・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球に降ろされた。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。
・モウゼ=マルス人。観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
・ユダ=マルス人。観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
日本列島が消滅する15000年前【日本列島九州地方 高天原】
アダムスキー型脱出シャトルに装備されていた、蒼黒いずんぐりした防護服を身につけたイワフネは、同行する部下に語りかけた。
「外の空気はマルスと変わらないし、そのままでもいい気がするのだが。」
「イワフネ隊長、未知のウィルスや生物、現地人に攻撃される可能性を考えると、最初はやはりこの服しかありません!」若手のモウゼが言った。
イワフネは溜め息をつきながら、
「仕方ない。では、行こうか。今日は山裾(やますそ)の環境調査だ。繰り返すが武器は持つなよ。こちらから現地人に危害を加えてはならん!防護服から出るレーザーバリアで充分だ。」ゴーグルを頭に装着しながら同行する二人の部下に再度確認する。モウゼとユダが頷(うなず)いた。
イワフネ達はゆっくりと山を降りていった。
途中の森や集落で遭遇する人間は鱗が無く、ヘソが
有ることから、何らかの哺乳類から進化した人種と推測された。色白だがやや黄土色の肌を持つ彼ら彼女らは、麻の簡素な衣類を身に付けていた。
身長が3mあるイワフネ達の巨体と、ずんぐりした防護服は、地元民に強く印象付けられ、その場で土を捏(こ)ねて彼らの姿形(すがたかたち)を再現しようとする者も現れた。
イワフネ達は脱出シャトルで日本列島各地を廻り、詳しい調査を行いながら、現地人と接触、交渉したり、時には現地人を襲っていた大蛇や大イノシシ、水棲恐竜から彼らを助けたりした。
イワフネ達の特異な格好は各地の現地人に強い印象を残し、彼らを象った土人形は魔除けとして多くの集落で奉(まつ)られた。
調査の結果、食料や燃料の基となるエネルギー源の確保に目処がついたため、イワフネ達は高天原から移動し、日本列島中間部北に位置する、とある山地に基地を築いて拠点とし、日本列島のみならず、世界中を廻る事となった。
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地球暦2019年1月3日夜【惑星マルス(火星) オリンポス山 】
日本列島が火星に転移して約20時間後、火星の大地に出現した半径1500kmの細長いが強大な電磁フィールドと重力波振動を放つ巨大質量空間の出現は、永い眠りについていた火星のマグマを急速に刺激していた。
日本列島転移24時間後、標高27kmという太陽系最大の火山は天空に向けて咆哮(ほうこう)するように赤い炎と煙、無数の火炎弾を噴き出した。
流れ出た溶岩はすぐに極寒の大地で固まったが、すぐに新たな溶岩流がそれを乗り越えて赤い大地に拡がっていった。
噴出した火炎弾は火星各地に降り注いだが、一部は第五惑星の重力に捕らえられて分厚い大気を持つ第五惑星の奥深くに落下した。
第五惑星である木星は惑星構成要素の大半がメタンや窒素などの気体である。地球の100数十倍の厚みを持つ大気層の奥深くに落下した火炎弾は木星大気や気体が固形化された大地に接触すると著しい化学反応を引き起こした。
木星の有名な特徴である大赤斑の様な模様が木星の各所で発生し、いくつもの不気味な眼(まなこ)が火山弾を送り込んだ第四惑星と、原因を作り出した第三惑星を睨んでいるように見えた。
同1月4日夜
オリンポス山の大噴火は衰えることなく続いていた。
また、オリンポス山の大噴火が火星北半球に集中する他の火山噴火を誘発し、目覚めたばかりのマグマを地上に送り込んだ。
惑星規模の火山活動に伴って排出された噴煙は火星を覆う大気となり、地下で蠢くマグマの流れは磁場、重力を産み出して大気を惑星に繋(つな)ぎ止めた。
高温の火山ガスと地下のマグマが極寒の大地を暖め、地下で凍結していた水分を溶かして地表に噴出させた。両極に蓄えられていた大量の水分も氷から急速に液体へと変化しつつあった。
日本列島が火星に転移して2ヶ月が経つ頃には、地球程ではないものの、大気圏が形成され、海と言うべき大洋も出現していた。
火星地表に届く有害宇宙線があたらしく形成された大気圏に遮られて大幅に減ったことで、日本列島に降り注ぐ放射線も減少し、電離層も安定して通信も復活した。
隔絶空間内部での人類の活動が円滑に行えるようになったのである。
地球暦2019年5月2日午前4時 【火星 アルテミュア大陸 タルシス高地 オリンポス山 特殊宇宙生物理学研究所 閉鎖区画『イ・ワト』】
うっすらと白い噴煙を噴き上げるオリンポス山の標高3000m付近の熔岩ドームに似た建物の内部で、大気圏観測システムと連動したプログラムが起動し、閉鎖区画『イ・ワト』のスリープモードが解除され、覚醒シークエンスに移行した。
12時間後、
「・・・」カプセルから己のクローン体を起こしたゼイエスは、虚ろな瞳で虚空を見つめた。
暫くすると、別のプログラムが起動し、宇宙の遥か彼方からのシグナルを受信した。
ゼイエスは、今度こそ明確な意思を宿した瞳を、隣のカプセルから起き上がったアマトハに向けて、声を掛けた。
「アマトハ、思考に障害は無いか?」
「大丈夫、明瞭だ!視界もばっちり開かれている。」アマトハが返事をした。
「これで恒星間心身同調ネットワークシステムの実証実験に成功したぞ!」ゼイエスが興奮して歓喜する。
「おめでとうゼイエス。個人の精神世界をここまで跳ばせるとは、我々はいったいどこまで行ってしまうんだい?」
呆れた口調でアマトハが言う。
「決まっているじゃないか。」ゼイエスがスリーピングスーツを着けた銀色の鱗が光る胸を張った。
「宇宙の果てまでさ!」ゼイエスが決め台詞を放つ。
「ところでだが、イワフネ達の消息を掴(つか)む前に、」やつれたような顔でアマトハがゼイエスに話し掛ける。
「この身体(クローン)は大変に"飢えている"と私は思うのだが・・・」
「・・・・・・」腹を押さえたゼイエスが無言でコクりと頷いた。
「その点は改善の余地があるな。カプセルを栄養補給モードに切り替えよう。暫(しばら)く横になった方が良いみたいだ。カプセルからの補給が終わったらシドニアの本部へ移動しよう。あそこなら、彼らと通信もとれるだろうし、イワフネの消息も。」ゼイエスがパタリとカプセルに横たわる。
あっさりとダウンした同僚を呆(あき)れた顔で見ると、アマトハもまた、パタリとカプセルに横たわった。
ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m