転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。
・春日(かすが) 洋(ひろし)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きは上手い。
・東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球に降ろされた。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。ゼイエスの善き理解者。
・モウゼ=マルス人。観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
・ユダ=マルス人。観測ラボ『ルンナ』クルー生き残り。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
・岩崎(イワサキ)=内閣官房長官。温和。
・ミッチェル=極東アメリカ合衆国大統領。
・パノフ=極東ロシア連邦大統領。

・ダグリウス=?
・アナンドリウス・ヒタイラー=?


別離

日本列島が消滅する約2500年前【インド亜大陸 ガンジス平原東部】

 

「ラーマ、貴方一人が乗ったヴィマナ1機ではどうにもなりませんよ。ナスカ基地の空中母艦とヴィマナ編隊が到着するまでお待ちになってはどうか。」

イワフネが若い国王に自重(じちょう)を求めた。

 

しかしラーマ王は、

「イワフネ。心配するな。我はついにインドラの矢を手に入れたからな。試作品だが、ラビィーダの(みやこ)に撃ち込むと(おど)せば、この戦争は終わるんだよ。」

と言って直ぐにヴィマナに乗り込むと、ロケットエンジンを点火して空高く飛んでいった。

 

「隊長。我々は?」ユダが指示を求めた。

「この戦いに介入は出来ん。人類同士の争いだからなぁ。ただ、以前のシロヒト人の兵器の例もあるから、一旦(いったん)タカミムスビに戻って見守ろう。」

イワフネが言った。

 

アラビア半島の手前、チグリス川が見えてくると、ラーマは高度を落とし、ラビィーダ首都モヘンジョダロに通信を送った。

「ラビィーダよ!こちらは神の矢を手に入れた。直ちに妻を解放せよ!」

 

モヘンジョダロは沈黙していたが、やがて対空戦車群とステルス戦闘機編隊がラーマ王のヴィマナにミサイルを発射した。

 

「すまん。シータ!」ラーマ王はモヘンジョダロにインドラの矢を放った。

流線型のスリッパに似た形のインドラの矢は、音速を超える速度でモヘンジョダロの中心部上空に到達すると、小型の太陽になった。

 

ラーマのヴィマナが高空から見ると、モヘンジョダロから大きなキノコ型の黒雲が浮かび上がり、ラーマのヴィマナも退避途中だったが衝撃波で木の葉のように機体が揺れた。

 

ラーマ王は帰還してから吐血し、毛髪が抜け落ちてしばらく体調を崩して寝込んだ。

ラーマ王は妻シータを見殺しにしたことを生涯悔いて、後妻(ごさい)を迎える事はなかった。

 

一連の経過はモウゼが観測しており、結末を報告した。

報告を受けたイワフネは何も言わず、再びタカミムスビに基地のスリープモードを指示した

 

【ラヴィーダ王国 カッパドキア山脈地下基地『シャンバラ』】

 

「ダグリウス!話が違うではないか!君が付いていながら何故核を使わせたのだ!」

モヘンジョダロ上空の迎撃任務から戻ったダグリウスにアナンドリウス・ヒタイラーが鱗の上からでも分かるぐらい怒気で顔を真っ赤にして(つかみ)かかった。

 

「すまん、ヒタイラー。だが私は制止したぞ?今はまだ、数が少ないあの兵器を使うのは得策ではないとな。ここ一番で使わないとダメだと口を酸っぱくして言い聞かせたのだ」

涼しい顔でダグリウスが答える。

 

「奴らは未開な原始人なのだ!ここ一番のタイミングなどわかる筈もなかろうに・・・。これでまた世界大戦の実証実験が中途半端に終わってしまうではないか」

ヒタイラーが肩を落としてボヤく。

 

「そこまで落ち込むなヒタイラー。まだ人類は絶滅してはいないさ。ラーマ王国は大打撃を受けたがナスカ基地やユーラシア大陸方面軍が所々生き残っている。文明再興にさほどの時間はかかるまい?」

ダグリウスがヒタイラーを(なだ)める。

 

「『次の』文明誕生までどれくらいかかると思う?」

ヒタイラーが訊く。

 

「この惑星における、大戦争後の壊滅した文明復興サイクルは『今までのデータ』によると約5000~10000年後だな。今回は各地に文明の技術がそのまま残されているから1000年ぐらいで最初の覇権国家が誕生するだろう。我々が介入するタイミングはそこだろう」

ダグリウスが思案しながら答えた。

 

「アカデミーの生き残りも今回の結果には落胆しているだろう。さぞかし人類の戦いを求めてやまない性質を『素のもの』として捉えているだろう。我々が介入する前に文明勃興の手伝いをする事は『過去の事例』を診ても明らかだ」

ヒタイラーが母星主流学派の行動予測をする。

 

「ダグリウス。次は私が自ら『実験に理想的な』大帝国を築くことにするよ。君に任せるとまた良い所で文明の成熟を(つぶ)されてしまう。私は大帝国の初代国王として、覇権国家の人類統治システムについて研究を深めるつもりだ。次は『宗教戦争』と『経済戦争』も試してみたい」

ヒタイラーが自分の考えを伝える。

 

「分かった。ヒタイラーの提案を尊重しよう。君は今回被害が少なかったユーラシア大陸西部で文明を(おこ)せばいい。私はアフリカ大陸からラーマ王国支配地域までの環境再生を行いながら覇権国家を(おこ)すとしよう。上手く行けば君の覇権国家の好敵手(ライバル)に成れるように『宗教国家体制』を試してみよう」

ダグリウスが応えた。

 

「ダグリウスもたまには良い提案をするではないか!面白い。ならば覇権国家同士による『冷戦』なるものも試してもよいだろう?」

ヒタイラーが楽しそうに言った。

 

「冷戦はまだ理論上の話の段階だからな。試す価値はあるだろう。お互いそれまでは核を含む切り札の使用は控えるとしよう。それと、主流学派の支援は受けても良いが、我らの素性は気づかれてはならんぞ?お前が王になるのなら。今の身体では感づかれてしまうぞ!?」

ダグリウスが指摘する。

 

「大丈夫だ。既にギザ研究地区のファラムラビーと共同してクローン人類の作成に成功したよ。ついでに言うと我々の精神体をクローンに移す研究も目途(めど)がついたんだ」

ヒタイラーが告げる。

 

「それは素晴らしい!これでいつでも我々は姿を変えて人類と共に歩むことが出来るな!」

ダグリウスが称賛(しょうさん)する。

 

「何が共に歩むだ。我々は研究者であって人類は検体だろうに・・・。まあいい・・・今は研究の最終確認だ。200年もあれば試験体を幾つか生成出来る。後はこれから私達が興す国で使ってみよう」

ヒタイラーが応える。

 

「分かった。では、我々はここからは別行動としよう。お互いの研究に幸あれ」

ダグリウスがヒタイラーに別れの言葉をかけると連絡艇格納庫に向かった。

 

「ダグリウスにも『シャドウ』の幸あれ」

ヒタイラーもダグリウスの背中に祝福の言葉をかけると肩を揺すりながらカッパドキア地下最深部にあるリニアモーターカー乗り場に向かった。

 

数百年後、地中海沿岸部のとある半島から一つの文明国家が勃興(ぼっこう)してユーラシア大陸の半分を手中に収めることとなる。

その初代国王の名は「ファラオ」とも「アナンヌキ」とも呼ばれた。

 

同時期に中東地域で勃興した巨大宗教国家の君主(かりふ)は名前を言うのも憚(はばか)られると言われ、その容姿(ようし)だけが後世に伝えられた。

 

そのカリフは背が高く、頭を黒いスカーフで隠して縦長の眼だけを覗かせる奇抜な格好だったという。

その巨大宗教国家の人民はカリフにならってスカーフで顔を覆い、一日に何度もカリフを(たた)える唱を口ずさんだと言われている。

――――――――――――――

 

 

地球暦2019年7月1日午前8時【東京都千代田区永田町 首相官邸 総理大臣執務室】

 

「そうか、ミッチェルも行くのか。」澁澤総理大臣が極東アメリカ合衆国のミッチェル大統領へ寂しげに言った。

 

『ああ、外に打って出るチャンスをみすみす逃すのは惜しいのさ。いつまでもタロウに甘える訳にはいかんよ。』ミッチェル大統領が答えた。

 

『先ずは、先遣隊を出して、拠点作りに適した場所を見つけたら、那覇DCを出るよ。引き続き共同統治が有り難いのだが。』

「君達が治安要員を減らさなければOKだ。どのみち安定したバックアップが必要だろ?我が国も少しは支援するさ。」

『ありがとうタロウ。では、これから議会で説得だ。』

「我々は100%共に在る。幸運を祈る、ミッチェル。」

強烈な皮肉で(はなむけ)の言葉を贈るとミッチェル大統領が苦笑して映像を切った。

 

「やはり出て行きますな。アメリカは。」岩崎官房長官が言った。

「ああ、彼らは我が国におんぶに抱っこではプライドが傷付くからな。」澁澤が応えた。

 

「しかし、ロシア熊も出て行くとは、仲が良いな。」澁澤が意味ありげな表情をする。

「ええ、内調(ないちょう)(内閣調査室:日本唯一の情報機関)を使って調べていますが、なかなか尻尾(しっぽ)(つか)めませんな。」岩崎が報告する。

 

「奴等は恐らく、外に出てから我々に牙を向くかも知れない。油断するなよ。」澁澤が言った。

 

調印式の後、各国首脳だけがアマトハに呼び止められて、シドニア地区にある旧マルスアカデミー本部に招かれた(転送された)。

そして、隔絶空間の外である火星の大地が劇的な変化を遂げていることを知らされて驚愕(きょうがく)する。

大気があり、海もあり、陸地もある。厳密な意味で人類に適しているかは分からないが、アマトハの開示したデータを見る限りでは、開発可能と思われた。

 

また、現在日本列島に展開されている電磁フィールドが数日内に、大気圏と海面上層に限定されてだが、一時的に解除されると伝えられた。

 

そして、火星の衛星『フォボス』『ダイモス』からマルスアカデミーの監視用器材が撮影した地球の拡大映像も見せられた。

地球では日本列島消滅の影響で地殻変動(ちかくへんどう)が発生、火山が各所で大噴火を起こし、見知った大陸の形が変わっていた。(ある)いは、大陸自体が姿を消していた。そして、水の星の半分近くが火山の噴煙で覆われようとしていた。

絶句する各国首脳にアマトハは、このままいけば噴煙が太陽を遮り、数百年単位で氷河期になると告げた。

 

隔絶(かくぜつ)空間に戻った後、各国首脳はこの情報を政府首脳に伝え、方針を協議した。

 

ミッチェル大統領が澁澤に連絡する前に、極東ロシア連邦のパノフ大統領が、火星開拓に進出する旨を伝えてきた。

 

外に打って出るのはこの2国であり、英国連邦極東、ユーロピア自治区、台湾自治区は、各々の日本国地元自治体及び日本国内にある多くの姉妹都市提携をしていた自治体からあらゆる面での支援を受けており、深い共生環境を築いていた。

自分達の文化を寛容(かんよう)に受け止め、存続に協力を惜しまない日本国民に彼らは心から感謝しており、今さら火星に新天地を求めるのは時期尚早(じきしょうそう)との意見が政府内部で相次いだのである。

 

一方、火星文明承継についても意見が対立した。

極東米露は、文明の即時完全承継を希望する積極派と、日本国をはじめとする各国は、火星文明の分析による、火星の科学技術を地球の科学技術に応用させて取り入れる段階的な承継を目指す慎重派に分かれた。

 

アマトハとゼイエス、イワフネは中立を(つらぬ)き、各々の希望に沿った文明の承継、研究開発に協力すると言った。

両者の対立が隔絶(かくぜつ)空間共同体の別離(べつり)を加速させる原因になったとも言える。

 

同日午前11時【東京都千代田区永田町 首相官邸内閣官房 チーム『マルス』】

 

「最近、極東ロシアが(しぶ)いんですよ。」春日が溜め息をつきながら大月に愚痴(ぐち)る。

「何が渋いんだ?」大月が訊く。

「素っ気ないと言うか。物資の提供を渋ると言うか、そんな感じです。」春日が言った。

「極東アメリカもパイナップル売ってくれませーん!」西野が泣き付く。

「お前は長崎のイワシパイが有ればいいんだろ?」大月がいなす。

「やはり、そう来るか。」大月が(つぶや)く。

「列島の外に出るなら、物資がいくらあっても足らんだろ。」素っ気なく言った。

 

「東山さん、お昼を食べたら午後は尖山に行きたいのですが。」大月がチームリーダーの東山首相補佐官に外出許可を申告する。

「私も付いて行きますよー。」西野も申告した。

「私はちょっと仕込みがあるんでやめときます。」春日が辞退した。

 

東山は少し考えたあとで、イワフネと連絡を取って、出来れば内密に行ける方法がないか相談して欲しいと課題を出した。

 

西野は直ぐに携帯を取り出して何処かに電話をはじめると、スピーカーモードで

「あ、イワフネさんですかぁ?西野です!大月さんがお話しに行きたいと言っていますけど、大丈夫ですか?」といきなり話し始めた。

 

大月は、そう言えば最近携帯が見つからなかったのは、西野が大月の携帯をイワフネに渡していたからか、と仕掛(しかけ)に気付いた。

 

『私は大丈夫です。大月さん達のお話は面白いですからね。』 イワフネが了承した。

『――はい、内密ですか。――事情はうすうす。――そうですねえ。では、水上山の頂上までご足労(そくろう)願えませんか?』イワフネが提案した。

 

『タカミムスビの転送システムは、水上山(皆神山(みなかみやま))と飛騨高山(ひだたかやま)の頂上から相互に移動出来るようになっています。』イワフネが説明した。

 

「大月です。ご配慮ありがとうございます。では、皆神山に着いたらまた電話します。失礼します。」大月が会話を引き取って終了した。

「東山リーダー、新しい連絡ポイントについて、岩崎さんに報告に行きましょう!」大月が具申(ぐしん)した。

「ええ、今直ぐに。」東山は若干押されぎみに頷いた。

 

岩崎官房長官に、水上山(皆神山)と飛騨高山から尖山(とがりやま)に転送出来るシステムが有ると報告すると、

「早速結果を出すとは、さすがですね。我が国独自の火星文明交流と情報収集にも役立ちます。その2ヶ所にはJAXAの宇宙観測施設を作ると表向きはしましょう。秘密裏に陸自の特殊部隊を駐留させ、公安に警備をさせましょう。総理には、私から報告します。」

 

話が大事になってきたが、取りあえず皆神山に向かう大月と西野だった。




ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m
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