転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・天草(あまくさ) 治郎(しろう)=JAXA理事長。
・イワフネ=マルス人。第3惑星調査隊長。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。


交信

『マスター。マルスの外の空気がこちらと同じ成分になった。』その存在がとある研究者に告げた。

 

「温度差は問題ないのかい?」研究者が訊いた。

 

『問題ない。マルスに転移してから生態系維持システムに負荷がかかり過ぎている。一部機能を停止して、システムのメンテナンスを実行する。大気圏、海水表面部の電磁フィールドを解除する。』

 

「分かった。あくまでも生態系維持の為ならば認めよう。マルスの生態系との混合は不可だ。」

 

『了解。マスター。今から解除する。』

 

――――――――

 

地球暦2019年6月2日午前5時【東京都三鷹市 国立天文台三鷹キャンパス内】

 

「予定よりも早くお集まり頂いて申し訳ございません。緊急のお話があります。」

JAXA理事長の天草が、各国宇宙関係者に恐縮しきりに挨拶した。

 

「昨日、我が国の国内でこの通信を送ってきたと思われる人類と同じ存在が発見されました。」天草が衝撃的な情報を伝えた。

 

「抜け駆けとは、誠実な日本人らしくない。」極東NASAのゲイツ所長が皮肉たっぷりに言った。

「いつもフェイクばかり公表する貴国が言えた分際か?」極東ロシア宇宙庁のマレンコフ通信局長が言い返した。

昔の米露冷戦を思い出してうんざりした天草理事長が割って入った。

「抜け駆けではありません!30年前から、コマンド・ケイプが常時監視している場所なんですがね。」

「尖山(あそこ)が動いたのかね!?」ゲイツが驚いて言った。

「はい。厳密には動いたと言うか、目覚めたと言うのが正確な所です。」天草が説明した。

「彼らは今回のコンタクトを送ってきた相手ではありません。同胞達から孤立している様です。これから行うコンタクトが終わり次第、全ての情報を開示します。」

「まずは1つ、やるべき事をやりましょう。」天草がコンタクト開始を宣言した。

 

各国は反対しなかった。

 

同日午前8時交信が指定された「穴」から始まる。

「初めまして。日本国JAXAの天草と申します。」国際合同交信チームのリーダーである天草が呼び掛けた。

 

やがて自動的に国立天文台電波望遠鏡管制室のメインスクリーンに、頭髪のない、鱗に覆われた顔が2つ映った。

『初めまして。私はマルスアカデミープレアデスコロニーメローネ研究所のアマトハです。』

『同じく、プレアデスコロニーケラエノ研究所のゼイエスです。』

二人とも鱗の色が白銀と銀色で微妙に違うが、同じ爬虫類から進化した人類と思われた。

 

アマトハが送った通信は、琴乃羽が見つけた神代文字で解読し、日本語とほぼ同じ発音だと認識されている。実際にスクリーンから聴こえる音声も、日本語のそれだった。

天草の横で耳を傾ける各国宇宙関係者には、同時通訳で伝えられている。

 

「まず、私達は太陽系第3惑星『地球』で進化した人類なので自らを「地球人」と呼んでいますが、アマトハさん達の場合はどう呼ぶのでしょうか?」

天草が尋ねた。

 

『天草さん。私たちは太陽系第4惑星「マルス」出身です。40億年前、この惑星が将来生存に適さなくなると予知したためにプレアデス星団に移住した集団です。ですから、私たちの事は「マルス人」と呼んでください。』アマトハが言った。

 

『ゼイエスです。天草さん達は、永年、マルスアカデミーが観察していた星で進化された。それが何故、「マルス」にいらっしゃるのでしょうか?』

彼は、自分達が生命を作り出し、永年生命の進化を司ったとは言わなかった。

 

ゼイエスの質問に対し、天草は日本列島が人類同士の戦乱に巻き込まれて消滅の危機に瀕した事、その際、電磁フィールドで列島が防護されたものの、火星に列島ごと転移した事を説明した。

 

『その電磁フィールドは、アカデミーが設置した第3惑星の生態系を見守る為のものです。"普通の天変地異"では稼働しませんが、生態系そのものが消滅の危機にさらされた時に限り作動するものです。転移システムは、電磁フィールド内部の生態系を最大限ありのまま維持するように設計されています。』ゼイエスが説明した。

 

「なるほど。私たちはマルスアカデミーの皆様のおかげで命拾いしたと言うことですね。」天草が眉をひそめて言った。

「先程、私達を永年観察されていたと話されていましたが、私達の衛星である月面上でしょうか?それとも、プレアデスコロニーからでしょうか?」

ゲイツ極東NASA長官が質問した。彼らにとっては、月面着陸は歴史の輝かしい1ページなのだから。

 

『いいえ。正確には少し違うのです。』アマトハが言いにくそうに、否定した。

『大規模調査研究ラボ「ルンナ」で第3惑星衛星軌道上を回りながら見守っておりました。すなわち、天草さん、ゲイツさん達が月と呼ばれている衛星になりますね。』衝撃的な答えが返ってきた。

極東各国メンバーは絶句した。

 

天草は人類が過去に月面を調査・観測したデータを送信すると、

『これは、酷いな』アマトハが顔を曇らせて(うめ)いた。

『あなた方が呼ばれている「月」とは、衛星自体が人工物です。かなり激しく損傷していますが。』ゼイエスが答えた。

 

『なるほど、この地球にしか表を見せていない"傾いた"姿勢だとプレアデスコロニーにアンテナが向けられないから通信が送れなかったし、我々の信号も受信出来なかったのですね。』アマトハが嘆息した。

 

『ルンナとの交信は15000年前に突然途絶えました。どうやら、彗星の影響で致命的な損害を受けたようですね。』天草のデータを再確認しながらゼイエスが言った。

『恐らく、乗組員はルンナから脱出し、第3惑星に降り立ったものと推測しています。私達は、ルンナ乗組員を救助し、同時にマルスに"戻ってきた"皆様とコンタクトする為にここに居るのです。』

『天草さん。私達の同胞探しを手伝って頂けないでしょうか?』

アマトハが僅かに頭を下げた。

 

天草が少し思案する。両隣に陣取る各国宇宙関係者達は当然、相手との交渉材料としてイワフネ達の情報を使うだろう。地球人としては、「あり」だが、マルス人には、人類の文明を遥かに超越した存在に、使って良いだろうか?

天草は、内閣官房室と大月達の最初のやり取りの記録を見ていたので思い出す。

"彼らは常にこちらの気持ちを先取りして配慮してくれる"だったかな?それは、彼らに読心系の能力がある事を暗示してはいないか?

そうだよな、格上に「下手な」小細工は失礼だ。

 

「アマトハさんは、イワフネさんと言う方をご存知でしょうか?」いたずらっぽい顔で、でも優しく微笑みながら天草は、彼らの消息を伝えた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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