2023年7月9日【ヨーロッパ西部40,000フィート上空『マロングラッセ』】
弾道ミサイル迎撃の為に灰色の空をほぼ垂直に近い角度でぐんぐんと上昇する瑠奈の乗る戦闘艦マロングラッセ。
マロングラッセの東側遥か遠くには、降下時に高速で大気と接触した影響で赤く輝いている日本列島オブジェクト『タカマガハラ』と点在して随伴するマルス基幹母艦船団の姿が目に入る。
「---遂に来たっスね」
冷めた口調で小さく呟く瑠奈。
かつて月面と言う『人工天体』の管理システムだった瑠奈から見れば、タカマガハラは微小な岩塊に過ぎない。
「3時、9時方向からミサイル群急接近っス!」
マロングラッセの警戒システムが弾道ミサイルを次々と捕捉して瑠奈の注意を完全にタカマガハラから引き離す。
「ロックオン!ファイアっス!」
マッハ20の極超音速へ加速する弾道ミサイルに向けてマロングラッセからプラズマを内包した特殊弾頭のレールガンが左右の宇宙空間へ発射される。
同時刻【インド洋東部 ディエゴガルシア島沖 東方100kmの空域 地球連合防衛軍 空中戦艦『マンスフィールド』】
「本艦直上、高度35,000フィートを『タカマガハラ』が通過中!現在速度マッハ15から減速中!」
艦橋に居るジョーンズ中将達の腹に、くぐもった唸り声のような大気の振動音が上空から届く。
やがてディエゴガルシア島の周囲が轟音に包まれて突然の暗闇が訪れると、攻防していた両軍は思わず戦闘を中断して空を見上げ、息を呑んで呆然とする。
うす曇りのインド洋遥か上空を、鈍い轟音と共に薄らと光る緑のシールドに包まれた『タカマガハラ』が、周囲の空気を赤く輝かせながらゆっくりと白煙を引いて通過する。
地上からはゆっくりとした動きに見えるが、実際はマルス基幹船団のシールドを利用して減速する全長1,500km、幅400kmの人智を超えた巨大な岩盤が、極超音速で地球の大気を圧迫しながら南半球側から降下している。
「まるでノストラダムスの予言に出てくるアンゴルモア大王の降臨だ」
戦慄した表情で艦橋窓際から上空を見上げて呟くジョーンズ。
ディエゴガルシア島周辺上空は日本列島オブジェクトで覆われて数分間の暗闇に包まれていた。
「中将!衛星軌道艦隊『ホワイトピース』から通信!EMP攻撃間もなく開始されます!」
「遅きに失した感もあるが、これ以上シャドウ帝国側に応手を取らす訳にはいかん。全艦、対電磁防護シールド展開!全部隊、電磁防護エリア内に退避せよ!」
輪形陣を組んだマンスフィールド級空中戦艦の艦首からバチバチと白く輝くプラズマドームが出現すると周囲の艦隊や攻略部隊に拡がっていく。
程なくして、ユーラシア大陸と北米大陸上空で複数の閃光がチカッと瞬くと、緑色のカーテンが計算通りにそれぞれの大陸上空を薄く覆う様に拡散していく。
北半球各地とアジア地区のサイボーグバグズは、強力な電磁波によって疑似生体細胞と電子回路内部がショートして焼け爛れ、体中から煙を噴き出して活動を停止した。
中東、アルプス、イングランドの地上戦線でバグズの物量に苦戦を強いられていた連合防衛軍は、バグズの機能停止を確認すると反撃に転じた。
【ヨーロッパ西部 衛星軌道上 マルス文明戦闘艦『マロングラッセ』】
「ロックオン!、まだまだ来るからジャンジャンバリバリ落とすっスよ!」
玉切れ、もとい弾切れを気にする事無く、マロングラッセの艦首から左右へ放たれた特殊レールガンが加速途中の弾道ミサイルに命中する。
レールガンに内包されていた超高電圧塊が爆発的に解放されると、ミサイル弾頭はひしゃげたように潰れ紅の閃光へ変わっていく。
「あと少し撃ち落とせば帰れる、かな?」
瑠奈が艦長席の制御卓モニターに映し出された弾道ミサイルに照準を合わせようとした瞬間、弾道ミサイルの姿が一瞬ブレたと思うとノイズが走って照準が中断される。
そして弾道ミサイルの先端カバーが外れると、先端から8基の小型弾頭が射出されて更に加速して瞬く間にマロングラッセの脇を掠める様に通り過ぎる。
「んなっ!なんっスか!」
二段階加速式の多弾頭型ミサイルに意表を突かれて戸惑った声を上げる瑠奈。
「不味いっス!前からもまだまだ来てるっスよ!」
更に十数基の弾道ミサイルがマロングラッセの射程に入る。
「イングランドが、アルプスが危ないっス!」
焦る瑠奈。
その時、出し抜けに通信機から聞き慣れた呆れ声が響く。
『お嬢、何ヘマやってるんですか?』
「ワイズマン中佐っスか!?」
マロングラッセ後方を急加速して上昇したF45戦闘機から放たれた化学レーザーの白い光が、撃ち漏らした弾道ミサイルの弾頭を捉えて貫く。更に両翼ランチャーから改造フェニックスミサイルが発射されて残りの弾頭を破壊する。
「中佐!本国に召還されたんじゃなかったっスか?・・・」
『地上でミサイルに怯えて縮こまるのは性に合わないんでさぁ』
ワイズマン中佐が操るF45戦闘機がマロングラッセに並ぶ。
『お嬢、残りが来やすぜ?』
「瑠奈が全部まとめて始末するっス!」
調子を取り戻した瑠奈が一気に特殊レールガンを斉射して十数基の弾道ミサイルを破壊する。
「ふぅー。流石に今回はビビったっス!」
額に浮かんだ汗を拭うように額へ手をやる瑠奈。
「さぁ、戻ってロイド提督を手助けするっス!」
『まだだ、お嬢!来るぞ!』
瑠奈がモニターを拡大望遠にすると、南米上空の衛星軌道からシャドウ帝国軍の大型戦艦と戦闘機の大編隊が接近していた。
「新手っスか!?」
『あれは昔のロシア宇宙軍戦略弾道ミサイル搭載艦「イワン雷帝」でさぁ。戦争初日に北米機甲師団をMOAB弾頭で抹殺した奴でさぁ』
「あの戦艦を落とさないとロイドおじさんが困るっスね!」
『同意ですお嬢。あれは通常弾頭ですが、破壊力がとんでもねぇ代物ですから落とすに限りやす』
「そうと決まればレッツラゴーっス!」
マロングラッセは艦首をシャドウ帝国軍戦艦へ向けると勢いよく前進する。
『ちょっと待ったお嬢!その図体で戦闘機の群れとやり合うんですかい?』
「戦闘機は中佐に任せるっス!」
『ええー・・・部隊を辞めてもお嬢の人使いが酷い件について・・・』
「ワイズっちはうちで働く予定だから問題無いっスよ!」
『は!?』
瑠奈の何気ない一言に唖然とするワイズマン。
『いやいや、大いに問題ありまくりだと思うんですがねぇ・・・』
「問題なんて糞くらえっス!帰ったら即入社式っスよ!」
「・・・だって瑠奈がワイズっちの暗証コードでハッキングしたから、瑠奈が責任取るっス!路頭に迷うワイズっちの異論は認めないっス!」
ワイズマンに鼻息荒く宣言する瑠奈。
「ちなみにお礼として瑠奈に毎食後のプリンを献上するっス!」
『・・・勝手に人をダメ人間扱いしないでもらいたいですぜ。ま、精々稼がせて貰いやす。まずは入社試験代わりにロシア熊の戦闘機を叩き落してご覧に入れましょうかね・・・』
「しばらくの間お給料もプリン払いっスよ!」
『それはやめて!』
ワイズマン中佐のF45は、ミサイル迎撃時の垂直姿勢から機体を左に捻ってマロングラッセの側面を潜り抜けると、ミグ98戦闘機にレーザー砲で先制攻撃を浴びせる。おっとり刀で駆け付けたミグ戦闘機編隊の先頭2機が胴体を貫かれて爆発する。同時にミグ戦闘機が一斉に散開してワイズマン機とマロングラッセに殺到する。
「さすがワイズっち!育てたかいがあるっス!」
マロングラッセから蒼白い通常仕様レールガンが立て続けに斉射されて大型戦艦「イワン雷帝」の舷側にドスドスと命中する。
『お嬢、その呼ばれ方と育成云々については後程ぉーーーっ』
30mm機銃とロケット砲の乱射で反撃してきたミグ98戦闘機の攻撃を背面ガスの一斉噴射で大きく下降して避けるワイズマン。
先制攻撃で敵を怯ませる事は出来たものの、1隻と基本的に鈍重な戦闘機1機では多勢に抗うのは難しく、シャドウ帝国軍部隊の反撃を受けて徐々に押されていった。
シャドウ帝国軍戦艦は、対空火器を総動員してワイズマン機をミサイルやレーザーで追い回し、瑠奈のマロングラッセにはレールガンと対艦ミサイルの一斉射撃を繰り返して接近を拒んでいた。
レールガンの飽和砲撃でプラズマ弾発射口が損傷してマロングラッセが一時後退した隙を突いて、『イワン雷帝』が艦底に並ぶVLS(垂直発射口)を開く。
『不味いお嬢!敵さんミサイル発射準備に入りやがりました!』
「ちぃっ!チマチマ攻撃してくるから全然近寄れないっス!」
このままミサイル攻撃を許すと、瑠奈が地球滞在を延長してまで護り続けたロイドや女王陛下など仲間の命が失われてしまう。
火星日本でイタズラがばれて海底お仕置き部屋直行以来のピンチに見舞われた瑠奈は、不意に昔OVAで視たロボットアニメのワンシーンを思い出して艦長席で仁王立ちになると天井を仰いで拳を握りしめる。
「こんのぉぉぉぉっ!」
瑠奈は右手の拳を勢いよく振り上げると艦長席制御卓の液晶パネルに叩きつけてパネルを破壊するとそのまま傷ついた拳ごと右腕をずぶずぶと半ばまでめり込ませて内部の配電盤に接触する。
「---システム直接接続、『ルンナ』全艦コントロール掌握。Pエネルギーシールド転換、プラズマシールド増幅、非常推進システム作動、補助エンジン全速前進」
瞳から虹彩が消えて機械的な音声を小さく呟き始める瑠奈。
『おいおいお嬢?何するんだ?』
「これよりマルスアカデミー地球観測人工天体『ルンナ』はコメットモードに移行。本艦を第3宇宙速度まで加速、疑似彗星として針路上の障害物を排除します」
『おいっ!お嬢!やりすぎだ!』
ワイズマンの制止の声を振り切って一気にシールド出力と速度を数十倍にも増幅させたマロングラッセは白く輝く彗星となってシャドウ帝国軍戦艦に激突する。
戦艦「イワン雷帝」はなす術もなく衝突の衝撃でVLSに装填していたミサイルを誘爆させ、機関部の水素燃料に引火した艦体は大爆発で粉々になって彗星の尾に取り込まれていく。
戦艦の周囲を飛んでいた直援のミグ戦闘機は彗星との直接衝突は免れたものの、イワン雷帝が編隊の至近距離で大爆発した為に大小の破片を機体に万遍なく浴びて損傷分解し、コントロールを失って次々と地球大気圏へ墜落して燃え尽きていった。
膨大なエネルギーを解放した彗星モードのマロングラッセは、勢いを直ぐには落とすことが出来なかったため、衛星軌道上を数周しながらラグランジュポイントを通過する度に速度を徐々に落として再び欧州西部上空に戻って来る事が出来たものの、殆どのエネルギーを喪失していたので引力に引かれて徐々に高度を下げていった。
『お嬢!、このままだと艦が持ちませんぜ!脱出を!』
「・・・無理っス!瑠奈はまだマロングラッセと接続したままっスよ。強引に接続を絶つと艦が即座に分解するっスよ」
『ですが、このままだとお嬢もろとも艦が燃え尽きてしまいますぜ!』
「いいっスよ。瑠奈は人工知能っスから、肉体が失われてもデータは他の媒体に移れるっスから別に-ーー」
『ふざけんな!何言ってやがる!』
激昂するワイズマン。
そこへ突然別の声が通信に割って入る。
『ハイハイ、盛り上がっているところスイマセンね。こちら日本自衛隊特殊作戦群、PS部隊所属、ソフィー・マクドネル大尉であります!命令により「マロングラッセ」のサポートに派遣されました!到着遅れてスイマセン!』
ワイズマン機の後方から推進炎を勢いよく流星の様に引きながら1機のPSが急接近して追い越すと、マロングラッセの艦首に素早く取り付いて、そのまま大気圏突入に最適な角度へ関節部のバーニアを噴射して針路を調整し始める。
「---助かった」
血まみれの右腕をコントロールパネルに突っ込んだまま、身体ごとパネルに伏せていた瑠奈が小さく呟く。
「ミツル商事警備保障欧州レジスタンス支部『マロングラッセ』瑠奈っス。ソフィー大尉のサポートに感謝するっス。本艦のエネルギー残量5パーセント、艦体維持が精一杯っス。イングランド島までの誘導お願いするっス」
『了解。後は正しい角度で降下するだけだから大丈夫ですよっ!パナ子、突入角度再計算よろしくね』
ソフィーが応答して相棒のAIに大気圏突入シークエンスを委ねる。
「はいなですの!美衣子様と結様の妹さまではないですか!?喜んで導かせて頂くですの!」
AI出逢い系サイト生みの親に連なる瑠奈の存在は、火星諸国のAI達には周知の事実であり、パナ子は狂喜する。
『ドクター・ムスビの妹様ですって!?ドクターにはサキモリに乗せて貰ってとても助けられたのです!後で握手してください!』
ソフィーは目を丸くしながら驚きつつも、満面の笑みで瑠奈に話しかける。
『---それと、そこで漂っている戦闘機おじさんはテキトーにマロングラッセの後ろからついて来て』
声の温度を急速冷凍してワイズマンに素っ気無く指示するソフィー。
「くっ!・・・なんか俺の扱いおざなりじゃね?こちらワイズマン中佐。小娘のサポートに感謝するぜ!」
『・・・オヤジうぜぇ』
「やかましいわ!」
軽口を叩きながら大気圏突入体制に入る三人。
だが、ソフィー大尉の『サキモリ』警戒レーダーが敵影を捉える。
『9時の方向に敵感知!』
降下を続ける三人の左手から「イワン雷帝」の爆発を奇跡的に免れた1機のミグ戦闘機が、破壊された戦艦やミグ戦闘機の残骸の間から現れると30mm機銃を乱射して接近する。
先導するサキモリはエネルギーを失ったマロングラッセの機首に取り付いたまま微妙な角度調整が必要な為に応戦出来る状態ではなかった。
ワイズマンはちらとマロングラッセを一瞥した後、操縦桿を引き上げて降下態勢に入っていた機体の角度を上げていく。
『ワイズマン機!その高度での戦闘はもう無理!直ぐに燃料切れになって重力に引っ張られるわ!』
ソフィー大尉が叫ぶ。
「---お嬢、小娘は先に行け!--これからオヤジがちょっといいとこ見せてやんよーーーー」
急激に負荷のかかるGで途切れ途切れの応答をしながらくるりと反転してマロングラッセとサキモリから離れていくワイズマンのF45戦闘機。
再び大気圏外に戻ったワイズマンは空力過熱から機体を守る為に稼働させていたレーザーシールドを解除すると、推進・冷却系統も含めた全てのエネルギーを機首の対空レーザー発射口へ注ぎ込む。
マロングラッセとサキモリを背後から攻撃する態勢に入っていたミグ戦闘機のパイロットは、斜め前方のF45が大気圏突入姿勢から機首を上げてこちらへ向かってくる事に驚く。
「馬鹿かあのパイロットは!死ぬ気か!?」
ミグ戦闘機パイロットは慌てて機首の30mm機銃を眼前に迫るF45へ発射しようとする。
みるみる内に眼前へ迫ったF45戦闘機をロックオンした直後、F45の機首からブンッと僅かな駆動音と共に最大出力の対空レーザーが放たれてミグ戦闘機を貫いた。
至近距離でパイロットごとコクピットを撃ち抜かれたミグ戦闘機は発火せずに機首からバラバラと解けるように破片をまき散らしながら重力に引かれてストンと落下すると、大気圏上層部に接触してそのまま爆発して燃え尽きた。
F45はアクロバットさながらの背面機動でミグ戦闘機の尾翼スレスレを通り過ぎたものの、水素燃料が枯渇してエンジンが停止、重力に捉えられてゆっくりとコクピットを下に、背面を地球側に向けたままになった姿勢で大気圏へ落下していく。
「ワイズマン中佐!」
すでに大気圏に突入して空力過熱で表層部が赤く輝くマロングラッセから瑠奈が呼びかける。
「--お嬢---燃料切れでさぁ-ーー悪党には-ーー締まらない-ーー」
ワイズマン機も空力過熱に覆われている様子で、酷いノイズが交じった途切れ途切れの声しか聞こえない。
「ワイズマン!そっちにシールド展開するから待つっス!」
瑠奈は大気圏突入状態にもかかわらず姿勢制御や冷却系統に使っていた最後のエネルギーを遠隔投射シールドに注ぎ込もうと操作を始める。
『瑠奈っ!今はダメっ!』
懸命に艦首を抑えるソフィーが制止する。
「馬鹿野郎!!」
突然大音量でワイズマンの罵声が響く。
「せっかく助かった命を投げ出そうなんてお嬢は馬鹿ですか!?」
ワイズマンの怒気を孕んだ声がマロングラッセのブリッジに響き渡り、初めて耳にするワイズマンの罵声に瑠奈はビクッと体を震わせて動きを止める。
マロングラッセは艦体制御を再開して降下を続ける。
「そう---これでいいんでさぁ、お嬢。さっさと降りやがれってんだーーー」
ぶっきらぼうな口調だが声音は罵声に比べれば和らいでいた。
「---お嬢、最期だから言わせて貰いやすが、お嬢が全知全能の人工知能だとしても、お嬢は今、生身の身体と心を持っているれっきとした人間でさぁ。人間の先輩として言わせて貰うなら、お嬢はまだまだ子供でさぁ。どうか、あっしみたいにヘタ打たないで、長生きした人生を送って欲しいでさぁ・・・」
「ワイズマン中佐!生意気っス!お別れには早いっス!」
自然と瞳を滲ませた涙声の瑠奈が叫ぶ。
過熱していくコクピットの中で意識を朦朧とさせたワイズマンが呟く。
「お嬢・・・宇宙は絶対零度で寒いと-ーーやっぱ熱---」
ワイズマンの機体は空力過熱に耐え切れず、膨張を続けて遂に爆発四散した。
「--中佐っ!何ヘタやってるんっスかーっ!!」
イングランド島グラスゴー沖に無事着水したマロングラッセの艦橋で、瑠奈は制御パネルから血まみれの右腕を引き抜くとがくりと床に膝をついて嗚咽し続けた。
ほぼ同時に着水していたサキモリのコクピットでは、ソフィー大尉がハッチを開けて空を見上げ、四散したワイズマン機の残骸が幾つにも分解して灰色の空からオレンジ色の炎と白煙を引きながら流星の様に落下して行くのを無言で見つめていた。
この日、欧州や北米上空において、シャドウ帝国軍必死の抵抗によって激しい戦闘が繰り広げられ、ワイズマン中佐始め多くの兵士の命が失われたものの、人類反攻作戦最大の要である日本列島オブジェクト「タカマガハラ」の極東着床は無事成功した。
ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話は2月24日㈰に投稿予定です。
【このお話の登場人物】
大月 瑠奈=マルス文明地球観測天体「月」管理人工知能。マルス三姉妹の三女。
ペレス・ワイズマン=イスラエル連邦軍 元特殊部隊隊長。ミツル商事警備部門英国欧州抵抗部隊へ出向中だったが情報漏えいの疑いで召喚命令が出ていた。
ソフィー・マクドネル=ユニオンシティ義勇軍大尉。パワードスーツ『サキモリ』パイロット。17歳、女性。
パナ子=機動兵器サキモリの機体制御システムを担当している人工知能。民間企業PNA総合研究所の人工知能。
ジョーンズ=地球連合防衛軍オセアニア地区司令官。ユニオンシティ義勇軍中将。