転移列島   作:NAO

28 / 121
【このお話の登場人物】

・ソーンダイク=アース・ガルディア 英語圏代議員。
・アレクセイエフ=アース・ガルディア ロシア語圏代議員。
・総代表=アース・ガルディア 国家元首。


修羅(しゅら)の星

ガルディア暦2年(西暦2019年)9月1日

【地球衛星軌道上 旧国際宇宙ステーション 現『宇宙国家アース・ガルディア』コア・サテライト】

 

地球は青かった、と人類初の宇宙飛行士ガガーリンは言っていたが、今の衛星軌道(えいせいきどう)から見る地球は灰色と青と赤茶色(あかちゃいろ)が混在(こんざい)したまだらの惑星になっていた。

 

そんな地球を見やりながら、

「今日も地球は怒(いか)り狂っているなぁ。」渋(しぶ)い顔でソーンダイク代議員が、言った。

 

「今日は何処(どこ)が怒り心頭(しんとう)なんだい?」アレクセイエフ代議員が訊(き)いた。

 

「昨日はイエローストーン(ワイオミング州)とセントヘレンズ(ワシントン州)が大噴火したのにまた(合衆国(ステイツ))だよっ!内陸部(ないりくぶ)は壊滅的(かいめつてき)損害だ。小麦畑が灰に覆(おお)われたよ。そして、つい先程(さきほど)空震(くうしん)をキャッチした。震源地はハワイ島だ!くそったれ!」

「マウナケアの山頂が半分吹き飛ぶおまけ付きの大爆発だ。ワイキキはじめ全島が火砕流(かさいりゅう)と溶岩流に呑(の)み込まれた。マウイ島も巻き添(ぞ)えだ。」

「真珠湾基地(パールハーバー)も全滅したようだ。」

ソーンダイクはむっつりした顔で言った。

 

「ユーラシアはカムチャッカ半島から白頭山(北朝鮮・中国)、ピナトゥボ(フィリピン)、アグン(バリ島)、エルブルス(ロシア)、ベスヴィオ(イタリア)まで絶賛(ぜっさん)大噴火祭りだよ。」

 

この景色(けしき)もそのうち噴煙(ふんえん)で見られなくなるな。アレクセイエフが幾筋(いくすじ)もの赤い川で割れたアララト山(トルコ・ロシア南部)を含む故郷、旧ロシアを眺(なが)めながら言った。

 

「どれくらいが宇宙に来れるかな?」ソーンダイクが訊いた。

「NASA(ナサ)、ESA(イーエスエー)、ボストーク、インド、中国が秘密基地はもとより、民間企業も徴発(ちょうはつ)して形振(なりふ)り構わずに打ち上げている。」

アレクセイエフが答えた。

 

二人の眼下(がんか)で一筋のオレンジ色の光が東アジアから立ち昇ったが、やがて失速して大気圏上層部で赤く輝きながら分解して流れ星になって落下していった。

「失敗しているものも多いがね。」

アレクセイエフが嘆息(たんそく)して言った。

 

「おそらくは数千人規模になるだろう。ドッキングした各船体と、廃棄された研究ステーション群も活用して凌(しの)ぐしかないな。」

アレクセイエフが呟(つぶや)いた。

 

「後は、海上のメガフロートを方舟(はこぶね)に見立(みた)てて乗りきるしかないか。」

ソーンダイクが言った。

 

「こんな状態で『宇宙国家』なんて酷(ひど)いジョークだよ。」ソーンダイクが自嘲(じちょう)した。

 

「そんなことはないよ。我々を頼りに人々が結集するんだ。国連以上にね。総代表もそれをお望みだ。」

アレクセイエフが言った。

 

宇宙国家『アース・ガルディア』は、2年前にロシアの軍需産業(ぐんじゅさんぎょう)を営(いとな)む実業家が、米露(べいろ)の科学者と共に建国した人類初の宇宙国家である。

宇宙の脅威(きょうい)から地球を守る目的で建国された。

 

ネットで登録した15万人の国民は大部分が未(いま)だ地上にいるが、宇宙の国家本部「コア・サテライト(旧 国際宇宙ステーション)」から生き残りに必要な情報を随時(ずいじ)発信(はっしん)して、集団としての纏(まと)まりを維持していた。

 

「ところでアレク、君はこの星が何処(どこ)だかわかるかい?」ソーンダイクがかつて"赤かった星"の映像を拡大して見せる。

 

「なんだい?海があるし、大気も有るな。太陽系にそんな星が有ったか!?」アレクセイエフが驚愕(きょうがく)した。

 

「そうだよね、あれは火星なんだ。この数ヵ月で環境が激変した様だ。地球の異変は火星にも影響を及ぼしているのかな?」ソーンダイクが応えた。

 

「すぐには行けない距離にあるのがもどかしい。まともな調査手段も今は無いしな。次の大接近時に探査したいものだ。」アレクセイエフが溜め息をついた。

「でも、地球が修羅(しゅら)の星と化して居住不可能になりつつある現在、人類にとっての希望だね。ところで、この島は何処(どこ)かで視た記憶が有るのだが。」アレクセイエフが映像を指差(ゆびさ)していった。

 

拡大された「青い火星の」中緯度(ちゅういど)に、『日本列島』が、火星の海のただ中で存在していた。周囲は赤黒い線で囲(かこ)われているが。

 

「冗談だろ?これは、」ソーンダイクが絶句(ぜっく)した。「直(す)ぐに総代表へ連絡だ!!」

 

ーーーーーーーーーー

同日アメリカ東部時間午後4時【フロリダ沖のカリブ海 アメリカ合衆国海軍 第7艦隊所属 ロスアンゼルス型原子力潜水艦「ルイビル」】

 

「超長波通信、他の周波数でも試しましたがやはりパールハーバー、サンディエゴ、ノーフォーク基地の応答有りません、上空の電離層が不安定でまともな通信が受信できません」

発令所で通信担当士官が艦長に報告した。

 

「付近の友軍基地との交信は可能か?」

「プエルトリコ州兵基地が近いのですが、応答ありません。」

「艦長!海底から救難信号をキャッチ!友軍です」

「コールサインは?」

「・・・第3艦隊旗艦 空母「アメリカ」です。自動発信モードです。海底800m」

 

艦長はため息をついた。

恐らくカリブ海で起きた巨大地震の大津波で転覆したのだろうか?

プエルトリコ基地が応答しないのも津波で基地が壊滅したのだろうと推測できた。

 

「付近の状況を確認する。操舵員、進路をフロリダ半島沖1キロ、ケープカナベラル基地付近にまで寄せてみろ」

「アイアイサー!」

 

2時間後、夕暮れのフロリダ半島沖に浮上した潜水艦のハッチを開けて久しぶりの空気を吸った艦長と副長はすぐに顔をしかめた。

陸地側からの風が死臭に満ちていたからである。

 

「・・・沿岸部の都市はツナミで軒並み壊滅しているようだな」

双眼鏡で陸地の海岸沿いを一通り観測した艦長が言った。

 

「隣の副長は背中の無線機で無線交信を試みていた」

「誰かいますか?誰かいますか?こちらルイビル。誰か応答してくれ!」

 

「・・・ルイビル。こちらイギリス海軍戦略ミサイル潜水艦「ヴェンジャンス」・・・貴官はどこにいる?」

驚いたことにイギリスの戦略ミサイル潜水艦がコンタクトしてきた。

艦長は驚いたが副長からマイクを受け取って交信を試みる。

 

「こちらはフロリダ半島沖だ。合衆国海軍第7艦隊所属潜水艦「ルイビル」、艦長のサザーランド大佐だ」

「サー、艦長。私は「ヴェンジェンス」艦長のグリナート大佐です。我々は現在ハバナ沖3キロの海上に浮上している。付近に友軍も敵軍も居ない。ハバナはツナミで壊滅した模様。」

「こちらも付近に応答できる者が誰もいないようだ。先程友軍の空母アメリカが沈没しているのを確認した」

「お悔やみを、大佐」

「感謝する。グリナート艦長」

 

「貴官はこれからどうする?」

「司令部からの最後の通信は「別命あるまで安全な海域で待機せよ」だった。グアムから西海岸寄りに南下して喜望峰を回ってここまで来たが、新たな指令はまだ来ない」

「我々が知る限りでは、貴国の指揮系統は潰滅状態だ。そもそも国家として機能しているかも怪しい状態だ」

「うれしくないジョークだな」

「ああ。ジョークでないところがタチの悪いところだ。こちらも同じ状況でね。グラスゴーからの通信が途絶して3日になる。通信衛星の故障か、電離層の状態が劣悪なのか、グラスゴー海軍基地自体が海の底かはわからんがね」

 

「そうですか・・・地上の放送はどこか聴いていますか?」

「BBDの海外放送は先週から途絶えたままだよ。お国の放送局はVOA(ヴォイス・オブ・アメリカ=アメリカ政府の対外宣伝放送)がたまに傍受(ぼうじゅ)出来るくらいだ。ラジオのみだがね。2日前に傍受したところだと現在のお国の最高司令官はバンデンバーグ基地に避難している空軍長官らしい。ちなみに我が国の政府は軍の指揮権をNATOに移譲したようだ。だが、ブリュッセルとも通信が取れない」

「そうですか・・・情報に感謝します。本艦はバンデンバーグ基地との連絡を試みます」

「サザーランド艦長の幸運を祈る」

 

「貴官はどうされるのか?」

「取りあえずグラスゴーに戻るよ。どのような状態かわからんが本国の近くに戻れば何かしら情報が得られるかもしれん」

「グリナート大佐の幸運を祈ります」

「感謝する。交信終わり」

 

サザーランドは副長の背中の無線機にマイクを戻すと、

「副長、取りあえずバンデンバーグに向かおう」

「アイ、艦長」

 

1週間後、米海軍潜水艦「ルイビル」はバンデンバーグ基地との交信に成功し、生き残っていた補給艦から糧食などの補給を受けることが出来た。

 

一方のイギリス海軍戦略ミサイル原潜「ヴェンジェンス」はグラスゴー基地近くまで戻ることに成功したが、海軍基地自体が海面上昇により水没しており、グリナート艦長は無線でグラスゴー近郊で避難民の保護にあたっていた陸軍部隊とコンタクトを取りながら、グラスゴー基地周辺に集まっていた避難民の支援にあたった。

 

ヴェンジェンスの原子炉から得られる電力を陸上の友軍工兵に有線で送電し、避難民キャンプの開設を支援したのである。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話から『 第四章 選択(せんたく)』 になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。