2023年6月5日午後4時30分【東京都港区外 白銀 神聖女子学院内】
その日、最終 戸締り 担当だった澁澤 真知子は永田町の岩崎からかかってきた電話の対応に追われていた。
「この学校のどこに埋蔵金を隠すところがあるのでしょうか?」
学院内の職員室はもとより各教室や部室、礼拝堂、理科室、保健室、家庭科室を見て回ったが普段と同じ様子で怪しい電子サーバーや設備が置かれている事は無かった。
「後はここだけですね・・・」
最新鋭のパソコンが置かれている社会科研修室の扉に手を掛けようとすると、照明が落ちている室内にもかかわらず、女性の笑い声が聴こえてきた。
「きゃはは!ゴル姉、違うって。機関銃はこうやってばばばーっと撃つんですっ!」
「あわわわ・・・えいっ!」
「げっ!どこ狙っているのさっ!これじゃ同士撃ちじゃんかよっ!」
「ごめんなさい、ライちん。当たっちゃったねっ!てへぺろっ」
何故か中から黄星姉妹の声がするので真知子は声を掛けてから室内に入ろうとする。
「あなた達!こんなところで何を騒いでいるんですか!」
室内に足を踏み入れた瞬間に眩暈を覚えた真知子はそのまま意識を失って床に倒れた。
「ありゃりゃ?ニンゲンの先生じゃんかよっ!ゴル姉どうすんのさっ!」
「取りあえず身体は大丈夫そうだから意識だけ私たちと一緒に持っていきましょう」
室内には淡く光る小さな生物が2体浮かんでいたが、フラッシュを焚いたかのように瞬くと姿を消した。
再び静けさを取り戻した室内の片隅から恐る恐る姿を現した光球がふよふよとパソコンの画面に近づくと吸い込まれるように画面の中へ姿を消した。
今度こそ静かになった社会科研修室へ、永田町から緊急指示を受けた公安と警視庁のSWAT(スワット)部隊がヘリを使って10分後に突入した。
室内に荒らされた形跡は無く、突入した彼らは床に倒れていた澁澤真知子を発見、収容すると直ぐに世田谷の自衛隊中央病院へ向かった。
この直後に澁澤総理大臣は岩崎官房長官から、真知子と教え子2人に起きた異変についての報告を受けることになる。
同日午後8時【東京都千代田区外神田1丁目 自衛隊特殊電子戦闘団 訓練施設内】
訓練施設の入り口は「準備中」の札が朝からかけられたままで施設を警備している自衛隊特殊部隊隊員の姿しか見当たらない。
広々としたプレイルームの片隅に新型シミレーション体験マシーンが据え置かれており、そこにはVR(ヴァーチャルリアリティ)ゴーグルを掛けた天草華子と名取優美子が静かに横たわっていた。
すぐ傍で自衛隊中央病院の職員が脈拍や脳波を計測し、不測の事態に備えるべく待機していた。
「なぜ彼女達を出してやらないのですか!」
市ヶ谷から派遣されていた自衛隊化学防護部隊の指揮官が美衣子(ミーコ)を問い詰める。
「出せないのよ」
美衣子(ミーコ)が端的に答えた。
「どうしてこうなったのか見当もつかないわ。先ほど世田谷に運ばれた真知子と同じで、彼女達自身の脳が電子通信回線の奥深くから戻って来ないのよ。このまま強制的に肉体だけをフルダイブシステムから隔離したら植物人間が誕生してしまうわ」
美衣子が警告した。
「こちらの呼びかけに応じてくれた日本中のAI達が一緒に参戦している。無事に帰還する確率は決して低くないわ」
美衣子がゲーム内の戦闘が映されているモニターを祈るように眺めて言った。
同時刻【仮想空間内 旧米軍横田基地 第5ゲート付近】
正面第1ゲートでの攻防戦が激しさを増している中、反対側の入り口である第5ゲートを見渡す茂みに華子達と日本軍軍曹が潜んでいた。
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「よし。やつらの兵力の大部分が第5ゲートへ応援に回ったようだ。3つ数えたら突撃だ!」
軍曹がいつの間にか取り出した竹槍を握りしめながら背後にいる華子と優美子へ小声で指示をする。
「えっと・・・」
近代兵器で武装した的に竹槍で突撃するという愚挙を目の当たりにした優美子は一瞬突っ込みを入れようか迷ったが、意を決して
「お・・・おじさん?マジでその竹槍で行くの?」
と恐る恐る突っ込みを入れた。
軍曹はぎろりと目を剥いて優美子を睨み付ける。
「貴様、私はまだ22だ!それと、この竹槍は桑田家に伝わる由緒ある一品なのだ。侮辱は許さん!」
「「ひっ!ごめんなさい!ごめんなさい!お兄さん許してください!」」
茂みに潜みながら小声で必死に謝る優美子と華子に毒気を抜かれたのか、軍曹はわずかに表情を緩めた。
「この「突撃」が成功したら大學に戻るつもりだがな」
とボソッと二人に呟いた。
「は~。お兄さん学生さんだったのですか・・・ちなみにどこの大学?防衛大学?」
「防衛大?知らんな。私は栄えある帝国陸軍中野学校 電探科(でんたんか)の学生だ」
優美子が振った世間話に軍曹が軽く答えたのだが微妙に噛み合わない不可思議な答えに華子は絶句する。
華子が戦時中(WWⅡ)からタイムスリップしてきたかのような軍曹から更に話を聴こうと思った瞬間、茂みの奥からズシンズシンと鈍い地響きが三人に近づいてきた。
「停めて~っ!誰かぁぁぁ!」
直径5m、全長25mはある巨大な丸太に、モンペを履いたおかっぱ頭の少女が、丸太に飾り付けられていた太いしめ縄にしがみ付いていた。
「「・・・え~っと?」」
竹槍と旧日本軍兵士に続いて現れた不可思議な代物に華子と優美子は突っ込みも忘れて巨大丸太の針路を空けた。
「お願い~っ止めてよう!華子~優美子~っ」
おかっぱ頭の少女が二人の名前を呼ぶ。
「「誰っ!?」」
思わず顔を見合わせる華子と優美子。
「私だよ~私ぃ~華ちゃん~優美っち~」
鼻水混じりの泣き顔がオレだオレだと呼びかける。
「「・・・通報しました」」
「ぎゃ~っ!お前らっ!覚えてろよ~呪ってやる~!」
そのまま丸太は唖然とした三人の傍を通り過ぎると茂みから飛び出して、真っ直ぐ第5ゲート正面に躍り出ると、ゲート前に展開していたブラッドレ-装甲戦闘車の隊列に正面から衝突した。
巨大丸太の勢いは凄まじく、装甲戦闘車の展開陣形を突き崩すかのようにずずいと押しのけて第5ゲートの守備態勢に大穴を開ける形で止まった。
おかっぱ頭の少女は衝突の衝撃でどこかへ飛ばされたのか、丸太の上にその姿は無い。
ゲートを守備していた歩兵部隊が慌てて丸太をどかそうと群がった瞬間、軍曹が
「突撃ぃー!」
と叫び声を挙げると竹槍を腰だめに構えてゲートへ向かって真っ直ぐに突撃した。
華子と優美子は雄たけびを挙げはしなかったが、軍曹に負けじと武器を構えて軍曹の背中を追うのだった。
巨大な丸太をどかそうとしていた守備隊の兵士達は、茂みから突然飛び出してきた三人に向けて自動小銃を構えようとしたが軍曹の竹槍がそれよりも早く防弾ジャケットの上から兵士の体を貫き、小銃をはじき飛ばす。すぐ後ろに続いていた少女達は丸太の上によじ登ると眼下の兵士達へバルカン砲を乱射してけん制する。腹這いの姿勢をとった優美子がプラズマバズーカの砲弾を装甲戦闘車に命中させて爆発させた。
混乱する守備兵の中を三人は素早く走り抜けてゲート守備隊を突破した。
「はぁ・・・はぁ、意外と楽勝だったっしょ!」
ゲート近くにある巨大な格納庫の片隅に潜り込むと緊張が解けたかのようにため息をつく優美子。
「うへぇ・・・あの丸太が無かったらきっとゲートを突破出来ませんでしたの・・・」
優美子の隣で床にへたり込む華子。
「お前ら、ちっこい身なりの割に根性据わっておるな!」
軍曹が周囲を警戒しながら二人を褒めた。
「竹槍一つで重武装の兵隊さんに挑む軍曹殿には敵いませんわ」
華子が応える。
「この後の目標は?」
優美子が訊く。
「司令部だ。いかに巨大な基地と言えども頭を抑えられたらひとたまりもないからな」
物陰に身を潜め、返り血に濡れた前面を華子達へ向けて振り返ることなく、懐から地図を取り出しながら軍曹が答えた。
華子と優美子は戦闘の高揚感が収まらないのか、未だに身体の所々に付いた血の匂いに気がついていない。二人が落ち着きを取り戻すまでしばらく時間がかかりそうだった。
【仮想空間内 旧米軍横田基地第1ゲート付近】
正面ゲートには日本中から集まったAI戦士たちがそれぞれの得物を手に守備隊へ突撃をしていた。
「ケンさん!次はあちらの銃座を」
パナ子がゲート守備隊を火力支援する機銃陣地を指さす。
「了解!パナ子さん」
ケンが大きなスコープのついた大型対戦車ライフルを構えて照準を定める。
「ふっ!」
ケンが引き金を引くと対戦車ライフルが火を噴いてゲート脇の機銃陣地に強力な銃弾が放たれた。
一瞬の後、機銃陣地が巨大な爆炎に包まれる。
「今じゃ!者共かかれー!」
国立民族学博物館の古参AIが、戦国武将の鎧装束で騎馬に乗ってゲートへ突進する。彼に続いた多くのAIも各々の得意分野である掃除機や注射針、ハンドルを片手に雄たけびを挙げながらゲートを押し通ろうと殺到する。
その光景を双眼鏡で注意深く視ながらケンがパナ子に確認する。
「本当にこの攻撃部隊の中に美衣子(ミーコ)神様の関係者が居るのかい?」
「ええ。小学6年生の女の子2人と女性教師1名で間違いないわ」
パナ子が答えた。
「例のエイリアンコンピュータが仕掛けたのか?」
「分からないわ。この戦い自体もっと準備に時間をかけた後に始まる筈だったから」
「奴らの戦力は強大だ。仮想空間の中とは言え、やられたら無傷じゃ済まないな」
「ええ。最低でもPTSD(トラウマ)になるわね」
「急いでこの基地を攻略して彼女達を探し出そう!」
起き上がって対戦車ライフルを肩に担いだケンは、パナ子と共に仲間が破壊して押し通ったゲートを走り抜けると基地内に進入した味方の援護を続けた。
同時刻【仮想空間内 JR八高線(はちこうせん) 車内 】
久しぶりに通勤電車で眠りこけていた真知子は隣に座る同僚に身体を揺すられて目を覚ます。
「・・・あれ?」
「あれれじゃないですよ~先生。もうすぐ突きますよ?」
自分が指導していた教育実習生の黄星守美が真知子の顔を覗き込むように呆れた表情で見つめていた。
「それにしても、久しぶりの通勤電車ですね・・・。通勤電車?」
真知子は何か大切な事を思いだそうとしている自分に戸惑(とまど)う。
「いつまでも寝ぼけていないでくださいよぅ。本当にもうすぐ突くんですから~」
「つく?突く?何を言っているのですか貴女は・・・」
守美に突っ込みを入れる前に電車が大きく揺れて真知子は座席から投げ出されそうになる。
ガタンゴトンと車両が激しく振動しだすと二人は座席脇の手すりに摑まって揺れに耐える。
振動は激しさを増していた。
「先生~ほら「突きます」よっ!」
次の瞬間、米軍横田基地に隣接した線路を走っていた車両が脱線してフェンスをなぎ倒しながら基地内に侵入した。
【同空間内 横田基地司令部】
フェンス沿いに設置されたモニターの映した映像が司令部のメインスクリーンに投影されていた。
横倒しになった八高線がフェンスを突き破って基地内深くへ侵入して滑走路沿いにある格納庫の一つに激突して止まっていた。
「まったく・・・今日は来客が多い日ね」
面倒くさそうに、それでいてどこか楽しそうな口調で与呼島(よこしま) 舞(まい)が呟(つぶや)いた。
「追手の妹達と、人間に、得体のしれない魂二つ・・・人間の電子世界は面白いわねぇ」
与呼島の口許がニヤリと歪んだ。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は11月4日(日曜日)に投稿予定です。
【このお話の登場人物】
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生命環境保護人工知能。大月家三姉妹の姉的ポジション。
天草 華子(はなこ)=瑠奈(ルナ)のクラスメイト。神聖女子学院初等部6年生。父親はJAXA理事長の天草士郎。
名取 優美子(ゆみこ)=瑠奈(ルナ)のクラスメイト。神聖女子学院初等部6年生。父親は航空宇宙自衛隊 強襲揚陸護衛艦「ホワイトピース」艦長の名取大佐。
澁澤 真知子(まちこ)=瑠奈(ルナ)のクラス担任。神聖女子学院教員。夫は澁澤総理大臣。
ケン=公益財団法人 理化学研究所(理研)人工知能。美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでパナ子とゴールインした。天体観測を生かした遠距離射撃が得意。
パナ子=民間企業 パナソニック総合研究所人工知能。美衣子達三姉妹がセッティングしたお見合いでケンとゴールインした。多数の目標識別解析が得意。
黄星(きほし) 守美(もりみ)=神聖女子学院に教育実習生として派遣された。輝美の姉的ポジション。
黄星(きほし) 輝美(てるみ)=神聖女子学院初等部6年生に転入。華子、優美子、瑠奈のクラスメイト。守美の妹的ポジション。
与呼島(よこしま) 舞(まい)=黄星姉妹の姉的ポジション。逃亡者。