生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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どーも、ジグです。
まずは、日間ランキング1位となりましたッ…!
なんかこう、いざ1位ってなっても実感が湧かないというか、モチベしか湧かないというか。とにかく、皆さんの期待に添えるようこれからも頑張っていきます。


4. 俺、スパイになるみたいですよ。

 

 

 

 

 

 

──始めは、全体の半ばである。

 

古代ギリシアの哲学者プラトンの言葉だ。最初の1歩を踏み出すことが最大の壁になった、という経験は皆も体験したことがあるのではないだろうか。この言葉は学校生活にも当てはまる。例えば自己紹介の時とか。しつこいようだが一番最初に、皆に自分の第一印象を与え刻み込む自己紹介こそ学校生活において重要度は高い。緊張して噛む、くらいであれば問題は無いが挙動不審だったり声が小さかったりするだけで女子達からは煙たがられるものだ。

 

「あ、おはよー黎耶くん!」

 

「おはよー」

 

今のこの会話も俺が昨日あの女子と交友関係を築くという“始め”を乗り越えたからこその結果である。実際、友人というのはどちらかが嫌われるようなことを起こさない限り割と長く関係が続く。だからこそ始めは全体の半ば、なのだ。最初に下の名前で呼んでもいいか?と聞くことの辛さな。

と、いつものように哲学者の言葉を振り返って自分の席に座ると隣から声がかかる。

 

「おっ、おせーぞー黎耶!」

 

「なんだよ直樹、何かあったのか?」

 

俺が聞くと直樹は丁度教室の左側をを指さす。そこには緑髪のショートヘアーに、身長は俺と同じか少し下回るかくらいの細身の男が立っていた。…ええと、誰だっけあいつ。名前がもう少しで出てきそうなんだが。

あ、戸塚だ戸塚。下の名前は知らん。覚える価値無いでしょ。

 

「戸塚か。んで、あいつがどうかしたのか?」

 

「それがよー、朝からずっとうるさくてさー」

 

確かに耳を澄ませば隣の男子にぺちゃくちゃと周りの迷惑になっていることも知らないというように話している。ちょっと戸塚くん、その男子苦笑いですよ。内容は放課後どこに行くか、部屋に遊びに行っていいかとかそんなものだったがそれを大音量で喋る必要はあるのだろうか。

 

「あんな会話を一々騒ぐように喋る必要もないのになー」

 

「…ああ、直樹はああいう人種は初めてか?」

 

「いや、中学の時にも何人か居たけど。あーいうの嫌いなんだよな、俺」

 

まあそれには同感だ。そしてありがとな直樹。その前の言葉であいつの性格が大体掴めた。あれは自己顕示欲が強いタイプの人間だろうな。大方、“入学早々友達と仲良く話せてる俺すげー”だろうな。吐き気しかしないんだが。まあそれを直樹に伝えたところで特に何もないし同調しておくだけでいいか。

 

「そうだな、俺も戸塚みたいなのは苦手だ」

 

「だよなー!」

 

と、俺と直樹で会話に勤しんでいると、右隣に1人の女子が座る。

 

「おはようございます、桐ヶ谷くん、清水くん」

 

「おはよー坂柳さーん!」

 

「ん。おはよ、坂柳」

 

今日も今日とて俺の大天使兼小悪魔こと坂柳有栖さんのご登場です。うん、可愛いな。そして性格は黒い。登校二日目でも皆、坂柳の魅力に惹き付けられるのか俺たちの元に、正確には坂柳の元に視線が集中する。おい戸塚、てめえ何見てんだぬっ殺してお前も転生させて(ガチャ回させて)やろうか。やはり、疾患を持っているのか座るのにもひと手間かかるようで、ゆっくりと坂柳は席についた。いつか治ればいいんだけどな。

 

「桐ヶ谷くん、昨日は色々とありがとうございました。お陰様で良い学校生活を送れそうです」

 

「そりゃ良かった。また何かあったら、な」

 

「ええ、ではこれからも頼らせて頂きますね?」

 

坂柳がくすっと笑う。はい可愛い。駄目だ、坂柳といると語彙力が低下して可愛いしか言えなくなる。ちなみに坂柳の色々と、というのはあの夜の出来事の後の件も入っている。あ、あの夜の出来事って意味深ぽくて良いな。

と言っても、生活用品を購買で揃える際に坂柳の手では届かないところのものを取ったりとか、足りていないものは無いか確認を手伝っただけなんだけどな。ぷるぷると手を伸ばして、それでも届かなくて「…取ってくれませんか、桐ヶ谷くん」と拗ねてお願いしてくる姿はそりゃもう俺の脳内フォルダに焼き付いて保存されましたよ。あ、流石に坂柳さんの部屋には入ってないです。童貞ですし。女子の部屋に、それも好きな女子の部屋に入ったらきっと気絶する。無理。

 

「…やっぱりさー、黎耶と坂柳さんって」

 

「ねえよ」

 

「返事早ッ!?」

 

「桐ヶ谷くん、一体何がないのでしょうか?」

 

そう言って坂柳はにやにやと笑いかけてくる。絶対に意味知ってるでしょ坂柳さん。肩を竦めて女子にはわからないことだ、と苦笑で返すとおもむろに坂柳は携帯端末を取り出した。何をするというのだろうか。

 

「ふふっ」

 

「何かある風にしか見えないんだよなー…」

 

「おいおい、それ以上言うとお前に戸塚二号の称号を与えてやろうか?」

 

ニヤッと直樹に不敵に笑えば、やめろぉ!?と返ってきたのでしばらく追求することはないだろう。この脅し文句便利だな。なお、戸塚をよく思ってないものに限り。つーかなんであいつAクラスなんだろ。あんな小物感漂う男より、Bクラスの神崎くんとかの方がAクラスの適正高いでしょ。まああれでもアニメじゃ葛城くんの右腕みたいな役割になってたもんなぁ、よくわからん。

 

と、まだ話したこともない戸塚のことについて考えていると不意に腰に振動が走る。何だろうかと思い立ちその発生源のポケットから携帯端末を取り出す。普段は真っ黒な画面は新着メッセージを受信しました、と表示され煌々と光っている。誰からだろうなと思いメールを開けばこんな内容が。

 

 

 

『あの夜のことは、二人だけの秘密ですよ』

 

 

 

瞬間、俺の身体は携帯端末を隠すようにして机に勢いよく突撃した。バン、と大きな音が発生しぎょっとした皆がこちらを振り向くのが見えたが知ったことではない。今はそんなことどうでもいいのだ。

駄目だ。心臓がうるさい。ドキがムネムネしてる。仕方ないだろう。好きな女子からこんなことを言われれば誰だって悶える。今俺の顔は赤い果物代表の林檎より赤く染まっているだろう。文字通り茹で蛸のように。

 

ちょっと坂柳さんどれだけ俺の好感度上げれば気が済むんですかねえええ!? もうこの二日でカンストしたんだが!? 一生寄り添っていくまであるぞこれ。あ、これ普通逆か。まあそれはともかくとして、坂柳のことしか考えられなくなる。脳内ではずっと二人だけの秘密ですよ、という言葉がぐるりぐるりと回っている。馬鹿になりそうだ。隣からはくすくすと笑い声が聞こえる。確信犯ですか、そうですか。ありがとうございます。最高だよこのやろう。

 

「ちょ、大丈夫か黎耶!?」

 

「黎耶くーん!?」

 

「どうしたんだ黎耶!?」

 

おう、直樹に女子Aに橋本、ありがとな。つーか橋本良い奴そうだな。今度昼飯に誘おう。でもあの人アニメで坂柳に敬語使ってたイメージしかない。…あー、大分冷静になれてきた。このままだと俺は意味もなく机に顔面ぶつけた変人になってしまう。それだけは避けよう。勢いよく机にぶつかり腫れたのと、隣の坂柳さんのせいで、二つの意味で赤くなった顔を上げる。

 

「ごめんごめん皆、驚かせて。ちょっと目眩がしてな」

 

「マジかよ!おい黎耶、顔貸してみ。熱出てたりしないか?」

 

え?熱なら多分今40度くらいじゃないですかね。隣の小悪魔さんのお陰で。とりあえず大丈夫だ、熱はないからと言って誤魔化すように笑う。

 

「それならいいけどよー。具合悪くなったら言えよな」

 

「おう。ありがとな、直樹」

 

超いいやつだぞ直樹。名前しか出てこなかったのに何だよこいつ。親友クラスになれるまであるって。初めの席が左隣なのはそのフラグか。あ、右隣は坂柳さんです。配置完璧です、ありがとうございました。

橋本含め昨日坂柳と共にレストランに同行した人たちは安堵したように友人たちとの会話に戻る。Aクラス最高かよ。

とりあえず坂柳に仕返ししてやろう。いや、効果あるかわからないけどな。携帯端末を開き、メール、返信、と。さあ、どう反応するか見ものだな。

 

「…っ!」

 

俺が携帯端末を取り出したことに興味を持ったのかこちらを見ていた坂柳だったが、俺がとある内容を返信で送ると、それを確認してすぐ坂柳はふい、と顔を俺から背ける。今見えたぞ、耳が赤くなっていたのが確かになぁ!

 

ちなみに送った内容というのは、『そうだな。坂柳の赤くなって照れた顔は秘密にしないとな』だ。見逃すわけがないだろうに。絶賛片思い中の身だぞ。あ、誰にも賛美の言葉送られてねえ。…賛美、賛美ぃ…。邪教を捨てよ…。っと、いかんいかん。

 

「桐ヶ谷くん…」

 

「ん、何だ? 坂柳」

 

「…後で覚悟しておくことです」

 

何を覚悟しなきゃいけないんだろうなぁ、俺わからないなぁ。少しきっとして睨みつけてくる坂柳が送った言葉になら覚悟しておくよ、と不敵に笑う。坂柳という少女には受け身では駄目なのだ。きっと攻めてくるのに弱い筈だから。ドSな人って案外攻められるのに弱いですからね、ソースは俺の昔の経験。つっても転生前の記憶なんて半分忘れたけど。1日で忘れるとか鳥頭かよ俺。

 

「おっ、チャイム鳴るか」

 

「初授業かー、どんな先生来るんだろうなー」

 

そんな感じの朝のやり取りを終えれば今日も今日とて、まだ聞き慣れない始業のチャイムが教室に静かに響き渡った。

さてと、授業の時間ですか。昨日配布された時間割を手に取る、日本史のようだ。ん?日本史?珍しい苗字というより他に居ないんじゃないかと綾小路くんにからかわれた茶柱先生の担当教科じゃないか。これは色々と楽しみだな。

 

『皆さん、昨日の確認です』

 

授業が始まる前の準備時間、丁度教科書やノートを机に用意した辺りで携帯端末にはこのメッセージ。レストランで食事を共にした坂柳派閥のグループチャットだ。今の発言者はもちろん坂柳。

 

『私語を控え、居眠りせず、携帯端末を弄らず、だろ?』

 

『わわわ、忘れてなんかいないんだからねっ!』

 

『直樹、一旦頭冷やしてこい。坂柳、続きを頼んだ』

 

お前のツンデレとか誰も得しねえよ、直樹。チャット故の発言の自由さと軽さが垣間見えるが、今はちょっとそっちの方向に話題を持っていくわけにはいかない。直樹の発言を俺が受け流し坂柳へとバトンを渡す。ちらっと見ればにこっと笑っていた、ありがとうという意味だろう。

 

『はい。このグループにいる皆さんはそれを心掛けるように。ですが、私たち以外の人が何をしていようと極力無視するようにお願いします』

 

『りょーかーい、葛城くんのグループにいる人って男子ばっかりだしねー、おっけー!』

 

『了解しました』

 

『まあ、今日は初めてだから半分くらいは授業の説明だろうけどな』

 

『え、まって。それ一番眠くなるやつ』

 

『……、頑張れ』

 

そのまま全員が参加するまで会話を続け、既読が12になったことを確認し携帯端末を閉じる。皆理解してくれたようだ。そしてすぐに、ガラッと扉を開閉し、黒いスーツに身を包んだ女性教師が入ってきた。一般的な目で見てもスタイルがいいと言える身体付きに、後ろまで長く伸びるポニーテール。Dクラス担任、そしてこの高校の元生徒、茶柱佐枝先生だ。…あの人三十路いってんのかな。

一先ず号令を、との声が挙がれば先生と席が近い中央最前列の生徒が号令をかける。起立し礼、小学中学と続いてきた手馴れた動作をこなし着席すれば、茶柱先生はプリントその他諸々を教卓にそっと置いた。

 

「日本史担当の茶柱 佐枝だ。Dクラスの担任もしている、よろしく。それでは早速授業を始めるぞ。まずは日本史の授業についてのプリントの紙を配る」

 

有無を言わせぬ威圧感を放つ先生はスピーディにプリントを配布していく。手慣れているという印象だ。ここの辺りは原作でもあまり描かれていないから気になっていたところ。予想通りではあったが。先生のその雰囲気に呑まれているらしく、皆心なしか先生の配布スピードを真似するように早く早くとプリントを渡す。俺もその流れに従って自分の分を取っては速やかに後ろの人にパス。書かれている内容を見れば基礎的な内容だ。授業の進め方からどのような内容をどの時期にやるか。そんなことがコンパクトに1枚の紙にまとめられていた。

 

「皆に渡ったな。その紙も後々プリントを保管しているかどうか、ということで提出物に入る。私の説明が終わったらファイルか何かに挟んでおけ」

 

ああこれ誰か失くすパターンでしょ。知ってる知ってる。クラスに1人どころか5人くらいいたわ、プリント失くしたからコピーしてくれって頼んでくるやつ。確かにファイルに一々挟むのが億劫なのはわかるが成績に関わるし保存しとけよ。

そんな茶柱先生の説明はやはりというかわかりやすい。スムーズかつ効率的に、ざっと15分程で1年間の予定を話し終えた。残りの時間はしっかりと授業に当てるということで皆教科書を開きノートを手に取る。

 

──一部の奴を除いて、な。

 

「ではまず、縄文時代についての話を始めるが…」

 

「…なぁなぁ、放課後映画館行こうぜ、ポイントあるだろ?」

 

「…今授業中だろー、集中しよーぜ」

 

「…そんな固いこと言うなって、どうせ中学の復習なんだしさ」

 

そんなコソコソと話す声を無視しない俺ではなかった。瞬時に坂柳と目を合わせる。にやっと小さく笑えば先生を見つめる、……やっぱりだ。先生は教科書を持つ手がピクっと動いた、そしてそのすぐに左手で一、と数えたことも今しっかりと確認した。つーか葛城さんグループの管理甘くないですか、今日くらいは自由にさせようぜってことですか。甘いですよ葛城さん、坂柳さんそんな隙見つけたら逃さず追撃しますからね。と思ったらその話す人たちの隣の席に座っていた葛城は、その小さな話し声が聞こえたのか肩を叩き黒板を顎で指す。今は授業だ、という意味が含まれているだろうな。葛城には逆らえなかったのか映画館に誘おうとしていた男子は少し項垂れてノートを開く。

 

「それでは、縄文土器についてだ。この土器は…」

 

授業の内容自体もとても理解出来やすいように説明している。無駄がないというか、日本史とか世界史系教師にありがちな有難くないお話が無いのだ。教えていることに関する雑学は多少入るがそれはその語句や人物を覚えやすくする為のものだ。寝てしまうかもしれないと唸っていた女子もすっかり授業に集中している。やはりその点もAクラスと言うべきなのか、地の能力は高水準でまとまっているといって良いだろう。…一部を除いてな。戸塚とか戸塚とかさっきの男子とか。葛城グループの民度大丈夫なんですかね。いや、真面目に取り組んでいる優等生みたいな葛城グループのメンバーもいるんですけどね。そこら辺の馬鹿2、3人が悪目立ちしている感じだ。

 

「…それでは今日はこれで終わりだ。号令」

 

あっという間に時間が過ぎましたね。気づいたら時計の針回ってた。元々勉強は嫌いじゃないが授業がこれならここでのテストも頑張れそうだな。ま、最終手段としての過去問とかは普通に使わせてもらいますけどね!数学とかで!理数系科目は苦手なのだ。平均点以上は取れるが基礎問題だけ解いて応用問題はパスするスタイル、公式当てはめれば解けるのじゃなきゃ解けません。それといつも思うが点P、なんでお前動くの?点は点らしくそこに留まっておけよ。

 

「桐ヶ谷くん、どうでしたか?」

 

おっと、坂柳か。一人理数系もとい数学への愚痴タイムは終わりだな。

 

「やっぱり数えてたな、教科書を持つ手が反応したのと目線が一瞬だけあいつらを向いた」

 

「…予想通り、ですね。一回の私語でどれだけ減点されるかはわかりませんが、一ヶ月後には答えも出るでしょう」

 

「だな。当たってたらいよいよ女王様の誕生、か?」

 

皮肉を込めて笑顔を向ける。坂柳もまたふっ、と微笑み返して冗談がお上手なのですね、と。さしずめ俺は女王様(坂柳)の召使いってところか。うん、悪くない。

 

その後グループチャットでやはり私語とかはカウントしていたことを伝えると、皆口を揃えて坂柳を褒めたたえていた。もっと崇めよ、坂柳派閥最初の11人だ、喜べ。あ、俺は召使いしてますから。身の回りの世話から食事まで何でも…あ、坂柳から何やら見つめられてる気がする。これ以上考えるのはよそう、背後から刺されたくはない。

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

「わざわざ廊下に出てもらって悪いな、葛城」

 

そして午前の時間はあっという間に過ぎていき、昼休み。授業と授業との合間はしっかりと坂柳の笑顔を確認し保存しつつ授業では葛城グループへ目を光らせる。まあ、あれ以降私語したやつはいなかったけど。俺から後ろは見えないから居眠りしてたやつはいるかもしれない、確証はないけどな。と、そんなところで今俺の現在地、教室の外へ出て廊下。戸塚たちが葛城に絡むより前に授業が終わりすぐに声をかけた。なんてったって坂柳からの依頼だからな。失敗する訳にはいかないだろ?

 

「構わない。それで、何の用だ?」

 

「昨日ろくに挨拶も出来なかったし、それでな」

 

「…ふむ。まあいいだろう」

 

うーん、ファーストチェック、クリア。

嘘は吐いていないからな。人は嘘を吐く時は無意識に何かしら癖が出てしまう。テンプレなのは目をそらすとか、瞳孔が大きくなるとか。俺のはわからないがそれでも、俺の癖が葛城にバレるのは不味い。嘘でも本当のことでもない言葉を導入に、会話に入らせてもらおう。

 

「名前は知ってると思うが、桐ヶ谷 黎耶だ。葛城 康平、だよな?」

 

「ああ。…それだけか?」

 

「んー、まあ呼び捨てでいいとか色々話すことはあるんだけどな」

 

「よ、呼び捨てか。…黎耶と呼べ、と?」

 

「え?呼んでくれんの?」

 

まあ呼んでくれるなら呼んでくれる方がいいですけどね。下の名前で呼び合える関係、ともなれば互いにそれだけで信頼感が生まれる。まあ俺に生まれるのは坂柳への忠誠心だけですけどね。元々芽生えてるけど。

少し悩む素振りを取ったあと、葛城はゆっくりと口を開いた。

 

「…黎耶、そう呼ばせてもらおう」

 

「ん、俺も下の名前で呼んでもいいか?」

 

「もちろんだ。よろしく頼む、黎耶」

 

「ああ、よろしくな、康平」

 

はい、セカンドチェック、もといセカンドステップクリア。葛城康平と交友関係を結ぶ。次だ。坂柳から頼まれた依頼の内容はまだ残っている、全て合わせて五つ。

 

〇葛城と友人関係を結ぶこと。

〇葛城がどこまでSシステムについて考えているか聞き出すこと。

〇それに合わせ葛城グループの現状について聞き出すこと。

〇先程私語をしていた男や戸塚に厳重注意しておけ、と忠告すること。

〇最後に、好青年を演じて何か困ったことがあれば相談に乗る、という体で連絡先を交換すること。

 

うん、いつ見てもえげつないなぁ。俺半分スパイみたいな仕事してるぞ。正直葛城、じゃなかった。康平真面目でいいやつだからなぁ、そんな康平を利用し陥れるのは気が引けるし良心が痛むっちゃ痛むんだけど。

 

『依頼が成功したら今度、二人でカフェに行きましょう』

 

なーんてメール送られたらやるしかないよなぁ!?

ごめんな康平、男の友情とか、そんなことより俺は坂柳が好きなんだ。最優先事項は坂柳、不変だ。

 

「今度遊びに行けたらいいんだけど、康平忙しそうだしな…」

 

「…悪いな、時間が見つかれば、伝えよう」

 

「マジで?やった、じゃあ連絡先交換しようぜ。いつでも伝えられるようにさ」

 

はい後やるべきことは3つ。パパっと連絡先を交換し、葛城 康平と表示されたのを確認すれば次の話題へと入る。こういうのは間を置いちゃ駄目だ。そして何より会話の流れを崩しちゃいけない。

 

「あ、連絡先と言えば。葛城はさ、昨日8人くらいに絡まれてたよな。そいつらとも交換したのか?」

 

「ああ。昨日はあの後広場でスポーツをな」

 

「混ざりたかったなぁ。皆良いやつそう?」

 

「そう、だな。弥彦辺りは少し軽薄な行動は目立つが、注意すれば治そうと努力する。皆良い人達だ」

 

おっとー?いいんですか康平くん。次の話題の種を自ら撒くだなんて、随分太っ腹じゃないですか。とりあえずもう1つクリア。弥彦、戸塚の下の名前だったな。さっき確認した。辺りは、ということはもう一人二人くらい居るのだろう。よし、4つ目といこうか。

 

「ああ、戸塚か。後日本史の時間少し話してたやついたよな、…やっぱり皆授業に集中出来なくなるからさ、康平の方から注意しておいてくれないか?」

 

「わかった。こちらとしても皆少し迷惑しているだろうとは思っていた。少し厳しめに注意しておこう」

 

坂柳がこの項目を入れた意味。普通なら暴れっ子を抑えて逆に損害になると考えるだろう。敵側に扱いやすいやつがいたのにそれが矯正されるってことだからな。だが、よく考えてみよう。康平は厳しくと言った。まだ入学して二日目の人間に注意されるんだぜ?幾らカリスマに溢れる康平にでも、戸塚側から少しばかりの不満が貯まるのは確実だろう。そしてその不満はいずれ大きな爆弾と変わり、盛大に爆発する。今はその火薬を用意したに過ぎない。自分で自分の首を絞めていることに気づかず自爆するんだぜ、康平。

 

「ん、ありがとな。あ、この後昼飯一緒に食べないか?何か奢るからさ、ポイントは一杯あるし」

 

「食事を共にするのは賛成だ。だが奢らなくてもいい、ポイントはこちらもある」

 

「おっ、んじゃ食堂行こうぜ。…それにしても、幾ら何でも太っ腹だよな、10万ポイントなんてさ」

 

さて、カマをかけよう。普通に会話してる風を装い、情報を聞き出す。これくらい出来なきゃ、このよう実の世界じゃ生きてけねえだろ。

 

「同感だ。学生に与える金額ではない、…何か裏があるのではないか?」

 

「裏って?」

 

「それはまだわからない。…今考えても仕方ないか、食堂だったな、時間もある、急ごう」

 

「やべやべ。りょーかい」

 

作戦完了。パーフェクト。我ながらここまで完璧にこなせるとは思わなかった。というか、康平ガード緩すぎなんだが?クラスをまとめたいならもう少し危機感を覚えることですな。もう遅いけど。ま、葛城グループが崩壊しても普通に康平とは友人として仲良くしていきたいものだな。

 

『全て聞き出した。詳細な内容は後で』

 

素早くタッチパネルを操作し送信、一人にやっと笑って俺は携帯端末を閉じ康平の隣を歩く。しまったばかりの携帯端末が震えメッセージの受信を知らせる。明るくなったタッチパネルには、坂柳 有栖、と名前が表示されていた。




少し走り気味に書いたので表現に乏しいところがあったかもしれません…。
今回は坂柳さん成分控えめでしたが次回はまた坂柳さん回です(多分二回に一回くらい坂柳さん回です)
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