転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・春日(かすが) 洋(ひろし)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きが上手(うま)い。
・東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
・イワフネ=マルス人月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球に降ろされた。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長ゼイエスの善き理解者。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
・ミッチェル=極東アメリカ合衆国大統領。
・パノフ=極東ロシア連邦大統領。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ジャンヌ=ユーロピア自治区代表。


ホームステイ(アマトハ)

地球暦2019年7月21日午前10時【東京都千代田区 皇居】

 

アマトハが天皇陛下をお(しの)びで訪問した時、天皇陛下は皇太子殿下(こうたいしでんか)(ともな)って、アマトハが待っていた会見場(かいけんじょう)に現れた。

「お待たせしました。」

温和(おんわ)な声で天皇陛下がアマトハに声を掛けた。

 

「こちらこそ、無理を言ってお邪魔してしまい、恐縮(きょうしゅく)です。」

立ち上がったアマトハがお辞儀(じぎ)をして(おう)じた。

 

「それと、"先日は"ありがとうございました。殿下(でんか)。」アマトハが皇太子殿下(こうたいしでんか)にお辞儀をした。

 

「皆様のお気持ちがこもった美味しい料理が胸に染みました。」アマトハは心から感謝した。

 

「アハハいえいえ、料理人達は一生に1度の名誉だと申しておりましたよ。」

皇太子殿下は笑って応えた。

 

「一生に1度の名誉、ですか。」

アマトハは一瞬言葉を考えたが、

「天皇陛下。現在の人類の寿命は、いか程(ほど)になるのでしょうか?私達と余りに違うものですから。」

正直に聞いた。

 

「そうですね、男性で80年少し、女性は80年から90年位でしょうかね。」

天皇陛下が少し考えて答えた。。

「だから、一生に1度の名誉なのですか。」

アマトハが言った。

 

天皇陛下は(うなず)きながら

「だから、人間はまだまだやりたいことが有っても限られた時間で、自分の人生を選択しなければならないのです。」感慨深げに天皇陛下が答えた。

 

「陛下。私達マルス人類の寿命は平均で1000万歳になります。私は650万歳になります。」

アマトハが告白した。

余りの内容に天皇陛下も、皇太子殿下も、絶句してしまった。

 

「陛下、それでも私達は日々宇宙の真理と(ことわり)の研究を続けている人種なのです。」アマトハが言った。

――――――――

 

アマトハは次に首相官邸に向かった。

澁澤(しぶさわ)総理大臣と懇談(こんだん)する為である。

 

「やっとゆっくりお話ができますなぁ。」澁澤がざっくばらんに言った。

 

「ありがとうございます。留学準備の時に大月さんに取り寄せてもらった日本の近代、現代史、歴史書は大変興味深かったですよ。」アマトハが(こた)えた。

 

「我々と違って地球の方々は()(いそ)いでいるように感じてしまうのは、仕方(しかた)がないのでしょうか?」

アマトハが率直な感想を述べた。

 

「ええ、人の一生(いっしょう)は短いし、常にチャンスが()るわけではない。だから、とある一瞬(いっしゅん)に人は全力を出せるように努力するのだと私は思いますよ。」

澁澤が答えた。

 

「マルスの人々はどの様な政治体制で社会を築かれているのでしょうか?」

澁澤が質問した。

 

「我々はアカデミーという、研究統轄(とうかつ)機関が政府の役割を果たす感じですね。マルス人の殆どは研究・調査の日々という人生を送ります。」アマトハが答えた。

 

「それは素晴(すば)らしい。我が国の学者達が()いたらさぞかしうらやましがるでしょうなぁ。」

澁澤が笑いながら言った。

 

「アマトハさん。実は()いてみたかった事があるのですが、何故、過去の高度人類文明は、滅びたのでしょうか?」澁澤が尋ねた。

 

「アトランティス、ムー、バベル、モヘンジロダロ、ナスカ、マヤ、オルメカ、ケルト。いずれの文明も、立ち上げ当初は我々が技術支援を行いました。」

アマトハが衝撃的な発言をした。

 

「しかし、我々の技術支援は文明が"発展サイクル"に入ると終了します。"彼らの文明"は、我々の模倣(もほう)であってはならない、とアカデミーが決めているからです。」アマトハが説明を続ける。

澁澤は真剣な面持(おもも)ちで聞き入っている。

 

「地球人類は、大きすぎる力を手にすると、それを応用したり派生させる研究に到達する前に、"そのまま行使"する傾向が強いのです。」

「結果として、戦乱が激しくなり、やがてはその時代の生態系を道連れに、惑星規模の破滅に至るまで制御不能になります。いずれの文明も、それが原因で、宇宙の果てまで行く前に、(ほろ)んでいます。」

アマトハが嘆息(たんそく)して言った。

 

「ですから、我々は、即事技術承継(そくじぎじゅつしょうけい)を求めた一部極東各国の将来を危惧(きぐ)しています。しかし、ユニークな選択をした日本国は、今までに無い事例です。我々は期待せざるを得ない。」

アマトハが澁澤の決断を評価した。

 

「我々は(おのれ)()(わきま)えるという考えがありますからな。しかし、国内には慎重すぎる、チャンスを逃すな!と批判する多くの国民が出るでしょう。」澁澤が悲観的な見通しを示した。

 

「その声が大きくなったとき、私は内閣を総辞職させ、総選挙で国民に信を問うやり方を取ると思います。」

澁澤はアマトハに、今後日本国政治で起こりうる最悪の事態を予告した。

 

「分かりました。私は、あなた方政府に(とど)まって欲しい。あなたは賢明(けんめい)だから。」

澁澤は珍しく照れて笑った。

 

――――――――

首相官邸にいたアマトハを迎えに来たのは、

極東アメリカ合衆国の要人輸送用海兵隊ヘリ『マリーン・α(アルファ)』だった。

 

海兵隊ヘリに乗ったアマトハは、そのまま横須賀沖に停泊する航空母艦『セオドア・ルーズベルト』に着艦した。

甲板では、ミッチェル大統領を始めとする政府首脳が出迎えた。

 

航空母艦のブリーフィングルームに案内されたアマトハはそこで、民主主義リーダーとしての大国、極東アメリカ合衆国の成り立ち、日本国との歴史的関係、今後のアメリカが考える火星開拓戦略を聞いた。

その後は甲板に出て、巡洋艦『ズムウォルト』のレールガンの威力や、極秘(ごくひ)戦闘機『オーロラ』からの攻撃用レーザー発射等、軍事技術の強大さをアマトハにアピールした。

 

アマトハは、「"(なつ)かしい"兵器の数々を見ました。人類の技術進歩は戦争によるものだという事がよく分かりました。これが人類に有益に使われることを願います。」

とだけ言って、極東ロシア連邦の迎えのヘリに乗ってエトロブルクに向かった。

――――――――

 

極東ロシア連邦のパノフ大統領との懇談は、極東アメリカ合衆国と似ており、如何(いか)に極東ロシアが人類に影響力を持っているか、ロシア民族の苦難の歴史と北方四島の領有権の正統性をアピールした。

 

アマトハは、特に感嘆もせず、極東アメリカ合衆国に言ったのと同じことをコメントしてエトロブルクを発った。

 

――――――――

自衛隊ヘリで長崎県に向かったアマトハは、五島列島(ごとうれっとう)の1つで静かな海を望む邸宅(ていたく)で英国連邦極東 首相ケビン、ユーロピア自治区代表ジャンヌと懇談したが、"ティータイム"という形式でざっくばらんに話し合うパターンは、極東米露と違う毛色(けいろ)だった。

 

「アマトハさんは、地球人類が信仰する宗教についてどのような考えをお持ちか?」

英国のケビン首相から質問されると、少し考えてこう言った。

 

「誰でも、自分の信じるものを支えに日々生きているのだと思います。人類の特徴として、1つの目標に立ち向かう集団のエネルギ-は、マルス人が久しく忘れていたものを思い出させてくれます。」

とアマトハは率直に評価した。

 

「しかし過去の人類の地球文明では、宗教的特徴を強調するあまり、本来の意義を見失って自らの身を滅ぼした文明もあります。科学と宗教のバランスは難しく、また、人々の宗教観念も異なります。これはまさに、永遠の課題ではないでしょうか?」

アマトハが見解を述べた。

 

「私達はこの豊かな自然の中で、伝統的な生活が送れていることを、神に感謝しています。」

英国のケビンが言った。

 

「我々を何千年も支えたもうた偉大なる神"ゼウス"に毎朝感謝しています。」

ユーロピアのジャンヌ代表が言った。

 

アマトハは"ゼイエス"がここに居なくて良かったと心から思うのだった。

 

「また、ティータイムにお話しましょう。」と二人からティータイムの誘いを受けたアマトハは、「お話だけなら」と了承して長崎を発った。

 

よくよく考えてみると、言質(げんち)を取られていたことに気付いたアマトハだった。

――――――――

 

東京の迎賓館に戻ってきたアマトハは()てがわれた自室に戻ると、盛大にため息を吐いた。

 

やがてイワフネに電話し、「今日は飲むぞ!」と宣言し、『イワフネハウス』で大月達と宴会(えんかい)を開き、西野特製マルス料理をたらふく食べてストレスを大いに発散(はっさん)させた。

特製パインアップルのお酒が疲れたアマトハの心身(しんしん)()みた。

「アマトハ、お前サラリーマンみたいだな。」

とイワフネに真顔(まがお)で言われ苦笑するアマトハだった。

翌日、アマトハは『母星から"急ぎ"の調査要請を受けた』と、留学を切り上げる(むね)を各国首脳に伝えた。

 

マルス人の感覚で"急ぎ"とは、地球人類の感覚に変換すると、(おおむ)ね100年程度である。




ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m
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