生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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どーも、ジグです。
今更ですがクラス人数を25から40へと修正致しました。ずっと勘違いしていまして…、龍園さんが8億ポイントとか言ってたので「ん…? あれ…?」と。申し訳ありませんでした。と言っても多分40人全員の名前は出てこないと思いますが(殴

*前半に大幅な修正を加えました。


7. 俺、公式チートから武術を教わります。

 ──ありのままの自分を出すほうが、自分を偽って見せるより得るものは大きいはずだ。

 

  フランスの著述家、ラ・ロシュフコーの言葉だ。昨今の社会では誰も彼も本当の自分を押し殺し、会社では従いたくもない上司に頭を下げ気分を取り、学校では例え嫌いな奴でも人間関係の問題で笑顔で付き合わなければならない。が、それで得るものは何だろうか。自分を偽る間はいいかもしれないが、いざ本当の自分に戻ってみると果てしない虚無感が待っているだけだ。俺、何やってたんだろう、とな。かといって、今の社会で簡単に本当の自分を出せるという訳でもないが。ブラック企業は消えて、どうぞ。

 

  と、まあ。前置きはこのくらいにして。

 

「……飲み物は茶くらいしか無くてな」

 

「あ、ああいえ。お気になさらず……」

 

  今俺がどこにいるかだが、生徒会室。それもよう実ワールドでもチートと名高い生徒会長、堀北 学様の目の前だ。正直言って無事で帰れる気がしない。バレるような嘘を吐いてしまったらそれこそ一瞬でゲームオーバーだ、だからこそ自分を偽るのはこの場では愚策と等しい。

 おい、さっきそれっぽい雰囲気出して喧嘩売った俺はどこに行ったよ。社長を前にする平社員か俺は。というか流石生徒会長。こんな客人でもお茶は出してくれるんですね。

 コト、と2つのコップに麦茶を注ぎ、大きな机に置いた堀北会長はその片方を俺の方へと差し出す。会釈してから自分の方へと寄せるが口は付けない。喉は乾いているのだが飲める気分じゃない、むしろ飲んだら吐くまである。

 

「飲まないのか?」

 

「今は大丈夫です」

 

 そうか、と一息吐いて。

 

「桐ヶ谷 黎耶、か。今年の一年には異端な存在が随分と多いな。……それで、さっきお前が呟いたワードの意味。一体何を知っている……? 」

 

「あのままの意味ですよ。南雲雅の考え方ではこの学校の伝統が崩れる、と」

 

  あくまで冷静に。嘘は吐かないように。もう一度あの拳を躱せる自信は俺には無いからな。と、いうか。どう攻めようかねこれ。攻めどころがない。

 

「……質問を変えよう。何故それを知っている?」

 

「さあ、何故でしょう」

 

ニヤッと笑っては挑発するように。ミスったら死ぬけどミスらなければ死ぬことは無い。今渡っているのはそういう世界線だ。恐怖を抱くな。冷静でいろ。俺なら出来る。何でも出来るのが俺の特技だろ? なら、乗り切ってみせろよ。堀北会長は挑発には乗らずただ黙考する。いやまあ、幾ら考えても正解には辿り着かないと思いますけどね。俺が転生者だなんて考える馬鹿でもないだろ。

 

「南雲雅は確かに優秀ですが、その分慢心してしまう。何処かでボロを出すことも無いとは言いきれません」

 

「……お前は」

 

このブラフも嘘か真か計りかねてるな。まあ嘘なんですけどね。だがこの状況だと真の可能性が高いと考えるのが妥当だ。一年生が一ヶ月の間に南雲雅の情報を調べ上げ、裏の顔を見抜くなど不可能に近い。だが近いだけで不可能ではない。ともすれば、可能性がある方を信じるのがまだ妥当。ここで重要なのは俺が一ヶ月で南雲雅の情報を調べ上げたという偽りの事実。これを真と思うのならば俺は化け物クラスに情報収集力が高い人間として堀北会長に認識され、嘘と思うとしてもどっち道俺のスペックが他の奴とは一線を越しているという認識をされるだろう。まあ転生して知識あるだけなんですけど。そんなスペック1ミリくらいしか無いわ。

 

「……食えん男だ」

 

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 

数分ほど黙々と思考回路を働かせていた堀北会長はやがて首を横に振って俺を睨みつける。ほんと怖いんでそういう目線やめて下さいね。油断したら目線だけで死にそう。

 

「何を聞いてもお前が素直に話すとは思えんな」

 

「はは、心外ですね。綾小路よりは素直に話しますよ」

 

「やはり、あの男のことも知っているか」

 

この反応ということは未だ先程のブラフに対する解答は出ていないが、少なくとも俺がただ者ではないという認識はされたらしい。一先ずはファーストラインを越えた。堀北会長は依然として俺を鋭い視線で見つめる。

 

「全教科50点丁度を狙ったように取る男を知らない訳がないでしょう」

 

それに、と。言葉を続けて。あー、言いたくねえ。自ら逆鱗に触れに行くとかどんなMプレイだよ。

 

「あの協調性がまるでない、貴方の妹と親しい時点で注目しま……ッ!?」

 

「鈴音の話をするな。口を閉じろ」

 

堀北会長は俺が言葉を言い終わるより前に机から身を乗り出し俺の口を塞ぐ。その雰囲気は鬼気迫るものがあり、殺気を全開。堀北会長の言う通りそれ以上堀北さんの話をすれば今すぐ俺は気絶させられ保健室送りだろう。俺は両手を上げ降参の意を示す。するとゆっくりと、俺から視線を外さず慎重に手を引っ込める。一つ言っていいですか。殺されると思いました、ほんときつい。難易度ルナティックは伊達じゃないな。

 

「すみませんすみません、つい口が滑りました」

 

「……もう一度言えば、わかっているな?」

 

「ええ。それはもう、心臓が破裂しそうなほどに」

 

ならいい、と一度大きく溜息を吐き、堀北会長は眼鏡をくいっと整える。ふぅ、ふぅ。こええよ、超こええよ。もう帰りてえよ。

 

「……最初に、交渉を持ちかけてきたな、お前は」

 

「ええ。先程までの話は俺が貴方と交渉するに足り得るか貴方に図ってもらう為でしたので」

 

この生徒会長のことだ。無能な奴にはどうもしないが有能な奴は放っておかない。でなければ綾小路を生徒会に誘うことなどしないからな。まあもっとも、一年生を生徒会に勧誘する条件として南雲に付いていきそうにない人物ってのが大前提になってそうだけども。今から話す交渉の内容は、成立したらこええじゃ済まないからなぁ。本当に目の前の人間は人間なんですかね。人間の皮被った大魔王か何かなんじゃないですかね。ああでも、どちらかといったら迅雷が如く駆け抜けそうなイメージ。あの人もこの人もイケメンですし。早そうですし。

 

「……聞くだけ聞こう。伸るか反るかは俺が決める、それでいいな?」

 

「ええ、もちろん」

 

でなければ交渉ではありませんから、とにこりと笑って。さてと、セカンドラインも越えた。詰めに行くとしよう。

 

「こちら側から提示するのは南雲 雅の行動の抑制、と言っても一年側にあいつの手駒が増えるのを防ぐことですけどね。後は、綾小路 清隆を生徒会に入れる手伝いをしたりとか」

 

「……ふむ。悪くない内容だ。だが、肝心のお前は生徒会に入らないのか?」

 

 俺の話を聞く堀北会長は元々鋭利な目を更に鋭くして俺に問いかける。そこを突かれると痛いですね。まあ突かれると思ってましたけど。別に入ってもいいのだが、そうなると南雲に目を付けられたりとか、後は生徒会ですし放課後に活動したりすると有栖と癒しの時間を満喫する暇が無くなる。そうしたら俺死ぬぞ? 放課後働かなくていいなら入ります、ええ。

 

「放課後は色々と予定が立て込むので。 放課後の活動を無しに、書類の処理や行事の進行など限定的なものでいいのであれば、役職が無い生徒会役員として入らせて頂きますが」

 

「書類の処理、か。いや、それでいい。放課後は俺たちだけでも問題無い、今までそうしているからな。役職は設定せず、橘にはボランティアだ、と都合を付けておこう」

 

「わかりました。朝早く来ればいいですか?」

 

 堀北会長は首肯し、自分で注いだ麦茶を一口喉へと入れる。そのまま机へとコップを戻せば、鋭い目を少し緩め。

 

「それで、お前が俺に要求する条件は何だ?」

 

 とりあえず半分は交渉成立しただろう。あ、半分だから成立じゃねえな。ここからが本題だ。この話を切り出せばきっと後戻りは出来ない。が、やるしか無い。これから先、この堀北会長とは行かなくとも何人もの化け物と戦うことになるんだ。今の俺のスペックじゃまだ敵わない。だからこそ。

 

「簡潔に言うのであれば。生徒会長、貴方に武術を教わりたい」

 

 いつにも増して真剣な眼差しで俺は眼前の生徒会長へとその言葉を告げる。武術を教えてくれ、と。ずっと考えていたんだ。この先、何をしようかと。何が俺に必要か、と。1週間ほど考え抜き、そして辿り着いたのが、この先俺が戦い抜く武力だ。それも生半可なものでは無い。最低ラインでも龍園をねじ伏せるほどの、それくらいの力を。でなければ駄目だ。俺も元から多少の武術は嗜んでいる。が、それでは全然足りない。精々倒せてあの龍園の付き人の黒人だろう、名前忘れたけど。そんなレベルでは、あの綾小路には全く届かない。この先対峙するであろう南雲にも敵わない。

 

 だとしたらどうするか。綾小路はともかくとして、きっと南雲よりは強いであろう生徒会長、堀北 学から武術を教わること。そして、ついでだが生徒会にコネを作っておくこと。いざという時には権力も必要になる、その為にだ。有栖はあまり小細工を使わないタイプだ、であれば物理的な力も権力もいずれ必要になる。有栖のカリスマがあれば権力は問題無いだろうが念の為、そして武力はAクラスの面子では頼りない。であるからこその武力。各クラスに対抗するため、そして、有栖を守るために。

 

「ほう。面白いな、俺に武術を教わりたい、とは」

 

「……それで、どうなんでしょうか」

 

「時間を都合出来ない日は出てくる。場所は生徒会室、時間は朝と昼休み。それで構わないのなら、いい」

 

 その言葉に俺は心でガッツポーズを取る。きっと顔からは安心した、という思考が漏れているだろう。同じようにこちらを見つめ返した堀北会長は淡々とそう告げた。であれば、俺が返す答えはただ一つだ。

 

「全く問題ありません。では、交渉成立ということでいいですね?」

 

「ああ。よろしく頼むぞ、桐ヶ谷?」

 

 そう言って堀北会長は不敵に笑えば手を差し出してくる。握手か。……握手だよね? 握った瞬間腕折られるとか無いよね? 怖いんですが。だがまあ、ここでそれに応えないというのもおかしいな。もう知らん、なるようになれ。

 

「はい。よろしくお願いします、堀北会長」

 

 俺はぎこちなく笑ってから、右手を伸ばしその手を握った。俺の不安は杞憂に終わったようで、堀北会長からもしっかりと握り返される。良かった。そのまま暫し時が経って、俺も麦茶を口にした頃。堀北会長はぼそりと呟いた。

 

「俺としても、南雲を抑える一年生が欲しかった所だったのでな」

 

「……一応、Aクラスに生徒会を志願する者が居ますが。後、Bクラスにも」

 

「一応、ということは南雲は抑えられないということか」

 

堀北会長はまたも溜息。案外苦労人体質なんですかね、堀北会長。髪の毛をくしゃりと握る堀北会長を前に、俺はその言葉を肯定した。

 

「ええ。まあ、俺の言葉を信じるかどうかは貴方次第ですが。所詮この関係は利用し利用され合う関係ですから」

 

すると、堀北会長は不思議と笑った。何がおかしいのだろうか? え? 俺何かおかしい事言った?

 

「俺を利用する、などと言う人間は居なかったのでな。ああそうだ、俺はお前を利用し、お前も俺を利用する。そこには信頼どころか不信感が中心だ」

 

「そうなります。ですが、その方が色々と割り切れるでしょう?」

 

ああ、その通りだ。と堀北会長は未だ笑う。イケメンだから笑う姿かっこいいんだよ。くそう、能力チートの癖に顔もイケメンとかふざけんな。まあ、確かにこの関係性は気楽ではあるが。変に気を遣う必要も無い。

 

 と。俺のポケットから静かな生徒会室に似合わない電子音がうるさく鳴り響いた。この音からして電話だろう。一体誰だ? 俺の持ってる連絡先なんてAクラスくらいだし、何かあったのか?

 

「……出るといい」

 

 俺が出ていいのだろうかと戸惑っていると堀北会長はふっ、と笑って早く出てやれ、と。すみません、と会釈した後に俺は誰が掛けてきたのかも確認せずに携帯端末をそっと俺の耳にかざした。

 

 すると。

 

「黎耶くん、今すぐ食堂へ来れますか? 少し面倒くさい状況になりまして」

 

 まさかの有栖だった。え? ちょ、何? ……まさか、誰か動き出したか? 今はそんな事を考えても仕方ないな。食堂か、確かここからの距離は割と近かったはず。走れば1分もかからない。

 

「有栖? わかった、事情はよくわからんが今すぐに行く。待っててくれ」

 

「ええ、ありがとうございます。なるべく急いでいただけると助かります」

 

 そう言って有栖は電話を切った。声色からは少しの焦りが感じ取られる。あの有栖が少し焦る? どんな化け物だよ。いや、違うな。有栖が食堂で仕掛けるとは思っていなかったってことか。一年で有栖を焦らせるに足り得る人物は俺は知らない。スペックなら間違いなくトップなのだ、そこから考えても緊急事態ということがわかるな。だけど今はな……。やるしかないか。

 

「坂柳 有栖か。内容からして緊急事態なのだろう? 俺には構わず早く行け、事務処理は明日でも出来る。俺の連絡先はメモしておいた。持っていけ」

 

 ふぁー。判断力半端ねぇ……公式チートの名は伊達じゃないな。有栖という言葉から有栖の名を推測し、会話から即座に状況を把握。俺が抱えていた心配を察してあと伸ばしにさせ、連絡手段の用意まで完璧と来た。これはチートですわ。うん、頭おかしい。俺は全力で堀北会長に頭を下げて急ぎ部屋を出る。

 

「ありがとうございます、会長!」

 

「……この手で、あいつを止めなければな」

 

 勢いよく扉を開け外へと出ていった桐ヶ谷を一瞥した堀北は、一人ぽつりと、誰に向けるでもなく虚空へとその言葉を送った。

 

 

 

 

 

 

〇〇〇

 

 

 

 

 

 

 

「今考えられるのは、龍園か……ッ!」

 

 生徒会室を出て俺は走る。廊下を音を立て疾走する。向かう先は食堂、変わる景色を置いて加速する。走ってはいけない? 知ったことか、校則なんてクソ喰らえ。この状況で有栖に仕掛ける奴なんてあいつしかいない。そしてあいつが現状一番不味い。有栖なら軽くあしらえるのだろうが、それでもこちら側の勢力情報がバレるのはよろしくない。廊下の角を曲がりただただ走る。スピードは緩めない。

 

「待ってろよ、有栖!」

 

 一度惚れてしまえばもう駄目だ。例え有栖がどれだけ強かろうとも、チートであろうとも心配になる。もし龍園が暴力を振るおうとしたら? それで有栖が傷付いたら? そんな事が簡単に思い浮かぶくらいには重症だ。この胸に抱いた衝動は抑えられない、ほら、食堂が見えてきた。急げ、急げ、急げ。龍園と言葉で張り合えるのは有栖だけ。直樹含む他の派閥の人たちはあいつ相手には頼りにならない。俺が行かなければ。

 変わりゆく景色はやがて大きな喧騒が辺りを包む大食堂へと変わった。

 

 どこだ、どこにいる。全体を見渡す。確か有栖は食堂へ行く時今日加わった奴ら全員を連れて行った。それなりに目立つはずだ。一人で食うようなスペースは無視だ。団体席、大テーブルを探せ。

 

 

 

「…あそこかッ!」

 

 居た。白髪の美少女が黒髪ロングの男に絡まれている。有栖と龍園だ。その周りには直樹たち有栖派閥の人間が何が何だかわからず動揺している様子が見える。対して龍園側にはアルベルトと伊吹。武闘派の二人連れて来てるなこの野郎。アルベルトと伊吹は今の俺でも抑えられる、が、龍園は言葉で下すしかない。……いやまあ、そもそもそういうことになっているのかどうかなんだけど。

 

「坂柳、悪い、待たせたな」

 

「遅いですよ、桐ヶ谷くん」

 

「あ? 誰だお前」

 

 多分、今の俺は少しだけ殺気を纏ってる。意識はしてない、無意識だ。でなければ俺を見てそこら辺の一年生怯えてないもの。あ、もしかして堀北の覇気移った? 違うか。とりあえず平穏……な雰囲気ではないものの、特に有栖が危害を加えられているようでもないようだ。

 

「誰でもいいだろ。しっかし、飯を食うのにそんな用心棒みたいなのを二人か。随分とチキンだなぁおい」

 

 初手挑発。状況は知らんが龍園相手に畏まっても後手に回らされるだけでしょ。ならば煽りから始めよう。用心棒と言われ伊吹さんは少し嫌そうだったが、悪いな。さあ恐怖を知らない蛇(笑)さん、どう返してきます?

 

「はっ。言ってろよ、そこのお姫様なんて家臣を大勢連れてるぜ?」

 

「てめえみてえな強そうなやつと違って坂柳は疾患持ち、それに付け加えるならあいつらは全員自分の意思で来てるっての。チキンの言い訳はそれで終わりか?」

 

 二ターン目、挑発。へい、チキン。かかってこいよ。食堂で騒動起こそうもんなら怒られるのはお前らだけどなぁ?俺は傷付いても勝つのは俺たちだ。

 

「チッ。耳障りな奴だ。……まあ、ここで一年の奴らに見せつけるのもいいだろ、アルベルト。そいつを黙らせろ」

 

 あー……。そういう方向行っちゃう? 騒がれる方言っちゃう? めんどくせええ、ここでアルベルトを抑えて後で訴えりゃ勝てるが俺の手の内もバレてしまう、それも少しよろしくない。というか有栖に迷惑がかかる、却下だ却下。そんなことを考えているうちにアルベルトさんがこちらにやってきた。うわあでかいなぁ。怖いなぁ。

 

 ということで、俺が取る方法は。ポケットから一つの紙と携帯端末を取り出し、アルベルトさんが何故かゆっくり歩いてきたのでその内容を素早く打ち込んだ。そうしているとアルベルトさんが俺に拳を振るおうとしたので綺麗にバックステップ、堀北会長に比べれば遅すぎるんだよ、余裕で視認できるわ。そのまま開かれた画面のスピーカーをONにして、龍園と有栖側に俺は逃げ込む。

 

「どうした、桐ヶ谷? もう終わったのか?」

 

「いえ、現在進行形で食堂の事件に巻き込まれています、()()()()

 

 俺がかけたのはそう、先程メモを渡されたばかりの堀北会長の連絡先だった。暴力には権力で抵抗してやるよ。堀北会長という言葉を強調し、周りによく聞こえるように。龍園の耳には当然届いているだろう。その瞬間。

 

「堀北会長、だと?」

 

「……そういうことか。上手く利用するな、お前は」

 

「すみませんね、後で借りは返しますから」

 

 流石堀北会長、俺が電話をかけた意図を察したようだ。会長の名を出せば、あちら側は引き下がるしかないと。暴力に暴力で対抗するのは最終手段、持てる力は使わせてもらう。

 

「面倒な野郎だ。アルベルト、もういい。……ここを出るぞ」

 

 はい完全勝利。散々煽られた挙句、何も出来ずに帰ることしか出来ない気分はどうですかぁ、龍園さぁん? いやぁ楽しいなぁ! 虎の威を借るってのは気分がいい。堀北会長最高かよ。龍園は去り際俺の顔をチラリと見てきたがガン無視してやった。

 

「ふぅ。坂柳、大丈夫か?」

 

「ええ。宣戦布告のようなものをされただけですので」

 

 有栖に案内されるがままに俺は席へと座る。ここまでの一部始終を見ていた有栖派閥の皆はぽかーんと口を開いているか、唖然としている。料理冷めるぞ、はよ食え。って、皆大体食べ終わってた。食べ終わったタイミングを見計らって龍園が接触したっぽいな。

 

「なら良かった。……あ、追い返してよかったんだよな?」

 

 今更心配になってきたわ。何か龍園に言うことでもあったのだったら完全勝利じゃなく完全敗北になってしまう。恐る恐る有栖に聞いてみる。

 

「大丈夫ですよ、むしろ助かりました。しつこかったですから」

 

 にこ、と有栖は俺に微笑んでくる。うん、可愛い。ありがとうございます。そしてやっぱりあの男はしつこくつきまとっていたのか。堀北の時も鬱陶しそうだったからな。陰気臭いのはお前の髪の毛だけにしとけよ。

 

「ん。少し焦っていたから暴力を振るわれそうになっていたかと」

 

「私がそんなミスを犯すはずがないでしょう。少し予想外ではありましたが」

 

「予想外?」

 

()()で話しかけてくるとは思いませんでしたから」

 

 ああ、それは確かに。まあ龍園の性格を考えると、ただのちょっかいって訳じゃ無さそうだな。Aクラスの牽制、見定めってところか。外だと有栖が連れていけるメンバーにも限りがあるし、全体を把握したかったんだろうな。まあ、Aクラスには康平もいるけど。二極化されてますけど、情報量が足りないぞ龍園。

 

「なるほど。まあしかし、あれがCクラスのリーダーで確定か」

 

「リーダーというより暴君でしょうが」

 

 的確な例えですね有栖さん。まあ実際化け物スペックだし、逆らえるやつも居ないし暴君というのは本当に的確だ。……アレに勝てんのかなぁ、俺。アルベルトは確実にいける、あいつ喧嘩慣れしていないだろ。喧嘩慣れしてるやつはあんな遅い動きはしない、ただ力と耐久にステ全振りしてるだけの脳筋だなあれは。あ、伊吹さん? アルベルトさんの5倍くらいキツいです。何かあればいずれ有栖が雇うであろう神室さんに任せよう、そうしよう。

 

「いい呼び方だな。……これはまた、近いうちに会議か?」

 

「そうなりますね。明後日は空けておいて下さい」

 

「りょーかい」

 

 さりげなく放課後二人きりの予定確保。龍園ありがとな、有栖とまた二人きりになれるチャンスを作ったことには感謝してやるよ。それ以外に感謝する気全くねえけど。俺たちが二人で話していると、ふと気づいた。というより思い出した。

 

「というか、直樹。さっきからお前ら固まってるけどどうした?」

 

 肩をとんとんと叩いてみる。するとビクン、と身体が跳ねてハッとしたように辺りをぶんぶんと首を動かし見渡している。何してたんだお前ら……。そんな直樹の動きに皆意識を取り戻し、開いていた口をゆっくりと閉めた。

 

「へっ!? あ、あー、いや……なんか、途中から固まってた……」

 

「何でだよ……」

 

「いや、なんつーか、二人の雰囲気に付いていけないっつーか」

 

 俺と有栖を除く皆がうんうん、と頷く。え? 雰囲気? 特に何も意識していないんだけどな。まあいいか、別にひゅーひゅーと囃されてる訳でもないし。そういうことを言われるのも悪い気はしないし。

 

「別に普通だけど」

 

「嘘だってっ! なんか話しかけづれえしよー!」

 

「そーそー! 何かあるでしょ!」

 

 直樹の言葉を開戦の角笛に、皆が俺たちに──いや、基本俺だけに有栖との関係性についてグイグイ攻めてくる。何か救いはないんですか。有栖の方を見るが、くすくすと面白げに笑うだけで何もしてこない。ちょっと有栖さん、止めてくださいよ。

 

「お、落ち着けって。何も無いから、本当に何も無いから!」

 

「嘘だッ!」

 

 おい。

 

「私ずっと何かあると思ってたんだよね、いつもはぐらかすしさー。今日こそは聞かせてもらうからね黎耶くん!」

 

 駄目だ。止められない。勢いが強すぎるのと数が多すぎるので一人じゃ無理だって、数の暴力反対。何か、何か救いはないのか。助け舟は転がっていないのか!?

 

「確かに、坂柳さんと桐ヶ谷くんの関係性は興味深いね。私、気になりますっ!」

 

 おい、さっきからお前らネタを混ぜてんじゃねえ。半分面白がってるだろ。

 

「ぐっ、ちけえって……皆、離れろ…」

 

 この光景を傍から見る奴らは目を疑うだろう。何が起こっているか。椅子に一人座っている俺を、全方位から男女が取り囲んでいるのだ。しかもすごく近い。俺だって自身持ってリア充です!とか言いてえよ。だが言えねえんだよ。友人です、とか言ったって皆そうでしょで返されて終わり。ああもう、詰んでるんだよなぁ!?

 

 と、万事休すかと半ば諦めていたところで、食堂に甲高いチャイムの音が鳴り響いた。それを聞き逃す俺じゃなかった。

 

「おい、チャイムが鳴ったッ! 遅刻して減点されるか、俺と坂柳の関係性を聞くか、どちらか選べッッ!」

 

 叫んだ。とにかく叫んだ。叫声を放った。ありがとうチャイム、この恩は一週間くらい忘れないぜ。ふぅ、と大きく息を吐いた俺の周りは静まり返ったと思えば、皆一斉に舌打ちした。ちょっと? 君たち息揃いすぎじゃない?

 

「……次こそ聞かせてもらうからな、黎耶」

 

「覚悟しておいてよー!」

 

「私、気になりますっ!」

 

 最後、とりあえずお前は古典部に行ってこい。放課後に。朝は生徒会、昼休みは生徒会かこいつらに追求され、放課後は追求されるか有栖と二人きり。天国要素が有栖と二人きりしかない。そんな事を考えていれば有栖が大変でしたね、と微笑んできたので全くだ、と苦笑を返しておいた。皆は渋々と食器を片付けていった。今だけ二人きりになったのを確認して溜息を。

 

「少しは止めてくれよ、有栖」

 

「大切な友人、などと言ってしまえば更に騒ぎが大きくなりましたよ、黎耶くん」

 

「……はぁ。それもそうか、元から詰んでたな」

 

「そういうことです。さあ、教室に戻りましょうか。午後からも授業はありますから」

 

 有栖はくすっと悪戯げに笑っては俺の頬をつついた。

 昼休み、開幕生徒会室とかいうパンデモニウムに突撃して胃がキリキリ言うのを我慢して交渉を成立させ、電話がかかってきたと思えば食堂で緊急事態。駆けつけては龍園を煽り、アルベルトが召喚されれば急いで堀北会長を召喚返し。極めつけにはクラスメイトからの追及。俺の疲労は限界だった。

 

 が、今つつかれた有栖の指の感触がその全てを癒していく。あの笑顔が心を落ち着かせる。俺に安らぎと幸福を与える。

 

 ──嗚呼、全く。本当に単純だな、俺は。

 

 

 

 

 

 




三回目の坂柳さん回は次回の予定です(予定)
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