転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
春日(かすが)(ひろし)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌きは上手い。
東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
・イワフネ=マルス人。総合商社角紅の見習い社員としてホームステイ絶賛継続中。


大月の選択

地球暦2019年9月29日午前10時頃【東京都千代田区丸の内 総合商社角紅 火星流通営業室】

 

この部署(ぶしょ)はイワフネの商社勉強サポートと、近い将来に始まるであろう火星 入植地《にゅうしょくち》からの物資売買の司令塔(しれいとう)となる予定、と言う建前(たてまえ)で社長室の真下(ました)になぜか設置(せっち)されたりしている。

 

その部屋のすぐ外で大月は電話の(ぬし)と会話していた。

「そうですか、万一(まんいち)の場合は私が―――、はい。分かりました。では、失礼します。」

大月は()め息をつきながら部屋に戻った。

 

「イワフネさん、この――黒海老(ブラックタイガー)養殖(ようしょく)はどうですかねぇ?」春日がイワフネに質問していた。

 

「ハマチの養殖よりは現実性が有りますね。海老(えび)はプランクトンを食べますから、今のマルス海洋(かいよう)には合いそうです。」イワフネが可能性が高いと言った。

 

「プランクトンを(えさ)とするならば、牡蠣(かき)やホヤもいけるかな?」大月が会話に加わる。

「牡蠣やホヤ?」イワフネが()いた。

昨日(きのう)宴会(えんかい)で私が()げたカキフライ食べてたじゃないですかぁ。」西野が言った。

「あれは美味(おい)しかったですね。えーっと、(うみ)のミルク?でしたっけ。」

イワフネがセールス文句(もんく)を思い出そうと頑張(がんば)る。

 

「春日、その品目(ひんもく)東南海(とうなんかい)大学の(みさき)教授に相談してみよう。彼女は海洋生物の研究者なんだ。今の仕事が一段落したら会いに行こう。」大月が言った。

 

「私はちょっと鉄分(てつぶん)を多く含む土壌(どじょう)向きの植物を探してきます。」

大月はそう言って足早(あしばや)に部屋を出た。何故かよそよそしい大月を西野はじっと見ていた。

 

「みなさんマルス大地での動植物育成に頑張るのは分かるのですが、従来のマルス生物への対策はお考えなんでしょうかね?」

イワフネがボソッと言った。

 

皆がイワフネの言わんとする事を理解していたが、それは『各国軍隊が何とかするだろう』と(たか)をくくっていたので聴こえない振りをした。

 

それは大きな間違いだった事にイワフネ以外、誰も気付いていなかった。

――――――――

 

その日の晩

「大月さん最近付き合い悪いですよねぇ。宴会全然出ませんし。」

西野が(ほお)(ふく)らませて()ねる。

 

「本当に大口取引先向けの作物とかの準備が(いそが)しいんだよ。」

大月が弁解(べんかい)する。

「時間が足りないんだよ。俺も火星に出るの初めてだしな。対抗(たいこう)武器の事も分からないし。」

大月がボソッと言った。

 

「この前イワフネさんと火星1周ピクニック行ったじゃないですかぁ。」

西野が言うと、

大月は何故(なぜ)か口をつぐんで()(だま)った。

 

――――――――

同年10月3日午後7時【神奈川県横浜市 神奈川公会堂】

 

政府主催(せいふしゅさい)の国民投票に向けた与野党(よやとう)討論(とうろん)(うなが)すタウンミーティングが開かれた。

ゼイエス(マスターゼイ)がマルス文明の説明役として呼ばれ、東山が司会を務めていた。

 

大月は住民の一人として参加した。何故か西野が当然のように隣に座って居たが、あれ?西野は横浜市民だっけ?

 

まず、マルス科学技術の説明の前段階(ぜんだんかい)として、ゼイエスがマルス文明の勃興(ぼっこう)から簡単に説明、代表的な科学技術を説明した。

 

次に地域の与野党議員が技術の承継の大切さ、応用の難しさ、各国との技術競争激化について、議論を戦わせた。

タウンミーティングに()めかけた住民も活発に質問や、意見を述べていた。

やはり、急激な変革よりも身の(たけ)に合った変化が受け入れられそうだった。

 

そんなミーティングで一人の住民がゼイエスに()め寄った。

「そもそも、あなた方火星人が地球に生命の(みなもと)を作ったのですよね?それなら火星人は生命体の創造主《そうぞうぬし》として我々を助ける義務(ぎむ)があるのではないですか?」と言った。

 

あんまりの指摘に皆が黙ってしまった。

しかし、

「あなた、お(かど)違いも(はなはな)だしいですよ?」

大月が反論した。

 

「では、貴方は、人類が養殖(ようしょく)している(さけ)やハマチ、牡蠣(かき)海老(えび)の人生の面倒を見れますか!?無理でしょう?」

 

貴方(あなた)の言っている事は、親に『何で私を()んだの?』と言い()かりをつける反抗期の子供と同じ屁理屈(へりくつ)ではありませんか?」と言った。

 

人類(わたしたち)はもう大人ですよ?いつまでも親に甘えて良いのでしょうか?(ひと)り立ちも出来ないのにマルス技術を教えろと言うのはおかしくありませんか?」

 

大月はきつめに言ってしまい、相手の質問者が興奮して大月に(つか)みかかろうと()み合いになり、会場が騒然としたために、両者はSPに会場から退去(たいきょ)させられた。

 

「どうしたんですか!?大月さん!焦りましたよー。」

東山が文句を言おうとしたが、西野の有無(うむ)を言わせぬ視線で止められた。

 

大月はむっつり押し黙って、「帰る。」と一言(ひとこと)()うとタクシーをつかまえてホテルに(もど)ってしまった。

 

西野と東山は、大月に何が起きているのか問いたげな表情で帰る大月を見ていた。

 

――――――――

西野が仮住(かりず)まいのホテルに帰ると、大月がスーツケースを持って部屋を出るところだった。

驚いた西野が、

「どこに行くんですか?」と聞くと

「大口の取引先から急に呼ばれたので那覇(なは)に行ってくる。」と大月は言った。

 

「私も準備するので待ってくださいね。」と西野が言うと、

「今回は、西野、お前は連れて行けないんだ。」

と大月が真剣な声で言った。

 

「極東米露が近いうちに独力(どくりょく)でアルテミュア大陸に上陸して、入植(にゅうしょく)の準備をするらしい。水先案内人(パイロット)として同行する事になった。

政府は日本人の派遣を拒否したが、米露に押しきられてしまった。

あの火星生物とまともにやりあおうなんて米露は相手を見くびっている。だから俺が同行して出来る限りアドバイスする。

今回は自分の身を守るので精一杯だと思う。流石(さすが)に今回は(あぶ)なすぎるんだ。」

と事情を説明した。

 

「俺が万一の時は"ひかり"に連絡をするからお前の携帯を貸してくれ。イワフネと連絡が取れるように、ひかりは尖山(とがりやま)でイワフネと待機してくれ。」と西野に頼んだ。

 

西野から携帯を受け取った大月は、

「ちゃんと帰ってくる。大丈夫。」

それだけ言うと部屋を出ていった。

 

西野は(ひと)り部屋に残された。

大月に名前で呼ばれた事にびっくりしながらも、大きな不安と、(わずか)な嬉しさが入り交じった複雑な気持ちで大月を見送った。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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