地球暦2019年9月12日正午【NHKニュース】
国営放送のアナウンサーにもかかわらず、政権与党に対して批判的な態度を取ることで有名な女性アナウンサーが嬉々としてニュースを伝えていた。
「澁澤総理大臣は6月25日に政府が締結したマルス科学技術文明の段階的承継を、『国民の充分な議論、検討が為されないまま締結されてしまった不十分な内容の承継方法だった』として、国民投票による協定の追認を得たいとの考えを示しました。」
「今回の国民投票は国民投票法が国会で成立してから初めて、具体的事案に対する澁澤政権の信を問う選挙、...失礼しました、投票になります。」
あからさまに自分の願望を思わず口にしたアナウンサーが失言に気付いて顔をしかめた。
「やっぱりこうなったんですねぇ。」
社員食堂で大月やイワフネ、春日と共に昼食を取る西野が言った。
「本来、政府が対外的な条約を、国民の意見が違うから等と情緒的な理由で反故にすることは国際的な信頼を著しく失墜させる大失策なんだけどな。」
大月が西野の作ったツナサンドをもしゃもしゃ食べながら言った。
「だが、国際的も何も、火星に存在する我が国はそのようなことは、あまり関係無くなってしまった。むしろマルス側に対して、日本国はちゃんと考えていますよ、という姿勢を見せる事の方が大事なんだよ。」
「それと、マルス文明というオーバーテクノロジーを承継する事の意味を国民全員が真面目に考えることで、これから発展、開発される新技術を使う免罪符にもなるんだよ。」
大月が政治的な見解を一気に喋った。
西野は大月さん素敵と目がハートになっており、東山は頷くばかりでイワフネは黙って聞いていたが、春日は、
「そんなにいちいちみんなの意見を聴いていたら、物事が全然進まなくなりませんか?」と疑問を呈した。
「確かに、でも、火星に在ろうが我が国は建前上、『民主主義国家』だ。なるべく多くの民意を政府に集めないことには何事も進められない。」大月が応えた。
「じゃあ、極東アメリカ、極東ロシアも選挙、じゃなかった。国民投票するのかな?」
西野が訊いた。
「いや、"向こうは"1度選挙で勝った政党が政権を握ったら、全ての政策に信任を得た、として政権の決定を推し進めるだけだ。だから、」
大月は言葉を切って、東山を見る。
「日本国と方向性の違う承継の選択をした極東米露に、日本国が明確に意思表示をしたというアピールを示したかったんじゃないかなぁ。」
東山は大月の分析に同意しながら、
「大月さんの言われる通りです。もう少し過激な見方をすると、極東米露は将来、我が国に牙を剥く、と官邸は考えています。」
かなり衝撃的な発言をした。
大月、西野、春日は暗い未来を想像して、残りの昼ご飯を黙々と食べていた。
そんな彼ら彼女をイワフネはじっと見つめていた。
『マルス文明に係る段階的承継の国民投票』は、10月12日に投票、即日開票と日本国政府は発表した。
これから1ヶ月間、与野党が全国各地を回りながら是非を問う長い闘いが始まった。
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仕事が終わり、『イワフネハウス』でアマトハ、ゼイエスが乱入した"恒例"のアフターファイブが終わると、大月と西野はSPが運転する車に乗って政府が用意した赤坂の「仮住まいのホテル」へ向かった。
車中で西野がふと、
「そう言えば今頃地球はどうなっちゃんですかねぇ?北欧のお世話になった人達が心配です。」と言った。
大月は、
「そう言えば全然考えてなかったなぁ。」と相槌を打ちながら、
「でも極東米露や他の国は故郷をずっと忘れていないだろうな。」と言った。
彼らが外に出たがるのは、地球の『本国』と連絡を取りたいから、又は本国より有利になりたいから?ではないのだろうか?
と大月は少し思ったが、話し始めた当の西野が寝息を立てて大月の肩に頭を乗せてきたので思考を止めて西野の"寝たフリ"に付き合った。
大月の予想は当たっていたが、『地球に居る者の視点』までは予想の範囲外だった。