生き返ったと思えばAクラスに所属させられていた件について。   作:ジグ

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どーも、ジグです。
タグに独自解釈を付けさせて頂きました。坂柳さんの素性がほとんどわからない以上そういう点を入れないと話が作れないものでして。……中間テスト終わった後の2巻でAクラスが全く出てこない?ああ、聞きたくないです聞きたくないです(想像力よ来い)。あ、今回も坂柳回です。


9. そうして俺はまた、告白した。

 

 

 

 

 

 

恋という狂気こそは、まさにこよなき幸いのために神々から授けられる──プラトンより。

 

 

 

 

 

 

 

「コーヒーと紅茶を一つ」

 

 一つ声を投じた。前と同じ店に、前と同じ時間帯。放課後直行で有栖と先日訪れたカフェへと。相変わらずパレットの方に人が集中しすぎているせいか辺りには人一人いない。それでも潰れないのは単にこの高度育成高等学校の力だろう。既に席についている有栖の向かい側へと注文を終え、流れるがままに座る。

 

「ありがとうございます、黎耶くん」

 

 その有栖と言えば、午前中からずっとご機嫌だ。いや、いつも笑顔を浮かべにこにことしているのだが、それはあくまで仮面のようなもので、今浮かべているような輝くようなそれではない。まあどちらにしろ可愛いことに変わりは無いのだが。一体何があったんですかね。

 

「どういたしまして。水泳の時間からずっと機嫌良さそうだけど、何かあったか?」

 

「いえいえ、何もありませんよ」

 

 何も無いことはないでしょうに。水泳の時間とかあの後はただ隣に座って素直に見学しただけなのだが。ああでも、少しだけ座る位置が近かったような気がしないでもない。意識したら顔が赤くなるので気のせいだと言い聞かせていたけど。

 

「……そうですか。水泳の時間といえばだが、あれ、良かったのか?」

 

「あれ、とは?」

 

「水かけだ。幾ら監視カメラが無い、先生はタイムを計ってたとはいえ、減点の可能性はあったろ」

 

 まあ、やり返した俺が言える立場じゃないんですけどね。あの時は軽く確認しただけですし。まだ注文した飲み物は届かないので、手持ち無沙汰に机の上で腕を組む俺に坂柳は答える。

 

「水泳の時間、きっと減点はよほどのことがない限りありませんでしたよ」

 

「それはまた、なんでだ?」

 

「女子の着替えている間、男子は叫んでいました。それも一人二人ではなく、十数人。普通なら私語扱い、ですが先生の方を見ればカウントしている様子はありませんでした」

 

 ああ、確かに。直樹たちが叫んでいたが教師は気にする素振りなく、せいぜいうるさいぞー、くらいだった。いつも減点する際は必ず何かしら教師はカウントする素振りを見せる。茶柱先生や真嶋先生もそうなのだから、監視カメラに頼らずその場で減点行動をした際は必ずカウントしているのだろう。そのカウントが無かったということは水泳の時間での私語や多少の遊びくらいなら問題ないということか。無論確証は無いが。

 

「なるほどな。だが、減点の可能性はそれでもあっただろ」

 

「……減点されればされたで、私たちがやったとはバレません。何かにつけて葛城くんの側の人たちのせいにすればいいでしょう?」

 

 そう言って有栖はニヤリと不敵に笑う。黒いなぁ有栖さん。だが今の言葉でようやく納得した。皆タイムを測ったり、男子なら女子の身体を見るのに集中して見学しているこちらを見ることなどまず無い。それにその間は女子がタイムを測っていたしな。女子は計測中の女子に注目しているし、男子も同様だろう。不安が残るといえば康平だが、きっと戸塚たちや他の康平派閥男子が女子の水着姿に騒いでいるのを抑えるのに手一杯でこちらを見る暇など無かったはずだ。減点されたとしてそいつらに押し付ければいい。ほら、某邪神様も言っていたじゃないか。

 

 

 バレなきゃ犯罪じゃないんですよ、ってな。

 

 

 まあもっともな話、この後中間テストが待っているんでどちらにしろ目に見える減点は見つからないんですけどね。ただそれでも、増点が少なかった場合=少なからず減点があったという時に、康平派閥へと押し付ける材料に使うのだろう。減点の詳細を教えない学校のシステムを取った裏技だな。

 

「いつも通りの有栖で安心した。そこまで機嫌がいいと隕石でも降りそうだったからな」

 

「あら、落としても構いませんが?」

 

「冗談だって。あ、どうも」

 

 いつものように言葉を交わしていると注文していたコーヒーと紅茶が届けられた。店員さんは会釈するとその二つを机へと並べスマートに去っていった。どうしてこうカフェの店員って格好いいんですかね。ちょっとそういう技術教えてくれないかな。

 

「と、それで。今日の本題は?」

 

「そうでした。と言っても黎耶くんも薄々わかっているでしょう?」

 

「まあな」

 

 前も話していたし。それに直近でいえばあいつとの接触があったしな。話すことと言えばあれくらいだろう。俺と有栖は同時に微笑んだ後に、

 

「「各クラスをどうするか」」

 

 ふっ、と更なる笑みが零れる。有栖も同様に、くすっと笑うと手元に置かれた紅茶を目を細め一口。クラスの分裂が表面化し、現状これといった解決策がない以上、俺たちが目を向けるのは他クラスのことだろう。まあ大体情報は割れてるけど。

 

「この学校のシステム上、クラスポイントによってクラスの地位が上下しますからね。私たちが何処かを攻撃し弱体化させる必要は現状あまりありませんが、妨害されないように防衛する為に情報収集はしなければなりません」

 

「そうだな。とりあえず俺たちが今持っている情報の確認から始めるか」

 

 Dクラスだけでなく他の2クラスも上に上がり、就職先の約束などの特典目的にAクラスになろうとしている。が、俺たちAクラスにはこれ以上上はない。だからどこかに攻撃する必要性はあまり無い、が、無いだけで攻撃しない理由もない。各クラスを弱体化させAクラスのポジションを確たるものにするとか、な。

 

「一昨日接触してきたのはC組の龍園くん、でしたね」

 

「アレは相当頭がキレるらしいな、取り巻きがいたのを考えるともうクラスはあいつ一強になってるはずだ」

 

「ええ。ですが飛び抜けて優秀なのは彼だけでしょうね、無論情報収集は欠かせませんが」

 

 まあ、C組で脅威なのは龍園くらいだろう。他に優秀なのは、龍園に次いで総合的に高い能力を持つ伊吹だが、如何せん協調性がまるでない。物理的な力で考えるならアルベルトと石崎が挙がるが、基本アルベルトは龍園の命令でしか動かない。石崎は上手くいけば操れるが、わざわざあいつを使う理由もないな。知性で考えれば金田くんか。後はなんか強そうな椎名さん。まあ龍園が居なくても彼らで回るには回るだろうが、はっきり言って龍園無しじゃAクラスの敵じゃないな。

 

「一先ずC組は先送りだな。少なくとも最優先事項じゃない」

 

「そうなります。次にBクラスですが、黎耶くんは何かあのクラスについて情報はありますか?」

 

 Bクラスとかいう謎なクラスの話をしますか。一息にコーヒーを飲んでは覚えているBクラスの知識を集中させる。きっと有栖も大体の情報は集めているだろうが、念の為か。

 

「中心人物は一ノ瀬、次に神崎。あのクラスを一言で纏めるならチームワークに優れたクラス、ってとこだな」

 

「情報に相違は無いようですね。黎耶くんの言う通りあのクラスはとにかく仲間意識が強い、多少の損害を食らってもすぐに立て直すでしょう」

 

 個々の能力が飛び抜けて高い訳じゃないが、団結することにより高い力を発揮するクラスだ。つまるところ、硬い。が、あくまでそれはBクラス全員を敵に回した場合の話であり、個人個人を攻撃するのであれば防御力はそこまでじゃない。まあ勿論、攻撃する理由も現状無いのだが。

 

「Bクラスが今俺たちに妨害行為をしようとする兆しは見られない、あそこはどちらかと言えば堅実に徐々にクラスポイントを稼ぐ安定型のクラスか」

 

「ええ。そうなるとCクラスよりも優先度は下がります、最後にDクラスですか」

 

 Dクラス、光り物の集まり。協調性はまるでないが他の分野が飛び抜けてる財閥の男とか、同じく協調性がない生徒会長の妹とか、裏表が激しすぎる腹黒女子とか。あそこは誰を対策しようかなど考えるだけでもキリがないな。まあ、もっともあの中で一番の問題児は綾小路だが。確かこの時有栖は綾小路の存在を知らないんだったか。とすれば、教えなくてもいいか。あの後綾小路にご執心になるし、そんな有栖を見たくはない。

 

「中心人物は、平田だったか。成績優秀、運動神経も良いクラスのまとめ役、更にイケメンとかよく聞くが」

 

 ほんと、何なんだよあのスペック。爽やかイケメンはさっさと爆発してしまえ。平田の能力をペラペラ語ると同時に気分が悪くなる、それを誤魔化すようにコーヒーを一口。うん、苦いな。現実は苦いってか。そんな俺を見る有栖はいつもと変わらなかったが。

 

「女子だと軽井沢さんに、櫛田さんですね」

 

「ああ、もっとも軽井沢に目立った能力はないらしいな。カリスマ性があるんだろ」

 

「ええ。あのクラスは個性が強すぎますね。平田くんの力なら私たちのようにポイントシステムの裏にも気づけたでしょうが、彼1人気づけたとして全員に理解させるのは無理でしょう」

 

「そうだな。それにあのクラスにはまだ能力が優秀なやつが多そうだ。ある一分野だけずば抜けて優秀、とかそういうやつらが」

 

 あのクラスの面子は確かに不良品の塊と言われても仕方ない。が、あくまでそれは総合的に見た場合だ。例えば山内。あいつはよく自分を誇張するが、その誇張というのも社会に出れば大事なことだ。今は絶対嘘だろ、と思えるような誇張のし方だが、程よい誇張が出来ればそれは一種の仮面となり、他クラスとの交流でも有利に働くだろう。そう、磨けば確かに光る人材なのだ。須藤は無論、運動神経だけなら1年でレギュラー入りする程の実力を持っている。ようは彼らは特化型の集まりだ。出来ない部分が多すぎるが、出来る部分だけを考えればAクラスとも張り合える。そんなやつらの集まり。一度彼らの歯車が噛み合えば一番の脅威となるのはDクラスで間違いないだろう。

 

「……こう整理すると、一番厄介なのはDクラスですね」

 

「ああ。情報があまり割れないってことはつまり、不穏分子がその分潜んでいるかもしれないからな」

 

「まあ、厄介なだけであって今何かをするか、と言えばそれは違いますが」

 

 だろうな。現状何をするにしてもこれといった利益が少ない。確かに各クラスの情報収集は欠かせない、が、収集するだけであって何か行動を起こすメリットが無いのだ。下手に動いてクラスを危ない目にあわせる訳にはいかない。

 

「だな。まあまとめると、今警戒するのは龍園で」

 

「その間もDクラスの情報は随時集める、ということですね」

 

 結論は出た、と有栖は微笑み紅茶を優雅に微笑む。その表情はいつもとは違い、やはり機嫌が良い。

 

「そうだな。でも、このくらいなら有栖一人で何とかならなかったか?」

 

「いえいえ、集めた情報に毒が混ざっていては困りますから。一番信頼出来る黎耶くんと確認することにはしっかりと意味はありますよ」

 

 にこりと笑うその姿に相も変わらず見惚れてしまう。今放った言葉も合わさってきっと俺の顔は赤い。何回もこういうセリフは吐かれてるだろうに、そろそろ耐性付けろよ俺。熱くなった顔を抑えてなるほど、と頷く。

 

「はぁ、それにしても本当に機嫌が良いな、有栖」

 

 溜息を吐いて熱を引かせる。誤魔化すように別の話題へと変え、コーヒーを一口。こういう時はこの苦さが有り難い。

 

「そうですね。少し、良いことがあったので」

 

「今度は誤魔化さないんだな」

 

 さっきは何でもないと言ってたのにな、とコーヒーを飲んで冷えた顔でふっと笑う。良いことがあった、と言う有栖の顔は本当に楽しそうに、嬉しそうに綻んでいて。

 

「ええ。……黎耶くん、良いこととは、何だと思います?」

 

 そう言って有栖は顔を寄せる。その表情からは真意を読み取れない。何かに気づいて欲しそうな、だが気づくなと言うようにも歪んでいて。

 

「……さあな」

 

 だから、俺は誤魔化した。どちらを選んでもきっと駄目なんだ。今は、駄目だ。証拠はない、確信もない。が、何故かそう思えてしまった。だから、誤魔化すように俺は肩を竦めた。

 

「ふふっ、黎耶くんならそう言うと思ってました」

 

 正解だったようだ。俺の返答に、より一層喜びの感情を滲ませる有栖はやはり、いつもの坂柳 有栖ではなかった。攻撃的で残酷な性格としての坂柳 有栖ではなく。クラスを支配しようとする坂柳 有栖ではなく。いつも余裕を持ち冷静な坂柳 有栖ではなく。

 

「だから、でしょうか」

 

 坂柳 有栖は呟く。心の底から嬉しげに。だがそれがオレには歪んだものに見えてしまって。でも、そんな歪みが見えて喜ぶ俺がいて。なんなんだろうな、本当に。

 

「……いえ、何でもありません」

 

 嬉しげに綻んでいた表情はその一言によって消え失せた。まるで何かに縛られたかのように。自分を戒めるように。そうじゃないだろう、と自分を律するように。生まれた歪みを矯正するように。

 

「……そうか」

 

 それを止めはしない。それが坂柳 有栖という少女の在り方だと思うから。攻撃的で残酷な性格の坂柳 有栖を否定しない。クラスを支配しようとする坂柳 有栖を否定しない。いつも余裕を持つ坂柳 有栖を否定しない。

 有栖は元に戻ったかのように、いつもの微笑みを浮かべる。ああ、いつもの有栖だと。そう認識する俺がいた。

 

「ええ。忘れて下さい」

 

 だから。俺は不敵に笑って。

 

「断る。さっきの一言はしっかりと覚えておく」

 

 ただ純粋に微笑む、楽しげに笑う、嬉しそうに笑う、坂柳 有栖を否定することはない。戒められてなお表に出てきた坂柳 有栖なのだとしたら、否定する事なんて、俺には出来ない。出来るわけがない。だって、彼女も確かに坂柳 有栖という一人の少女なのだから。

 

「……ふふっ、黎耶くん。あなたは、本当に」

 

 有栖は何かを諦めたように、憑き物が一つ落ちたように。

 

「不思議な人です」

 

 落ちゆく太陽の光と重なり、目の前の坂柳 有栖という少女はただただ純粋に、満面の笑みを浮かべた。それは、確かにいつも見る坂柳 有栖で。だが、いつも見えない坂柳 有栖でもあって。色褪せぬ輝きを放つ彼女のそれは、確かに俺の脳裏に刻まれた。俺の心を昂らせた。心臓の鼓動を激しく鳴らせた。改めて、惚れさせられた。その一言には、確かに、俺への感謝が含まれていた。

 

「不思議、ね」

 

「ええ。私からすれば、それはとても」

 

「俺からすれば不思議じゃない。……俺は、ただ」

 

 この世界に転生する前は、これだ、と掲げる夢なんて無かった。ただただ平凡な日々を送り、優秀な人材として社会に出て、そこそこの年収を貰い、夢も何も無い平和な人生を送れれば良かった。飛び抜けて優秀でないが、優秀なことには変わりない。夢を持って日々を過ごせ、お前は優秀なんだから。うるせえ、黙れ、と。そんなことを言うのなら、じゃあ、あえてぱっとしない人生を送ってやるよ、と。それが、俺を評価した奴らに対する反抗と考えていた。だって、俺にはどうしても熱中出来るものが無かったのだから。何をしても上の中程度には出来たし、勉強も苦手な数学でも7割は取れる。何をしなくても何かが出来るし、難しいと言われるものもさほど難しく感じなかった。

 

「ただ、俺は」

 

 それを人に言えば自慢か? 嫌味か? と避けられた。違う、そうじゃない。何でも出来る奴はいいよな? ふざけろ。何でも出来るからこそ何も出来ないんだよ。夢を持てることなんて無かった。だって、きっとその夢も簡単に叶うから。

 だが、この世界は違った。俺より優秀な奴らなんて幾らでもいる。綾小路、龍園、有栖、康平、南雲、堀北会長。些細なきっかけで有栖と関わった。普通に見れば儚げな美少女と言うのに、俺より遥かに優秀だ。だからこそ、惚れた。その在り方に。その笑顔に。強者が強者である笑顔に。だが、それでも一人の少女ということを示すその笑顔に。いつか、隣にいたいと、そう願ってしまった。人生で初めて、夢と言える夢を、俺は抱いた。

 

 だから。

 

「馬鹿みたいに、坂柳 有栖が、好きなだけだ」

 

 簡単には叶わない夢。熱中出来るもの。きっとこの考えはひどく歪んでいる。純粋に有栖が好きだという気持ちと、一度も持てなかった夢を叶えるためという壊れた気持ちと。惚れるにはまだ有栖のことを何も知らない? ああそうだ、俺はまだ坂柳 有栖という少女の全貌を1割も知らないだろう。だが、惚れるとは。一目惚れとは、そんなもの関係無しに、やってきたのだ。自分でもおかしいと思える程に、惚れていたんだ。だから、それが有栖にとっては、不思議なんだろう。私のことをほとんど知らないのに、何故そこまで好きになっているのか、と。未だ落ちる太陽を横目で流しながら俺は、有栖を見つめた。

 

「私は壊れています」

 

「知っている」

 

 ああ、知っている。それくらいなら知っている。

 

「私は止まれません」

 

「知ってる」

 

 有栖の目的は俺にはわからない。原作にもまだ書いてはいなかった。だが、それはきっと、坂柳 有栖という少女の根幹に関係していることだけはわかる。その目的が坂柳 有栖を坂柳 有栖として在らせ、坂柳 有栖を歪めていることだけは。

 

「私は歪んでいます」

 

「わかってる」

 

 歪んでいるのは互いに一緒だ。

 そんなものは関係ない。

 

「……決意は固いようですね」

 

 有栖は諦めたように、だがそれでいて嬉しそうに顔を綻ばせた。きっと、その諦めはいつも見る坂柳 有栖のもので。きっと、その嬉しさは籠に篭る坂柳 有栖のもので。大きく溜息を吐き有栖はこちらを見つめる。

 

「譲れないものがあるからな」

 

「……ふふっ。黎耶くん、告白を何度もしていること、わかっていますか?」

 

 笑顔のまま有栖はにやっと問いかける。それは、いつもの坂柳有栖が放つ言葉。……と、いうか。今それを言いますか。強制的に自覚させられまたも赤く染まる頬を手で抑えながらも、今度は目を逸らさない。急襲する羞恥心を食い止めながらも、俺は言葉を紡ぐ。

 

「わかってるよ。有栖も告白と捉えてるんなら、そろそろ返事が欲しいんだが?」

 

 羞恥心を追い払うように、冗談げに聞き返す。答えは知ってる。わかっている。わかりきっている。

 

「そうですね。……では、保留ということで」

 

 わかっていた。その一言に安堵した。その返答はわかりきっていた。了承すればクラスのトップではいられなくなり、断れば俺が離れていく。まあ別に離れませんけどね。不敵に笑う有栖に、俺は瞠目して薄く口を開いた。

 

「だと思ってた」

 

「ふふっ」

 

「ははっ」

 

 この関係性が心地良い。

 この曖昧な距離が心地良い。

 手に届きそうで届かない。近くにいるのに遠く思える。だが、確かに触れられる。感じ取れる。この関係がひどく落ち着く。そんなことを考えていれば自然に笑みが零れた。馬鹿みたいだ、と。だが、嬉しい、と。

 

「ほんと、近づけないな」

 

「そう簡単に近づけると思っているんですか?」

 

「いいや。思ってるわけないだろ」

 

 はっ、と自虐するように肩をすくめる。本当に、遠いな。初めて抱いた夢とは、こんなに遠いものなのか、と。人生イージーモード? おいおい、ハードモードの間違いだろ。だが、それじゃなきゃ駄目なのだろう。簡単に届くものなら、それを好きとは、恋とは呼ばない。

 

「であれば、どうしますか?」

 

「決まってる」

 

 すっかり落ちてしまった太陽が、薄明るいオレンジ色を視界に移した。

 

「これからも距離を詰めるだけだ」

 

 にやりと首をやや傾けて、俺は有栖の瞳を捉えた。逃がさないと言うように。何がなんでも近づいてやると。そんな俺に応えるように、有栖もまた。

 

「なら、私は受け流しましょう」

 

 来るなら逸らす、と。挑発するように笑う有栖のその表情はいつも通り美しくて。儚くて。だが、確かに。少しずつ。その儚さを、掴めている。そう確信できるほどには、今の彼女のその姿は輝いていた。何かスっと抜け落ちたかのように、澄んでいた。そんな笑顔に、どうしようもなく、釘付けになってしまったんだ。消えゆく空の光と共に、俺は未だ輝く有栖の笑顔を眺めていた。




邪教を捨て、止まるんじゃねえぞ……(挨拶)(意味不明)

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