生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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どーも、ジグです。ランキング週間3位に戦慄してました。
誤字報告もありがとうございます、順次修正させて頂きます。
さてさて、今回はフル坂柳回となっております。…文字数が8000弱なのは許してください!お願いします(ry


5. 俺、友人にランクアップしました。

 

 

 

 

 

 

──もっとも平安な、そして純粋な喜びの一つは、勤労後の休息である。

 

ドイツの哲学者カントの言葉だ。仕事が終わったあとの開放感から、何をしようかと思える自由は素晴らしいものだろう。学生でも、例えばテスト勉強を必死に頑張りテストを乗り切った後の達成感や、その後の自由感は言葉では言い表せないものだ。良い言葉だと思うが、俺はこれに少しばかり異を唱えたい。

 

──もっとも幸福な、そして純粋な喜びの一つは、想い人と過ごす時間である。とな。

 

これ以上の喜びはあるだろうか、いや無い。俺にとっては最高と思える幸せだ。俺以外にこの言葉が当てはまるかは定かじゃないので、俺の脳内だけでカントの言葉を訂正した。人間の特技、自分の都合のいいように物事や言葉を曲解する、を使わせてもらったぞ。

さてさて、こんな一人芝居を演じている俺の現在地だが。

 

「桐ヶ谷くん、飲み物は何にしましょうか」

 

そう、坂柳と二人きりでカフェ・パレット──ではなく、校舎や学生寮からは少し離れた川沿いのカフェに居るのである。パレットは女子多すぎて無理です、主に俺の童貞力的に。高円寺さんクラスの自信家なら余裕でいけるんだろうが生憎と俺は元々普通の高校生なんでな、それに坂柳との二人きりの時間は静かな場所で過ごしたい。

 

「んー、まあ無難に紅茶かな。坂柳は?」

 

「私も紅茶にしましょうか」

 

「りょーかい、んじゃ頼んでくる」

 

そう言って一人席を立てばカウンターまで、速やかに注文を済ませ席へ戻る。ここまで1分かかっていない。というか、気持ちは至極冷静にさせているつもりなのだが心臓がさっきからうるせえ。俺単純すぎん?好きな人と二人きりってシチュエーション想像以上にやばいな。

 

「中々放課後時間が取れずすみません、気づけば小テストの後になってしまいました」

 

「いや、坂柳が空いてる時間もあったのに、その日に予定を入れてた俺も悪いから」

 

そう。あの依頼を無事完遂し、約束通り二人きりでカフェへ…なーんて思ったらそう現実は甘くなかった。まず俺は直樹やら坂柳グループの男子から遊びに誘われ、入学早々のスクールカーストの維持の為に行かざるを得なかった。坂柳もそれは同様だったらしく、というか坂柳の場合は徐々にクラスの覇権を握るためだろうけど女子と交友を深めていたようだ。そんなこんなで時間だけが過ぎていく、と思えばやってきたぜ抜き打ち小テスト。まあ詳細は後でいいか。

 

「お互いの地位の為ですし仕方ありません」

 

「だな。俺のために時間作ってクラスのリーダー枠取れなかったら俺が申し訳ないし」

 

「ふふ、二人きりと言うのにやはり異質な話題になってしまいますね」

 

「情報交換も兼ねてるんだ、それにこういう事話すためにここを選んだしな」

 

まあもちろん大本命の理由は二人きり(カフェの店員は除く)になるためですけどね。そんなことを話していれば澄ました顔の店員さんが紅茶を二つトレイから俺たちの机へと。きっと話していることは聞かれていただろうが、店員が聞いていたところでなんら問題は無いので坂柳も特に何も言うことはなかった。

 

「桐ヶ谷くんがそう言うのならもう少しこういった話をさせてもらいますが」

 

坂柳が紅茶を手に取り、優雅にそれを呷る。一つ一つの所作が丁寧で、どこかのお嬢様なのではないかと疑わせる。

 

「ん。じゃあまあ、とりあえずは、今日の小テストか?」

 

「ええ。…テストを始める前の真嶋先生の言葉」

 

「「“成績”には関係しない」」

 

二人同時に発声する。何だよ息合っちゃったよ恥ずかしいな。坂柳も今のには少し思うところがあったのか誤魔化すように瞠目して紅茶を一口。うん、今日も可愛い。まあ今それは置いといて。原作で茶柱先生が言ったようにやはり、あの小テストは成績には関係しなくともポイントには関係するんだろうな。坂柳は咳払いして話を続ける。

 

「テストの結果次第で減点されるでしょうね」

 

「だろうな。成績には関係しなくとも、貰えるポイントには関係する」

 

「そういう意味でしょうね、真嶋先生のあの言葉の意味は」

 

俺も紅茶を一口喉へと流し入れる。やはり店で出される紅茶は自分で作るより美味いな。まあ、といっても余り紅茶など飲まないのだが。

 

「ふふ、同じ考えのようで良かったです」

 

「ま、あれくらいの問題で減点食らうようなやつはいないと思うけど」

 

「最後の数問以外は簡単でしたからね」

 

坂柳は頷いて、言外にその数問も解いたと伝える。うん、やっぱりチートなんだよなぁ。そう、原作通り小テストはその大半の問題が下手すれば中学1年生でも解けるような内容だった。最初見た時は驚いたものだ、手抜きしているのか、と。そう思ったのも束の間スラスラと解答している内に辿り着いたのは先程までとは異常な難易度差を誇る問題、難読漢字やらとある国の地名やら、解かせる気あんのか、という問題だったな。「孅い」とか普通の高校生解けねえぞ。それだけ解いて残りの数学とかはパスしたが。問題文見た瞬間吐き気がしました。

 

「…全問解いたんだな、坂柳」

 

「そうなりますね。桐ヶ谷くんはどうでした?」

 

「国語の難読漢字だけ。後はお手上げだ」

 

「ふふ、それでも凄いことじゃないですか」

 

「はぁ、そりゃどうも」

 

思わずため息が出た。全問解いたやつに褒められてもなんも嬉しくないって。

 

「ため息を吐いたら幸せが逃げますよ、桐ヶ谷くん」

 

「…逃げた分、目の前から補給するから大丈夫だ」

 

「っ。ふふ、そうですか」

 

今の言葉の意味を理解したようですね坂柳さん。くっそ恥ずかしいです。目の前から補給する(坂柳といるだけで幸せだ)なんてな。というか少し赤くないですか坂柳さん、こういう攻撃に弱いんですか。なるほど、メモしておこう。

 

「とりあえず小テストの話はここまでにしておきましょうか」

 

「ん。あ、紅茶の他に何か頼むか? スイーツとか」

 

「そうですね、ではこのパフェを」

 

へい店員さん、そろそろ物騒な会話は終わるんで目の前の天使に最高の一品を頼む。そっと手を挙げパフェをオーダー、俺もついでにクレープを。スマートにいこう。店員もスマート。そっと注文をメモし奥へと消えてゆく。…うん、なんだこの謎のテンションは。

 

「桐ヶ谷くん、今何か変なこと考えてませんでしたか?」

 

バレテーラ。

 

「そんなことないぞ?」

 

「そうですか、ではそういうことにしておきましょう」

 

坂柳はくすっと笑い外の方を眺める。その見る方向には人ひとりおらず、あるのはただ少しずつオレンジ色に染まっていく青空に、十数本の木々。端的に言って何もない。一体坂柳は何を見ているのだろうか。いや、坂柳には何が見えているのだろうか。その答えがわかった時、俺は坂柳の隣に立てるのだろうか。そんな意味のない問いを頭の中で交差させながら、俺はただ坂柳の夕日に染まっていく横顔を見つめていた。

 

「森の隠れ家と、バナナクレープです」

 

「ありがとうございます」

 

「では、ごゆっくり」

 

っと。気を抜いていた。いや、見とれていた。ここ重要だ。既にカウンターへと戻った店員の手から出されたのは隠れ家と名乗ってるのにフルーツやらスイーツやらの自己主張がとても激しいパフェ。おい、隠れろよ。名前詐欺ですか。それに対してバナナクレープって。もう少し捻りましょうよ。まあ名前詐欺してそれっぽい名前付けるよりはマシですけどね。

 

「桐ヶ谷くん?」

 

「なんでもない、見とれ……気を抜いてた」

 

あ、ミスった。

 

「…ふふっ、見とれていたんですね?」

 

見えるのは坂柳の嗜虐心に満ちた笑顔。ありがとうございます、ご褒美です。あれ? 結果オーライじゃね? 流石にプライド持てよ俺。普通に恥ずかしいわ、惚れたと言ったとはいえ、これはこれで無理。無意識に顔を坂柳から逸らしてしまう。

 

「…だったら、どうするんだ」

 

無意味な問いかけとわかっている。こんな問いを返したところで心を侵食する羞恥心は消えないのだから。

 

「いえ、どうもしませんが……あ、でも、そうですね」

 

なにやら何かを思い付いたような、無邪気な子供を思わせる楽しげな声が聞こえる。顔を逸らしても何もない景色しか見えないし、戻そうと思ったその瞬間。

 

「んぐっ!?」

 

スプーンと、甘いなにかが俺の口内に突っ込まれた。

 

「私のパフェを食べさせてあげることにしましょう」

 

悪戯が成功したような、してやったというような様子で、嬉しそうに坂柳は笑う。スプーンを自分の方へと戻すが同時に口に入れられた甘いなにかは口内に残る。くそ、味が全くもってわからない。ただわかるのは、とてつもなく甘いことと、俺の顔が真っ赤になっていることだけだ。

だが、それではまだ坂柳は終わらなかった。

 

「っっ…」

 

「ふふ、美味しいですね」

 

なんという事かそのままスプーンにまだ付いていたクリームを舐めとってしまった。少しばかり舌を出して余裕げに。

 

「なっ…!?」

 

坂柳さん、それを人々は間接キスと言うんやで。…って、そうじゃなくてええ!おいいい!?坂柳さん何しちゃってんの!? それ今あなたが俺の口に突っ込んだスプーン。

それを舐めとるということはもはや間接キス以上のことしてる訳で。

とにかく俺の脳内はパニックに陥っている訳で。

思考回路は止まっている訳で。

 

「どうかしましたか、桐ヶ谷くん?」

 

俺の顔が赤く染まっていることだろうか。絶対にその意味をわかっているのにわざわざ問いかける坂柳。今それどころではないんだが。あなたのせいで俺の頭はおかしくなりかけてるんだが。声を出そうとするがうまく口が動かない。言葉を紡ごうとしても脳が甘く痺れている。くそ、一度深呼吸を、と思ったところで。

 

「…喋れないほど動揺していますか。大成功です」

 

そして、俺の目の前で、心の底からの笑顔で笑った。

あの日には幻想の花びらに、妖艶さを彩る夜空が。

今回は夕日に照らされ橙に染まり、より美麗に魅せられた坂柳有栖の笑顔が見える。彼女をメインに、バックには幻想ではない現実の、風に乗せられる緑葉に、夕焼けの空。その光景に幻想はひとつも無くて。だが、それでも幻想のように感じられて。しかし確かに現実で。

ただ、彼女の笑顔は──坂柳有栖の笑顔は、俺の頭の中を眼前の少女で埋め尽くした。彼女以外を考えるなと言うように。彼女以外を考えても辺りがが働かないように。

 

「ふふ、そろそろ戻って来て下さい」

 

いつだって透き通るそのソプラノは俺の脳内を透明にしていく。もう元に戻れ、と。意識が帰ってきた。思考回路が動き始めた。戻ってこいと言われて意識戻るとか俺もう大分やばいな。とりあえず少しだけ気分が落ち着いた。少しだけだが。

 

「さ、坂柳…お前、何を…」

 

「私のスプーンについていたクリームを舐め取っただけですが」

 

「その前に、お、俺の口に突っ込んだろ…」

 

ああだめだ。何を言ってもからかわれるだけだ。そして未だに顔が赤い。思考は戻れど鈍っている。くそ、今の状態で坂柳とまともに話せる気がしない。坂柳は間接キスしてしまいましたね、とか美味しかったですよ、とか追撃を仕掛けてくる。とっくのとうに俺のライフは0なんだが。

 

「桐ヶ谷くんをからかうのは楽しいです」

 

今の言葉で幻想から現実に戻れた、ふぅ。ありがとう坂柳。

ああ、そうだ。きっと、彼女はからかっているだけなのだ。坂柳が俺を好きな訳じゃない。惚れている訳でもない。ただ俺から坂柳への一方通行の想いをぶつけて、それに坂柳がこうして返しているだけなんだ。どこまでが坂柳の計算で、どこまでが計算外のアドリブなのかはわからない。が、今はそれでもいい。たとえからかわれているとしても、楽しいものは楽しいし、こうして幸福を感じている。

 

「そりゃ良かったな。…んじゃ、仕返しだ」

 

──だから、俺からも意趣返しをしようじゃないか。

 

「桐ヶ谷くん? 一体何を……きゃっ!?」

 

右手でクレープを掴み、身体を机越しから近づける。坂柳は何をされるのかと興味ありげだったが、いつまで経っても近づいてくる俺に驚きに顔を染め、()()()()()

今しかない、そう思い立てば俺の行動は早い。右手に掴んだクレープをすかさず坂柳の口内へと突撃させた。ははっ、これは確かに楽しい。坂柳の可愛らしい顔が驚愕と少しばかりの羞恥に染められた。少しは坂柳も恥ずかしさを覚えろ、攻められてばかりでいられるかっての。

 

「…んむっ、桐ヶ谷くん…!」

 

まるで想定外のことが起こり癇癪を立てる子供のような顔で、坂柳は俺を睨んでくる。が、知ったことか。先にやったのはそちらだろう。そして俺はまだ、もう一つやるべき事がある。……ものすごい勇気いるんですけどやった以上引き返せないんで、やりますか。坂柳の口へと押し付けていたクレープを、正確には坂柳の口が突っ込まれた部分を確認し、俺はそれを坂柳ににやりと笑って口にした。

 

「〜〜〜っ!?」

 

クリティカルヒットしたらしいぞ、俺。やっぱり坂柳さん攻撃性能はチート級でも耐久がやや弱いようだなぁ!普段は肉盾やら何やらを使って外部からの攻撃は防げるようだが、直接的な攻撃には慣れていないなお嬢様。坂柳は攻めに弱いことは確定した、これからもぐいぐいと攻めるとしようか。

その坂柳と言えば、俺がクレープを食した辺りから顔をぼふっと音が立つくらいに真っ赤に染まり、ふいっと顔を逸らしているが。はっきり言って国宝級に可愛いです。やった甲斐があったわ。

 

「先にやったのは坂柳だ、俺にもやり返す権利はあるだろ?」

 

「っ…、まさかやり返されるとは思いませんでした。私もまだまだですね」

 

「攻められるのには慣れてないんだな」

 

「…そうなります。私にこのように攻撃する人などいませんでしたから」

 

でしょうね。よく思えば俺もここまで攻められてるなと自分で自分に感心する。賛美の言葉を某邪教を許さない象から貰えるくらいには。彼女いない歴&童貞暦=年齢人類ですからね。まあ、前も女子とは適度にカラオケには行くし、飯も食べるが。二人きりというのは流石になかった。

 

「坂柳が楽しそうな理由がよーくわかったよ、攻めるとな」

 

「それは良かったですね、これからもからかってあげましょう」

 

「それじゃ俺は好きという気持ちをぶつけるとしよう」

 

「望むところです」

 

「「ははっ(ふふっ)」」

 

笑い声が共鳴する。嗚呼、駄目だ。心が踊る。楽しいな。お互いに思っていることがわかる。

(桐ヶ谷くん)坂柳()のことが好きで、坂柳()(桐ヶ谷くん)をからかって楽しんでいるだけだと。

だが、それでも。互いに理解している。遊び遊ばれ、攻めて攻められ。この関係が心地良い。言葉の裏にある意味も、言葉の表にある意味も知っている。知ろうと出来る。

 

「桐ヶ谷くんは本当に不思議な人です」

 

坂柳は楽しんでいるのがありありとわかるように笑っている。

 

「そうか?」

 

俺も微笑んで返す。

 

「はい。私をここまで楽しませてくれたのは桐ヶ谷くんが初めてです」

 

紅茶を一口飲んで坂柳は息を吐く。

 

「そりゃ光栄で。俺もここまで楽しい気分にさせてくれるのは坂柳くらいだ」

 

俺も紅茶を喉に流し込む。思考がすっと整理される感覚を覚える。

 

「それに」

 

楽しげに笑っていた坂柳の笑顔が、少し歪んだものに変わる。その表情の真意は読み取れない。

 

「私のこの性格を知ってなお、付いてくれる人も桐ヶ谷くんが初めてです」

 

まあ、そりゃあ転生してますから。なーんて言えないが、別に転生していなくても、きっと。この世界に生まれていたのなら坂柳を好きになっていたのだろう。当然今みたいに俺が攻めることなどできずからかわれてばかりなのだろうが。

 

「何故、付いてきてくれるのですか?」

 

坂柳はどこか歪な顔で嗤う。その歪みは自虐なのか、それとも俺への嘲りなのか。そんなことは今はさて知らないが、俺が返す言葉はただ一つだ。そんなもの決まっているだろう、と。前も言っただろう、と。こほん、と咳払いをして。呼吸する空気が新鮮だ。

 

「坂柳 有栖という存在に惚れたからだ」

 

何度も言わせんな恥ずかしい。そちらが歪んだ笑顔ならこちらも歪んだ笑顔で返そう。何故ここまで俺が彼女を好きになっているかなど俺自身知らない。が、“好き”とはそういうものなのだろう。あの人は見た目がいいから、とかあの人はスポーツ出来るし、とか、何かと理由を付けてそれで惹かれていますなど笑わせるな。そんなものただのステイタスだろう。俺は確かに坂柳 有栖という少女に惚れてしまったのだ。あの笑顔を、どこか壊れているあの身体を救いたいと思ってしまった。いや、救いたいのではない、支えたいのだ。そしてあの微笑みを無くしたくないのだ。それ以上の理由などきっとあまり無いのだろう。だがそれだけの理由で充分すぎるほどに、俺は彼女に惚れていた。

 

「…あなた、壊れていますね」

 

「お互い様だろう」

 

「ふふっ、確かに」

 

ああ、壊れている。俺も彼女も。だが壊れているからなんだと言う。人間どこか壊れてる不良品だ。そしてそれを互いに補うのが友人なのではないか、家族なのではないのか、──恋人なのではないか。

きっと、平凡な秀才などと言われ都合のいいように扱われたこの人生だからこそ、目の前の歪んだ天才少女の心を理解できるのだろう。

 

「あの時の言葉を訂正しましょう」

 

「ん?」

 

あの時の言葉とは何だろうか。…あの時が多すぎてちょっとよくわからないですね。おい、理解できるって言ったじゃねえか俺。

 

「桐ヶ谷くんをいい人材と呼んだことですよ」

 

「ああ、そんなことか。別にそのままでいいのに」

 

「いえ、それでは私の気が済みません」

 

「…それじゃあお好きなように」

 

相変わらず強引なお嬢様(坂柳)だ。まあ、それでこそ坂柳だ。こちらを見つめる坂柳に俺もしっかりと視線を合わせて返す。

 

「ありがとうございます、では」

 

坂柳は一度呼吸を深く取って。

 

()()()()()と」

 

()()、ね」

 

「ご不満ですか?」

 

「いいや、今はそれでいい」

 

今はそれでいい。ああ、それでいい。いつかそこから友の字を抜いてやろうと努力出来る。これからも彼女のことを想える。人材から大切な友人とは大きな進歩じゃないか。心の中に明るい火が灯った、さあ、この火を大きくしよう。周囲の酸素を吸い尽くした時には、きっと友では無くなっていることを信じて。

俺は挑戦的に坂柳の顔を捉え笑った。

 

「ふふ、そうですか」

 

そして、坂柳は。

 

「もう一度訂正しなければならなくなる時を楽しみにしていますね」

 

かかってこい、と上から見下ろす様に不敵に彼女は笑う。時間が過ぎ先程より、より赤く染まった夕暮れが彼女を神々しく照らしていた。それは近いようでどこか遠くて。そして、世界の何よりも美しくて、儚げで。いつか崩れそうな彼女の面影が確かに俺の眼前の光景に現れていた。全く、どれだけ惚れさせれば気が済むのか。微笑まれるだけで心が昂る俺自身に呆れながらやってやるさ、と肩を竦めて苦笑を零した。

 

「…では、これから、二人きりになった時は有栖とお呼び下さい、()()くん」

 

「っ。そう呼ばれちゃ、呼ぶしかないな、()()

 

嬉しげに有栖が笑う。…ああ、そろそろ気絶しそうだ。これ以上は童貞力が持たない。が、もう少しだけ頑張れ、俺。

 

()()ですからね、名前で呼ぶのは当然でしょう?」

 

「ごもっとも。()()なら当たり前だな」

 

「ふふ。さあ、私はパフェを食べるとしましょう」

 

「んじゃ、俺はクレープを」

 

二人は声を揃えて。

 

「「有栖(黎耶くん)。そのパフェ(クレープ)、少しだけ分けてもらってもいいか(いいですか)?」」

 

 




後半いつもの主人公の思考がネタではなくガチになりかけてました。
あ、感想欄に多くの偶像教の信者様が居られたので今回も偶像ネタを。邪教を捨てよ。権化を許すな。
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