転移列島   作:NAO

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月面防衛戦《前編》

2023年7月4日【地球衛星軌道 月面都市「ユニオンシティ」】

 

 かつてユニオンシティと言う新生国家の首都だった場所に、アースガルディアからの独立戦争以来2年ぶりにけたたましい非常サイレンが鳴り響いていた。

 

ロシア人が建国した『宇宙国家アースガルディア』から2021年に独立したこの国の首都は、1990年代から秘かに建設されてきたNASAとアメリカ空軍が極秘裏に開発整備していた観測基地の他、もともとこの月面を「製造した」マルス文明地球観測研究施設の居住区画が融合した興味深い施設である。

 シャドウ・マルスが仕掛けたリリー電磁波による福音システム攻撃によって、20万人を超えていた地球避難民を始めとする人口の大部分が溶解して広大な密林と化したとは言え、たまたま月の裏側のプラントでヘリウム3の収集作業に当たっていた作業員や、パトロールに出動していた部隊が生き残った形で都市に留まり、植物化した国民が再びヒトの姿を取り戻す日が来ることを願い、人間が住める都市として最低限の景観維持に努めていた。

 

 「敵機動部隊が月面都市に接近中!第1種戦闘態勢!基地内の全迎撃機は直ちに発進せよ!」

 慌ただしい口調で呼びかける司令部からのアナウンスは、月面都市に留まる僅かばかりの住人達へ戦闘準備を促していた。

 

【月面都市「ユニオンシティ」防衛軍臨時司令部】

 

 司令部内では様々な部隊や管制官の指示や報告が飛び交っていた。

 

 「シャドウ帝国軍、ラグランジュポイントを超えました!月面都市防衛ライン接触まであと30分!」

 「外郭防衛線 自動迎撃衛星の索敵・攻撃コマンドを自律モードへ移行します」

 「F45迎撃機部隊に告ぐ、外郭防衛線には近づくな!自動衛星の攻撃を食らうぞ!」

 『こちら迎撃部隊グリーンリーダー、ミグ部隊をレーダーで確認した。フェニックスミサイルの射程に入り次第ロングレンジ攻撃を開始する!各隊7機1組でミグ戦闘機に対処しろ!一騎打ちなんて無謀なことはするなよ!』

 「宇宙空母ミッドウェイと巡洋艦インディアナポリスは迎撃部隊後方に展開してミサイルとレールガンで支援砲撃準備!」

 

 「結さん。私達はもはや傍観者ではないでしょうか?」

 東山が隣でふんぞり返ってモニターを眺める結へ自嘲気味に話しかける。

 

 「心構えが足りないわ。司令官とは後方でふんぞり返るものよ」

自ら実演する結だが、ちんまい爬虫類娘がフンスと胸を張る姿は将兵から見れば威厳とは程遠い微笑ましい姿に映るようで、近くを通り過ぎる伝令等はニヤリと片方の口許を吊り上げながらも笑いを堪えていた。

 

 そんな光景を眺めて肩の力が抜けた東山だったが、レーダー管制官の報告に口許を引き締める。

 

 「間もなくF45とミグ戦闘機が接触します!」

 

 モニターの奥の空間で紅蓮の塊があっという間に左右へ拡がった。

 「迎撃部隊交戦状態に突入!」

 

 こうして月面都市防衛戦が始まった。

 

 ミグ98のコクピットから視認できるくらいの明るさでF45が発射した対衛星ミサイル(ASAT)がこちらに向かって急接近するのを黄少佐は冷静に確認していた。

 

 「こちらシャオランリーダー、敵のミサイルは衛星攻撃用で動きは鈍重でこけおどしだ。罠がある筈だ、不必要な回避軌道は取るなよ!」

一直線に迫るミサイルに恐怖を感じた黄よりも経験の浅い数名のパイロットが、隊列を離れて射線軸から回避した。

 直後にミサイル後方から幾筋もの青白い線を引いた弾丸が回避予測地点に撃ち込まれ、そこに回避機動をしたミグ戦闘機が吸い込まれるように接近して機体を撃ち抜かれて爆散した。

 

 「馬鹿が!レールガンの餌食になりやがって!」

黄は毒づく。このやり口は前回の人工衛星攻撃任務でも食らっていたのだ。当時の任務では同じ時期に配属されたパイロットの4分の1が戻って来なかった。

 

 「全機針路上のミサイルに30mm機銃照準。機首のレーザーバリア起動!自分が撃ち落としたミサイルの破片に当たるなよ!」

黄は僚機に指示すると機首にあるレーザーバリアスイッチを入れた。

 

 真っ直ぐに進むミグ98の機首から小さな円形をした直径3mの緑色をした対障害物防御用レーザーバリアが展開された。

 続いて淡く緑色に光る機首の両脇から鈍いうなりを上げて30mm劣化ウラン機銃が発射されて針路の遥か先へ突き進んで行く。

 

 F45スターファイターから発射された宇宙用フェニックス遠距離迎撃ミサイルは、マッハ7の猛スピードでミグ戦闘機に突進したが、針路正面からのウラン弾丸によって次々と破壊された。

 

 「くっ!奴ら知恵を付けていやがる。流石はAIなのか!?グリーンリーダーより各機、敵は戦慣れしている。対空レーザーでの迎撃に切り替えだ!各隊は「一つの目標」へ全員が照準を合わせてレーザーを撃て!レーザー攻撃の後は近接戦だ。ロケットランチャーの準備もしておけ!幸運を祈る!」

ユニオンシティ義勇軍の隊長は矢継早に指示を出すと機首にある化学レーザー砲の照準を接近するミグ98編隊中央に合わせる。

 

 「いいか!ドッグファイトに入ったらレーザー攻撃に拘るな!照準している隙を突かれて30mmを食らう羽目になるぞ!ダメもとで構わんからロケットランチャーからミサイルをばら撒け!」

 

 グリーンリーダー率いるF45スターファイター戦闘攻撃機はきれいなダイヤモンド編隊を組むと一斉にミグ戦闘機群正面に白色の化学レーザーを撃ち込んだ。

 

 黄の左右に展開していた僚機が不意に前方から差し込んで来た白い光線に機体を貫かれて一瞬で爆発する。空気が希薄なので大音量や激しい振動は感じられないが、腹に響くようなズシンとした鈍い振動を立て続けに黄少佐は感じた。

 「シャオラン3、5番機がやられた。レーザーバリア解除、全機散開!エイリアン共を駆逐せよ!」

 

 黄少佐が反射的に操縦桿をグッと真横に傾けると、側面のノズルから姿勢制御ガスが噴出してオリーブ色の機体は急角度で針路を変えて前方から殺到する白い殺人光線を避けた。

 一瞬の判断が遅れた僚機が更に4機も機体を貫かれて紅蓮の炎を一瞬だけ上げて煙玉になった。

 

 「生き残った奴は我に続け!敵編隊を分断して各個撃破する!」

散開したミグ98戦闘機の群れはレーザーとレールガンの弾幕を巧みな機動で躱しながらF45とユニオンシティ義勇軍艦隊へ突撃した。

 

【月面都市「ユニオンシティ」防衛軍臨時司令部】

 

 「敵戦闘機部隊が迎撃部隊を突破!機動艦隊対空戦闘開始!」

 『こちらインディアナポリス、司令部!こちらの迎撃ミサイルは奴らの戦闘機に追いつけないぞ!どうなっているんだ!?』

 「落ち着け、インディアナポリス。迎撃部隊を艦隊護衛に回すからそれまでは近距離レーザーと20mmCIWSの弾幕で凌いでくれ!針路反転180度だ!迎撃ドローンを前進させるから早く戻って来い!」

 「迎撃衛星の自律モード解除!こちらの空母と巡洋艦の後退を援護しろ!」

作戦将校が経験が浅くてパニックになりかけている巡洋艦へ懸命に指示を出していた。

 

 「今度の敵は手強いわ」

戦況パネルを視ていた結が東山に声をかける。

 

 「アースガルディア戦の時よりも宇宙戦闘における練度が向上したのでしょうか?」

次々と味方戦闘機の反応が消えていく戦況パネルを冷や汗を流して視ている東山が応えた。

 

 「この前コア・サテライト人工衛星を襲ったミグ98にレーザーバリアは実装されていなかった筈。対応が素早くて技術的にも優れている」

結が敵戦闘機のスペック表示を呼びだして分析する。

 

 「思った以上にシャドウ側が保護下の人類勢力を上手く活用していますね」

東山が眉を顰める。

 

 「保護されている人類がこうも従順なところが気になる」

結がぼそりと言う。

 

 「こればかりは直接敵兵士に聞いてみない事には分からないですね。イスラエルが事の真相まで容易く話してくれるか微妙ですが」

東山が肩を竦める。

 

 「・・・そうね。ちょっと瑠奈に相談してみる」

物思いに耽る結がとてとてと司令室から研究室に向かっていく。

 

 「えっ?結さんちょっと!戦闘指示はどうするんですか!?」

慌てて結を引き留めるべく東山が後を追いかける。

 

-ーー【地球 欧州 イングランド ブリテン島 ニューベルファスト防衛軍レジスタント基地】

 

 ユーラシア大陸東部の偵察任務から帰還した瑠奈とワイズマン中佐の部隊はひと時の休暇を過ごしていた。

 瑠奈は朝から地下司令部の隣にある女王陛下の控室で女王陛下とロイド提督の三人でひたすら土をこねていた。

 

 「のう、瑠奈よ。そろそろこの土いじりの意味を教えてくれぬかの?」

女王陛下は、ドレスの上に作業用エプロンと言う儀典関係者が見たら卒倒するような服装で床の上で胡坐をかきながら土をこねていた。

 

 「私も同感ですな。ミス瑠奈、この土がレジスタンスに役立つのですかな?」

戦闘衣にこれまた作業着という日曜大工にしては重武装な服装のロイド提督が手を休めずに質問する。

 

 「火山灰と粘土のバランスが絶妙で重さも軽いんっスよ!軽石っスよ!」

瑠奈が二人にニパッと笑顔を向ける。

 

 「軽石は分かるが、こんな軽い石をバグズにぶつけたところでダメージは与えられんだろうに」

呆れた表情の女王陛下。

 

 「違うっスよ!虫なんかに使うのは勿体ないっス!マンスフィールド級に使うんっスよ!」

瑠奈がマンスフィールド級の模型を取り出して粘土の塊でコーティングする。

 

 「この火山灰入りの粘土をタイル状にして空中戦艦の外壁に付けると耐熱・断熱効果が有って真空中でも船体が維持できるっス!」

立ちあがってエヘンと胸を張る瑠奈。

 

 「それは素晴らしい事だがのう。一体どれぐらい作るつもりだ?」

頭の上に?マークを付けたような顔で瑠奈に質問する女王陛下。

 

 「100万枚っス!」

 「いつまでに?」

 「明後日までッス!」

 「ちょっと待てやコラ」

瑠奈の清々しい返事に王族らしからぬ言葉で反応する女王陛下。

 

 「陛下すいません。ミス瑠奈は何かと思い付きで生きる生物でございまして・・・」

 「ロイドおじさん酷いっス!」

 

 「お嬢!こんな所に居たんですか。コントはいいので司令部からの呼び出しに応答してくださいよ」

ワイズマン中佐が控室のドアをノックして入るなり、床で格闘している三人組を見てうんざりしたような顔をする。

 

 「あれっ!?ごめんっス!電源切っていたっス!」

 「ここは平和な日本ではないのですからしっかりしてくださいよ」

うっかりした顔で謝る瑠奈にため息をつくワイズマン中佐だった。

 

 「それで司令部の連絡は何っスか?」

 「お嬢の携帯端末にメッセージは送ってありますから、読んだらすぐに行動して欲しいとの事です」

 

 「また中東司令部からの無茶ぶりな命令っスかね?」

 「いえ、月面都市のミス結からですが?」

 

 「結姉さまっ!」

久々に聞いた懐かしい姉の名前に血相を変えた瑠奈が携帯端末を起動してメッセージを受け取った。

 

 「ふむふむ・・・・。ユーラシア大陸東部に出来た「人類統合政府」の国民について調べろと?」

瑠奈が首を捻る。

 

 「お嬢、あれですよ。先日イスラエル特殊部隊がカザン地区で救助したヘリコプターパイロットの事じゃないですか?」

ワイズマンが指摘する。

 

 「統合政府の情報は作戦会議で発表された筈っスけどね?」

 「ミス結が知りたいのは、パイロット自身の情報じゃないですか」

 

 「イングランドのウチラにどうしろと言うんっスかね?」

 瑠奈は首を捻っていたが、

 

 「さあ・・・・ハッキングなんて勧めている訳ではない様ですし・・・」

 「それっス!!」

ワイズマンの呟きに反応する瑠奈。

 

 「マロングラッセから試してみるっス!」

そう勢いよく叫ぶと瑠奈は階段を駆け上ってマロングラッセに向かう。

 

 「さてと・・・」

ワイズマンも踵を返そうとして階段へ向かおうとしたが後ろから制服を掴まれた。

 

 「まあ、ぬしもちょっと此処に座って土でもこねてみるか?」

素敵な笑顔の女王陛下とロイド提督が泥だらけのエプロンをかけて手招きしていた。

 

-ーーーーー

 

 結局、襲来したミグ98戦闘機の群れは迎撃したF45戦闘機部隊に大損害を与えたものの防衛線を突破する事が敵わずに一時的に地球の反対側へ退却した。

 防衛側のユニオンシティ義勇軍は、主力のF45戦闘攻撃機部隊が戦力の壊滅判断とされる3割を上回る4割の損耗率で事実上壊滅した。月面都市独立戦争時よりも機動性に劣る機体の改修に力を入れたものの、対するミグ98の性能も何故か遥かに向上しており、相対的にドッグファイトで競り負ける形となっていた。

 結の観測によると、退却したシャドウ帝国軍はB2宇宙爆撃機と合流して補給を受けており、再度の来襲は確実だった。

 

 「防衛体制の見直しを考えるしかない」

結が東山と作戦将校に向けて提案する。

 

 「ユニオンシティ義勇軍と機動艦隊は、慣れない戦闘と大きな損害で士気を喪失している。新しい防衛線として、中心に「そうりゅう」と英国連邦極東、ユーロピア宇宙軍の戦闘艦からなる弾幕艦隊、その前面に高瀬のパワードスーツ部隊を展開、左右はエリア防衛用ドローン衛星で固めるわ」

 「高瀬、聞いての通り貴方達の出番よ。頼りにしている」

 

 『いよいよ敵さんの大部隊とガチでドンパチですか!胸が熱いのであります!』

 「攻撃を諦めないという事から、敵は何らかの新兵器を使ってこの月面基地を叩きたいと思っているから用心して」

意気揚々とする高瀬中佐に結が警告する。

 

 結や東山が各部隊と防衛手順の打ち合わせをしていると、再び司令室の非常灯が点滅する。

 

 「衛星軌道の向こう側からシャドウ帝国軍接近!ミグ98戦闘機70、B2S爆撃機20、その後方に大型熱源反応、戦闘艦艇5、識別データありません!」

 「データが無いという事は新型か!火星本部に緊急連絡!分析を依頼しろ、P通信システムで要請しろ!」

 

 「『タカマガハラ』が到着するまでは持ちこたえないとダメよ」

 「ギリギリの戦いになりそうですね」

厳しい状況に結と東山は気を引き締めるのだった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m

【このお話の登場人物】

大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。

【挿絵表示】

*イラストは絵師 里音様です。

大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

【挿絵表示】

*イラストは絵師 里音様です。

東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

【挿絵表示】

*イラストレーター 更江様の作品です。

高瀬 翼=航空・宇宙自衛隊 特殊機動部隊隊長。中佐。
ペレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍特殊部隊隊長。中佐。ミツル商事PMC部門に出向中。ブリテン島で瑠奈と行動を共にしている。

ロイド=地球連合防衛軍ブリテン島レジスタンス部隊司令官。英国連邦極東軍中将。
女王陛下=大英帝国国家元首。避難民を守る為にレジスタンス部隊と行動を共にしている。

黄 浩宇(コウ ハオユー)=少佐。人類統合政府軍宇宙機動部隊パイロット。
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