転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。

・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。実は社長の孫娘。
・春日(かすが) 洋(ひろし)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きは上手い。
・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球に降ろされた。
・仁志野(にしの) 清嗣(きよつぐ)=総合商社角紅社長。阪神・淡路大震災で亡くした息子夫婦の一人娘である西野ひかりを引き取り、保護者となる。


ホームステイ(イワフネ)

地球暦2019年7月20日午前9時【極東アメリカ合衆国横田基地(エリア・横田)】

 

澁澤首相、ミッチェル大統領、パノフ大統領他各国の要人がアマトハ達『留学生』を出迎えるために集まっていた。

 

やがて、

『―――っ!高速で上空1万mから垂直降下する飛行物体を探知しました!』基地の管制からのアナウンスが響く。

 

やがて、誰もが知るシルエットを持つ飛行物体が初夏の青空から降ってきた。

そのシルエットは『土星型円盤』と呼ばれる。

かつてブラジル海軍が撮影し、公式にブラジル政府が認定したタイプである。

 

土星型円盤は音もなく輪の部分をくるくる回転させながら、代表団が待ち受ける滑走路上に近付くと、4本の脚を出して着陸した。

やがて円盤のハッチが開いて、タラップが地上に届くと、アマトハ達が円盤から降りてきた。

"今回は"アマトハ、ゼイエス、イワフネの3人が別行動をとって各国を訪問し文化交流と、来る技術承継について協議する事になったのである。

 

お忍びで、大月と西野が水上山(みなかみやま)(皆神山)から尖山(とがりやま)に行ってイワフネと話したときに、地球文明を(すべ)て知りたいという希望に対して、西野が「それなら、みんなホームステイに来ればいいんですよー。」とあっけらかんと言い(はな)ったのがきっかけである。

イワフネは(ただ)ちにアマトハとゼイエスに『ホームステイ』の打診(だしん)をしたら、とても良いノリで決まってしまったのである。

 

東京の官邸に戻って、岩崎官房長官と東山リーダーに、「アマトハ達がホームステイしたいそうです。」と報告すると、二人とも口をあんぐり開けて固まっていた。

これは不味(まず)い、と何となく感じた大月は西野を道連(みちづれ)れに角紅(かどべに)が持つコネクションを利用して、取引先に仕事の打診(だしん)をした。

 

ちなみにコネクションの利用については、西野が社長に"直談判(じかだんぱん)"して許可を得ている。

 

角紅(かどべに)のディベロッパー部門のゼネコン設計士には、身長3mの人間が快適に過ごせる住宅の設計を大至急で依頼し、西野の(つて)で巨人に見合う北欧家具を特注し、春日と宮内庁(くないちょう)、上野動物園に宇宙人食の相談をして試食会を成功させた。

衣服についても、西野がリーダーシップを発揮し、取引先のファッションデザイナーを中心に、異世界人類の着る"実用的な"各種衣類を製作して(もら)った。

 

衣食住が(そろ)った段階で、大月はこの資料を各国宇宙機関窓口に送り、準備を(うなが)した。

 

アマトハ、ゼイエス、イワフネ達にホームステイの内容、意義について大月が詳しく説明した。

要は1ヶ月にわたり、"お(しの)び"で、日本国及び各国の政治、社会文化、科学技術を実体験(じつたいけん)するのである。

 

イワフネは大月と寝泊(ねと)まりを共にしながら、角紅(かどべに)の社員としてサラリーマン生活を送る。休日は庶民(しょみん)のレジャーを経験する。

 

アマトハは各国を(まわ)って政治指導者と対話を行い、 人類国家の政治思想を聴く。

 

ゼイエスは各国の科学者と交流する。

 

アマトハとゼイエスも各国が用意する滞在施設(たいざいしせつ)に泊まる。

 

勿論(もちろん)3人には、万一に備え各国政府の護衛が(ひそ)かに()く。

 

大月、アマトハ達双方が遠足に(のぞ)む学生の様にワクワクしながらその日が来るのを楽しみにしながら待ったものだった。

 

翌日7月21日午前6時【神奈川県横浜市 アパート「サンライズ」105号室】

 

「おはようございまーす!」西野の元気な声がインターホンから聴こえた。

「おはよう西野。元気だな。」寝ぼけ(まなこ)で西野を部屋に上げると、西野はニコニコと笑顔でそのまま大月の部屋を横切り、大月の壁に設置された特注の「玄関」脇のインターホンを押す。

 

「イワフネさーん!朝ですよー!」イワフネのホームステイ1日目のモーニングコールである。

たっぷり5分かけて扉を開けたイワフネは、水色の特注Yシャツと、明るいグレーのスーツを身に付けていた。

 

「イワフネさんバッチリ決まっています!いけてます!」西野がよくわからないテンションで()める。

 

朝御飯(あさごはん)()し上がりますか?」西野が()いた。

「ありがたい、よろしくお願いします。」イワフネがニコリとする。

「あなた―っ!イワフネさん家で朝御飯ですよ―!早く着替(きが)えてくださいな―♪」西野が新妻(にいづま)気取りで大月をぐるぐる小突(こづき)(まわ)す。大月は洗濯機の中の衣類のように西野に世話を焼かれながら着替える。

リア中年爆発しろ!と影ながら警戒するSPが言ったかも知れない。いや、作者かな?

 

イワフネの滞在場所は、大月のアパートに隣接して角紅デベロッパー部門が威信(いしん)をかけて急遽(きゅうきょ)突貫(とっかん)工事で建設され、正面玄関の他に、大月の部屋に面した部分にも「玄関」が作られ、そこから大月と西野が出入り出来るようになっている。

西野ネーミング『イワフネハウス』らしい。ひねらないの?等と突っ込む(ひま)もなく、西野が手際(てぎわ)よく前日から仕込んでいたカボチャのポタージュとシーチキンサラダ、鳥の照り焼きという豪華な朝食を済ませると、3人はSP護衛のもと、横浜駅に向かった。

横浜駅からは、JR東海道本線に乗って東京まで通勤するのである。

 

朝のJR東海道本線は混雑(こんざつ)が酷(ひど)く、経済統制、交通規制下の現在、自家用車の使用が禁止されてからは更に過密(かみつ)になっていた。

この為、一番混(いちばんこむ)むとされる川崎~品川間の乗車率は300%を超えていたがその日、"ビッグゲスト"の乗車により阿鼻叫喚(あびきょうかん)通勤地獄(つうきんじごく)と化した。

人がはち切れんばかりに(あふ)れかえる乗車口に身長3mを超えるイワフネが乗ろうとしたのである。

車内は悲鳴と怒号(どごう)に包まれた。

すかさず護衛のSPが、

「すいませーん、特撮(とくさつ)映画の撮影です!ご協力お願いしまーす!」と叫び、車内放送も「本日、10号車において、海外国賓(かいがいこくひん)による特別撮影が行われている関係で、電車大変混みあいまして誠に申し訳ございません。ご協力の程、お願い申し上げます。」とアドリブを()かせたアナウンスがされた段階で、(ようや)く乗客達は落ち着いてイワフネが乗る空間を、駅員や車掌達と協力して空けたのであった。イワフネが収まった車両のドアは、東京駅に着くまで、途中駅で開いても、乗降(じょうこう)する(乗降出来る)乗客は居なかった。

大月はイワフネの巨体を後ろで支え、西野が大月のメタボな体をその後ろで支え(ハグとも言う)、春日はイワフネの鞄(かばん)がドアに挟まらないように神経を使い、護衛のSPは物珍しげに写メを撮ろうとするものを(にら)み付けて牽制(けんせい)したり、接触しようとする者を(さえぎ)るなどして、任務を全うした。

東京駅で交替したSPは全員駅の医務室に運ばれた。極度の緊張と急激な脱水症状であった。

 

疲労困憊(ひろうこんぱい)(てい)で2人(何故か西野は顔がツヤツヤしていた)がイワフネと共に角紅本店に到着すると、久しぶりに出勤した大月と春日に同僚が早速(さっそく)仕事の相談を持ち()けていた。

同僚達は、イワフネに興味深い視線を向けたものの、自分の業務に集中しており、その姿勢にイワフネは感銘(かんめい)を受けた。

(しばらく)くすると、社長室から出迎(でむか)えの秘書が来て、"新人"イワフネを挨拶(あいさつ)させるために、西野を付き()わせ、社長室に案内して行った。

 

イワフネは、「人類は毎日こんなに過酷(かこく)な生活をしているのに、研究ばかりしている自分はこれでいいのだろうか?」と(よわい)500万歳を超える賢人(けんじん)(しばら)く悩んだと言う。

 

――――――

角紅社長室の応接セットで社長と3人だけになると、

「ひかりちゃん、(すご)い新人さん連れてきたなぁ。」と社長の仁志野(にしの)が笑顔で言った。

「お祖父(じい)ちゃんこそ、いろいろ手伝ってくれてありがとう。」"仁志野(にしの)ひかり"が嬉しそうに答える。

 

「そらぁ、火星の新人さんは会社創業以来やからなぁ。」思わずひかりのペースで関西弁(かんさいべん)に戻る社長。

「今はまだお忍びやけど、そのうち公表されると思うで。火星人御用達(かせいじんごようたつ)のブランド準備しといた方がええんちゃうかなぁ。」ひかりがボソッと、"独り言を言う様な感じ"で、政府の動きを示唆(しさ)した。

「ほんま、商売に結びつける子やなぁ。そろそろ役員やっとくか?」社長が冗談半分で打診(だしん)する。

「今はまだ、『彼』の(そば)に居たいねん。」とひかりが答える。

社長はニヤリと笑うと、今度はイワフネを見て、

「イワフネさん、ようこそ(うち)の会社へ。」初めてイワフネを歓迎した。

「ありがとうございます。ニシノ社長。よろしくお願いします。」イワフネが体をちょこんと折り曲げてお辞儀(じぎ)をした。

「礼儀正しいですなぁ。」社長が感心する。

「大月さんに仕込(しこ)まれました。」イワフネが苦笑しながら(こた)えた。

「大月君か。ひかり、彼は化けたなぁ。」ニコリと笑う。

「そうやねぇ。彼はいろいろ独りで抱えていたみたいやけど、少しずつ男前になってるでぇ♪」ひかりが少し(かなり)、のろけた。

社長はガハハと笑い、

「ほな、もう少し男を上げたらちゃんと紹介してな。」ひかりに告げた。

「ありがとう、おじいちゃん。」ひかりが心から感謝する。

「イワフネはん、どうかうちらをよろしくお願いします。」社長が頭を下げる。

「それと、ここでの話は大月さんには内緒(ないしょ)やで?」といたずらっぽく笑った。

「分かりました。大月さんはしっかりとご自分の役割をこなす人だと思います。ひかりさんとは、お似合(にあ)い)だと思いますよ。」イワフネが(こた)えた。

社長は大いに満足そうに笑った。




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