転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

・岬(みさき) 渚沙(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。
・大鳥(おおとり)=東南海大学海洋学部助教授。

・名取=海上自衛隊潜水艦『そうりゅう』艦長。大佐。

・スティーブン=極東アメリカ合衆国海軍航空母艦『ロナルド・レーガン』艦長。大佐。


審判の壁(ジャッジメント・ウォール)

地球暦2019年5月15日午前7時【房総半島沖90kmの太平洋】

 

太平洋上を日米連合艦隊が北上していた。

艦隊はいつの間にか兵士達が『審判の壁』と呼ぶようになった赤黒い電磁フィールドに数キロまで接近した形で進んでいた。海は青黒い黒潮らしい海流を見せていたが、艦隊の上空は日本列島陸地と違い、審判の壁に沿って薄いオレンジ色を(まと)った青空が広がっていた。

 

第1調査任務艦隊の旗艦『ひゅうが』の広大な直通甲板で、東南海大学海洋学部の岬渚紗(みさきなぎさ)教授が潮風を浴びながら気持ち良さそうに背伸びをしていた。

「うーん、今日も爽快(そうかい)な寝覚めだぁ。」

 

「どうせならあと30分早起きしてラジオ体操に参加したらいかがです?空母レーガンでは流行りのエクセサイズみたいですよ。」

後ろから助手の大鳥が声を掛けた。

「もうすぐブリーフィングの時間です。」

 

「ありがとう、『大島くん♪』」岬教授がにぱっとイタズラっぽい笑みを浮かべる。

「私は大鳥です、「島」ではありません!何回目ですかそのネタは、」大鳥が背を向けて艦内に戻る。

「待ってよー大島っちー、親愛の表現なのだよー!」岬は三つ編みのお下げをくるくる回しながら、身体も廻りながら、大鳥を追いかけた。

 

このやり取りは、艦隊が横須賀を出航してから毎朝の恒例行事となっていた。

 

「ひゅうが」ブリーフィングルーム

 

岬と大鳥がブリーフィングルームに入るとほぼ全員が揃っていた。

「申し訳ありません。」大鳥が謝る。

「大丈夫だ、まだ3分あります。」JAXAの天草が苦笑して答える。

「岬先生、時間になりましたのでお願いします。」

天草が岬に合図を送る。

 

岬は先程までのぽやっとした表情をかなぐり捨てると、キリリとした顔で伊達(だて)眼鏡を掛けるとノートパソコンを操作しながら正面スクリーン前に進み出る。これが、岬教授(いわ)く『できる女』らしい。形から入る性格らしい。

大鳥も、天草も、既に突っ込みをあきらめている。

 

「皆さんおはようございます。本日の調査は、審判の壁と海流・気流の関係です。なぜ、隔絶された空間内で大気と水の循環が行われているのか?それも、転移前と同じ条件下で。審判の壁の関与なくして考えられません!」 岬が力説する。

 

「午前中は私が潜水艦『そうりゅう』に乗って、海中から可能な限り、審判の壁に接近、潜水ドローンを使って海流の発生源を探ります。」

『そうりゅう』艦長の名取大佐が頷く。

 

「午後は、空母ロナルド・レーガン」から大鳥君が対潜ヘリに乗って、審判の壁沿いの至近距離で海上の気流と、海流調査ソナー『ジューク・ボックス』の投下、

壁上方の放射宇宙線値は搭載戦闘機を使用して測定します。戦闘機パイロットの皆さんが被曝しないように、出航時に差し入れた、宇宙線遮断塗料をキャノピーに念入りに塗ってください!測定値が少しでも、我が国の環境影響評価基準を超えた場合はすぐに帰艦してください。カウボーイ精神やトップガン根性はまだまだ、とっておいてくださいねっ!」

岬が明るくウィンクする。

『ロナルド・レーガン』艦長のスティーブン大佐が苦笑しながら(うなず)く。

パイロット席からは小さな笑い声が上がった。

 

「ひとつひとつ焦らずに、出来る事からやりましょう!安全第一でいきましょう!」

岬が締めくくってブリーフィングが終了した。

―――――――――

 

海上自衛隊潜水艦『そうりゅう』発令所

 

名取大佐と岬教授がドローン等の発射準備を見守っていた。

「艦首魚雷発射管、自立型潜水ドローン『おさかなくん』発射準備完了。デコイ発射口からも自立型海流調査機『ぽにょ』射出準備完了。」

心なしか発令所の隊員が笑いを(こら)えているように見えるが、岬教授は全く気付かずに、

「では、いっちゃってください!」と号令した

副長は復唱に戸惑い、名取大佐をチラリと見ると、名取大佐が、

「ドローン発射!探索機射出!」と大きな声で命令した。

「アイアイサー、ドローン発射!探索機射出!」

副長が復唱した。

 

審判の壁に至近距離で艦首から流線型のドローン『おさかなくん』とデコイ型の探索機『ぽにょ』が射出された。

 

『おさかなくん』は審判の壁に沿って海中を進みつつ、審判の壁から発する放射宇宙線や、逆に壁へ向けた各種レーザーがもたらす分析データを『そうりゅう』に送り続けた。

 

『そうりゅう』からばら蒔かれた『ぽにょ』はゆらゆらと海中を漂いながら、海流に上手く乗り、更にはその源へ向かった。

 

――――――

 

極東アメリカ合衆国海軍航空母艦『ロナルド・レーガン』

 

広大な飛行甲板からスチームカタパルトで射出されたFA-18"ホーネット"と、SH-60F"オーシャン"対潜水艦ヘリの編隊は、審判の壁500mまで接近していた。

随伴(ずいはん)しているホーネットは速度が違うため、何度も旋回を繰り返しながら、オーシャンヘリのガードと、審判の壁高空の放射宇宙線調査を行った。

 

「こちらアツギ1、審判の壁からの放射宇宙線は日本の環境影響評価基準を下回っている。」

ホーネット編隊長がオーシャンに乗る大鳥に報告した。

「了解、アツギ1の勇気に敬意を。横須賀でたらふくバドワイザーを手配する。

これよりスイマー1から8は『ジュークボックス』を投下する。」

 

ホーネット編隊から歓声が上がる中、オーシャンヘリの編隊からペットボトルの様な透明な容器に収められた探索装置が降り注ぐように海上にばら()かれた。




ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m
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