転移列島   作:NAO

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左から、黄星輝美、黄星守美です。イラストレーターのしっぽ様に描いて頂きました。
まさか連載が1年続くとは・・・。皆様に感謝をm(__)m



マリネ

2023年6月12日朝【長崎県対馬市沖70kmの海底】

 

 その生物は、自分を創造した存在が呼びよせる声に導かれて住み慣れたマリネリス海溝の底から旅立つと、まだ真新しい火星の海をひたすら南東に向けて突き進んだ。

 途中でいくつかの煩わしいノイズを放つ障害物やはるか頭上から不愉快な波動をぶつけてくる物体に遭遇すると、本能の赴くままに身体を振り回して体内から湧き上がる力を放出した。

 

 今は、ここまで休むことなく付き進んできた疲れを癒すべく、見知らぬ暖かい海底で休んでいた。

 そして、先ほどから再び聴こえてきた、何か焦ったような声音に導かれるまま、だんだんと暖かさが増す海域を南下し始めた。

 

同日午前3時【島根県 隠岐の島沖50km 海上自衛隊音響測定艦『とどろき』】

 

 「超長距離ソナー曳航開始!」

艦長が総延長2000kmになる超長距離曳航型ソナーの展開を指示する。

 

 冷戦終結後の極東地域で新たな軍事的脅威となった共産中国と北朝鮮、ロシア連邦の原子力潜水艦を探知、情報収集する目的で建造されたこの特殊な音響測定艦は貴重で3隻が稼働していた。

 そして、火星転移後の2021年、20年ぶり新しく就航した「とどろき」は、2020年に起きた巨大ワームの稚内市上陸、襲撃事件に強い衝撃と危機感を持った政府自衛隊により、火星生物の日本襲来を早期に察知する目的を持っていた。

 

 海上自衛隊呉基地で岬、琴乃羽、春日らと合流したミツル商事一行は『とどろき』に搭乗して特設CIC(戦闘情報管制室)に籠もって対馬沖で姿を消した火星生物の捜索に協力することとなった。

 

 「それで舞さん、マリネリスから来たクリーチャーはどこへ向かおうとしてるか分かる?」

満が火星生物を呼びだしたであろう張本人に尋ねる。

 

 「恐らく私の呟く声に反応して追いかけていたみたいですから、横浜?かもだぞっ!と」

簀巻きの状態にもかかわらず小首を傾げた仕草で与呼島が答える。

 

 「でもヒトの電波や思念波で正気を失っているみたいですねぇ~」

舞の隣で同じく簀巻きで転がる守美が答える。

 

 「今のアレは、敵対する思念を過敏に受け止めて「敵」認定するからめっちゃ危ないんだぞっ!」

舞と守美の間で転がる輝美が元気に答える。

 

 「ヒトの思念を敵認定したところでどうするのかしら?」

ひかりがこめかみに手を当てて考える。

 

 「それはやはり、大都市では?」

春日が指摘する。

 

 「この辺りで人口密集地帯とは?」

満が誰に問うでもなく呟く。

 

 「火星転移後の最新人口分布では北九州福岡、長崎県佐世保ですね」

データベースから調べた琴乃羽が答えた。

 

 「春日さん、すぐに艦長へ報告を」

満が指示する。

 

春日がCICから艦橋で指揮をとる艦長へ横須賀司令部への警告を伝えた。

 

「舞さん、あのクリーチャーは今でも貴女の声を聴いていると思う?」

岬が尋ねる。

 

 「うーん。興奮していますけどこちらの呼びかけには時折反応するような仕草を見せるので少しは」

舞が答える。

 舞は簀巻きから脱出して妖精体となって宙に浮きながら目を瞑って呼びかけを続けていた。

 

 「興奮の原因は日本中の軍隊があらゆる電波を当てているからであって、電波の発信を抑えれば何とかなるのかもです~」

こちらは簀巻きのままゴロゴロとCICの床をあてどもなく転がりながら守美が答える。

 

 「でもでも、大都市から出る電波やヒトが出す恐怖と敵意の思念が酷いから無理なんだぞっ!」

簀巻きのまま宙に浮く輝美が口を挟む。

 

 「そんなに思念波って重要なんすかね?」

春日が塩クッキーをつまんで顔を歪ませながら訊く。ビターな味ではないようだ。

 

 「あなた、琴乃羽の事やユニオンシティ国民を蕩けさせた福音システムの事を忘れたのかしら?」

皿に盛られた塩クッキーを盛大に皿ごと飲み込まんばかりに詰め込んでいた美衣子が答える。

 ハッとする春日だったが、

 

 「確かに心や頭に響く声は結構体にビンビン効きますよ?」

気にしてないよというゼスチャーを春日にしながら琴乃羽が応えた。

 

 「いずれにせよ、これでクリーチャーの都市部侵攻は確定という所かしら」

塩クッキーが予想外に捌けたので頬を緩めながらも腕を組んで考え込むひかり。

 

 「いっその事舞さん達をここから吊るしてクリーチャーをおびき寄せた方が効果的なんじゃないかしら?」

さらりと首を傾けてとんでも提案をするひかり。

 

 「「「えぇっ!?」」」

 

 「イヤなら知恵をしぼりなさい」

美衣子が冷たく宣告する。

 

 「「「むーん」」」

 

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*イラストはお絵描きさん/らてぃ様です。

 

 しかし、彼女達よりも深刻に思案するものも数多く居た。

 

【長崎県佐世保市 英国連邦極東首都ダウニングタウン 首相官邸地下司令部】

 

 火星転移直後の建国以来、初めて直接的な異常事態を迎えた地下司令部の面々が慌ただしく対応に追われていた。

 

 「佐世保軍港の戦闘鑑定は全て出せ!有明海で迎え撃つ!」

 「関門海峡上空を旋回していた早期警戒ドローン撃墜されました!光学兵器の模様!」

 「電波に反応するのか。誘導が出来んぞ!」

 「五島列島駐留ユーロファイター攻撃部隊いつでも飛べます!」

 「衛星フォボス宇宙基地のMOAB弾道弾発射準備完了!」

 「佐賀県の特殊機動戦闘団、出動準備完了!」

 

 「大佐、本当にそのクリーチャーはこちらへ来るのかね?」

火を着けていない葉巻を加えたケビン首相が防衛指揮官のグリナート大佐に尋ねる。

 

 「サー、首相閣下。最新の報告によりますとクリーチャーは人口密集地帯のあるフクオカかこちらへ向かうと」

緊張した面持ちのグリナート大佐が答える。

 

 「よりによってこれから地球での決戦に挑もうという時に間の悪いことだ!」

苦虫を噛み潰したような表情をするケビン。

 

 「我が軍戦力の大半が既に火星を発って地球へ向かっています。呼び戻しても間に合いません」

 「今ここで動かすことが出来るのは五島の空軍と佐賀のロボット部隊、熊本の日本陸上自衛隊か」

腕を組んで司令部のスクリーンに投影されている戦況図を眺めるケビンとグリナート。

 

 「首相!東京からホットラインです!」

 「構わん!そのままこちらへ繋いでくれ」

 

 ケビンの卓上3Dモニターに憔悴した感じの澁澤首相が映る。

 「ケビン。忙しいところすまんな。こちらもあらゆる手段を講じている所だ」

 

 「それはありがたいな、タロウ。で?君は何を考えている?」

目を細めて澁澤をうかがうケビン。

 

 「ケビン、君に九州地区の全連合防衛軍指揮権を一時的に委ねる事にした。もちろん自衛隊も含まれる。指揮系統は一本化した方が望ましいからな。つまらん縄張り争いに興味はないんだ。もちろん、事が知れたら私は国民や野党から間違いなく弾劾されかねないがね」

肩を竦める澁澤。

 

 「タロウは相変わらず私を買いかぶり過ぎていると思うのだが?」

 「正しい判断だと私は信じている。貴国が最終手段を使わずに事態が解決される事が大事だ。私も最善を尽くすことにしよう。このチャンネルはこのままオープンで繋いでおく」

澁澤はそう言うと画像のスイッチを消した。

 

 「・・・首相閣下。やはり日本政府は我々が核兵器を持ち込んでいる事に気づいていましたな」

MI6を束ねる内務大臣が背後から声をかけた。

 

 「それはそうだろうよ。日本政府は火星に転移してから軍と諜報部門の体制を飛躍的に強化してきたのだ。かつての在日米軍基地をそのまま引き継ぐ形で管理していれば、われわれの行動などお見通しの筈だ」

 「では、万が一の時は衛星フォボスの宇宙基地からMOABの弾頭を交換すると言う事で-ーー「内務大臣、それ以上は口にしてはいかんぞ」

ケビンが核使用の会話を遮る。

 

 「それは本当に我が国が日本国と運命を共にして滅ぶ時だけにしてくれ」

ケビンは天井を仰いだ。

 

 「佐世保で何が何でもクリーチャーを食い止めねばならん!ミツル商事にも協力を要請するんだ!」

ケビンは内務大臣と国防大臣に指示を出す。

 

【東京都千代田区永田町 首相官邸】

 

 「彼らは本当に核を使うだろうか?」

澁澤が官房長官に訊く。

 

 「使うでしょう」

間髪入れずに岩崎官房長官が答える。

 

 「かの国が佐世保の首都壊滅を許せばせっかく火星に出迎えた英国王室の皇太孫(こうたいそん)を頂いて再興しつつある体制が崩壊して求心力を失い、連合防衛軍の指揮系統に打撃を与える事になるでしょう」

岩崎が予想される惨禍の想定を説明した。

 

 「しかも、核が使用された日には非核三原則を厳格に守らなかった我々の落ち度として、間違いなく政権が倒れるぞ!」

 

 「ええ。確かに。長崎での核使用は、かつての被爆都市が再度核の惨禍に襲われた悲劇として国内でのインパクトは想像を超えますな」

 非核宣言都市にこだわりを持つ長崎市長の剣幕が容易に脳裏に浮かぶ岩崎。

 

 「仕方ない。佐世保が万一の事態に陥った時の備えとして「アレ」を使おう」

澁澤が決断する。

 「わかりました。既にミツル商事の美衣子氏には改修の「指示」を出しています。ダイモス基地から工作部隊が出発して準備に取り掛かっています」

岩崎は先を見越して動いていた様で澁澤はホッとする。

 

 「頭の痛い存在がこうも立て続けに出てくるのはもはや偶然ではないだろうな」

執務室の机に肘を突いた澁澤は頭を抱えた。

 

同日午前5時【長崎県 対馬市沖50km 音響測定艦『とどろき』】

 

 「おっ!シロ姉のペットが動き出したのだぞっ!」

簀巻きのまま宙に浮く輝美が声を上げた。

 

 「ソナーも下対馬沖の海中で動く物体を感知しましたねぇ。速度は時速20kmくらい」

艦橋とのデータリンク画面を確認していた琴乃羽が報告する。

 

 「満さん。艦長からですよ」

ひかりが満に受話器を渡す。

 満はスピーカーモードに切り替えて受け取る。

 

 『大月社長。横須賀司令部を通じて連合防衛軍司令部から優先命令が届きました。「ミツル商事は可能な限り敵を佐世保に誘導せよ」です』

緊張した声の艦長が満に司令部からの指示を伝えた。

 

 「どうしてわざわざ大都市の佐世保へ誘導するんですか!?」

 『もともと福岡には展開できる兵力が少なく、防衛体制の整っている佐世保に誘導して確実に殲滅するのが司令部の意向です』

 

 「そんなっ!」

憤る満。

 

 「お父さん、そんなにカッカしないで」

美衣子が満の背中にしがみ付く。

 

 「そうならないように岩崎と相談して手を打っているから」

満の耳元で美衣子がささやいた。

 

【火星衛星軌道上 太陽光送電衛星「雷神」】

 

 高度35,000kmの静止軌道で火星北半球の日本列島を見守るように配置されていた太陽光送電衛星は、ダイモス基地を経由して送られた美衣子の優先プログラムを受信して稼働を始めた。

 本来は太陽光で発電した電力を特定周波数に変換して茨城県東海村へ送電していたのだが、優先プログラムによって、衛星は本来の役割とは違う稼働モードに入った。

 

 送電衛星は遮るものの無い真空空間で太陽光を浴びながら充分な電力を発電しながら送電せずに、非常用貯蔵バッテリーへ蓄電し続けていた。

 マルス技術の応用で従来の物よりも飛躍的に向上したバッテリーの蓄電能力は原子力発電所2つ分に相当する。

 

 美衣子と岩崎が秘かに着目して改修していたのは、送電周波数を高周波数帯レーザー光線に変換する機能だった。

 万一の時はこの衛星から高周波数帯のレーザー光線が地上へ照射される。

 

【長崎県 対馬沖 音響測定艦『とどろき』】

 

 「要するに、クリーチャーが持つ生体電気と反応させるのかしら?」

ひかりが美衣子に尋ねる。

 

 「そうよ。太陽光送電衛星から大出力レーザー光線を当てて、クリーチャーの生体電気と同調させて急激に電力負荷を増加極大化させて自滅させるのよ」

美衣子が説明する。

 

 「そんな事に・・・」

舞が何かを言おうとしたが、ひかりや満の視線に気圧されて口を噤む。

 

 「シロ姉のペットには残念だけど、ここまで大事になったからしょうがないのだぞっ!」

輝美が小さく残念そうに呟く。

 

 「どうしてもあのクリーチャーを舞さんは生かしたいと?」

岬が聞く。

 

 「自分が世話をした生き物は最後まで責任を持つものだと学校で教わりましたからね~」

守美が頷く。

 

 「グラン・マ様、マリネちゃんを第5惑星から故郷に連れて帰りたいのですけど」

舞が提案する。

 

 「それはダメ」

美衣子がピシャリとダメ出しする。

 

 「貴女達が能力を使うことで火星の重力磁場に少しずつ歪みが出ているのよ」

美衣子が理由を説明する。

 

 「貴女達が電子の世界で暴れる前後から日本列島周辺の磁場が変化しているわ。このまま変化の幅が拡大すると私のシステムでは防ぎきれない規模の地殻変動が火星全域で起きるわ。だから、力を使わないで」

釘をさす美衣子。

 

 「もう少しスケールを小さくして考えてはどうでしょう?」

先ほどからのやり取りを傍観していた春日が視点の変更を勧める。

 「そんな、惑星規模とかの力を振るわないですむ方法は無いのですか?」

 

 「スケール、ねぇ・・・」

琴乃羽が呟く。

 

 「むーん・・・、そうだぞっ!と」

知らずのうちに浮かびながら考えていた舞がはたと手を打って叫ぶ。

 

 「私のペットにするぞっ!と」

 「・・・舞さん、話の流れ読んでますよね?」

岬が突っ込みを入れるが舞は気にせずに、

 

 「論より何とやらだぞっ!と」

妖精体モードに変身した舞は、

 

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*イラストはお絵描きさん/らてぃ様です。

 

 ミツル商事一同と黄星姉妹はポカンと口を開けて固まっていた。

 「マリネちゃんて誰?」

 

 マリネリスのクリーチャーは再び五島列島近海に接近していた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m

【このお話の登場人物】
大月満=ミツル商事社長。
大月ひかり=ミツル商事監査役。
大月 美衣子(ミーコ)=マルス文明日本列島生物環境保護育成プログラム人工知能。
岬(みさき) 渚紗(なぎさ)=ミツル商事海洋養殖部門、医療開発部門担当。海洋生物学博士。
琴乃羽(ことのは)美鶴(みつる)=ミツル商事サブカルチャー部門責任者。言語学研究博士。少し腐っている。
春日 洋一=ミツル商事海洋養殖部門責任者。

澁澤 真知子=神聖女子学院小等部教師。瑠奈の担任。

黄星(きぼし) 守美(もりみ)=訪問者。神聖女子学院小等部教育実習生。輝美の姉的存在。
黄星(きぼし) 輝美(てるみ)=訪問者。神聖女子学院小等部6年生に転入。守美の妹的存在。
与呼島(よこしま) 舞(まい)=訪問者。神聖女子学院小等部新任教師。黄星姉妹の姉的ポジション。

ケビン=英国連邦極東首相。
グリナート=英国連邦極東軍大佐。防衛司令官代理。
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