転移列島   作:NAO

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招かれざる降臨

 

【挿絵表示】

 

↑本日の表紙です。右が名取優美子、左が天草華子です。「お絵描きさん らてぃ様」に書いていただきました。

 

2023年6月1日【太陽系第5惑星 地表から283,000kmの最深部】

 

 太陽系で一番重力が集中する惑星の最深部は計測不能なほどの超重力が働いており、空間に堆積した超重力は空間にくぼみを生じさせていた。そこはある種の特異点と言えるだろう。

 

 その特異点から1,000年ぶりに「こちらの宇宙」を訪れた気紛(きまぐ)れな存在は、隣の第4惑星の異変に気が付いた。砂漠と荒野が果てしなく続く惑星が豊かな大気と水に覆われた姿に変貌(へんぼう)しているのを「視た」存在は第5惑星の特異点地面を軽く蹴るとその姿を掻き消した。

 

 気紛れな存在がその姿を掻き消した直後、特異点から2つの存在が「こちらの宇宙」へ飛び込んで来た。

 

「お姉ちゃん!あいつ、あっちにいった!」

元気で良く響く幼い声が姉の注意を引いた。

 

「へっ?どこですかぁ?」

おっとりした存在は過酷な超重力環境をものともせずに妹に問い返す。

 

「ゴル姉ちゃん、こっち!行くよ!」

「ライちん!待って!」

姉妹たる存在は慌ただしく重力の底を蹴ると特異点から姿を掻き消した。

 

-ーーーーー

2023年6月1日午前7時【火星と木星の中間地点 アステロイドベルト 日本列島オブジェクト建設現場 航空・宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦『ホワイトピース』ブリッジ】

 

「木星警戒衛星が第5惑星地表最深部付近で磁場の乱れを観測」

オペレーターが報告する。

 

 「スライム、これは?」

名取が艦長席のコンソールで伸びていたミニスライムに語りかけた。

 

 『お客さんが来て、去った・・・』

スライムの念動力通信がスピーカーに接続されてブリッジに声となって響く。

 

「お客さん?」

名取が首を傾げた。

「もう少し詳しく教えてもらえないか?」

 

『母なる星の奥深くにはこの世ならざる扉がある。たまにそこから来訪者が出てくる。そして去っていく。それだけ』

スライムがプルプルと体を震わせる。

 

「異常事態ではないと言う事でしょうか?」

『来訪者が観測される事自体極めてまれ・・・』

 

「チムニーの(おさ)と話せませんか?」

『長は・・・昼寝中・・・』

 

「そうですか・・・」

ため息をついた名取は実害が出ていない事を確認すると、この現象については火星日本への定時報告に載せる事にした。

 

『オブジェクト四国、地殻接合面完成。これより淡路島連絡部分を経て本州部分との接合作業に入ります』

建設プラント船団から報告が入る。

 

「了解した。こちら建設船団旗艦「ホワイトピース」名取です。これより四国オブジェクトの本州接合作業に入ります。九州、本州オブジェクト作業エリアの船舶と作業員は衝撃に注意!」

名取は木星地表の出来事を一時的に頭の片隅に追いやって、オブジェクト建設の陣頭指揮に思考を切り替えた。

 

『ミツル商事オブジェクト移送タグボートが四国オブジェクト外縁部に接触』

「本州オブジェクトへ接合!」

無数のツルハシ型アンドロイドが操縦するタグボートの群れが四国オブジェクトの高知側に取り付くとパルスエンジンを噴射させた。

 

 まるで蟻塚(ありづか)にたかる蟻の群れのようにタグボートが四国オブジェクトの基盤部から表層部に至るまで群がって本州オブジェクトに向けてエンジンを噴射していた。

 

「オブジェクト四国移動開始しました。これよりイスラエル軍管制に引き継ぎます」

『こちらイスラエル連邦国防軍(UNIDF)四国オブジェクト表層司令室。移動計測値は順調。ホンシュウに接合するルートにオンした』

日本列島オブジェクトを運用するイスラエル連邦国防軍のオペレーターから報告が入る。

 

「こちら『ホワイトピース』、以後の接合作業監督は貴国にお任せします」

『こちらオブジェクト シコク。貴国のすべての作業員に感謝と敬意を』

 

 漆黒(しっこく)の闇の中で巨大な岩塊(がんかい)がゆっくりとさらに巨大な岩塊へ向かって移動する。

もし、太陽に明るく照らされた側に居たならばさぞや圧巻な光景に違いない、と名取は思った。

 

 巨大な岩塊を見上げながら思索に(ふけ)る名取に通信オペレーターが報告する。

「大佐、哨戒中の空母『サラトガ』から追加報告!土星方面から大質量物体が接近中!」

『マルス支援船団リアです。プレアデスからの先遣隊が先ほど天王星付近のワームホールからアウトしました』

 

「土星方面から接近する複数の大質量物体を補足!各物体の直径20km!?」

思わずレーダー管制官が素っ頓狂(とんきょう)な声を挙げてしまう。

 

「落ち着け。今のマルス支援船団母艦でも2kmはあるのだ。上には上が居て当然ではないか」

名取が動揺するブリッジ要員を静かに(なだ)める。

 

「先遣隊が来たか・・・ということは-ーー」

『ええ。私たちも作業を急がなければなりません』

名取のつぶやきにリアが応える。

 

 建設船団の外縁部に位置していた『ホワイトピース』を覆い隠すかのように巨大なマルス基幹母艦の群れがゆっくりと接近していた。

「作戦の下準備が出来たということか・・・」

巨大な艦影にざわめくブリッジで名取は、一大反攻作戦の始まりを予感していた。

 

-ーーーーー

同時刻-ーー【火星衛星軌道上】

 

 第5惑星の特異点から(まばた)きするほどの時間で移動したその存在はしばらく地上をつぶさに観測していたが、とある生物を見つけると口許を(ゆが)めて悠々と降臨していった。

 間を置かずに同じ場所に現れた二つの存在は追いかけようと地上を俯瞰(ふかん)したが久しぶりの重力に姉が引っ張られてしまい、姉妹ともどもバランスを失って真っ逆さまに地上へ落下していった。

 

 衛星軌道上の宇宙基地『フォボス』『ダイモス』の警戒システムはそれぞれ僅かな質量の転移を観測したがすぐに質量物体が火星大気圏へと突入したために日常的に飛来する小惑星と結論付けて特に注意を払わなかった。

 

-ーーーーー

翌日【火星日本列島 東京都港区 白銀 神聖女子学院小等部】

 

「それではホームルームを始めます」

真知子先生が日直の瑠奈(ルナ)に号令を(うなが)す。

 

『起立』

『礼』

『いただきます!』

「ちょっと待ったーっ!そこ違うわよ!」

流れるように間違えようとした瑠奈(ルナ)に真知子先生がストップをかける。

 

「まだ4時間目ですよ!?」

地球英国(こっち)はもう日が暮れて夕食の時間帯っスよ!』

 

モニターの向こうに居る瑠奈が真知子先生の突っ込みに応える。

 

地球ブリテン島に居る瑠奈は星間通信でホームルームに参加していた。姉の(ムスビ)が整備した新しい通信網のおかげで欠席続きの瑠奈は久しぶりに``通学``していた。

 

「レジスタンスの厳しい状況も理解出来ますが、星間通信授業で朝から居眠りではないですか?」

真知子先生の追及は厳しい。

 

『さーせん・・・』

うなだれる瑠奈。

 

「・・・まったく。さて、今日は皆さんに新しいお友達と先生をご紹介します。二人とも、お入りなさい」

真知子先生がドアの向こう側へ声を掛けると金髪碧眼の実習生と転入生が教室に入ってくる。

 明るいブロンドの髪と白い肌、整った顔立ちにクラスの皆からため息が漏れる。

 

「自己紹介をどうぞ」

真知子先生が教壇の脇へ移動する。

 

「ごきげんよう」

「おいっス!」

二人が同時に話そうとする。

 

「ごほんっ!えっと・・・お姉さんからどうぞ」

真知子先生が教育実習生を指名する。

 

「ごきげんよう淑女の皆様。私は黄星(きぼし) 守美(もりみ)と申します。短い間になりますが、みなさんに宇宙の秩序を調教(テイム)できれば幸いですわ」

「「・・・」」

 

真知子先生を始めとして、クラスの全員が沈黙した。

 

「・・・では、貴女の番ですよ」

気を取り直した真知子先生が転入者に挨拶を促す。

 

「おいっスーー!黄星(きぼし) 輝美(てるみ)だぜっ!得意分野は封印術式の研究だぜっ!」

「「・・・・・・」」

 

またしても、真知子先生を始めとしたクラスの全員が沈黙した。

全員の心の中では、

『姉妹そろって電波かよ---!』

と激しい突っ込みが行われていた。

 

地球欧州のブリテン島アイルランドから星間通信でHR(ホームルーム)に出席していた瑠奈は、モニターの向こう側で理想的(瑠奈の個人的感想)なデビューを果たした姉妹を「自分のアイデンティティを脅かすヤバい奴」認定して終始沈黙するのだった。

 

-ーーーーー

同時刻-ーー【火星 シレーヌス海マリネリス海溝】

 

誕生して4年余りの幼い深海底に到達した気紛れな存在は、衛星軌道上で見つけたアレと対面していた。

 

「ふむふむ・・・なかなかに良い面構えだぞっ!と」

太陽からの光が届かない深海底にもかかわらず、その存在は眩しそうにアレを見上げる。

 

深海底でうごめく8匹の火星由来生物である巨大ワームはほのかに暖かい体温を感知すると自らの体内に吸引すべく一斉に襲い掛かる。

 

「活きの良さも極上だぞっ!と」

巨大な水圧がかかる深海底においてあり得ない身軽さで巨大ワームの攻撃を躱したその存在は両手を広げると眩いばかりの巨大な白光の渦を巨大ワームの群れに放った。

 

マリネリス海溝の一角が激しいスパークに包まれた。

スパークが収まった深海底にその存在は既に無く、ただ、8つの首を持つ巨大なワームがうごめいているだけだった。

 

 

【東京都千代田区 秋葉原 自衛隊特殊電子戦闘団 偽装訓練施設】

 

「このワーム強くて先に進めないですわ」

華子(はなこ)がガトリングガンを両手で重そうに持ち上げて乱射しながら岩陰に走り込むと、無線で背後の崖に潜む優美子(ゆみこ)へ援護を求める。

 

『普通のワームじゃないっしょ』

優美子が崖の上からワームを見下ろすと右肩に掛けたプラズマバズーカの照準を茶色いワームに合わせる。

 

「これが地球で猛威を奮っているサイボーグワーム・・・」

優美子は独り言を呟きながら慎重に急所を狙う。

 

「ターゲットロックオン!」

優美子が引き金を引くとプラズマバズーカから青白いプラズマ弾がブーンとわずかな(うな)りを上げて真っ直ぐにワームの顎下(あごした)へ突き刺さった。

 

サイボーグワームに突き刺さったプラズマ弾は固い殻をこじ開けるようにめり込むと激しいスパークが体内に走り、口から煙を噴き上げると地面に轟音を立てて(たお)れた。

 

「ふう。一発KOとはすごい威力っしょ」

額に浮かぶ汗を拭うと華子に呼びかける。

「華子、倒したっスよ?生きてる?」

 

「生きていますわ。それにしても、相変わらず優美子さんはお強いですわね」

砂埃に塗れた姿で岩陰から姿を現した天草華子が崖の上に居る三浦優美子へあきれたように言う。

 

「いやいや、ゲームの世界ですから」

バズーカを肩に背負うと右手をひらひらさせながら優美子が謙遜(けんそん)する。

 

二人はヘッドセットに「ステージ・ログアウト」と呟くと荒野だった風景が掻き消えて薄暗い室内ホールに変わった。手に持っていたガトリングガンやプラズマバズーカも掻き消える。

「華子!今日もハイスコアっスよ!」

優美子が華子とハイタッチを交わすとぺたんと床に座り込んだ。

 

「朝からずっと戦い続けたからお腹が減ったっしょ。イワシパイバーガー食べに行かない?」

「いいですわ。私も乾パンには飽きていたところですし」

 

訓練施設(ゲーセン)を出た二人は向かいにある大手ハンバーガーチェーン店に向かった。

 

「あの二人のゲームプレイは異常ね」

施設の最上階にある委員長室からブラインドを僅かに下げて二人を眺めた美衣子(ミーコ)琴乃羽(ことのは)に言った。

 

「・・・そうですね。戦果(スコア)だけで言うならばあの二人は習志野の陸自特殊作戦群よりも上です」

戦闘用迷彩服に着替えていた琴乃羽がタブレットに示されたプレイ結果を参照しながら答えた。

 

「そろそろ実戦経験が必要かしら・・・」

美衣子が顎に手をやりながら呟く。

 

「彼女たちを地球の戦場へ送り込むのですか!?」

琴乃羽が驚いて聞き返す。

 

「まさか。現実世界での彼女達の力は貧弱すぎるわ。彼女達の反射能力は電子の世界でこそ真価を発揮するのよ」

「うーん・・・それにしても・・・サポート役が要りませんかね?」

 

「なら任せたわ琴乃羽」

「えっ!?」

 

美衣子は琴乃羽を見上げるとワザと勇ましく軍人らしい敬礼をすると指令を下した。

「琴乃羽臨時少尉に天草華子臨時一等兵と三浦由美子臨時一等兵の指導を任せるわ」

 

「えーーー」

琴乃羽は抗議の声を上げる。

 

琴乃羽の抗議を受けた美衣子がふと独り言を漏らす。

「最近文科省が総務省と連携してBL専門サイトの摘発と閉鎖を検討していると聞いたのだけど・・・」

 

「ええっ!?マジですかっ!」

血相を変えて詰め寄る琴乃羽。

 

「大マジよ。ただ、溶解人類の治療法として一部に根強い反対意見があるようだけど・・・」

「当たり前ですっ!あれは・・・人類の宝なんですから!」

 

「だったらその治療法で溶液から帰還した貴女が、自らの実績で認めさせることね」

「分かりました。今の私には何でも出来る気がします。天草さんと名取さんの事、お任せください。私が一人前のプロゲーマーに鍛え上げますっ!」

琴乃羽が唾を飛ばしながら美衣子に詰め寄って申し出る。

 

「そう。期待しているわ。岩崎には私から文科省と総務省の件はストップするよう話しておくわ」

「ありがとうございます。それではこれから二人を鍛えてきます」

 

「構わないけど・・・まず、小学6年生の彼女達を自衛隊に入隊させないと駄目よ?」

「そこからっ!?」

早速 出だしから(つまづく)く琴乃羽だった。

 

 結局、その日は小学6年生をいかに自衛隊に勧誘するかという無理難題、むしろ無茶というべき蛮行を無難なものに変えるべく腐りきった頭をフル回転させた琴乃羽だったが妙案は出ず、憔悴(しょうすい)しきってタクシーを捕まえると、NEWイワフネハウスへの帰路についた。

 

 車中でも琴乃羽は電子回路の中での戦いに小学生を誘う方策に思いを巡らせていたが、連日連夜の作業で疲労困憊した琴乃羽は睡魔に襲われて抵抗することなく夢の世界へ旅立っていた。

 

同日夜11時-ーー【神奈川県横浜市神奈川区 神大寺バス停前】

 

「お客さん、着きましたよ?」

個人タクシー歴40年のベテラン運転手が後部座席に声を掛けたが返事が返ってこないため、振り向いて後部座席に視線を向けたが、そこには秋葉原から乗車してきた20代女性の姿は無く、ただ後部座席シートが一面薄く黄色がかった液体でじんわりと濡れているだけだった。

 

「うひゃっ!?」

ドライバー歴40年のベテラン運転手はモンスター乗客のあしらいには慣れていたが、超常現象(オカルト)には免疫が無かった。

 思わぬ事態に腰を抜かした運転手は助けを呼ぶべく運転席から車外へ転がり落ちた。

 

 

【挿絵表示】

 

↑琴乃羽美鶴博士です。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は11月25日日曜日に投稿予定です。

【このお話の登場人物】
名取=航空宇宙自衛隊強襲揚陸護衛艦「ホワイトピース」艦長。大佐。
リア=マルス文明プレアデスコロニー地球支援船団隊長。

大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結(ムスビ)の妹分。神聖女子学院小等部6年生。
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。瑠奈と結の姉ポジション。

琴乃羽(ことのは)美鶴(みつる)=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。
名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。
天草 華子(はなこ)=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。

澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。
黄星(きぼし) 守美(もりみ)=神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
黄星(きぼし) 輝美(てるみ)=神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
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