転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。
・東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。
・岩崎(イワサキ)=内閣官房長官。温和。


火星編 承継者たち
内閣官房執務室


地球暦2019年6月1日午後5時【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣官房執務室】

 

内閣官房秘書官 外交経済担当の東山龍太郎は、昼間の国立天文台で行われた、歴史的な異星文明とのコンタクトに駆り出されて疲れた体を休めていたが、大学の同期からかかって来た電話に対応していた。

『もしもしー東?この前は素敵なパワースポット教えてくれてありがとうね!』

ハイテンションらしい西野が礼を言って来た。

 

プライドの高い西野が礼を言うことは滅多に無い。少々驚きながらも常識人的な行動を取る同期に尊敬の念を持ちながら、

 

「どういたしまして。で、どうだった?」と、"数日前に"終わったと思われるパワースポット巡りのデート結果を訊いた。

 

『掴みはばっちしよー♪彼の意外な一面も見れたし、もう胃袋まで落とした?みたいなw』

西野はおのろけ全開のようだ。

 

「そらようござんしたねー。こちとら絶賛残業中だよ!じゃんじゃんばりばり仕事入ってウハウハだよ、ちくしょーっ!」東山が本音を出す。

 

『なにー?"俺達の時代"なんでしょ?しっかりしなさいよー。』西野が先日の飲み会で東山が言い放った若気の至りを突く。

 

「うるせー!そっちこそ、そろそろ楽しい情報教えてくれるんだろうなぁ?」東山が応戦する。

 

商社勤めの西野にねだられて、ギリギリ国家公務員服務規程に抵触しない範囲で"独り言"を言ったりして、何かと帰国子女でどこか醒めた性格でボッチな西野の援護射撃をしていた。そろそろ何かあるかも知れないな。西野は受けた恩は忘れないのだ。

 

『楽しい情報かぁ、大月さんとはラブラブだし、「トカゲの人」とも仲良しになったよー?』

西野が意味不明な事を言った。東山は西野が酔っぱらって電話を掛けたのかと思って切ろうとしたが、友人として、後で回収(介抱)する必要上、現在位置を聞くことにした。

 

「で?今どこよ。」東山が訊いた。

『尖山なんだけど。』西野が真面目に答えた。

『どーしよー!?東ぃー!』西野が泣き付いた。

 

東山は頭を抱えた。まさか"特級機密案件"に来るとはなぁ。

 

東山は座席から立ち上ると、内閣官房執務室の全員にゼスチャーで注目を促した。そして、電話をスピーカーモードにした。

岩崎を含めた全員が彼の電話に注目した。

東山の全身からは、最終面接試験以来の冷や汗が大量に涌き出していた。

 

「それで、今そこには西野、お前だけか?」

『大月さんだけだよ~。二人で山頂でご飯食べて石でピラミッドを積み上げたら"山の中の秘密基地"に入れたんだよー。あれ?入れられてしまった?どっちかな?』

「どっちでもいーよ。我が国にはそんな"秘密基地"なんて無いだろ?」

『やっぱりー!「トカゲの人」も自分達は月から来たって言ってたよーw(ノ´∀`*)』

「何で月から来た人がそんなとこに基地作って居るんだよ?」

『んー、月がねぇ、どがーっと事故って仕方なく降りてきたんだって。それで助けが来るまで寝ていたみたい。私達が来たから起こしちゃったみたい、てへぺろ?』

 

東山と西野の会話を聴いている内閣官房の職員はあまりの内容に絶句していた。

東山も途方に暮れていた。いや、宇宙人起こしててへぺろ?は無いだろ。普通。

 

気が付くと、傍らに官房長官の岩崎が立っていた。

「電話を替わりましょう。」岩崎が言った。

 

「もしもし、東山がお世話になっております。東山の上司の岩崎です。」

『これはご丁寧に、はじめまして、岩崎官房長官。』西野が初めて真面目に返答した。

 

岩崎は西野の豪胆さ切り替えの早さに感心しながら話し掛けた。

「その、西野さん。『トカゲの人』と貴女は話せるのでしょうか?」

『はい。"日本語"で会話できます。所々、発音が日本語とは違う言い回しがあり、完全には理解出来ませんが、意思疏通は可能かと思われます。』

西野が正確に答えた。

「西野さん、貴女はなかなか洞察力も優れていますね。お若いのに大したものです。」

『いやーそれほどですよ?』西野が笑う。

 

「大月さんとはお話出来ますか?」

『はい。「"あなた"」電話ですよ?』

『西野が大変失礼いたしました。同僚の大月と申します。』向こうの受話器の後ろから西野が"妻"認定されて歓声を上げている。大月は、幻聴だと思うことにした。いや、したい?

 

「大月さん、『トカゲの人』は恐らくこの火星文明を築いた人類でしょうな。『トカゲの人』は東京(こちら)に来てくれますかねぇ?」岩崎が訊く。

『難しいかと。彼らは覚醒した直後です。転送や激しい動作は、身体に負担がかかるようです。』大月も取引相手との折衝に慣れているのか、自然と相手の所作や状況を気にかける癖が身に着いていた。

 

「ふむ。こちらから"お邪魔"する事は可能かね?」

『その場合は、武器の携帯は不可能になります。彼らの施設を警備するAIが、自動的に武装した者を"遠くに跳ばして"しまうようです。彼らのAIは非常に優秀です。常に各種レーザーやセンサーと思われる光線を駆使して施設周辺の警備巡回をしているようです。つい先日も我が国がお邪魔しようとした?様ですが?』

「先日ではないのだがね。」岩崎が苦笑した。

 

「彼らは友好的かね?」

『はい。私達は一切危害を加えられていません。彼らは"常に前もって、こちらの気持ちに配慮"してくれるので意思の疎通はスムーズです。』

大月は読心能力を彼らが使っている可能性を、遠回しに伝えた。

 

「成る程、大月さん。とても良いお話を聞かせてくれてありがとうございます。お二人はこれからどうされるのでしょうか?」岩崎が大月達の今後を訊いた。

『「トカゲの人」から幾つか頼まれ事を受けましたので、1度東京に戻るつもりです。』大月が話したあとに、背後から金属的な甲高い声が聴こえた。

 

『えー。はい。差し支えなければ、首相官邸(そちら)の座標を教えて頂ければ、「トカゲの人」が施設の機能で"転送"してくれる様ですが?それと、しばらく尖山には入って欲しくないと要望されました。』

「分かりました。こちらから"お邪魔"するのは控えましょう。座標ですか。少し待ってください。」

 

職員が首相官邸の座標を記したメモを持ってくるまで、岩崎はどうしたものかと思考した。

首相官邸以外の安全な場所――、官邸(ここ)しかないな、岩崎は決断した。転送を断ったところで、我々の文明を凌駕(りょうが)する相手の前には逃げも隠れも出来ないだろうし、するべきではないな。

 

「――これかね?ありがとう。大月さん、座標を言いますね、北緯※※※※東経※※※※※※です。」

『ありがとうございます。すぐにそちらに"お邪魔"します。』

「お待ちしています。」電話が切れた。

 

途端に内閣官房執務室が蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれた。

警備の手配をする者、何らかの観測器材を最寄りの官庁から取り寄せようとする者、職員が動き回った。

騒然とした雰囲気の中、東山は、自席で呆然と立ち尽くしていた。

間もなく岩崎官房長官に呼ばれた東山は、異星文明と大月達とのパイプ役として、日本国政府交渉団の一員に加わった。

 

10分後、首相官邸正面玄関に大月と西野が何の前触れも無しに出現した。

呆気(あっけ)にとられているSPを余所に、二人は出迎えに来た東山と岩崎官房長官との対面を果たした。

 

日本国政府独自の異星文明との対話窓口が出来た瞬間でもあった。




ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m
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