生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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どーも、ジグです。
一話時点でお気に入り40件超え、ありがとうございます。
…前書きで書くこと特に無いですね。
本編どうぞ。


2. 結局、坂柳に捕まってしまったようだ。

───女性を創造したということは、神の第二の間違いであった。

 

これはニーチェの言葉だが、今の状況に関しては全く以てその通りだと思う。いや、女性を創造するのはいい。が、女性に魅力を与えてはいけなかった。例えば万人を虜にする容姿とか。男心をくすぐらせる行動とか。

 

つまるところ、だ。俺が何を言いたいかというと。ただでさえ詰みゲーなよう実ライフ、早くも逃げる場所が消えてしまったようです。隣に座る美少女、坂柳 有栖のせいで。

 

 

 

 

「隣の席になりましたね、桐ヶ谷君」

「……そう、だな」

 

喧騒に包まれ始める教室内。

外の表札には“1-A”と明確に記載され、ソレを一瞥する生徒がまばらに我らがホームルームの扉をくぐっていく。

いずれは見慣れる風景なのだろう。

この教室も、入る生徒の面々も。

───ただ、きっと、半年を迎えても“コレ”だけは慣れないと思うんだ。

 

「ご覧の通りの身体ですからご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いしますね?」

「そこは気にしなくていい。迷惑だと思うんならあの時に助けてないからな」

「ふふ、お優しいんですね。隣の席が貴方で良かったです」

「俺じゃなくても皆優しくするとは思うけど、そりゃどうも」

 

席の場所自体は完璧だった。

教室のおよそ最奥とも言え、学生の誰もが一度は座りたいと渇望してやまないそこは、窓際の最後尾。

退屈な授業は外を眺めることでパス───は、この学園では出来ないのだが、最前列よりは精神衛生上健全なのは火を見るより明らか。

ただ、問題があるとすれば、右隣に今も可憐に微笑む華奢な美少女(ヤベー奴)が居ることだろうな。

……このハードモード、本当にどうしてくれようか。アヴェンジャーとしてあのクソ神に何時か復讐してやらなければ気が済まない。

 

「それなら有難いのですが──少々、“この学園は特殊ですから”。多少は心細い気持ちもあったんですよ」

 

嘘と欺瞞に塗れた仮面が、視界に映る。

見えるのは何時だってお伽噺に出るお姫様が浮かべるような笑顔。

気を抜けば思わず見蕩れそうになるそんな笑みも、生憎と“予備知識”があれば惑わされない。

……笑顔を直視する度心臓が高鳴っているのは多分誤作動だ。

 

「らしいな。まさか俺も入れるとは思って無かった。望んだ就職先に行けるなんて学校聞いた事がねえ」

「桐ヶ谷君もそれを目的で?」

「まあな。というより、ここに居る大半の奴らはそれ目的だろ」

 

………本当に、誤作動であって欲しい。

難易度ルナティックの舞台で生き残るのに、美人局に“無策で引っかかる”というのはとてもよろしくない。

苦笑を混じえ、冗談げに肩を竦めるものの視線は坂柳からは逸らし、クラス全体へと。彼女もそれに気付いたようで、桐ヶ谷から視線を外しどこか楽しげに教室を眺め始めた。

その中で桐ヶ谷が探しているのは───

 

「──ああ、居た」

「誰が、ですか?」

 

葛城康平。後々Aクラスの中心の一人となる男。また、多くの苦悩を抱える苦労人でもある。容姿的な特徴としてはやはりそのスキンヘッドが挙げられるだろう。自ら剃ったのか、それとも………いや、これ以上考えるのは止めておいた方が良いだろう。

───それで、だ。Aクラスで生き残るなんてハードモードをこなすにあたって、根幹にあたる必須条件が存在する事を俺は知っている。

即ち、“坂柳 有栖派閥へと入る”か、“葛城 康平派閥へと入る”かだ。

Aクラスのカーストトップはこの二人で構成、もといカーストは二極化され分立する。その予備知識が俺にはある。

そして何より、この選択を間違えてはならない事を、俺はよくわかっている。

どちらにつくか、この目で真剣に確かめなければならない。

 

「ああいや、教室に入る前に特徴的な人物を見かけたから、もしかしたらこのクラスかと思って」

「特徴的な見た目? ああ、あの人ですか」

 

もっとも、皮肉な事にほぼ答えは決まっているのだが。

俺の言葉で凡そ誰を指しているかを察した坂柳は、可愛らしく小首を傾げていた姿から納得したように頷いている。ともすれば、彼の周囲にも視線が動くだろう。

まだ始業式すら迎えていない状況で数人の取り巻きを抱えているというコミュニケーション能力の高さ、ひいてはそのカリスマ性に。

……多分きっと、その中には“特徴的な見た目”に興味をそそられたから、という者も居るのだろうが。いや、馬鹿にしてる訳じゃないんだよ。ほんと。

だが───それでも、ソレだけじゃ、その程度では、眼前で不敵に笑う少女に適う筈が無いという事実を、確かに俺は知っていた。

 

「そうそう。まあ、特徴的って言えば坂柳もだけどな。入った時、注目浴びてたろ」

「ああ……慣れていますよ。今も幾らか視線を感じますし」

 

こちらを一瞥してはぎこちない会話に興じる数名の男女を視界に捉える坂柳は、やはりその思考の裏を読ませない強かな笑みを浮かべるのみだった。

庇護欲を掻き立てる“ステータス”の保持というのは利点にも欠点にも変わる──が、彼女の場合は前者で間違いないだろう。往々にして後者の場合、入学時点ですらも向けられる視線は悪感情を滲ませたソレなのだから。しかし、今彼女に向けられているのはそういったものではなく、紛れもなく“別のもの”だ。その証拠は、俺に向けられている男からのソレだろう。

 

「俺には嫉妬の込められたものなんだけどな。怖いな、全く」

「嫉妬、ですか?」

 

ああ、そうだ。葛城康平が覆せないもう一つは、その圧倒的な容姿だろう。庇護欲を掻き立てるステータスの前提条件として挙げられるのがソレだ。

容姿に優れていれば優れている程、男とは単純なもので本能には抗えずホイホイとついて行ってしまう生き物。まだ理性の抑制も完全じゃないような学生なら尚更だ。

実際、向けられる視線は男の比率が多い。そんな事実にわざとらしく肩を竦めながらも彼女へ向け苦笑する。

……かくいう俺も正直ついて行きたいのだが。異世界転生という名の人生ハードモードに転換して美少女の一人や二人隣に居なきゃやってらんねえよ。俺はおかしい事は言ってないだろう。ああ、俺は間違っちゃいない。

 

「入学時点から坂柳のような可愛い女子と話せてる上に席が隣。男子からしたら羨ましいって思うのが普通なんだろうよ」

 

相も変わらずわざとらしい解説を垂れ流す。

どこまで探りを入れていいかわからないが、せめて彼女の零す言葉の真意くらいは見定められるようにならなければいけない───そう考えての言葉だったが、その反応は意外なものだった。

 

「っ……そう、でしょうか?」

 

薄らと染まる頬。

口許に人差し指を当て、再度男子の方を一瞥するとこちらへ向け首を傾げる坂柳の顔は、確かにほんのりと淡い赤を見せていた。

───……ん?

おい、ちょっと待てよ。思っていた反応と少し違うんだが?

少々坂柳 有栖という少女を見誤っていたのだろうか、おかしいな。照れているように見える。いや待て、騙されるな。これらも全て演技の可能性がある。正直言って目の前で女子にして欲しい仕草を連発されて悶え死にそうだがまだ堪えろ。まだ生きていたいのなら平静を装え。

 

「少なくとも俺からしたら美少女の部類に入る。俺じゃなくても入ると思うけどな」

「──美少女、ですか」

 

見えるのは、どこか驚いたようにその双眸を見開きながらも頬に熱を帯びさせる少々の姿。その様子は先程とはあまり変わってはいないが、心なしかその赤が少しだけ濃くなったような気がした。

しかしそれも瞬きの間には以前に見た余裕気な表情を浮かべるミステリアスな彼女の姿に変わっている。

─────このチート女子、さては耐性が無い?

間違いなく照れたという事は判明した。俺の彼女への警戒心が薄れた事による耐性が低下した事も確定した。不味い、策略にハマっているかもしれない。いや、ハマっているかもしれなくとも眼前の美少女が可愛いのだから俺は悪くない。

ともかく、ある程度零す言葉は本音である事も視野に入れよう。

 

「そのように私を評価した人は貴方が初めてです」

「……マジで?」

「ええ。このような身ですので、そういった経験はありませんでした」

 

朗報。本音だったらしい。

納得がいかないこともない。確かに松葉杖を使用する女子に遠目からちらちら見る男は居ても、直接好きだ、等の告白をする生徒なんて居ないだろう。というよりかは、原作で匂わせていた“ホワイトルーム”とやらの影響が多いのかもしれないが。

………ともかく。これは、ほぼ決まりかもしれないが──頑張れ童貞。もう一つ、最終確認だ。

 

「そりゃ悪い事をしたな。坂柳の“初めて”を奪ったようで」

「──あら、ふふ。自ら敵を作る発言をなさるのですね」

「冗談だ。ただ、直接的な評価は初めてでも間接的にはもう慣れてたんだろ?」

「さあ、どうでしょう。好奇の視線に晒され続けて生きてきたのでどれがどれだか区別する事もしませんでしたから」

 

本音を介さない会話。しかし確かに意味を持つ会話。

桐ヶ谷、坂柳共に浮かべるのは“相手を見定めるような”真意を読ませない口角だけを上げた笑み。彼は頬杖をつきながら、彼女は口許に可笑しそうに手を添えながらも“攻防を続ける”──が。

 

「少し面白い方ですね、桐ヶ谷君は」

「……それは喜んでいいのか落ち込んでいいのか反応に困る言葉だな」

「前者でいいでしょう、なんて──」

 

何かを溜めるように不敵に微笑む坂柳。

その様子に不穏な気配を感じるもここで言葉を挟める程の余裕がある訳もなく────

 

「──桐ヶ谷君は喜んでくれませんか?」

 

どうやら、やはり彼女が先を往くらしい。

桐ヶ谷が苦笑するのも束の間────その目を見開いた。

彼の双眸が捉えた先にあったのは、目も眩むような“天使の微笑み”。人によっては小悪魔の微笑かもしれない。程よく伸ばされた銀髪が揺れ、雪のように白い肌はほんのりと赤く染まり、確かな潤いを感じさせる薄紅色の唇が閉じられその口角は上げられている。そして何より、桐ヶ谷の瞳を見つめ返す二つの薄紫の輝きが細められた瞬間、彼は見蕩れたように硬直してしまった。

 

「───……ぅ、あ」

 

反則だ。

────駄目だ、コレは。

心が惹かれた、とは正にこの事を言うのだろう。

坂柳に対する警戒心も、この先への対策も、全て吹っ飛んだ。

顔に熱が帯びる。人間らしい肌色が林檎の如き赤へと変わる。

 

 

 

「そりゃ良かった。怒られたらどうしようかと」

 

「褒められて怒ることなんてありませんよ。…あら?桐ヶ谷くん、先生が来たようです」

 

と言って坂柳は扉の方を見つめる。時間は教室に着いてから既に30分ほど経っていたようだ。始業を告げるチャイムが鳴ると共にスーツを着た一人の男性が扉を開けて、教室へと入ってくる。

来たか、真嶋先生。

アニメで見たものと同じく髪は短く、歳は中年に差し掛かっているとわかる。先生は教卓に色々な書類を置くと皆を見つめるように手を置いて話を始める。

 

「おはよう、Aクラス諸君。私はAクラス担当の真嶋 智也。担当教科は現国だ。予め言っておこう。この学校において、学年ごとのクラス替えは無い。卒業まで私が3年間君たちの担任、ということになる」

 

うん、知ってる。

全て俺の知識と全く同じ事に内心安堵する。3年間のクラス替えは無し。まあ真嶋先生が現国担当ということは知らなかったが。

そんな事を考えていると前の席からとある資料が配られる。確かこの学校についてのルールに関しての資料だったか。

ページをぺらりぺらりと捲り、あまり深くは目を通さずに重要な情報だけを叩き込む。昔テスト前日に教科書でチェック入れたところだけを見た経験が生きているようだ。

数分見て重要だなと思えるものを挙げよう。

 

〇全学生は敷地内での寮を生活拠点に学校生活を送る。

〇在学中は特例を除いて肉親含む外部との連絡を禁ずる。

 

勿論、連絡が出来ないということは学校の敷地から出ることも出来ない。ここまで知識と合致すると逆に後ろめたく思えてしまうな。カンニングしているみたいで。他には学校内の施設の紹介記事がある。カラオケとかそういう類の娯楽施設だ。3年間、景色に見飽きるということを除いて退屈する事は無さそうだな。

 

「皆、おおよそ目は通したか? 今から配る学生証は一種のカードになっている。これを使ってその資料に書いてある施設の利用や売店などで色々なものを購入することが出来る、簡単に例えるならクレジットカードだ」

 

はい来たクソシステム。開幕10万ヒャッハー!とか言えるのは最初の内だけだろう。後々貯めておかないといざと言う時に詰んでしまう。俺の節約生活が決まった瞬間であった。まあ、Aクラスは確か最初の1ヶ月を過ぎても9万は貰えるから貧乏生活を極める必要は無さそうなのだが。

 

「施設ではこのカードを通したり提示する機械が設置されている。バスや地下鉄でのカードと使い方は同じだ。それで、そのポイントだが毎月1日に自動的に振り込まれるシステムになっている。君たち全員には最初、10万ポイントが支給されている。普通のポイントカードと同じく1ポイントは1円と同じ価値を持つ」

 

真嶋先生が淡々と告げた瞬間、やや弱い喧騒が辺りを包む。そりゃあ驚くだろうな。とりあえず入学祝いで10万渡すから好きなもん買えって言われてるのと同じですもの。まあ、葛城さんとか隣の坂柳を見れば至極冷静に佇んでいたが。クラスのリーダーマジパネェっす。

 

しかし騒がしくなったのは一瞬で、すぐに喧騒は鳴りをひそめる。流石Aクラスと言ったところか。表面上は皆冷静を装い始めた。

しっかしこのシステム本当に大丈夫なんですかね。日本からしたら赤字でしか無いだろうに。ああでも、毎年Aクラスから優秀な人材が社会に出て貢献すればチャラになるのか…?

 

「おや、もっと驚くものだと思ったが。冷静な者が多いようだ。知っての通りこの学校は実力で生徒を測る。入学した時点で君たちにはそれほどの期待が込められているということだ。何に使うも自由だが、無駄遣いだけはしないようにな」

 

そこの生徒A、俺には見える。一見冷静そうだが額から汗が零れているな、動揺している証拠だ!

とまあ、名も知らぬ生徒を観察していると真嶋先生はあと1時間で入学式が始まるからそれまで自由に過ごしてくれと言って教室から退出した。

 

戸惑いと静寂で包まれた教室は瞬く間に崩壊した。と言っても、ぎゃーぎゃー騒ぐほどでは無かったが。

 

「学生に10万ものお金を与えて良いのでしょうか」

 

坂柳がこちらに顔を向け話しかけてくる。当然の意見だ。

 

「さあな。ま、大金に目が眩む奴は多そうだけど。ほら」

 

目の前の小集団の話が聞こえてくる。

 

「なあ、帰り早速カラオケとか行こうぜ!贅沢に飯とかも頼みまくってさ!」

 

「おっ、いいなそれ。お前もどうだ?」

 

「俺?まあいいか、とくに予定もないし。乗った」

 

ほらな?Aクラスと言えど学生は学生でしか無い。甘い蜜を垂らされれば吸い付くし、美味い話があれば飛び込む。きっと教師達はこういった点も観察しているのだろう。この高度育成学校とやらはそういったところも嫌らしく評価に入れそうだからな。

 

「…扱いやすそうな人達ですね」

 

はい聞こえましたよ。聴き逃しませんでしたよ俺。ほら黒い。坂柳さん超黒いよ。やはり裏の性格はそういう感じか。半ば諦めていたのでショック自体は大きくないが。今の時点で目の前の奴らと同じ扱いされていないし。それに先程俺はもう坂柳派閥に入ると決めた。よって今口にする言葉は一つだけだ。

 

「そうだな。馬鹿は扱いやすいからな」

 

出来るだけ淡々と。冷静を装って坂柳に笑いかける。すると坂柳は一瞬だけその双眸を見張ったが、瞬時に戻し同じように微笑んだ。

 

「聞こえていましたか」

 

「隣だしな、そりゃ聞こえるだろ」

 

「ふふっ、まあいいですけれど」

 

「割り切ってんな。それより坂柳」

 

「なんでしょう?」

 

「さっきのセリフからして、このクラスをまとめる気か?」

 

まとめるというより支配する、という意味でのセリフだったんだろうなさっきの。そんな純粋なものではなさそうだしな。と、皆がポイントの件について話している中、俺たちだけ異質な会話を繰り広げる。

 

「…そうなりますね。それが何か?」

 

「なら、行動はさっさと起こした方がいい。ほら、あのハゲを見てみろ」

 

俺たちから右斜め前、現時点このクラスの中で8人で構成されているグループがある。その中心には葛城康平の姿が。そこを指さすと坂柳は俺が何を言いたいかを察したようだ。だが同時に俺に訝し気な視線を向ける。未来を知っているからと言ってやはり不自然な発言だったか…?

 

「桐ヶ谷くんは私の心を見透かしているようですね」

 

「そ、そんな事は無いぞ…?」

 

「…まあ、それは後でじっくり問い詰めるとしましょうか」

 

そう言って坂柳は、見た目に合わない美しく妖艶な笑みで俺を見つめる。

きっと俺の顔は林檎のように真っ赤に染まっているだろう。それも仕方ない、転生する前の15年含めても、今坂柳が浮かべているようなこんな笑顔を見たことは無い。端的に言おう、一目惚れした。

お前ちょろすぎだろ、とか言われそうだが少し待って欲しい。坂柳 有栖という少女の容姿はそれ程までに美しいのだ。某TRPGのステイタスで例えるならAPP18だ。いや、もう20まである。

俺の眼は目の前の少女に釘付けになっていた。視界に坂柳以外の何も映らない程に。

 

「桐ヶ谷くん?」

 

「ッ…な、何でもない!」

 

何でもないわけ無いだろうに。あー、駄目だ。顔の熱が取れない。ぱんぱん、と顔を叩いて強制的に自分を冷静にさせる。もう大丈夫だ、とやや目を逸らしたまま坂柳に告げると彼女はならいいですが、と意味ありげに笑ってから席を立つ。

 

「皆さん。話に花を咲かせているかとは思いますが少しよろしいでしょうか?」

 

透き通るソプラノの音。急に立ち上がり声を放った坂柳に皆の視線が集中する。この辺りは坂柳の生まれ持ってのカリスマもあるのだろうなと未だ浮ついた心を落ち着かせながら冷静に分析しては俺も立ち上がる。

 

「既にグループも出来ているとは思うが俺たちはこれから3年間一緒なんだ。軽い自己紹介でもして、交流を深めないか?」

 

今、男尊女卑という悪しき風習は消えているがそれでも中には女を下に見る男もいる。勿論、ほんのひと握りの奴だが。現に今、俺が声を出す前に坂柳が号令をかけた時に杖をついているその姿ににやけた奴がいる。後でそいつの名前を聞いて死のノートに名を記すとしよう。と、話が逸れたが、その状況だと真に坂柳がクラスを支配することがしづらくなる。本来なら、この呼び掛けをしたのは葛城だったかもしれない。Aクラスの細かい事情など俺は知らないからな。俺のせいで坂柳がクラスの中心に立てないなどあってはならない。そう思っての行動だ。

 

すると、やはり一番最初に口を開いたのは葛城康平だった。

 

「賛成だ。男子から席順に自己紹介するのがベターだと思うがどうだろうか」

 

「はい。私もそう思います。皆さん、よろしいでしょうか」

 

葛城と坂柳の声に反対の声を挙げるものや不満の声を漏らすものは誰一人として居なかった。そして流石葛城さんだな。俺たちに話を進めさせると思いきやちゃっかり自分もまとめる側に回っている。そう簡単にリーダーの座は譲ってくれなさそうだ。

 

「その前にまず俺たちが自己紹介した方が良くないか?緊張しているやつもいるだろうし、な」

 

にこっ、と表面上は好青年を装って葛城に笑いかける。葛城は構わない、と表情を変えずこちらを見つめる。おいおい、俺を見たって何も無いぜ?

とまあ、ふざけるのもここまでだ。学校生活の大半は自己紹介で決まると思っている。割とマジで。最初に自分の内を晒すこの自己紹介というイベントにおいて失敗は基本的に許されない。うぃっす俺、桐ヶ谷黎耶でぃーす!とか馬鹿みたいなのは論外だしぼそぼそといかにもコミュ障です、と言っているようなものもNGだ。無難に落ち着いて。性格イケメンを装うんだ。何年もやってきただろ?……なんで何年もそんな風にやってきてもてなかったんだろうな。女心わっかんねえ。

 

「っと。俺からいこうかな。桐ヶ谷 黎耶だ。趣味は色々とあるけどサッカーとかバスケとかはよくやるな。後、勉強もそこそこは出来るから何か困ったことがあれば聞いてくれ。あと細かい事は皆の自己紹介終わってからで。んじゃ、3年間よろしく!」

 

最後に自分が出来る最高の笑みを皆に向けて席に座る。

うん。これで間違いない筈だ。これで中学は上の中くらいのカーストで過ごせてきたんだ。周りからは拍手が起こる。女子からはサッカー出来るんだー、とか男子からはノリ良さそうだなぁ、とかちらほら聞こえる。

や っ た ぜ 。

ふっ、見たか中学教師よ。文句のつけ所が無いが褒める所もない?前言撤回してもらおう。このコミュニケーション能力を褒めてくれ!あ、俺転生してたわ無理だったわ。

 

「…ふぅ」

 

「良い自己紹介でしたね、桐ヶ谷くん」

 

「ま、これくらい出来ないとな」

 

「それじゃあ次、いかせてもらう。葛城康平だ。小学中学は生徒会に入っていて、今年も入るつもりだ。この見た目もあって話しかけづらいとは思うが気軽にどうぞ話しかけてきてほしい。それでは3年間よろしく頼む」

 

またも拍手が巻き起こる。それもその筈、最後に葛城は俺よりよほど男らしい笑みを浮かべた。ふっ、とかそんな感じ。頼りがいがある男ってハゲてもモテるんだろうな。女子からは嫌がる声は全く聞こえない。男子からも同様だ。むしろかっけえ!とか好意的なものが耳に入ってくる。

 

ふむ。まあ確かに某進撃するティターンの金髪のガチムチ男に似た頼れる兄貴って感じだな、実物を見ると。

 

葛城が座った後に今度は坂柳が立ち上がる。

 

「それでは私ですね。坂柳有栖です。この通り杖をついていますが、体育以外では普通に学校生活を送れますので皆さん、是非お気軽にお話しに来て下さいね」

 

にこっと魅了するような笑顔を作れば大半の男はその直撃を食らったようで顔を赤くして固まる。女子からも概ね好意的な声が向けられている。身体は大丈夫?とか、可愛いなー、とか。でもね皆さん、きっと一か月もしないうちにこの子の支配下に置かれるからね。覚悟しておいてね。

しっかしやはり表面上はただのか弱い女の子だな。どうやってクラスの手綱を握るのか楽しみになってしまった。

 

と、坂柳の自己紹介も終わり葛城の言った通り一番左の男生徒から自己紹介が始まっていく。中には町田や神室など聞き覚えのある名前が聞こえてくる。数十分経ち全員の自己紹介が終わると、やはりというか何というか。葛城の元に半分、坂柳の元に半分人が集まっていく。その比率は葛城には男子8の女子2の比率だろうか。対するこちらはその逆だ。男子2の女子8。

 

「大分人集まったな」

 

「そうですね。ありがとうございます、桐ヶ谷くん」

 

「俺は何もしてないって」

 

礼を述べる坂柳に首を横に振る。しっかし坂柳に絡むということは俺もトップカーストに居なきゃいけないということか。別に嫌ではないが人付き合いとか面倒くさそうだな、と。昔は適度に遊びに誘われてって感じだったから気楽だった。

と、この先の事はどうしようかと考えているとにやにやと笑う女子が俺たちを見て大声で質問をしてきた。

 

「ねぇねぇ、坂柳さんと桐ヶ谷くんは付き合ってるの!?」

 

「は?」

 

思わず変な声が出てしまった。失礼失礼。

いや、冷静を保っているが内心はヤヴァイ。

とりあえず付き合ってる訳ないだろ、とぎこちなく笑って返す。あかん。落ち着け俺。

 

「そうなんだー、いやさー、仲良さそうだったし?」

 

おいちょっとそこの男子?俺を睨んでたと思えば付き合ってないと聞いて安堵の息を漏らすな。ぬっころすぞ。当の坂柳さんを見てみるが、少し耳が赤いような。まあ気のせいだろ。すると、坂柳は俺の肩を叩いては携帯を出す。………ああ、連絡先か。

 

「ふふっ。それは置いておいて、皆さん連絡先を交換しませんか?」

 

「さんせーい!坂柳さんの初めては私だからなー桐ヶ谷くん!」

 

「お、おおう…。別に何番目でもいいけど。っと、んじゃ俺たちもやろうぜ」

 

適当にこの場に集まっていた男子たちと携帯を開く。よろしくなー、と軽く挨拶を返し男子たちと連絡先を交換し終える。続けざまに女子たちの連絡先もゲット。俺の人生でクラスの女子の連絡先こんなに手に入ったの初めてかもしれねえ。

 

「それでは桐ヶ谷くんも、お願いします」

 

「ん。よろしくな、坂柳」

 

「ええ、これから」

 

俺にしかわからない程度に裏を感じさせる笑顔を。やめてね。その笑顔俺に効果抜群なの。…まさか確信犯!?いや、流石にこの短時間で俺の性癖に気づかないだろ。

 

「あ、皆さん。そろそろ始業式のようです。今日の授業が終わり次第交流を深めるという意味でレストランに行こうと思うのですが、不都合な方はいますか?」

 

坂柳のその提案に首を振るものは居なかった。ちらっと葛城グループを見てみるがあちらもあちらで放課後どこかの施設に行くようだ。早くもAクラス二分されてるんだが?と、坂柳派閥(仮)のメンバーたちを一人一人見つめる内に始業式が始まる予鈴が鳴った。

 




気づいたら7000字だった。手が勝手に動いていたんです。
ちょろすぎる桐ヶ谷くん。

2019/7/16
加筆修正中
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