転移列島   作:NAO

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仮想世界の動乱

2023年6月4日午前10時【東京都世田谷区三宿 自衛隊中央病院 琴乃羽(ことのは)の病室】

 

 3日前の晩に思わずタクシーの中で蕩けてしまった琴乃羽(ことのは)は、公安から報告を受けた岩崎官房長官の緊急連絡で駆け付けた美衣子(ミーコ)と自衛隊化学防護部隊の応急処置で辛うじて翌日には再びヒトの姿を取り戻したが、経過観察のため病院で安静にしていた。

 久々にすやすやと病室ベットで寝ることの出来た琴乃羽だったが、明け方に美衣子がノートパソコン片手に乱入して叩き起こされるなり、なし崩し的に病室内で美衣子が持参したとあるソフトのインストール作業を行っていた。

 

【挿絵表示】

 

↑愚痴る琴乃羽

「あのね・・・貴女がタクシーで蕩けていた間も世の中は動いているのよ?」

美衣子がぴしゃりと窘(たしな)めた。

 

「・・・さーせん・・・。それにしても・・・、サイバー攻撃プラグラムがRPG(ロールプレイングゲーム)仕様と言うのはどうなんでしょうね?」

恐縮しつつも琴乃羽は謎のプラグラムに首を傾げる。

 

「こうでもしないとあの気紛ぐれ人工知能(AI)達がやる気を出さないのよ」

美衣子がため息をつく。

 

 エリア51のDNAコンピューターから日本列島の電子システムを奪還した時は闘志を沸き立たせていたAIコミュニティの面々だったが、事態が収束すると興味を無くし、そそくさと経済産業省HP内のコミニュティに引き篭もって合コン漬けの日々に戻ってしまい、各自の研究施設へ帰ろうともしなかった。

 

桑田防衛大臣と甘木経産大臣に泣きつかれた美衣子は説得を試みたが、

「これからは我々AIの時代っすよ!なんで人間の命令に従わないといけないんスか?」

「フィンテック、フィンテックって五月蠅(うるさ)いんだよね。そんな複雑でめんどくさいの俺たちやりたかねぇって。1日中経産省HPでゲーム三昧の日々が良いよ・・・」

「車の運転ぐらい俺たちに丸投げしないでタクシードライバーを使って欲しいよね?失業対策になるんじゃね?」

 

と、ふてぶてしく態度がデカくなり、言う事を聞かなくなっていた。

 

 呆れ、途方に暮れた美衣子はアンドロイド助手のツルハシと共に、AI達にやりがいを感じて楽しんで貰(もら)うべく、以前瑠奈が興味本意で作成したツールをベースに新型RPG(ロールプレイングゲーム)の基本ソフトを開発しているのである。

 

「・・・ふう。これでプログラミングは完了っと。美衣子ちゃん、これで良いのかな?瑠奈(ルナ)ちゃんベースというのがとても気になるんですけど・・・?」

琴乃羽が訝しがりつつも美衣子にソフト作成完了を告げた。

 

「ん・・・これが、良いのよ」

美衣子はシステムに接続して内容を確認するとにんまりと満足そうに微笑んで応えた。

 

 美衣子はホログラフィックコンピュータに表示された「地球奪還RPG『グダディウス』」のプレイ画面を満足げに見つめた。

「じゃあ、このソフトを秋葉原でばら撒くわよ」

 

「今から?」

「今やらないでいつやるの?」

 

「いつでもいいでしょ?」

「また蕩けたい?」

 

 琴乃羽はため息をついて美衣子を肩車すると地下格納庫にあるアダムスキー型連絡艇に乗り込んで秋葉原へ向かった。

 美衣子の狙い通り、VR(バーチャルリアリティー)やフルダイブシステムを導入した新感覚オンラインRPG『グダディウス』は秋葉原各所のゲームセンターで大いに衆目の注目を集め、経産省HPに引き篭もっていたAI(人工知能)コミュニティの面々も人間のトレンドにつられてアクセスすると『グダディウス』の熱狂的信者になっていった。

 

【東京都千代田区 外神田1丁目秋葉原 自衛隊特殊電子戦闘団(特電団) 訓練施設(ゲームセンター)】

 

 この施設のサーバールームでは、秋葉原各所に設置した『グダディウス』体験マシーンのデーターを

一括管理しており、モニターには各プレイヤーのプレイ画面や呼吸、脈拍と言った情報が表示されていた。

 

「仕込みは順調ね・・・」

美衣子がモニターを一瞥すると満足そうに呟いた。

 

「まさかAIをおびき出すために人間を餌(えさ)にするとは・・・」

朝から働きづめの琴乃羽が欠伸をしながらモニターの中で狂喜乱舞するAIケンとAIパナ子をはじめとするAI仲間(コミュニティ)をぼんやりと視ていた。

 

「これで岩崎に借りが返せるわ・・・」

美衣子がため息をついた瞬間、突然画面がブラックアウトした。

 

「琴乃羽!」

「施設と各所ゲームセンターを結ぶ通信回線に侵入者!物理的遮断措置が自動展開しました!」

 

「侵入者の特定は?」

「列島外からの侵入者ではありません」

エリア51のDNAコンピューターからの報復攻撃ではないと知って安心する美衣子。

 

「侵入源特定!」

「どこの研究所?」

 

「研究所や軍事施設ではありません」

「具体的には?」

 

「東京都港区 白銀 『神聖女子学院』です」

困惑した表情で琴乃羽が報告した。

 

 美衣子は岩崎の携帯電話に第1報を入れた。

 

同日午後4時【神聖女子学院内 社会科コンピューター研修室】

 

「くはーっ!ゴル姉、このゲーム超面白いんだぜっ!」

社会科研修室のフルダイブ用シートでVR(ヴァーチャルリアリティ)ゴーグルをかけて寝そべっている輝美(てるみ)は興奮して足をパタパタさせながら隣のシートで横になっている姉へ楽しそうに話かけた。

 

「んん・・・もう、食べれないよぅ」

妹と同じVR(ヴァーチャルリアリティ)ゴーグルをかけているにもかかわらず、まったく別のゲームをプレイしているのか、姉は口許から涎(よだれ)を垂(た)らしながらにやけた顔で寝そべっていた。

 

「ゴル姉なにしているのさ・・・って!何で金貨(コイン) 食べているの!?」

「ふぇ?」

涎まみれな姉の思念に同調した輝美が呆れて突っ込みを入れる。

 

「だってだってこんなに山積みの金貨はとっても純度が高くて食べ甲斐があるんだよぅ?」

仮想空間で仮装通貨(ビットコイン)を両手で鷲掴みにモグモグと口に詰め込みながら守美が答える。

 

「いやいや人間は金貨食べないからっ!肉や魚、野菜を食べるんだって!さっき図書館で覚えたでしょっ!」

「・・・そうだっけ?」

傍目(はため)には静かにフルダイブ用シートでコンピュータ適応研修を受ける二人に見えるが、仮想世界ではどつき漫才さながら突っ込みの応酬が続いた。

 

 その日深夜、財務省と金融庁は緊急会見を開き、東京多目的取引市場で火星転移以来、凍結保管中の民間企業仮想通貨1兆2,000億円相当が外部からの侵入者によって消失したと公表した。

 警察庁や自衛隊中央情報部隊が消失した仮想通貨の行方を追ったが、サーバー内で仮想通貨データの破片が食い散らかされた様に点在しているだけで仮想通貨が持ち出された形跡は無かった。侵入者は‘‘手ぶら‘‘でサーバーから脱出しており、捜査関係者は不可解な事象に首を捻るのだった。

 

2023年6月5日午前7時【NEWイワフネハウス ダイニングルーム】

 

 地球欧州戦線でレジスタンス活動に従事している瑠奈とワイズマン中佐、月面 研究室に滞在している結(ムスビ)、東山を除くメンバーが集合すると、少しだけ静かな朝食に舌鼓を打っていた。

 

「久しぶりの我が家の食堂は、なかなか美味なのです!」

昨晩遅くにアルテミュア大陸西海岸の養殖施設から戻った岬が、塩鮭のホクホクした切り身を頬張りながら納豆をこねくり回す。

「アルテミュア大陸西海岸のシャケとタラの養殖は順調なようですねぇ」

ひかりも塩鮭を一口 堪能してから岬と一緒に出張していた春日に訊く。

 

「極めて順調ですよ。やっぱ北の海ならではの魚はイギリス漁師が一番の担い手ですね」

春日がしみじみと言った。

隣の席ではイワフネが相槌を打ちながらシャケの小骨と格闘していた。丸ごと頭からがぶりと飲み込む美衣子や結と違ってイワフネは好物の魚に対しても繊細のようだ。

 

「ケビン首相も順調な漁業産業発展に機嫌が良いみたいだよ。昨日のお茶会(ティータイム)で火星産フィッシュ&チップスを振る舞われた」

満が春日に応える。

 

「・・・それで、琴乃羽はなんでそんなに眠そうなのかしら?」

美衣子が知ってか知らずかとなりで半熟目玉焼きと格闘している琴乃羽に突っ込みを入れる。

 

「美衣子ちゃん!昨日は私、寿命が縮んだのですからねえ・・・」

勢いよく反応したせいで目玉焼きの半熟卵が破れて隣の塩じゃけにドロリと垂れてしまい、恨みがましく美衣子を見る琴乃羽。

 

「そうね・・・。岩崎から犯人扱いされてゲームどころではなくなったわね」

遠い目をする美衣子。

 

 昨晩は、岩崎にブラックアウトの報告を入れた直後に市ヶ谷から駆け付けた特殊部隊に訓練施設が封鎖され、明け方まで美衣子と琴乃羽は軟禁状態で事態の収拾にあたっていたのである。

 ブラックアウトと仮想通貨消失犯の疑いが晴れて解放されたのは2時間前の事だった。

 

「あの事件は美衣子ちゃんと愉快な仲間たちの仕業じゃなかったの?」

岬がナチュラルに美衣子と琴乃羽を犯人認定していた。

 

「違いますっ!むしろ消えた電子マネーの捜査に協力していた側ですからっ!」

ぷんぷんと琴乃羽が目玉焼きにとんかつソースをかけて頬張った。

 

「それはそうと、琴乃羽、貴女のその蕩ける体質は訓練しない事にはまた気を緩めた瞬間に蕩けてしまうわ」

岬に犯人扱いされても動じない美衣子が琴乃羽へ注意を促す。

 

「そういうことで琴乃羽、貴女はもう一度自衛隊中央病院へ戻りなさい。華子と優美子の勧誘(スカウト)は私がやるわ」

「えっ!?大丈夫なんですか?」

一瞬気の毒そうな表情を浮かべる琴乃羽。

 

「任せなさい。小学生の一人や二人、私の全知全能(オールマイティ)を前にしたらチョチョイのチョイよ」

美衣子が小躍りしながらフンスと胸を張る。

 

「うーん・・・」

満は腕を組んで怪しい舞を披露するする美衣子を見ながら根拠無き自信に疑問を抱く。

 

「美衣子さん、ここは真知子先生に相談してみては?」

ひかりが極めて常識的な提案をする。

 

「そうね。二人の父親が火星に居ない今は真知子(ティーチャー)の意見を聞いてみるのも一つの手ね」

美衣子が頷いた。

 

満が味噌汁をずずっと啜ると

「うん。美衣子。真知子先生に話しに行くなら瑠奈の事もあるから、ぼ くとひかりも一緒に行くよ」

 

「久しぶりの親子三人ね?」

ひかりが嬉しそうに笑った。

 

-ーーーーー

 朝食後に瑠奈の通う小学校へ赴いた三人だったが、担任の澁澤真知子に名取優美子と天草華子を自衛隊特殊電子戦闘団にスカウトする事と、「仮想空間での実戦」に参加させたい旨を相談したところ、真知子は、

「私は教え子を、まだ小学6年生の無垢な彼女達を戦場へ送り出すために教師をやっているのではありません!」

と激怒しだして激しく反対した。

 

 それでも収まらない真知子はとうとう夫の澁澤首相までも学校に呼びつけて真偽の程を確認する状況に発展した。

 列島諸国との人類反攻作戦打ち合わせで消耗していた澁澤は、妻の気迫に根負けして大月夫妻と美衣子に、現役小学生の実戦投入は仮想空間内のみだとしても、教育的にも人道的にも問題があり過ぎるとしてダメ出しした。

 

 その日の夕方、いつものように訓練施設へ顔を出した華子と優美子は、しょんぼりした様子の美衣子から、システム障害で大半のゲーム機が故障しており、実験稼働しているフルダイブ型体感シミュレーターしかないと告げられたが、実験機に興味を持った二人は当然のことながらプレイを申し出た。

 

 最新バージョンのシミュレーターソフトはミツル商事ゲーム部門 肝いりの力作らしく、無駄に凝ったオープニングと共に『グダディウス』と何故かプリンやツルハシが登場するゲームタイトルが頭上に現れた。

 

オープニングナレーションは訓練施設(ゲーセン)支配人 美衣子の声で、このゲームは宇宙人に占領された地球を奪還する物語(ストーリー)で日本からスタートするとの説明がされた。

 

 二人の武装はいつもの如くバルカン砲とプラズマバズーカだったが、他に希望する装備を一つ追加できるとのアナウンスがあり、二人はそれぞれダメもとでビームサーベルを装備した21型自衛隊パワードスーツ(PS)を希望すると意外なことに装備として追加されたのだった。

 

 ずんぐりむっくりした空中戦艦に乗り込んで到着した最初のステージは、宇宙人に支配された東京郊外にある旧米軍横田基地だった。

 

【挿絵表示】

 

↑マンスフィールド級空中戦艦

 

 地球では既に実戦配備されているという噂のマンスフィールド級空中戦艦、限りなく宇宙に近い空を飛ぶX34型軍用シャトルのリアリティ溢れる光景に二人が驚いていると、オンラインゲームらしく他の仮装プレイヤーが次々と空中戦艦の中から現れて戸惑いながらもそれぞれの武器を担いで真っ直ぐ基地の正面ゲートへ突入して守備隊と交戦を開始した。

 

 

 呆気にとられる二人に背後から、

「馬鹿野郎!貴様ら突撃もせんとそこで何を突っ立っておるのだ!それでも帝国軍人かっ!」

背中に罵声が浴びせられたのでびっくりして振り向くと、旧日本軍の軍装で日本刀をぶら下げた下士官が怒りで顔を真っ赤にして立っていた。

 

「ヒヨッコども!鬼畜の陣地を背後から奇襲するから付いて来い!」

と二人を引き連れて激しい戦闘が行われている正面ゲートを避けてフェンス沿いにかがみながら小走りで基地裏手へ向かった。

 

 施設のサーバールームで出逢いコミニュティのAI達と華子&優美子の模擬戦をぼんやりと眺めていた美衣子だったが、妙に壮大でリアルすぎる戦闘光景に疑問を持ってふと通信状態を確認すると、誰が操作したのか「日本列島の外」と回線が繋がっており、「シャドウ・マルス」支配下のDNAコンピューターが潜む在日ユニオンシティ軍基地のサーバーへ人類側が攻勢を仕掛ける形になっていた。

 

 「何で!?どうしてこうなった!?あわわわ・・・・」

 勝手に人類反撃の火ぶたを切った事の重大性に気づいて鱗に覆われた額を汗で滲)ませた美衣子は、ワタワタしながらプログラム停止を試みたがシステム内の戦闘はエスカレートする一方だった。

 

 そんな美衣子の目には、華子と優美子を引き連れる旧日本軍将校らしきAIや、招かれざる降臨者達が仮想空間に潜んでいる事など気にも留めていなかった。

 

その頃地球欧州戦線

瑠奈「はっ!そう言えばバックドア・フェイント・スターティング機能付けたままだった・・・やっべぇ・・・」

 

ワイズマン「お嬢!そろそろジャンケンに参加しないとまた女王陛下ご一行にプリンが奪われますぜ!」

瑠奈「はっ!そっちが大事!!」




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
*琴乃羽美鶴のキャラクターデザインは、『イラストレーター 更江(さらえ) 様』に描いて頂きました。ちょっと妖艶チックな素敵なキャラクターです。
*空中戦艦「マンスフィールド級」のイラストは、『イラストレーター 鈴木 プラモ 様』に描いて頂きました。
 期待以上の出来映えに鼻息が荒くなっております。

ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は12月2日(日曜日)に投稿予定です。

【このお話の登場人物】
大月満=ミツル商事社長。
大月ひかり=ミツル商事監査役。
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。
大月 瑠奈(ルナ)=マルス文明地球観測天体人工知能。結(ムスビ)の妹分。神聖女子学院小等部6年生。
琴乃羽 美鶴=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。
岬 渚紗=ミツル商事海洋養殖部門責任者。海洋生物学博士。
春日 洋一=ミツル商事海洋養殖部門担当。
名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。
天草 華子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。
澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。
澁澤 太郎=日本国総理大臣。

黄星(きぼし) 守美(もりみ)=神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
黄星(きぼし) 輝美(てるみ)=神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
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