転移列島   作:NAO

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【挿絵表示】

地球連合防衛軍基地から偵察任務で飛び立つ寸前のWB21偵察型。
対戦車ヘリコプターと垂直離着陸戦闘機のパーツを寄せ集めて瑠奈が2021年に開発。
*イラストレーター鈴木プラモ様の作品です。


混沌編 人類反攻
影の帝国


【地球 ユーラシア大陸東部地区上空350kmの宇宙空間】 

 

 灰色と青色の斑に染まる惑星を眼下に、ミグ98高空・宇宙戦闘機の群れが大気圏を離脱しようとしていた。

 

 『シェンロンリーダーから各機、間もなく大気圏を完全に離脱する。ブースター切り離し手順に移行せよ。初仕事は火星人に乗っ取られた人工衛星の破壊だ。これ以上奴らに地球の衛星を好きに使わせるな!』

 戦闘機部隊隊長王准将からの指示が黄少佐が被るヘルメットに内蔵されたイヤホンから聴こえてくる。

 黄には初めての宇宙空間だったが、これから向かう戦場への不安もあり、堪能する余裕は失われていた。

 

 「メイユウ35、メーデー!切り離し機器に異常あり!ブースターが離れない!地球に引っ張られて失速中!メーデー!」

 『こちらシェンロン・リーダー、メイユウ35の戦線離脱を許可する。幸運を祈る!オーバー』

 

 「こちらメイユウ35、見捨てないでくれ!後続B2爆撃機の救助を要請する!メーデー」

 『メイユウ35、B2は指定任務があるのでそちらには回せない。我々は貴官の志を無駄にはしない!これ以上の通信は敵に傍受される恐れがある。通信終わり!』

 

 黄のすぐ後ろを飛んでいたミグ98がブースターの切り離しに失敗して失速して機体制御が出来ずにブースターもろとも落下していくのをコクピット脇のサイドミラーで黄は、なす術も無く見る事しか出来なかった。

 やがて失速したメイユウ35の機体はそのまま石のように落下すると、斑模様の大気圏に再び接触して摩擦熱に機体を焼かれながら爆発して四散した。

 

 『シェンロンリーダーより各機へ、我々は戦友の犠牲を忘れてはならない-ーー。間もなく最初の目標が見えてくる。全機、衛星破壊ミサイルの安全ロック解除、対空レーザースタンバイ』

 「こちらウラル58、9時の方向から未確認飛行物体多数接近中!」

 

 大気圏を抜けて漆黒の空間に踊り込もうとしていたコスモファイター群は、真横から突撃してくる未確認飛行物体に機首を向けた。

 黄は汗ばむ掌を何度も宇宙服を着ている足に擦り付けながら操縦桿を握りしめた。

 

 「シェンロンリーダーより各機へ、未確認飛行物体は火星の異星人が指揮する戦闘機だ。皆の奮戦に期待する。統合政府万歳!レッツ、ダンス!」

 

【挿絵表示】

 

*衛星軌道で繰り広げられた制宙戦。イラストレーター鈴木プラモ様の作品です。

 

 ミグ98はユニオンシティ防空部隊のF45スターファイターとのドッグファイトに突入した。

 

-ーーーーー

 

2023年7月1日【地球 オセアニア生存圏 旧オーストラリア ノーザンテリトリ-準州 地球連合防衛軍テナントクリーク基地】

 

 寒く乾燥した砂漠地帯の真ん中に位置する南半球最後の人類生存圏を護る基地の滑走路脇にずらりと並んだ電磁式プラットホームには、急ピッチで建造された真新しいシェフィールド級空中輸送艦がセットされていた。

 シェフィールド級空中輸送艦はマンスフィールド級空中戦艦を全面改装して輸送スペース拡張に特化、1隻当たり500名の完全武装兵員を運ぶことが出来る。翼を付ければ恐らく、旧ソ連空軍のアントノフ大型輸送機に似た景観になるだろう。

 

 「壮観だな」

ジョーンズ中将は地下司令部のモニターに映し出された新造輸送艦隊群を眺めて呟いた。

 

 「ええ。ミス瑠奈が残してくれた「船これレシピ」に従って、オーストラリア大陸中の旅客機をかき集めて解体、接合し直しただけでしたがなかなかどうして、火山灰に塗れた空を飛ぶのですから大したものです」

量産化の指揮に当たった技術将校がジョーンズに応える。

 

 「この艦隊の最初の任務が中東と月面を往復する弾丸シャトル扱いとは、いささか腹立たしいところだがな」

ジョーンズが皮肉気に言った。

 

 「かの地は地下都市ですし、近隣のトルコや旧イスラエル領内主要空港までは距離もあります。黒海から湧き出すバグズの襲撃もあります。迂闊に穴倉から出れないのでしょう」

司令部付きの情報将校が説明した。

 

 「カッパドキア地下都市を脱出して月面都市に一時避難か。我々に無茶振りな要請をするとは、何様かと言う気もする」

 「地球人類存続の為です将軍」

情報将校が小さい声で宥め、ジョーンズは肩を竦める。

 

 「それだがな、イスラエルは日本国の手厚い支援を受けるようになってから要求がエスカレートしている気がしないか?」

思案するジョーンズ。

 

 「何か気懸りでも?」

 「彼らにとって日本は絶望の只中で手を差し伸べてくれた神に等しい存在だ。同時に彼らは、こう勘違いしているかもしれん「我々は神に選ばれて救われた存在である」とな」

直接的な勘に基づいた話をジョーンズは続ける。

 

 「私はこの戦乱が収まった後に、地球上でイスラエルが覇権を望むかもしれんと考えるよ」

司令部の天井を見つめながら結論を口に出す。

 

 「流石にこの発言は不味いでしょう」

情報将校が今度こそ注意する。

 

 「すまん。とりとめもない爺の戯言だ、聞き流してくれ。イスラエル大脱出手順はどうなっている?」

話題の転換を図るジョーンズ。

 

 「カッパドキア到着後に輸送艦隊は、ミス瑠奈がブリテン島で開発・製作した宇宙空間航行用ブースターと再突入時に船体を護る耐熱タイル装着を行った上で、イスラエル国民800万人の月面都市へのピストン輸送を開始します。艦隊が1日に運べる人員は5万人です」

 「それでは全然間に合わんぞ。先に日本列島オブジェクトが到着してしまうではないか!?」

 

 「はい。見積もりでは、作戦開始時までに避難出来ているのは150万人程度になるでしょう」

 「8割以上の国民を天変地異の中に置き去りかね!?」

 

 「イスラエル政府も苦渋の決断でしょう。しかしこのままでは全国民が死に絶えてしまいます。ミツル商事マルスシャトルを全て動員出来れば状況は改善されるでしょうが、現在火星からの兵員輸送に全て使用されています。イスラエル国民の輸送に振り向けると作戦参加部隊の集結が遅れ、作戦の遅延に繋がります」

 「悩ましいな・・・」

 

 イスラエル避難計画についてはこのまま話しても妙案が思いつかないとみた情報将校が作戦将校に目配せして反攻作戦の検討に入ろうと次の議題の資料を広げ始めた。

 

 次の瞬間、地下司令部の室内灯が赤色に切り替わって明滅する。

 「敵襲!ディエゴガルシア方面からバグズの群れとB2爆撃機編隊が接近中!」

 「オセアニア生存圏全域に緊急警報!オセアニア生存圏最後の砦を死守するのだ」

 

 今日も慌ただしくジョーンズの一日が始まる。

 

-ーーーーー

 

同時刻【中東 旧トルコ領内カッパドキア地区地下都市 新エルサレム イスラエル連邦国防省(地球連合防衛軍中東司令部)】

 

 薄暗い司令室脇の会議室に物憂げな顔で座るニタニエフがおもむろに切り出した。

 「長官。早速だが例の件について、最新情報を報告してくれたまえ」

 

 モサド長官が会議室内のホログラフモニター上に居並ぶ各国首脳部の面々へ向けて僅かに会釈すると報告を始める。

 「ユーラシア大陸極東及び南米大陸で発見された大規模な人類生存地域について、新たな情報を入手しました。先日、旧ロシア連邦カザン地区で所属不明のヘリコプターが不時着しているのを偵察任務中のわが軍特殊部隊が発見、生存者を救助しました」

 

 「ちょっと待ってくれ。北半球は火山灰濃度が濃いせいで通常の航空機では飛行不可能と聞いているが?」

澁澤首相が疑問を投げかける。

 

 「肯定です、首相閣下。しかし、カザン地区の濃度は何故か大変動前の地球大気レベルでした」

モサド長官が答える。

 

 「環境操作されているというのかね?」

ケビンが尋ねる。

 

 「それについてはこちらから報告します」

月面基地臨時司令官の東山が発言する。

 

 「月面都市研究室から地球の特定地域、大変動前の都市名で、ハルピン、成都、オムスク、カザン、イスラマバード、ヤンゴン、ブラジリア、ベオグラード、バイコヌール、ニューデリー、バンデンバーグ、フェニックス等の12都市で大規模な電磁シールドの反応を確認しました。ミス結の分析によりますと、電磁シールド展開時の電気特性を利用して火山灰のみを排除しているものと思われます」

東山が地球の立体映像で表示された12都市をポインターで指し示しながら説明した。

 

 「北米の2か所を除いて殆どが第三世界じゃないか。大変動後に我々西側世界が見放した地域だ」

ケビンが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 「我々は確かにあの地域を物資不足から、閉鎖という名の下に無視しました。しかし、12都市も生き残っているなんて・・・」

ユーロピア共和国のジャンヌ首相が驚愕する。

 

 「皆様失礼します。話題がずれております。話を元に戻します。生存者はヘリコプターのパイロットで不時着の衝撃により大破した機体と操縦席に挟まれて重傷でした。部隊が応急処置を施している間に最低限の事を聞き出して間もなく、パイロットは傷が酷く死亡しました」

モサド長官が話題を元に戻す。

 

 「パイロットの所属は『人類統合政府 第7都市統合軍』輸送部隊所属だと名乗りました」

 「人類統合政府だと!?」

スイス連邦の首相が思わず訊き返す。

 

 「はい。彼らの所属する都市は人類統合政府によって治められているとの事です」

 「国連の後継組織ではないのかね?」

モサド長官の答えに更に問いかけるスイス連邦首相。

 

 「違います。我々が大変動後に収集した情報の中で新しい統合政府という意味で言えば、宇宙国家アースガルディア以外にありません。この人類統合政府という存在は、半年前に突如として表舞台に現れた組織で謎が多いのです」

 「人類統合政府に属する12都市とその軍事組織である人類統合政府軍のデータは、墜落したヘリコプターの記録媒体から引き出すことが出来ました」

 

データ類を表示したスクリーンを操作しながら三次元地球儀上に12か所の都市を表示するモサド長官。

 「この12都市は月面から観測した広域電磁シールドの発信地点と一致します」

 

 思いもがけず新しい人類生存圏が発見されたことに動揺を隠せない各国首脳の中から発言を求める首脳が居た。

 

 「地球上に広がったバグズを撃滅してエリア51のシャドウマルスを倒すためにも彼らと共闘するべきではないでしょうか?」

澁澤首相が提案した。

 

 「タロウ。君は火星に居るから分からないだろうが、この大変動と火星のバグズが襲来している状況下において、人類単独の技術で12か所の大都市を束ねる組織が急に現れた事は違和感が有りすぎる。明らかに怪しいのだよ」

ケビンが発言し、イスラエルやスイスの首相が同意と言わんばかりに深く頷いた。

 

 「会議直前に判明した分析結果によると彼ら統合政府の「目的」が判明したとの事です」

 「目的だと?」

 

モサド長官は少しだけ息を長く吸うと告げた。

 「火星に住む異星人とその手先から地球を防衛する。これが彼らの目的です」

 

 会議の参加者は皆、沈黙した。

 人類反攻作戦の攻撃目標がエリア51であることに変わりはないが、新たな生存圏が連合防衛軍に敵対してきた場合の対応については結論が出なかった。

 

 そして、この地球で新たに発見された生存圏を火星諸国へどのように伝えるかでは、統合政府と言う表現だと正当性を相手に与えることになると英国連邦極東とイスラエル連邦が異議を唱え、代替案として「影の帝国『エンパイア・オブ・ザ・シャドウ』」との呼称が採用された。

 

-ーーーーー

2023年7月4日【月面都市内 地球連合防衛軍 月面都市防衛司令部】

 

 ユニオンシティ中央行政庁舎最上階にある臨時司令部では深夜に突然、警報が鳴り響いていた。

 

 「どうしました!?」

寝ぼけ眼の東山が駆け込んで来る。

 

 「地球ユーラシア大陸東部から多数の飛翔体が打ち上げられて真っ直ぐにこちらへ向かっている。数はおよそ100、到着は3時間後」

 制御卓に着いていた結が、抱き枕を膝の上に置いたまま、忙しなく操作をしながら答える。

 

「ユニオンシティ全域に緊急警報。宇宙版アイアンドーム防衛システム稼働。自律型迎撃ドローン展開!」

東山が作戦将校の方を向いて迎撃態勢を指示した。

 

 『司令部!こちら日本国航空・宇宙自衛隊地球派遣群「そうりゅう」所属、特殊機動部隊の高瀬です!迎撃いつでも出れます!』

福音システムの調査で月面都市に停泊していた自衛艦隊から通信が入る。

 

 「接近する飛翔体をデータベースにて照合。旧アースガルディア宇宙軍ミグ98コスモファイターとユニオンシティ戦略宇宙空軍所属、高空・宇宙爆撃機ロッキードB2ステルススターフォートレス!」

レーダー分析官が報告する。

 

 「F45スターファイターをスクランブルさせろ!迎撃ドローンは都市部への侵入を防げ!自衛隊パワードスーツ部隊は都市郊外上空に展開、ドローンが撃ち漏らした敵を排除せよ!」

東山の指示を受けた月面司令部の作戦将校が各部隊へ指示を出す。

 

 「二度目の宇宙戦争の始まりだ」

東山が呟いた。

 司令部のモニターはぐんぐん迫るミグ98の大編隊を映していた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m

【このお話の登場人物】

大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。
東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。
ジョーンズ=地球連合防衛軍オセアニア生存圏司令官。中将。

澁澤 太郎=日本国総理大臣。
ケビン=英国連邦極東首相。
ベンジャミン・ニタニエフ=イスラエル連邦首相。

黄 浩宇(コウ ハオユー)=少佐。人類統合政府軍宇宙機動部隊パイロット。
王 子堅(ワン ズシエン)=准将。黄の上官。人類統合政府軍宇宙機動部隊隊長。
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