐ヶ谷くんは、本当に不思議な人です」
私は笑う。
「そうか?」
桐ヶ谷くんも微笑み返す。
「はい。私をここまで楽しませてくれたのは桐ヶ谷くんが初めてです」
未だ笑う。
「そりゃ光栄で。俺もここまで楽しい気分にさせてくれるのは坂柳くらいだ」
「それに」
カチリ、と鍵を閉めて。スっと仮面を被り。
何をしているんですか、
「私のこの性格を知ってなお、付いてくれる人も桐ヶ谷くんが初めてです」
私は仮面。
「何故、付いてきてくれるのですか?」
……心にチクリと棘が刺さる。その笑顔が、その瞳が、次の言葉の前準備というように私を捉える。直感で悟る。これは不味い、と。だが、拒めない。何故だ。
「坂柳 有栖という存在に惚れたからだ」
聞きたくはなかった。だが、確かに
──何故なんですか。
どうして、
どうして、この心臓は今までにないほど高鳴っているんですか。
──どうして、
彼は坂柳有栖という少女ではなく、存在に惚れたと言った。理解したくはない、だが理解している。理解してしまった。確かに目の前の彼は、
「……あなた、壊れていますね」
私が壊すまでもなく、この人は既に壊れていたのだ。だから、なのか。だから、
「お互い様だろう」
だが、確かに望んでいたのだ。心のどこか奥底で願っていたのだ。少女だけでなく、
「ふふっ、確かに」
これはもう、桐ヶ谷くんを、ただの人材となど呼べない。呼べるわけがない。……呼びたく、ない。慣れない感情という心のままに、私は言葉を紡ぐ。
「あの時の言葉を訂正しましょう」
「ん?」
「桐ヶ谷くんをいい人材と呼んだことですよ」
「ああ、そんなことか。別にそのままでいいのに」
普通、人材と呼ばれたら怒るものでしょうに。……やはり、この男は壊れている。なんだかずっと笑いが止まらない。一度封印したものが解放されるとこうなるものなのか。いや、それは困るが。彼と二人きり以外の時は、いつもの、いつも通りの坂柳 有栖でなければならない。出来ない? 出来る。出来なければ、坂柳 有栖では無いだろう。
「いえ、それでは私の気が済みません」
「……それじゃあお好きなように」
止まらない感情を、一つの言葉に集約するように。蓋で塞いでいた心が暴走するのを、一纏めにして。
「ありがとうございます、では」
きっと、この言葉を放てば、私はもう戻れない。一度手にすれば、失った時の喪失感はとてつもないものだ。それこそ、
「
ああ、友人。これでいい。友を抜かすなど、今の私には出来ない。この感情はまだ恋慕ではないから。初めて抱いた感情が恋慕の筈などないから。そう理性が語りかけるように、律するようにその言葉を紡がせた。だがそれでいい。大切な人など、今の私にはおこがましい。きっと、そんなことを言うのは
「
「ご不満ですか?」
「いいや、今はそれでいい」
そう答えると思っていた。まだ彼も、私の全てを理解したとは思っていない。だからあの時、好きだ、ではなく、惚れたと言ったのだろう。Loveの感情は示すが一方通行の好きではなく、惚れたという宣言をした彼だからこそ、そう答えると思っていた。
「ふふ、そうですか」
気づけば鍵が外れかけている。ここまで感情を晒せば出てくるとは思っていたが。だがさせない。今日は、
「もう一度訂正しなければならなくなる時を楽しみにしていますね」
「……はっ、やってやるさ」
いつの間にやら夜の訪れを示すように、煌々と光る真っ赤な夕暮れが私の背後に写っている。私はただただ上から見下すように微笑む、それに対し彼は苦笑と共に肩を竦めた。これではまだ終わらない。
「……では、これから二人きりになった時は有栖とお呼び下さい、
「っ。そう呼ばれちゃ、呼ぶしかないな、
ああ、これが楽しいという感情か。これが、嬉しいという感情か。
「
「ごもっとも。
同時にわざとらしい笑みを浮かべる。これが、互いを理解するということですか。
「ふふ。さあ、私はパフェを食べるとしましょうか」
「んじゃ、俺はクレープを」
理解しているからこそ、今のタイミングだ。二人は同時に口を開いて。
「
わけがわからないよ……。
調子乗って10000字超えるのはいいですが確実に誤字しているという。