2023年6月7日午前6時【仮想空間内 東京都福生市 在日米軍横田基地内】
上空から降下するターミネイター兵の数はますます増加の一途をたどっていた。
守美と輝美は矢継ぎ早に空へ矢弾を撃ち込むが焼け石に水の状態だった。
「ほらほら、せんせ~はやく!はやく!」
「どんどん敵が降りてきてるんだぞっ!」
「ええっ!?」
黄星姉妹に急かされた真知子先生はワタワタする。
真知子の右手がチカッと光ると1本の万年筆が現れた。
「って、ペン!?」
唖然とする輝美。
「ペンは剣よりも強し、でしたか~」
困ったような顔の守美だったが、一番困った顔をしていたのは真知子先生だった。
「こんなペンでどうしろと・・・」
途方に暮れる真知子。
「なんでもいいからっ!取りあえず、それで戦うんだぞっ!」
輝美の無慈悲な言葉に、
「えいっ!」
真知子が意を決して懐から取り出した手帳に何かをしたためる。
「これよっ!」
真知子の手帳には『邪気退散』と書かれていた。
「「それで?」」
黄星姉妹の冷静且つ無慈悲な突っ込みが突き刺さり、痛々しい顔をする真知子。
真知子は恥辱にプルプルと肩を震わせて俯いていたが突然、手帳に書きこんだ部分を破り取ると、
「くわーっ!!」
とすぐ近くに降下したターミネイター兵を見つけるなり駆け寄って体当たりすると「邪気退散」の紙を兵士の胴体に押し当てた。
胴体に紙を押し当てられたターミネイター兵は急に糸が切れたようにカクンと地面に倒れて動かなくなってしまった。
呆然とする真知子先生に輝美が飛びついてきて、
「真知子先生すごいぞっ!」
と褒めそやした。
「さしずめ真知子先生の能力は「退魔士」といったところでしょうか」
守美が真知子の能力を評価する。
「あの万年筆で書くと、書いた内容が具現化する、みたいですね~」
真知子は
「私にこんな能力があったなんて・・・」
と自分の両手と、万年筆をしげしげと見つめるのだった。
「先生っ!じゃんじゃんバリバリいろいろ試すのだぞっ!」
輝美がターミネイター兵を真知子の近くまでワザと誘導し始める。
「ええ~っ!それは多すぎっ!」
悲鳴を上げる真知子。
「大丈夫大丈夫。さっきの感じでどんどん戦えそうな言葉を書いていくのだぞっ!」
輝美が助言する。
「・・・まったく、もう。では・・・『落雷』『隕石』『蟻地獄』っ!」
真知子は手帳にさらさら書き連ねる、とべりっと破って押し寄せるターミネイター軍団に紙を投げつけ、守美が風を巻き起こしてヒラヒラと紙を飛ばす。
一瞬ののち、ターミネイター軍団の集結地点には青空にもかかわらず、幾筋もの雷が落ち、空高くから赤く燃えた隕石が火山弾のように降り注ぎ、逃げ出そうとした兵士の足元にぽっかりと巨大な底なし穴が開くと生き残った兵士を生き埋めにして元の地面に戻った。
「・・・すんげ~っ!だぞっ!」
輝美が目を輝かせて大喜びする。
「ライちん。私たちも負けられないですね~」
守美と輝美が小さく何かを唱えると身体が白く眩く輝いた。
光が収まると、そこには背中に4枚の羽根を持った2柱の妖精の様な存在が佇んでいた。
背格好は以前のままだが、神々しい雰囲気が漂う。
「はっ!貴女達様は、神の御使いであらせれますか!?」
我に返った真知子が地面に膝を付くと胸元のロザリオを取り出して握りしめる。
「いやいや、違うんだぞっ・・・これはだな・・・」
恥ずかし気に照れる輝美の言葉を引き継ぐように、
「これが私たちオプティコスホライ世界の守護者の正体です~」
守美が聞き慣れない世界の名前を口にする。
「オプティコ?・・・とはどこの国でしょうか?」
真知子が問いかける。
「うーん・・・今はまず、目の前の危機を何とかしませんと~」
守美がはぐらかすように両手を頭上に掲げると、
「灰ハイっ!」
両手をさっと前方のターミネイター軍団の防衛陣地に向けた。
直後に両手から眩いばかりの黄色と白の光の奔流が迸るように太く流れ出して防衛陣地に突き刺さると、戦車や大砲、ターミネイター兵を白光に包んで溶けるように消滅させた。
光の奔流は勢い余って基地のフェンスを突き破ると基地東側に広がる武蔵村山市を横断して奥多摩湖を消滅させてようやく消えていった。
「ちょっ!・・・ゴル姉さま、それはやり過ぎだぞっ!うちも、負けてられないんだぞっ!」
輝美が足元をたんっ!と蹴ると姿がかき消えた。
次の瞬間、三人を包囲していた守備隊とターミネイター軍団の背後に幾つもの黒い球形をした漆黒の闇が出現すると守備隊を吸い取るように闇の中に包みこんだ。
わずかに残った最後のターミネイター兵が漆黒の球体に飲み込まれて消滅すると、何事も無かったかのように輝美が再び真知子の前にすっ、と現れる。
「へっ!どんなもんだぞっ!」
真知子の前でエヘンと薄い胸をはる輝美。
「ちょ~っと!ライちん!特異点転送なんて反則技ですよ~。下手したら仮想空間ごと現実世界まで消滅したらどうするんですか~」
呆れた守美が抗議する。
「え!?そんときはあれだぞっ!アステロイドベルトが一つ増えるだけだぞっ!」
取り繕うように言い訳する輝美。
「お二人が規格外な存在だと言う事だけは、分かりました・・・」
真知子は二人の能力が意味するものを理解出来ないまま、茫然と黄星姉妹を見つめていた。
同時刻【現実世界 秋葉原 特殊電子戦闘団 臨時司令部】
「えっと、美衣子さん。何ですか?あれは」
モニターに映しだされた仮想世界 横田基地内部から発生した大破壊に息を飲む鷹匠少将。
「クラークの法則が具現化された最たるもの、ということかしら」
美衣子も唖然としながら呟く。
「そのような法則はこの石頭にはとんと覚えがありませんなぁ」
苦笑して頭をかく振りをする鷹匠。
「とあるSF作家の名言よ。『充分に発達した科学は、魔法のそれと見分けがつかない』よ。この光景が仮想空間のものとしても、現実世界における旧米軍基地からの浸食能力が落ちているわ・・・」
美衣子が別のモニターを表示させると各地の停電拡大状況が表示された。
日本地図上では各地に赤いシミが広がっていたが、今は広がるスピードが遅くなっており、停滞しているとも言える。
他方、横田基地から福生市、武蔵村山市を横断して奥多摩湖まで一筋の太い黄色い線が地図上に出現していた。この地域では停電と電話回線が不通となっていた。特に黄色い線の中に位置していた武蔵村山市役所は突然のブラックアウトで行政機能が停止しており、立川の震災防災拠点から災害救助部隊が急行していた。
「それにしても・・・光の渦や黒い球体が出現してから、仮想空間のみならず、日本列島の空間位相バランスに異常が生じているけど・・・花子が目を覚ましてくれない事には動きが取れないわね」
想定外の異常に内心焦りを覚える美衣子だった。
「この位相空間を利用した大破壊の技術は私達マルス文明とは別系統。むしろ別世界の存在と言った方が良いのかしら?」
美衣子は呟きながらアマトハやゼイエスに相談するため通信回線を開くのだった。
【仮想空間内 横田基地東エリア 居住区画】
初めての戦争行為に恐慌をきたした華子と優美子だったが、軍曹の一喝で多少の落ち着きを取り戻した直後、至近距離で黄星姉妹の神業を目撃した二人は攻撃に巻き込まれないように格納庫から移動して基地内の軍人が住む居住区に身を潜めていた。
「・・・それにしても、さっきのあのぶっといビーム砲とか暗黒玉は反則っしょ?」
未(いま)だに驚愕が冷めやらぬ様子の優美子が引きつった顔で華子(はなこ)に話しかける。
「あれは今日でしたか?来たばかりの転入生と先生の姉妹でしたよね?・・・それと、真知子先生も傍にいらっしゃったような・・・」
困惑した表情の華子。
「貴様らはあの神々と知り合いなのか!?」
軍曹が意外な顔をして訊く。
「ぶっといビームと暗黒玉を召喚したのは同じ学院の人っしょ」
優美子が答える。
「貴様らの学校は現人神様達と共学する学校とでも言うのか・・・」
唸るような声で軍曹が呟く。
「まあいい・・・。それよりも、さっき格納庫の屋根から転がり落ちてきたこの娘の面倒を頼む」
軍曹が心なしか冷や汗を浮かべて抱えていたモンペ姿の少女を地面に下ろした。
「丸太の女の子は私達を顔見知りみたいに話しかけていましたが・・・心当たりがありませんですわね?」
華子がすやすや眠る少女の顔を眺めて優美子に尋ねる。
「新手のストーカーっしょ!」
優美子がプラズマバズーカの砲口を少女の額に押し当てる。
「ひゃっ!冷たいっ!」
すやすや眠っていた少女が突然跳ね起きようとしてプラズマバズーカに激突する。
「やっと起きましたね。大丈夫ですか?」
華子が話しかける。
「いつ~っ!はいはい元気ですよお嬢さま方。花子は元気ですの」
頭を擦りながら少女が答えた。
「はなこ?私と同じ名前ですわ!」
微笑みかける華子。
「いやいや違うから。私はお花の花子よ。貴女は華やかな子供、華子でしょ?」
少し冷笑気味に答える花子。
「じゃあ、丸太の花子さんでいいっしょ」
見かねた優美子がそっけなく反撃する。
「なっ!丸太は余計ですっ!それにこれはただの丸太ではありませんの!丸太再起動っ!」
花子が叫ぶとゲート付近に放置されていた丸太がずずずんと動き出して、花子の傍まで近寄ってくる。まるでわんこを呼びよせる飼い主の様だ。
「素敵な丸太ですの」
花子が怪しくうっとりしながら丸太を撫でる。
「これ、御柱祭りで使う奴じゃあ・・・」
華子(はなこ)が呟く。
「ピンポーン!正解ですっ!これは日本列島 800万(やおよろず)神々のうち一柱たる私のアイテムですから」
キラッと可愛らしく丸太の上でポーズを決める花子に何故かイラッと来た華子と優美子だった。
「モンペの神様?」
「丸太から弾き飛ばされる神様って、・・・ぷぷぷっ!」
「お前らなぁ~」
ワナワナと身を震わせる花子。
「お前達は瑠奈様のご友人だから色々とトイレの願い事を多めに叶えてあげたのに・・・この無礼者がぁ!」
花子がさっと手をかざすと丸太から蔦がシュッと生え伸びて二人に巻き付くと空中に吊り上げる。
「っ!?スカートがっ!」
華子が顔を赤らめて手でスカートを抑えるが、バランスを崩して逆さ吊り状態のため上手く隠しきれていない。
「うはははっ!すげーっ!どんどん持ち上げられるっしょ!」
「お前少しは怖がれよ!」
アトラクションだと思って楽しむ優美子に花子が歯噛みする。
「こらっ!貴様ら戦闘中だぞ!バカモン!」
軽いステップで丸太によじ登った軍曹が花子に拳骨を落とす。
「あいた~っ!神様に向かってなんてことするですの・・・」
涙目の花子。
「どうせなら戦女神らしく振る舞ってもらいたいものだ・・・」
「さーせん」
怒りでぎらつく眼光に気圧された花子は軍曹に詫びると華子と優美子を地上に降ろした。
「遊びの時間は終わりだ。正面ゲートの友軍もこの騒ぎで突入している筈だ。敵司令部へ急ぐぞ!」
軍曹が地図を片手に、500m先に拡がる滑走路の一角にある軍用機用のシェルターを指さした。
「そういうことだから、花子神。ちょっとあそこまで俺達を頼む」
軍曹が花子の背後にドスンと腰を下ろすと命令した。
「な!?神をタクシー代わりに使うとは・・・」
「花子神。後で日本酒たらふく飲ませてやるから、な?」
ふてくされる花子を軍曹が宥める。
「仕方ないですの。大吟醸を所望するですの」
「未成年はお酒だめっしょ?」
「いくら神様でも法律は守らないといけないと思うの・・・」
優美子と華子があえて飲酒に異を唱えた。
「そうか。残念だな花子神。甘酒で我慢しろ」
「ムキーっ!」
あっさり軍曹に大吟醸の奉納を取り下げられて丸太の上で地団駄を踏む花子だった。
2023年6月7日午前8時(日本時間)【アステロイドベルト 日本列島オブジェクト建設船団 旗艦『ホワイトピース』】
「木星観測衛星から1時間前に計測された異常観測データーが届きました」
オペレーターが艦長の名取大佐に報告した。
「木星最深部で複数の重力波振動だと?」
名取がデーターを見て首を傾げた。
「はい、マルス先遣隊のリア隊長によると、転移現象の際に生じる物に酷似しているとの事であります!」
「あんな超重力の底に転移する者など居るのか?」
名取は状況把握の為にゼイエスをブリッジに呼びだすように部下に命じた。
同時刻【東京都千代田区永田町 首相官邸】
地下会議室で澁澤首相と全閣僚と統合幕僚監部首脳が出席して各国首脳陣とモニター越しで作戦会議が始まろうとしていた。
「ミスターシブサワ、今は取り込み中ではないのかね?」
ニタニエフ首相が日本列島で進行中の異常事態に懸念を示した。
「ご心配なく。われわれの友人が全力を尽くしています。もとより我らが対処できる技術レベルを超えていますからな」
澁澤首相が応えた。
「では予定通り始めましょう」
英国連邦極東のケビン首相が会議の開始を宣言した。
「これより人類反攻作戦について地球連合防衛軍との合同作戦会議を開催します」
現実世界では膠着した局面を打開するために人類が総力を結集させようとしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は12月23日 日曜日に投稿予定です。
【このお話の登場人物】
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。
名取 優美子=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親は航空宇宙自衛隊強襲揚陸艦ホワイトピース艦長の名取大佐。
天草 華子(はなこ)=神聖女子学院小等部6年生。瑠奈のクラスメイト。父親はJAXA理事長の天草士郎。
澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。
澁澤 太郎=日本国総理大臣。
桑田=防衛大臣。
鷹匠(たかじょう)=自衛隊少将。
黄星(きぼし) 守美(もりみ)=神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
黄星(きぼし) 輝美(てるみ)=神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
花子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能である美衣子が司(つかさど)る800万(やおよろず)プログラム端末の1つ。神聖女子学院では「トイレの神様」と呼ばれている。
ニタニエフ=イスラエル連邦首相。
ケビン=英国連邦極東首相。