転移列島   作:NAO

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今回のエピソードでは、『東日本大震災』についての描写があります。
この震災で辛い思いをされた方や、胸が苦しくなるなど『心身に負担を感じた』方は、直ちに読むのをお止めになってください!!
申し訳ございませんm(__)m


コンタクト

平成21年(2011年)3月11日午後2時45分頃【東京都渋谷区渋谷2丁目 渋谷駅 地下連絡通路】

 

就職活動中だった春日の携帯が振動し、耳慣れないメロディ―が繰り返し聴こえてきたが、金曜日の雑踏に紛れてよく聞こえなかった。

いや、周囲の人の携帯も全て同じメロディ―を奏でていたはずだから聞こえているのだろうが、春日は5回目の人事部面接を終えたその余韻(よいん)で頭が一杯だったのだ。

 

――――「それで偉そうなことを言うあなたは、具体的に何を弊社(へいしゃ)でやるんですか?」ベテラン社員だろうか、40代初めの面接官が言葉の裏付けを取ろうと春日を論理的に追い詰めてくる。

春日は"就職活動マニュアル"なんか頭の中からかなぐり捨てて"素で"答えたもんだった。

 

「そんなもん、実家で扱っている東北の海産物を御社の為に売り捌くだけでしょう!?」

 

冷静に答えたつもりが声が裏返っていたかもしれない。

しばらく無言で見つめていた面接官は僅かに口の端を緩ませて頷くと、

「うん。次回は、役員面接です。人間味溢れる話し方も結構好きですが、相手の心情も考えてくださいね。」春日に言った。

 

「意外と、言ってみるもんだなぁ。」素直な春日の反応である。

 

そんなことを考えながら地上へ向かう連絡道を歩いていると、目眩(めまい)が春日を襲った。やがて目眩(めまい)が酷(ひど)くなり、立てなくなり、手すりによろよろとしがみつくと、周りの人々も壁に手をついたり、駅員までもがスロープの手すりに掴まっていた。

「え?地震?」

春日は漸く地震発生に気付いた。

 

地上に出ると周囲のオフィス街から会社員が避難してきたのか路上にわらわらと溢れていた。

パトカーが『今の揺れで気分の悪い方は申し出てください。』とスピーカーでアナウンスしながらゆっくりと宮益坂を下って行く。

 

見たところビルが崩れたわけではないし、次の会社の面接に行こう。

都営バスに乗った春日は動き出したバスが暫くすると停留所でもない路肩に停車し、『え~、総合運転指令センターの指示で、都内の全便一旦停車いたします。大変申し訳ございません。次の指示があるまで運転を取り止めます。』とアナウンスがあった。

乗客たちは仏頂面で下車し、歩いて各々の目的地へ向かった。

 

春日も仕方なくバスを降りて歩くと、一軒のラーメン屋がテレビを路上に出して、大勢の通行人が足を止めてテレビに群がっていた。

テレビの画面では、ヘリの空撮で、画面の端から端まで拡がる津波が漁船や車を巻き込みながら、畑や住宅地を呑み込んでひたすら進む様子が映し出されていた。

 

どこの国?インド洋大津波みたいなのがまたアジアで起こったのかな?何て考えながら視ていると、画面に

『[中継]仙台市上空 』と表示されていた。

 

春日は慌てて仙台市の実家に電話をかけるが、話中の音しか聴こえなかった。両親の携帯にかけても繋がらなかった。

父から1通だけ、15分前にメールが入っていた。春日がバスを降ろされて歩いていた頃である。

 

メールには無題で

『すまん』

とだけ書かれていた。

 

メールでも無口な親父だな。苦笑しながら歩いて下宿に戻った。

下宿に戻ると他の学生も戻っており、東北地方で後に『東日本大震災』と呼ばれる、大地震と大津波が起こったことを初めて知った。

部屋に戻った春日はその晩ひたすらテレビの前で両親の携帯と実家に電話をかけ続けた。

誰も、出なかった。

 

翌週の月曜日、叔父(おじ)と名乗る人物から連絡があり、二人で仙台市の実家に向かって、実家の近くに来たが、海の臭いと、ドブの腐った臭いが混ざりあった臭気が漂い、一面泥の海と瓦礫(がれき)で街並みというものが存在しなかった。

漸(ようや)く叔父と探し廻って見つけた実家も、コンクリートの基礎しか残っていなかった。家の前には大きな漁船が道路の真ん中に鎮座(ちんざ)していた。

この場所は海岸から1km内陸の静かな住宅地の筈(はず)だったが。

春日は、自分が現実世界に居るのか、妄想で夢を視ているのか、分からなくなり叔父と名乗る人物を見ると、無言で嗚咽(おえつ)を堪(こら)えながら涙を流して歩いていた。

春日は叔父(おじ)の手をぎゅっと握った。

 

叔父の情報から、ある体育館に着いて入口をくぐると、一面に棺(ひつぎ)が並べられていた。

春日は唇をギュッと硬く結んで体育館の奥に進んで行き、棺に入った両親と対面した。

後は叔父に手を引かれてあちこち回った記憶しか無かった。

 

春日の携帯にはあの日、父から来た最期(さいご)のメールが今でも受信BOXに保護して残されている。

 

1週間後、震災当日の面接で春日に忠告した面接官から内定の連絡を受けた。両親を喪ったショックで上の空だった春日は空返事で応対したが、面接官は怒りもせず、淡々と今後のスケジュールを伝えて電話を切った。

 

面接官の名前は大月という。

 

――――――――――

 

地球暦2019年5月31日午後11時20分【鹿児島県 種子島 JAXA 宇宙文字研究室】

 

日本の誇る宇宙ロケットが打ち上げられる種子島の宇宙センターの片隅に、その研究室は有った。

1987年に富山県立山市尖山から発信された、解読不明の通信文をあらゆる見地、角度から、研究して解読を試みる部署である。

 

室長の琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)は古今東西あらゆる文明の文字との照合を繰り返していたが、密かに東京のスーパーコンピューターにプログラムした異星翻訳システムの起動には至らなかった。

 

照合に行き詰まった琴乃羽が足下のオカルト雑誌に何となく目を向けると、とある古文書の偽書(ぎしょ)が目に留まった。

朝飯のネタにするつもりで雑誌に掲載されていた文字をスキャンしたところ、異星翻訳システムがにわかに起動を始めた。

呆然とパソコン画面の前に立ち尽くす琴乃羽に、スーパーコンピューターが解析した翻訳内容が表示された。

 

『第3惑星の知的なる人々へ。我々は貴方達と話がしたい。これ以上の施設侵入は、侵略行為と見なし、自衛措置を発動する。』

 

驚いた琴乃羽は、直ぐに市ヶ谷の防衛省長官官房に連絡を入れた。

防衛大臣と通話を終えた琴乃羽は、震える足を堪(こら)えて、机にたどり着き、三鷹キャンパスに連絡を取った。

 

同時刻【東京都三鷹市 国立天文台 三鷹キャンパス】

 

天文台所長の空良(そら)透(とおる)が僅かな光学観測による天文図とにらめっこをしていると、職員が駆け寄ってくる。

「所長、隔絶空間の外から通信が入っています!」

職員が通信データを記した検知用紙を差し出した。

 

「まさか?どこかの国の電波が乱反射しているんじゃないか?」

空良は胡乱(うろん)げな顔で受け取った検知用紙を見たとたんに顔色を変えて外に走り出した。

 

「今から首相官邸に向かいます!JAXAの天草さんにも連絡お願いします!」

空良(そら)は白衣をパタパタ翻(ひるがえ)しながら玄関を飛び出そうとしていた。

 

種子島の琴乃羽(ことのは)からの連絡は間に合わなかった。

 

同6月1日午前1時【東京都千代田区永田町 首相官邸 総理大臣執務室】

 

執務室に集まったのは空良の他に、官房長官の岩崎とJAXA理事長の天草だった。

澁澤総理大臣と四人で執務室の応接ソファーに腰かけて一息つくと、岩崎官房長官が空良に訊いた。

「この通信が外から来たとどうやって確認出来たのですか?」

 

「通信文に記載されていた天空のポイントを電波望遠鏡で確認したところ、明らかに周囲よりも鮮明な星空が観測できました。」

空良が答え、電波望遠鏡の観測結果に基づく天空図を応接のテーブルに広げた。

 

四人は、天空の一角にぽっかりと穴の空いた天空図を暫(しばら)く凝視した。

 

「それで、どのような通信だったのですか?」澁澤が訊いた。

「何らかの文字を顕(あらわ)すのでしょうが、さっぱり分かりません。」天草理事長が両手を挙げて降参のゼスチャアをしながら、奇妙な文字列が記された通信メモをテーブルの上に置いた。

 

メモを見た澁澤と岩崎は思わず絶句してその場で暫く固まった。

「岩崎君、直ぐに彼らと連絡を取ってくれ!」

固い表情の澁澤が岩崎官房長官に指示した。

岩崎は直ぐに携帯電話で市ヶ谷の防衛省に連絡を取った。

「桑田君、特級指定の尖山(とがりやま)の件だ、そうだ。なんだって!?直ぐに来てくれ。総理がお呼びだ。」

岩崎が、

「総理、桑田防衛大臣から大至急お伝えしたいことがあるので直接こちらに来るようです。尖山の件です。」と報告した。

 

「わかった。タイミングが良いな。さて、仮に外部からの呼び掛けとして、現時点でもその穴はあるのかね?」澁澤が訊いた。

 

「現時点でも空いていますが、徐々に縮小しています。24時間後には完全に閉じてしまうでしょう。」空良が答えた。

 

「穴が閉じるまで返答を待つ、と言う意味でしょうか?」岩崎が呟く。

「恐らく、日本列島を呼び寄せた相手が何らかの接触を求めていると考えるのが自然かと思われます。」天草が見解を述べた。

 

「この通信は我々だけが受信したのかね?」澁澤が尋ねる。

「この通信は『穴』直下の直径10kmの空間に向けられたものです。」空良が答えた。

 

「必ずしも我々だけとは限らんな。」澁澤が唸った。

「総務省の電波監視チームを急行させます。」岩崎が携帯で指示を出す。

 

「コンタクトを試みてみよう。外の存在と話してみないことにはどうにもならんからな。」澁澤が決断した。

「極東NASA、極東ロシア宇宙庁、ユーロピア宇宙機関に連絡し、合同チームで交信しよう。説明の手間も省ける。」

 

その後、桑田防衛大臣が打ち合わせに加わり、種子島の琴乃羽から届いた驚くべき報告を行った。

澁澤は、この情報を各国宇宙機関に提示した上で、同意が得られたならば交信をする、という姿勢を取った。

 

6月1日午前8時、国立天文台に各国の宇宙機関が集合して「穴」の外へ向けて、琴乃羽が作成したメッセージが送信された。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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