2023年6月11日【月面都市ユニオンシティ行政区画 月面日本大使館】
「私ですか?」
東山がモニターの向こう側に居る岩崎官房長官から出された指示に戸惑っていた。
「そうです。東山君。今回のミツル商事不祥事に対する制裁措置として、同社は日本政府並びに地球連合防衛軍の管理下に入りました。ついては、かねてからの手筈通り、地球方面におけるユニオンシティ国生存者の保護と福利厚生、各種資産管理をミツル商事に委託管理させ、生存者は従前の生活を基本としながらこれらの管理にあたってもらいます」
莫大な業務量を事も無げに言う岩崎の指示は続き、東山はだんだん頭とお腹が痛くなってきた。
「ミツル商事の一時国有化に伴う政府からの管理官として、東山君をミツル商事地球方面支社長に任命することになります。これは大月満CEO(最高経営責任者)の承諾を得ています。また、君には人類反攻作戦において使用される月面基地ニュートリノビーム施設の防衛司令官にもなっていただきます」
岩崎が東山の官民軍三職兼務を言い渡した。
「確かにこの案は私が発案したものですが、自分にそのような巨大企業や軍の指揮など-ーー」
東山が流石にギブアップ宣言をしようとしたとき、
「---月面都市関連の各種資産リストとユニオンシティ国生存者のリストは私が全てまとめておいたわ」
結が東山の後ろに近づくとスーツの裾をちょこんと抓む。
「私が東山の補佐をするから大船に乗った気で居なさい」
フンスと薄い胸を張る結。
「泥船の間違いじゃあないよね・・・」
岩崎との通信を終えた東山は、今後の殺人的なスケジュールをつらつらと考えながら、ネクタイを緩めると執務室の椅子にどっかともたれかかるのだった。
【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス】
1階の共用ダイニングルームに三人の女性が美衣子の前に座っていた。
「今はまだ、貴女達の正体を問いただすことはしないわ」
美衣子が宣言した。
「だけどこれ以上、人類社会を揺るがすようなことは控えて欲しいの」
最近やらかした自覚のある美衣子が自戒の念を込めて要請する。
「わかったのだぞっ!」
輝美が元気よく返事する。
「はいなのです~」
守美がおっとりと答える。
「はあ・・・せっかく息抜きがてら-ーー世界(こっち)に遊びに来てみれば愚妹達のせいで私までGM様にお説教されてるんだぞっ!と」
与呼島 舞が嘆く。
「「なんですとーーー!」」
守美と輝美が激怒して椅子から立ちあがろうとするが舞に超重力負荷をかけられて立ちあがれない。ダイニングの床がミシミシとたわんで嫌な音を立て始める。
「ライちん、私達が迷惑をかけたのは確かだなんだからここは素直にGM様の言うとおりにしないとですよ~」
守美が宥める。
「ふふふ・・・あなた達、良い度胸ね」
美衣子が無視された事にプルプルと震えながら怒りの電撃を放つ。
瞬間、室内に紫電が満ちるも、光が収まると三人は自ら展開させたシールドの中で平然と座っていた。
「やはりGM様は只者ではないのです~」
守美はシールドを解くと本来の姿に変身した。
残りの二人も本来の姿に戻る。
「それが貴方達の正体なのかしら?」
美衣子が自身の周囲に滞空させていた紫電の球を霧消させながら問う。
「はいなのですぅ~。私達は隣の惑星から来た-ーー」
守美が自分達の事情を美衣子に打ち明けるのだった。
美衣子は、GM様と呼ばれていることを特に違和感なく受け入れていた。頭の中でゲームマスターであろうとその時は推測していた。
-ーー1時間後
「とりあえず、話は分かったわ。確認する術が今の私達にはとても思いつかないけれど・・・」
美衣子が嘆息した。
「それで黄星姉妹はお転婆なお姉様を見つけることが出来たのだから、姉妹仲良く帰るのね?」
確認する美衣子。
「それが・・・もう少しこちら側にいようかな~と・・・」
守美が悪びれなくのほほんと答えた。
「こちらのプリンとやらはとっても美味なのだぞっ!」
輝美が白状する。
「しょうがないわね・・・私が責任を持って見張らないとだぞっ!と」
舞が無駄なお姉さまアピールをする。
「「お前が言うなっ!」」
黄星姉妹が突っ込みを入れていた。
「やかましいわ」
美衣子が不意打ちで最大出力の紫電を放つ。ダイニングルームに雷鳴が轟く。
ダイニングテーブルの表面は軽い焦げ跡がついた程度だったが、床には三姉妹が折り重なるように気絶して伸びていた。
「ふぅ・・・」
美衣子は小さくため息をつくと手についた煤をパンパンと払いながら呆れた表情で、
「・・・取りあえず、ほとぼりが冷めるまで此処に住んでいいけれど、大月家と人類には絶対に迷惑をかけない事!」
美衣子が三姉妹に言い渡すと、大月家家訓?前文を諳んじた。
別世界三姉妹は神妙な面持ちで美衣子のレクチャーを受けるのだった。
満「っ!?今、食堂の方から雷鳴がっ!」
ひかり「気のせいですよぅ」
夫婦の寝室でのんびりイワシパイあーんに勤しむ二人だった。
同日深夜【火星と木星の中間地点 アステロイドベルト 日本列島オブジェクト建設船団 マルスアカデミー支援船団旗艦】
「わかった、美衣子。こちらは第5惑星最深部の観測強化と今までのデータ分析を密にしよう」
巨大な母艦の艦橋で、リアと共に横浜からの報告を受けたゼイエスが応える。
『こちらでは彼女達が言っていた事を証明できる裏付けが取れないわ。マスター頼んだわ』
パジャマ姿の美衣子がかつての主人に依頼するとモニターが切れた。
「リア君、最近収拾された異常データーの発信源は・・・」
「ええ。すべて第5惑星最深部からのものよ」
ゼイエスの問いかけにリア体調が答える。
「ふむ・・・」
ゼイエスが過去の観測データを解析する。
「われわれが使うPエネルギーとは違う何かが、第5惑星から第4惑星全域に降り注いでいる」
解析内容を端的にゼイエスが説明した。
「宇宙放射線ではないのかしら?」
「わからん。恒星が発するエネルギー波でもなく、我々や第3惑星人類のものでは無いことは確かだ」
「もうすぐ第4惑星からこちらに試験航海で立ち寄る母艦があるからそれを活用しよう」
ゼイエスが提案する。
「そうね。こちらに派遣された船はどれもこれから第3惑星やオブジェクト建設に手が離せないから利用しない手はないわね」
リアが賛成した。
「この存在はシャドウとは違うだろうが・・・」
ゼイエスが呟く。
「そうそう我々の技術に馴染めるものなのかね・・・」
首を捻りながら浮かんだゼイエスの素朴な疑問は、同じアステロイドベルトで作業に勤しむ地球人類への報告と協力を要請する慌ただしいやり取りの中で忘れ去られていくのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は1月6日㈰に投稿予定です。
【このお話の登場人物】
大月満=ミツル商事社長。
大月ひかり=ミツル商事監査役。
大月 美衣子=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。瑠奈と結の姉ポジション。
大月 結=マルス文明尖山基地人工知能。美衣子の妹分。
東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。
<i341686|25956>
岩崎 正宗=内閣官房長官。東山の上司。
黄星 守美=神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
黄星 輝美=神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
与呼島 舞=神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。
ゼイエス=マルス人。マルス文明プレアデスコロニー特殊宇宙生物理学博士 日本列島オブジェクト建設技術支援担当。美衣子システムを創造した。
リア=マルス文明プレアデスコロニー地球支援船団隊長。