転移列島   作:NAO

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誰が為の

2023年7月8日【地球衛星軌道上】

 

 「ワオ!おっきいな!空飛ぶ大陸じゃん!」

パワードスーツ『サキモリ』のコクピット内ディスプレイ一杯に広がる日本列島オブジェクトを目の当たりにしたソフィー大尉が感嘆の声を上げる。

 

 これが「本物の」日本列島であれば、大都市で輝くネオンの連なりが織り成す美しいイルミネーションとなって目を楽しませるのであろうが、「オブジェクト」たるタカマガハラには数か所に点在するイスラエル連邦軍基地の僅かな灯りしか見えず、灰色に鈍く輝く地球を背景に、長大な暗黒の岩塊が宇宙を漂っているに過ぎない。

 

 「ソフィー、これは日本列島オブジェクト「タカマガハラ」と言って日本列島喪失で発生した地殻変動を抑える為の人工質量均衡保全装置ですわ。タカマガハラの由来は、古代日本に神様が降臨した最初の場所を言い表しているのですわ」

パナ子がどや顔で平らな胸を張って自慢げに説明する。

 

 「へ~、そっか。ところでパナ子さぁ、出撃前にも言ったけど、戦闘中はディスプレイに出て来ないで!目標が見づらいのよ」

 「何ですとっ!不敬な!パナ子様のご尊顔を拝めるだけでも秋葉原界隈ではご褒美だと言うのに、この罰当たり者!」

 

 「ご褒美ですって!?そんなダサい恰好で?受けるー」

ぷーくすくすと笑うソフィー。

 

 「なっ!?クワーッ!!」

パナ子が天罰とばかりに操縦桿を握るソフィーの手にバチッと電気ショックを加える。

 

 「あ痛ッ!何すんのよ!?白魚のような華奢な手に暴力とは!帰投したらDVで艦長に訴えてやる!」

 「人間じゃなくて私はAIですわ。DV関係ないですわ。はい、論破ですわ!」

 「きぃ~!」

コクピットで地団駄を踏むソフィー。

 

 「ソフィー大尉、任務中だ!私語は慎め!」

 「パナ子君も、度が過ぎるとパイロットへのパワハラで美衣子さんや結さんに報告しなければならんから程々にしてやってくれ」

 

 「失礼しました!中佐殿」

 「・・・さーせんですわ。隊長」

 

 ソフィー大尉の操る「サキモリ」は衛星軌道上で自衛隊PS高瀬部隊の一員として日本列島オブジェクト「タカマガハラ」の護衛任務に就いていた。

 

 PS部隊から離れた所には、タカマガハラから出撃した母艦である「ホワイトピース」、ユニオンシティ義勇軍宇宙空母「サラトガ」と「そうりゅう」「リシュリュー」がオブジェクトに並行して航行しており、艦隊の周囲はサラトガに搭載されていたF45宇宙戦闘機が展開していた。

 

 衛星軌道上に到達した際、ユーラシア大陸や北米大陸から打ち上げられたシャドウ帝国軍迎撃部隊と戦闘になったものの、PS部隊の活躍で迎撃部隊をナスカ基地へ撃退していた。

 

 ソフィー大尉の眼前一杯を超えて広がるタカマガハラから、チカチカと時折光が瞬く度に幾つもの流星が赤く輝く尾を引きながら地上へ落下していく。

 

 「アステロイドベルトから持ってきた岩石を落として空爆支援しているですの。ニュートリノビームで核兵器が無効化された北半球では効果的な戦術ですわ」

パナ子が説明する。

 

 「そうかなぁ?核以外にもヤバい兵器が地上にはまだわんさか有るんじゃないの?」

当然の疑問を口にするソフィー大尉。

 

 「ですから、タカマガハラが降下している間にEMP爆弾で作戦地域にある全ての電子機器をショートさせるですわ」

 「味方も巻き込むんじゃない?」

 「鉛で防護された設備ならば電磁波は遮断されるから例外ですわ」

 「敵にも防護設備が有るんじゃない?」

 「在るでしょうけど全軍を守るには数が足りないですの。少数の部隊が動けたところで私達の攻撃を防げないですわ」

 

 「なんだ、楽勝じゃん」

月面都市の即席士官教室で地上戦は長期化するものだと教わっていたソフィーは、意外に楽観的な展望に安堵のため息をつく。泥沼の地上戦は憂鬱だろうと感じていたのだ。

 

 「そうですわ」

戦術予測AIからの回答を引き出していたパナ子は当然とばかりに断言する。

 

 「おい、また私語が多くなってきたぞ!任務に集中しろ!」

 「「・・・(申し訳ございません!)さーせんm(__)m」」

 

 ソフィー大尉とパナ子に注意しながら高瀬中佐は、果たして都合良く戦闘が展開されるだろうかふと不安になるのだった。

 

 『こちら『タカマガハラ』間もなく極東降下コースに入る。大気圏突入による高温摩擦熱の影響で約30分間、通信や爆撃支援等が不可能となる。これまでの貴官らのサポートに感謝する!』

日本列島オブジェクトに駐留して制御しているイスラエル司令部から通信が入る。

 

 『マルスアカデミー『タカマガハラ』支援船団のリアです。これよりPパワーシールドを展開してタカマガハラの地球降下スピードを減速、大気摩擦熱をなるべく抑えつつ、極東地区への安定着陸を目指します』

 

 「こちらホワイトピース。タカマガハラとマルス船団の無事を祈る」

名取が返信する。

 

 やがて『タカマガハラ』とマルス基幹母艦船団が艦隊から離れると、地球の大気圏に接触したタカマガハラの周囲が摩擦熱で赤く輝き始める。

 同時にタカマガハラ周囲に展開していた20隻余りのマルス基幹母艦から、緑色に輝く帯状のビームが伸びるとタカマガハラを包みこんでシールドを形成する。

 

 緑色のシールドに包まれたタカマガハラは大気に接触した外縁部を赤く輝かせながらゆっくりと下降を始める。

 

暫しの間、赤く輝く長大な岩塊が緑色に薄く光るシールドに包まれて地球へ降下する幻想的な光景に魅入っていたホワイトピースやPS部隊の面々だったが、突然の警告音が響いて皆を現実に引き戻す。

 

 「艦長!南米ナスカ、北米フェニックスから上がった敵迎撃部隊が艦隊に急速接近中!」

 「PS部隊は艦隊前面に進出して迎撃!F45は一旦「サラトガ」に帰投、入れ替わりに零7戦闘機隊を出撃させろ!」

 

 月面攻防戦から働き詰めで消耗していたF45戦闘機に代わり、火星から到着した増援の『三菱零7型宇宙戦闘機』の編隊がホワイトピースから発進する。

 

 「ほう、ようやく実践投入か。技本(防衛省技術本部)もマジになったか」

高瀬中佐が呟く。

 

 高瀬が操るPS21をスッと追い越した零7戦闘機隊は、前方から迫るミグ98戦闘機に小型ミサイルと30mmバルカン砲を叩き込むと急角度でUターンして高瀬の前を颯爽と飛び去る。その動きは直線的なF45の機動に比べると遥かに軽快だった。

 

 「流石、宇宙戦闘機」

零7戦闘機の機動を視て思わずヒューと口笛を吹く高瀬。

 

 零7戦闘機のミサイルはロケット弾並みに小さいが、AI制御された自律追尾システムが起動して正確にミグ戦闘機を捉えて紅蓮の焔と煙の球体へと変えていく。

 

 「我々も負けてられないな。全機突撃、タリホー!」

高瀬率いるPS部隊も次々とガトリングガンや背面ランチャーからミサイルを連射して接近するミグ戦闘機を次々と撃破していった。

 

 「前衛PS部隊、零7戦闘機部隊が敵迎撃部隊を押し戻しています!」

 「北米大陸西岸バンデンバーグとユーラシア中部ゴビ砂漠から新たな熱源反応!敵増援部隊が発進中の模様!」

 

 「頃合いだ。EMP爆弾投射準備!目標北米大陸中央部、ユーラシア大陸シベリア、同ウラル山脈上空高度400kmにセット!」

 「EMPミサイル安全装置解除、ランチャーセット!」

 

 名取がEMPミサイル発射を号令する寸前に通信オペレーターが叫ぶ。

 「艦長!!市ヶ谷から緊急通信!EMP攻撃中止命令です!」

 

 「何だ!何が起こった!?」

思わず座席から腰を浮かせる名取。

 

 「市ヶ谷から「内閣法制局がEMP爆弾の使用は非核三原則に抵触すると指摘してきたので核弾頭を用いた兵器の使用は禁止する」との事です!」

 

 想定外の状況に思わず絶句する名取。

 

 『こちら欧州アルプス拠点、シャドウ帝国軍が反撃に転じた!バグズ大挙襲来中。現有戦力での防衛は困難。速やかなEMP攻撃を要請する!』

 「こちら衛星軌道艦隊。現在司令部からEMP攻撃中止命令が出ている。要請には答えられない」

 

一瞬、アルプス拠点は言葉を失った様子だったが、すぐに新たな支援を求める。

 「では、デブリ空爆を要請する。戦線後方に集中投射してくれ!いくら撃ってもバグズが減らないんだ!」

 「タカマガハラは3分前に大気圏突入してブラックアウト中。あと30分は空爆要請が出来ない」

 「何だそれは!話が違うじゃないか!こっちは作戦通り全戦力を攻勢に出しているんだぞっ!」

 

 「艦長!地上からの敵増援が迎撃部隊に合流して接近中!」

 

 激怒した前線からの通信と自身の艦隊の危機に、名取は懸命に身体の中で渦巻く憤りを抑えながら冷静さを装って指示を下す。

 

 「いかなる犠牲を払ってでも、タカマガハラとマルス基幹母艦船団を無事に極東へ降下させるんだ!それが反攻作戦の要だ!サラトガからも全機発進させろ!「そうりゅう」「リシュリュー」を前に出せ!」

 

 名取は艦長席にドカッと腰を下ろして命令する。

 「本艦も前に出る!何としても此処で持ちこたえねばならん!」

 

 「市ヶ谷を呼び出せ!桑田さんに直接話を付ける!」

 

 衛星軌道上での戦闘は激しさを増していった。

 

-ーーーーー

 

【火星日本 東京都新宿区市ヶ谷 防衛省(地球連合防衛軍司令部)】

 

 『桑田隊長!何を考えているんですか!この期に及んで法的拘束力云々の議論をしている場合ではないでしょう!?』

モニターに映る名取大佐の顔が怒りで赤く染まっていた。言葉遣いが、桑田の先任下士官として指導した頃に戻っているのにも気付かない程だった。

 

 『現在地球各地の防衛軍拠点がシャドウ帝国軍の反撃を受けて全滅の危機に晒されています!衛星軌道上のわが艦隊にも多数のシャドウ帝国軍迎撃部隊が殺到中です。今、使える兵器を全て投入しないと反攻作戦は失敗します!』

懸命に訴える名取大佐。

 

 「名取、すまんっ!今総理と岩崎さんが野党と官僚の説得に乗り出してーーー「次元が違いますよ」」

桑田防衛大臣の釈明を遮る名取。

 

 『誰の為の憲法ですか?人類が異星人に滅ぼされかねない状況でそのような事を考慮せねばならないのですか?我々人類の生存権よりも我が国固有の事情である核の不使用を優先するのですか?』

 

 『この闘いは人類同士の戦争ではありません。侵略してきたエイリアンとの防衛戦争です。我々は日本国民として憲法を順守する立場にありますが、一国の国内事情で人類全体に損失をもたらす事態は本末転倒ではありませんか!?』

たたみ掛けるように問いかける名取。

 

 名取の問いに、司令部の誰もが内心同意していたので誰も、反論しなかった。

 

 『桑田隊長、地球連合防衛軍司令部としてEMP攻撃のご指示を』

 

 名取の鬼気迫る表情と説得に押された桑田は、無言で頷くしかなかった。

 

 地球衛星軌道上の艦隊がEMP攻撃のカウントダウンを再開する中、桑田は背広の内ポケットに右手を忍ばせると常時携帯している自身の辞職願を無言で握りしめた。

 

【東京都千代田区永田町 首相官邸】

 

 「総理、桑田防衛大臣がEMP攻撃を承認しました。それと、口頭で作戦終了後に辞職したいと申し出がありました」

岩崎官房長官が報告する。

 

 「辞職願は保留だ。桑田君の心中は察するに余りある。当たり前だ。思いもしない所から作戦に横やりを入れられたのだからな!本来であれば攻撃開始後に緊急記者会見で事後報告するシナリオではなかったのかね?何故、攻撃開始前に法制局へ情報が漏れたのだ?」

桑田に同情的な澁澤が、隠しきれない憤りを見せて訊く。

 

 「おそらく、連合防衛軍司令部の作戦案を閣議決定した直後でしょう」

 「流出先が内閣法制局とは言え、軍事機密の漏えいは、明らかにアウトだ」

 

 「今回の作戦情報は内閣法制局が自ら動いて収集した物ではなく、他のルートで漏れたのでしょう」

岩崎が言葉を選びながら答える。

 

 「だとすると、閣僚の誰か又は同席していた各省の秘書官の誰かがリークしたと言うのかね?」

 「その線が濃厚でしょう」

 

 「野党が珍しくマスコミにアピールせずに事前協議を申し出て来たのが不幸中の幸いか?」

 「いえ。作戦進行に大きな影響が。シャドウ帝国軍に反撃の隙を与えた様です」

 

 澁澤が執務机の上で頭を抱える。

 「NPT(核拡散防止条約)もIAEA(国際原子力機関)も存在しない火星において、国会決議だけで法的拘束力のない国内事案を、何故このタイミングで持ち出して連合防衛軍の足を引っ張る真似をするのだ?理解に苦しむ・・・」

 

 「内調(内閣調査室)に情報漏えい者の背後関係も含めた詳細を調べるように指示しますか?」

 「いや、まだだ。反攻作戦が成功するまで内輪の揉め事を明らかにするのは何の利益もない。あたりを付けるだけで今は充分だ。野党や官僚共への口封じは逆効果だろう」

 

 澁澤は執務室の窓際から梅雨空を見上げる。

 明け方に一度弱まった雨足が再び強くなり、しとしとと間断なく降り始めていた。

 

ーーーーーー

 

【北米大陸 人類統合政府第1都市『エリア51』( 旧アメリカ合衆国ネバダ州グルームレイク )】

 

 「月面から接近する敵艦隊に対し第12都市防衛軍に加え、第6都市ナスカ、第7都市フェニックスの迎撃部隊が合流、交戦中」

 「衛星軌道上から超巨大要塞と宇宙戦艦が減速しつつ降下中。推定降下地点は極東地区」

 

 「中部ヨーロッパ戦線、間もなくコーカサス地方からのサイボーグワーム群が合流して反撃予定」

 「西ヨーロッパ、イングランド島に侵略軍が来襲。北海のワーム群で対応中。ダンケルク海岸のサソリモドキ群を向かわせます」

 「インド洋東部からも侵略軍来襲中。第8都市キリマンジャロと第9都市ニューデリーの残存統合軍がディエゴガルシアにて防衛線を構築、迎撃します」

各地から忌々しい火星侵略軍の攻勢報告が入る。

 

 「隕石爆撃はどうなっている?」

縦長の瞳孔を持つダグラス・マッカーサー三世ことダグリウスが配下のクローン爬虫類人兵士に訊く。

 

 「第8、第9都市が迎撃部隊出撃時のシールド解除を突かれて直撃を受けましたが、超巨大要塞の大気圏突入を境に爆撃が止んでいます」

 「EMP攻撃は?」

 「ありません」

 

 「ふむ、奴ら詰めが甘いな」

鼻を鳴らすダグリウス。

 

 「だが、こちらにとっては好都合だ。ここで手を打たないとせっかく手に入りかけている惑星規模の実験室を逃すことになるからな」

ダグリウスは呟いて鱗に覆われた手を赤い受話器に伸ばす。

 

 「私だ。全てのクラーケンに通達。荷物を放出しろ」

 

 シャドウ・マルスの反撃が始まった。

 

-ーーーーー

【衛星軌道上 『ホワイトピース』CIC(戦闘管制室)】

 

 EMP攻撃のカウントダウンを再開している最中に地上監視レーダーの警報が鳴り響く。

 

 「南米ベネズエラ沖、アフリカマダガスカル沖から弾道弾多数発射されました!尚も増加中!」

 「どこを狙っている!?」

 

 「推定弾道計算によると、落着予想地点はオーストラリア大陸中央、トルコ中部、アルプス山脈、イングランド島全域!」

 「弾道弾50基を捕捉!ロフテッドコースを取っています!通常の防空ミサイル迎撃可能高度限界を突破!」

 

 「宇宙で迎撃するしかないのか!?」

 「シャドウ帝国軍迎撃部隊の攻撃が激しく、こちらからミサイル迎撃に回せる戦力が有りません!」

 

 「月面都市にニュートリノビーム攻撃を要請しろ!」

 「素粒子エネルギー充填に時間がかかり過ぎて間に合いません!」

 

 「地上の各基地へミサイル警報発令!可能な限り予測弾道を伝達!タカマガハラにも支援を要請し続けろ!」

 「オセアニア、カッパドキア基地のイージス・アショア稼働開始、迎撃ミサイル発射しました!」

 

 「アルプス拠点バグズの攻撃でイージス施設が大破、迎撃システム作動出来ません!ニューベルファストには迎撃施設、有りません!」

 

 CIC士官は黙考した後にブリッジに居る名取にコールする。

 「艦長!EMP攻撃の延期と、『サキモリ』によるミサイル迎撃を進言します!」

 

-ーーーーー

【地球 欧州 イングランド島北部 ニューグラスゴー沖の北海】

 

 暗い灰色の海の上空に浮かぶマルス戦闘艦『マロングラッセ』からポンポンと白く輝くプラズマエネルギー弾が撃ち出されると、海岸に群がっていたサイボーグワームの群れの真ん中で炸裂して周囲を紅蓮の炎で焼き尽くす。

 

 炎から逃れたサイボーグワームも居たが、海面に浮上していた多目的戦闘艦『レナウン』から矢継ぎ早に撃ち込まれる巡航ミサイル攻撃で反撃する暇も無く身体を四散させていった。

 

 「ミス瑠奈、海岸の敵は一掃されたようだ。上陸部隊を出すかね?」

レナウンに乗り込んでいるロイド提督が瑠奈に訊く。

 

 「そうっスね!マロングラッセを海岸に着陸させるっス!橋頭保にすれば良いっスよ!」

瑠奈は応えるとマロングラッセを海面近くまで降下させるとニューグラスゴー海岸に着陸させる。

 

 「まずは、念のために「火星蛭」放牧!ご飯の時間っスよ!」

マロングラッセの側面が開くとコンテナから火星蛭の群れが元気良く飛び出して陸地奥へ進んで行く。

 

 海岸からニューグラスゴー基地へ向かう道中の瓦礫から生き残りの巨大ワームやサイボーグワームが現れて襲い掛かっても意に介することなく嬉々として「獲物」に喰らいつく火星蛭だった。

 

 「今日もお茶目で活きの良い蛭っ子っス!」

元気一杯な火星蛭に喜ぶ瑠奈。

 

 「・・・何度見ても生理的に受け付けないのだが」

モニター越しに眺めても蛭の捕食行為に吐き気を催すロイド提督だった。

 

 「無理もないっス!昆虫や爬虫類の類は、人類が太古の昔から恐怖と共に刻まれている天敵っスからね!」

人類に嫌悪感を催すこの種の「生物兵器」はやはり使用しないに限るっス、と瑠奈は心に留め置く。

 

 「基地までは火星蛭っ子達が掃除してくれたからそろそろ占領部隊を出すタイミングっスかね?」

瑠奈がイスラエル特殊部隊を出そうかと考えていると、司令部からのミサイル警報が届く。

 

 「アルプス山脈基地とイングランド島全域に核攻撃っスか!?」

瑠奈は思わず絶句する。

 

 「EMP攻撃が中断された隙を突かれた様だ」

ロイド提督が応える。

 

 「アルプス基地の迎撃施設はバグズ襲来で大破、ニューベルファスト基地にはレジスタンス基地としての機能はあるが、弾道ミサイル迎撃システムは配備されていないのだ」

 「瑠奈が迎撃するしかないっスか・・・」

 

 「間に合うのか!?」

 「出来ないから何もしないのはもっと不味い気がするっス!」

 

 身軽になるために取りあえずイスラエル特殊部隊を下ろした瑠奈は、マロングラッセを急上昇させて迎撃態勢を整える。

 

 「こちらに来るミサイルは・・・50基っスか!?」

絶句する瑠奈。

 

 「・・・ちょっと全部は無理かも知れないっスね」

引き攣った笑顔で小さく呟きながら迎撃パターンを検討する瑠奈だった。

 

【イングランド ブリテン島 ニューベルファストレジスタンス基地】

 

 基地のサイレンが最大音量で鳴り響いて核シェルターへの避難を促していた。

 地上施設の隊員や避難民が一斉に地下施設に避難しようと逃げ惑い、女王陛下や侍従、将校達が懸命に誘導していた。

 

 「おい!あんた何やっているんだ!?」

シェルターへ向かう途中の整備士が、F45戦闘機に乗り込んで地上へ向かうカタパルトを操作している兵士に声を掛ける。

 

 「俺はゴラン高原の前線時代から穴倉に籠もるのは苦手でしてね。いっそダメ元でミサイルを迎え撃った方が性に合っているんでさぁ」

 

 整備士が制止しようと機体に近づく前に、電磁カタパルトが稼働して機体を速やかに地上へ押し上げていく。

 

 30秒後、ミサイル警報で混乱するニューベルファスト基地から1機のF45戦闘機が離陸して真っ直ぐと宇宙へ向かった。

 

 アルプスとイングランド島全域を標的にした50基のミサイルが、弾道の頂点を過ぎて落下速度を増そうとしていた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は2月17日㈰に投稿予定です。

【このお話の登場人物】

大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。

【挿絵表示】

*イラストは絵師 里音様です。

ソフィー・マクドネル=ユニオンシティ義勇軍大尉。パワードスーツ『サキモリ』パイロット。17歳、女性。
パナ子=機動兵器サキモリの機体制御システムを担当している人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。
経済産業省HP内 AI出逢い系サイトの常連。AI彼氏が居る(第90話ご参照)。

【挿絵表示】

*イラストはお絵描きさん らてぃ様です。

高瀬 翼=航空・宇宙自衛隊 パワードスーツ部隊隊長。中佐。

名取=航空・宇宙自衛隊 多目的揚陸艦『ホワイトピース』艦長。大佐。
桑田=日本国防衛大臣。
澁澤 太郎=日本国総理大臣。
岩崎 正宗=日本国内閣官房長官。

ロイド・サー・ランカスター=地球連合防衛軍ブリテン島レジスタンス部隊司令官。英国連邦極東軍中将。

リア=マルスアカデミープレアデスコロニー木星再生支援船団先遣隊隊長。

ダグラス・マッカーサー三世(ダグリウス)=シャドウ・マルス人。人類統合政府主席。
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