転移列島   作:NAO

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月面防衛戦《後編》

2023年7月5日(仮グリニッジ標準時)午前1時【月面都市ユニオンシティから10kmの宇宙空間】

 

 ソフィーの駆るサキモリが推進炎の長い尾を引きながらシャドウ艦隊に突入すると、狂ったように対空機銃や対空ミサイル、レールガンが乱射される。

 サキモリは易々とそれらを回避すると、ガトリングガンやミサイルを正確に敵戦艦の砲座に叩き込んで沈黙させ損害を与え続けていた。

 

 わずかに生き残った直援のミグ98戦闘機が相打ち覚悟で突進して来ても、各関節に装備された姿勢制御ガスを利用した巧みな機体捌きでミグ戦闘機を闘牛士のように躱すと、すれ違いざまにガトリングガンを浴びせて撃墜する。

 

 「うわー、この機体超扱い易いよ!」

ソフィー少尉が感嘆した声を上げる。敵弾を回避する操作と応射する操作を同時に行うのは難しい筈だが、ソフィーの駆る機体はターゲットスコープに捕捉された目標に引き金を引くだけの簡単な操作で済んでいた。

 

 「ふっふーん!姿勢制御から目標のロックオン、全方位レーダーによる索敵、何でもこなせる万能兵器ですわ!」

パナ子のどや顔がヘッドアップディスプレイ一面に広がる。

 

 「うおっ!?近いっ!近いから。あと、目標が見えづらいからちょっと脇へどいて!」

眼前に広がったパナ子のどアップに思わずのけ反るソフィー。

 

 「つれないわね・・・。ちぇっ!」

顔面を縮小させてディスプレイの片隅でごろんと背を向けて横になるパナ子。

 

 「ええーっ!?なんで寛いでいるのよこの戦闘AI」

ふて寝するパナ子に呆れるソフィー。

 

 「しょうがないなぁ。戦闘が終わったら幾らでも遊んであげるから機嫌直してっ!パナ子さまっ!」

取り敢えず宥めすかし作戦に出るソフィー。

 

 「いくらでも遊んでくれるのね?よしっ!言質頂きましたっ!そうと決まればちゃっちゃっと終わらせましょう!」

 サキモリが最大推力でバーニアを噴かして一直線にシャドウ艦隊の中心で大型弾頭を装備した宇宙戦艦に突進する。

 

 シャドウ艦隊旗艦「アドミラル・ゴルシコフ」から暴風雨の様な対空機銃やミサイルの塊が噴き上がってサキモリへ向かってくる。

 

 「ええーっ!?ムリムリこんなのマジ避けきれなぃっ!」

操縦桿を思わず引き上げて上昇しようとしたソフィーだが、機体はびくとも反応しない。

 

 「ちょっ!ミサイル当たっちゃう!!」

 「バーサーカーモード発動。レーザーバリアー展開、ガトリングガンから電磁グレネードランチャーへ装備変更」

「なにそのイカれモード!聞いてないよぉ!?」

パナ子の無機質な声で宣言される戦闘モードに焦るソフィー。

 

 サキモリの機体が青白いレーザーバリアーの輝きに包まれた所へ、敵戦艦から放たれたミサイルや機銃弾丸が次々と飛来して炸裂する。

 着弾と爆発がひとしきり収まった後でも、サキモリを包む青白い輝きは衰えることなく、機体には傷一つ付いて無かった。

 

 「人妻たる私の身体に傷を付けるおつもりですのっ!?この下郎共!マスターソフィー、これより敵戦艦大型弾頭に向けて必殺電磁グレネードランチャー攻撃を開始します。ターゲット、敵艦隊旗艦下部大型弾頭!ロックオン!」

サキモリが過熱したガトリングガンをバックパックへ収納すると、入れ替わりに小型弾頭の付いたライフルを取り出して構える。

 

 「ええっ!?AIが人妻っ!?」

パナ子のよく分からないノリと勢いに乗せられたソフィは、突っ込みながらも素直に引き金を引く。

 

サキモリが構えたグレネードランチャーから高熱で白く輝く榴弾が幾筋も発射されると黒々とした戦艦の艦底に露出したミサイル弾頭へ吸い込まれるように着弾していく。

 

 一瞬の間を置いて、戦艦の下部が明るく輝くと、敵戦艦全体が眩いばかりの閃光に包まれた。

 

 艦隊のど真ん中で発生した巨大核爆発により、損傷しながら大型ミサイル発射態勢に入っていた他の艦は強烈な熱線とガンマ線に晒されて弾頭が誘爆、更に他の艦を巻き込んだ核爆発の閃光は広がっていった。

 

 連鎖する巨大な核爆発が収まった後の空間に敵艦隊の姿は無く、蒼白く輝くサキモリのレーザーシールドだけが空間を照らしていた。

 

 「たった1機で艦隊まとめて沈めやがった!」

サキモリの後方で支援に当たっていた高瀬中佐が唖然としてサキモリを見つめる。

 

 「だが、動きがなっちゃいないな。あれは戦闘機乗りの動かし方だな」

高瀬は機体を反転させると『そうりゅう』に向けて針路を取った。

 

 「さて、仕込みがいがありそうだ」

そう呟くと高瀬は、パワードスーツ部隊に母艦への帰還を指示するのだった。

 

【ユニオンシティ 連合防衛軍臨時司令部】

 

 「敵艦隊・・・消滅!」

 「月面都市への放射線被害は皆無。電磁波によるブラックアウト発生せず」

 「サキモリ健在。ダメージ有りません!」

 

 司令部のメインスクリーン一杯に広がった大爆発が収まるとオペレーターが次々と報告を始める。

 

 「思った以上の成果」

東山に向けてフンスと無い胸を張る結。

 

 「私が乗らないで正解でしたよ」

応える東山。

 

 「とは言え、これで奴らの攻撃が止まるでしょうか?」

結に近づいてきた作戦将校が訊く。

 

 「止まらないわ。次はもっと強烈な手段で挑んでくるかもしれない。だからその前に-ーー」

結がメインスクリーンを操作して火星方向から迫る明るい光点群を捉える。

 

 「こちらから地球へ打って出るのよ!」

 

 メインスクリーンには急速に接近する日本列島オブジェクトとマルス基幹母艦船団が映し出されていた。

 

-ーーーーー

【地球 欧州イングランド ブリテン島 地球連合防衛軍(UEDF)ニューベルファスト レジスタンス基地司令部内】

 

 司令部隣室で耐熱タイル製作に励んでいた女王陛下とロイド提督の前で、瑠奈は腕を組むと床の上に座り込んだワイズマンを見下ろして詰問した。

 「瑠奈の知る限り、人類統合政府軍のヘリコプターパイロットは不時着時の傷が原因で死亡したとあるっスけれども・・・」

 

 「何で死因が『老衰』なんスか?」

 

 普段全く見られない瑠奈の真面目な顔に只事ではない事を悟った女王陛下とロイド提督は、何も言わずに隣に座るワイズマン中佐に視線を向ける。

 

 「やっぱり・・・辿り着いてしまいましたか、お嬢」

俯きながらため息をつくワイズマン中佐。

 

 「私レベルの佐官は多くを知らされてはいませんがね。要するに奴らはクローンですよ」

静かに話すワイズマン。

 

 「クローン人間など、国際的に禁止されていたはずだが?」

ロイド提督が思わず訊く。

 

 「そんなの、当時の中国やロシアが真面目に守る訳ないじゃないですか」

俯いたまま、失笑しながら答えるワイズマン。

 

 「我々イスラエルでさえ、大変動直前まではヒトDNAの解析を、モサド傘下の製薬会社と米国DARPPA(ダーパ:国防高等研究計画)で共同研究していた程ですぜ」

 「モサド本部は、エリア51に潜むシャドウ・マルス人のダグリウスが、壊滅したロシアや中国の秘密都市から収集したデータを引き継いでクローン人間を開発したと推測していますぜ」

 

 瑠奈が眉を顰めて嫌悪感を露わにしつつも質問する。

 「で、出来たクローン人間にはやはり欠陥があったっスか?」

 

 「その通り。救助したパイロットは数時間のうちに生命機能が低下して死亡。保健省の分析によると普通のヒトよりも細胞の劣化速度が恐ろしく早い上に新陳代謝機能が無きに等しいそうで2、3年で「寿命」を迎えるらしいですぜ」

 

 「人類統合政府の国民とやらは皆、そのようなクローン人間ばかりだと?」

沈痛な面持ちの女王陛下が訊く。

 

 「支援も無い孤立した都市が今日まで20万の人口を維持しながら存続できる筈がないでしょう?恐らくシャドウ・マルスが一気にクローン人間を大量作成して、それを各地に広げたのが人類統合政府と呼ばれる存在の正体なんですぜ」

ワイズマンが答えた。

 

 「それともう一つ。パイロットの頭蓋骨内部でナノサイズICチップが検出されましたよ。これは国民の位置情報監視だけではなく、日常的に外部から思考介入を受けていた形跡が残されていたようですぜ」

 

 「SFホラー映画よりもおぞましい話だ」

顔を顰めるロイド提督。

 

 「それにしても・・・」

瑠奈は腕を組んだまま小首を傾げる。

 

 「どうしてイスラエル連邦は事実を各国に伝えないんっスか?」

 

 「お嬢には人類の政治世界は理解し難いのかも知れませんね」

ワイズマンが顔を上げて瑠奈を見る。

 

 「あわよくば、シャドウが開発した240万のクローン人間をそっくり引き継いで自国に都合の良い手先として利用したいのでしょう。急激な老化や思考制御が課題ですがね」

そう言うと皮肉気にワイズマンは口を歪めた。

 

 瑠奈も女王陛下もロイド提督も、誰もが酷い事実に言葉を失っていた。

 

-ーーーーー

 

【地球 ユーラシア大陸東部 旧中華人民共和国 黒竜江省 第12都市(旧ハルピン)】

 

 「少佐、おはよう。良い夢は見れたかね?」

まだ思考に霞がかっておぼろげな顔をした黄が目を醒ました。

 

 病室のべッドから身体を起こした黄は周囲を見回す。赤い壁と緑の天井は見慣れた人民解放病院の一室に違いない。

 

 「あれ?ここは・・・。確か私は宇宙で任務中に・・・」

黄は最期の記憶を手繰り寄せようと試みる。

 

 「何を言っているのかね?」

窓際の椅子に座っていた将校が立ち上がって語りかける。

 

 「君は選ばれたのだ。ようこそ!栄えある人類統合政府軍特殊機動部隊へ!」

窓から差す日光は火山灰で遮られているにも関わらず、明るく降り注いでいた。

 明るい日差しに目を細めた黄に、サングラスをかけた将校が手を差し出してきた。

 

 「『初めまして』私は人類統合政府軍宇宙機動部隊隊長の王准将だ。今日から私達は宇宙に飛び立って人類を護る盾となるのだ」

 サングラスの奥で縦長の瞳を細めた2度目の王がわずかに口許を緩め、黄の3度目になる誕生を歓迎した。

 

ーーーーーー

 

2023年7月7日【月面都市ユニオンシティ上空5km 航空・宇宙自衛隊多目的護衛艦『ホワイトピース』】

 

 おはようございます!ソフィーです!ヒロインです!

 なんちゃって、てへぺろ。

 今、私は日本自衛隊の宇宙空母「ホワイトピース」に乗って地球へ向かうところです。

 

 二日前の戦いが終わった後、私はAIのパナ子ちゃんと沢山遊ぶ筈だったんだけど、シティに帰投したら直ぐに日本軍、違った、自衛隊?の人に捕まってサキモリに乗った経緯を説明したり、義勇軍のお偉いさんから待機命令違反だとこっぴどく叱られて義勇軍をクビになったりで涙目になりました・・・私これでも月面都市を救ったヒーローなのに。

 でも、トカゲ娘さんの力添えでミツル商事という私達を北米大陸から脱出させてくれたニッポンの会社の警備部門に就職できました!イエィ!ニッポンの一流企業に試験なしで入れたyo!お母さん!

 

 それで今は自衛隊にシュッコウ?派遣?扱いになって、「ホワイトピース」とかいうパクリ感満載の宇宙空母に乗っています。えっ?空母じゃなくて護衛艦?まあ、細かい事はいいんですっ!それと私は2階級特進して大尉になりました。戦艦を5隻撃沈したから「赤いコメット」だから機体を赤く塗らなければ、と意味不明なネタで興奮気味に赤いスプレー缶を振りかざすトカゲ娘さんを必死に取り押さえましたわ。白とブルーの塗装最高!

 

 ホワイトピース飛行隊にはサキモリと同じ機種の機体が配備されているけど、AI搭載型は私だけらしい。正式配備するにはまだまだ研究が必要なのだとか。私、モルモットなの?

 

 これから私が所属するパワードスーツ部隊はホワイトピースと共に地球へ降りてネバダに在る邪悪な宇宙人の基地を叩くのだとか。隊長の高瀬中佐はあのパワードスーツをAI補助なしで操作してるんだって、凄いね。イケメンだけど無口でクールな人ね。幾つかしら?ちょっと気になるかも・・・。

 

 そういう事だから、心配しないでね、天国のお母さん。

ソフィーより

 

 格納庫でサキモリのコックピットに潜り込みながら今日の手紙を書き終えたソフィー大尉は、ブリッジからの呼び出しコールを取る。

 「ソフィー大尉。至急ブリッジまで来て下さい。地球で特別重大放送があるらしいですよ?」

 

 ソフィーはAIのパナ子を携帯端末に移し終えるとコクピットを出てブリッジへ向かった。

 ブリッジには艦長の名取大佐、隊長の高瀬中佐や、他のパワードスーツ部隊の隊員達、ミッドウェイから転属してきた整備班長の親父さんが勢ぞろいしていた。

 

 ユニオンシティを映していたブリッジの正面スクリーンにノイズが走ると重厚な音楽が流れて演壇に立つサングラスをかけた軍服の白人男性が映し出された。画面のテロップには「全世界衛星生中継:第12都市 人類統合政府主席 ダグラス・マッカーサー三世」と表示されている。

 

 「地球人民の皆さん。4年前、西側と呼ばれる一握りの国々が不用意に起こした戦争によって地球は核の炎で焼き払われ、地球環境は劇的に悪化し、人口の大半が死に至りました」

「西側諸国は、1世紀余りに渡って地球人民が生み出した富の大半とあらゆる資源を搾取し続けていました」

「私達選ばれた12都市の地球人民は、西側諸国が不当にもたらした苦しい時代を生き抜いて、人類復興の礎を築かんと今日まで苦難の行軍を続けてきたのです」

 

「しかし、地球人類の新たな敵が火星から飛来する事が判明しました。侵略者は既に月に到達、NASAの月面基地を占領しました。このままだと火星の侵略者が母なる地球へ降り立つのも時間の問題でしょう。ですが、私達人類統合政府は、異星人の魔の手から地球人民を守る為に立ちあがりました!正義は私達人類統合政府にのみあるのです!侵略者へ聖戦による裁きの鉄槌を!立てよ人民!統合政府万歳!地球人類万歳!人民が信じる神々の祝福があらんことを!」

 

 マッカーサー三世の演説が終わると集まった聴衆が、熱狂的な拍手と歓声を上げて応えた。感極まって号泣する者も少なくない。

 再び重厚な演奏が演説会場に響き渡り、演説会場の上空をミグ戦闘機のダイヤモンド編隊が灰色の空にキャンバスを描くように七色のスモークを吐き出して飛び去った。

 聴衆の興奮は最高潮に達した。

 

 「何て酷いプロパガンダだ」

名取大佐が吐き捨てるように呟く。

 

 「・・・何ですかこれは?シャドウ・マルスはAI集合体のロボット達じゃなかったのですか!?」

ソフィーが呻くような声を出す。

 

 「これが、我々の本当の敵の姿だ!」

艦長の名取大佐が決然とソフィーの方を向いて答える。

 

 「ダグラス・マッカーサー三世。彼こそがマルス文明の異端科学者であり、究極のマッドサイエンティストであり、人類史上最悪の虐殺を引き起こした全ての元凶だ!」

 

 ソフィーは熱狂する聴衆に手を挙げて応えるマッカーサー三世の姿を暗く淀んだ瞳に焼き付けるのだった。

 「・・・こいつが、お母さんの仇」 




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m

【このお話の登場人物】

大月 結=マルス文明「尖山基地」管理人工知能。マルス三姉妹の二女。
東山 龍太郎=内閣官房首相補佐官。日本国地球方面特別全権大使兼ミツル商事地球方面支社長兼連合防衛軍月面基地司令官。ひかりの大学時代の同級生。大月家と関わりを持つ苦労人。

ソフィー・マクドネル=ユニオンシティ義勇軍戦闘機パイロット。少尉。17歳、女性。
パナ子=機動兵器サキモリの機体制御システムを担当している人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。
経済産業省HP内 AI出逢い系サイトの常連。AI彼氏が居る(「人生相談」ご参照)。

高瀬 翼=航空・宇宙自衛隊 特殊機動部隊隊長。中佐。



大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

ペレス・ワイズマン=イスラエル連邦国防軍中佐。ミツル商事警備保障(民間軍事会社)に出向中。瑠奈率いるレジスタンス部隊の副官。

名取=航空宇宙自衛隊多目的護衛艦「ホワイトピース」艦長。大佐。

ロイド=地球連合防衛軍ブリテン島レジスタンス部隊司令官。英国連邦極東軍中将。
女王陛下=大英帝国国家元首。避難民を守る為にレジスタンス部隊と行動を共にしている。

黄 浩宇(コウ ハオユー)=少佐。人類統合政府軍宇宙機動部隊パイロット。
王 子軒(ワン ズシエン)=准将。黄の上官。人類統合政府軍宇宙機動部隊隊長。

ダグラス・マッカーサー三世=人類統合政府主席。マルス人。異端科学者「シャドウ・マルス」とも言われる。ヒトの姿に擬態し、長年にわたり人類社会に潜伏していた。
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