転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき)(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。温和。
仁志野(にしの)清嗣(きよつぐ)=総合商社角紅社長。西野ひかりの祖父。


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地球暦2019年10月7日深夜【東京都 世田谷区 自衛隊中央病院】

 

マルスの巨大ワームに呑まれた大月は、(から)くも救出されたが、全身をワーム胃酸(いさん)で焼かれており、80%以上の皮膚が(うしな)われていたが、自衛隊中央病院による日夜(にちや)の治療を受けて容態(ようだい)一進一退(いっしんいったい)となっていた。

 

西野ひかりは岩崎に頼み込んで、大月の母に連絡するのを少し待って欲しいと懇願(こんがん)し、角紅(かどべに)社長の仁志野(にしの)を呼び出して相談した。

大月の父親は今年亡くなったばかりで、今度は息子が重態という(しら)せを持って行くのはあまりに(ひど)いと感情を祖父(そふ)にぶちまけた。

 

仁志野(にしの)にしても、社員が政府の指示で生死の境をさ迷う事になった経緯を聴いて内心激昂(ないしんげきこう)していたが、ひかりの悩みも難しかった。だがーー

「ひかり、大月さんのお母さんにはやっぱり早めに(しら)せなあかんよ」祖父はひかりに言った。

勿論(もちろん)、仕事でこんな目に()いはったんや。ワシも行くで。ひかりもちゃんと向こうのお母さんに挨拶(あいさつ)しとき。その後で、政府に文句言おうな」

 

2019年10月8日午前2時【神奈川県横浜市神奈川区 】

 

西野と祖父は大月が救出された日の深夜、大月の母が住む横浜市内の公団住宅に向かった。

公団住宅に着くと驚いたことに、澁澤総理大臣と、岩崎官房長官が『極秘裏に』先に報告に来ていた。

 

警護のSPからそれを知らされた西野達は驚きながらも、住宅から出てきた岩崎官房長官に仁志野が、

「あんたら、(うち)の社員をこんな目に合わせてタダで済まへんで!」と声を(おさ)えながらも、低くドスの効いた声で詰め寄った。

 

仁志野(にしの)さん、申し開きもできない。本当にすみません」岩崎の後ろから澁澤総理が進み出て、頭を深く下げた。

 

「他の社員の出向(しゅっこう)については、考え直させて(もら)いますわ」

仁志野(にしの)はそれだけ言うと大月の母に会うために住宅に向かった。

 

大月の母の家は、公団住宅の賃貸型(ちんたいがた)である。キッチンとバス、トイレ、狭い和室が二つある1960年代に建てられた(ふる)い型である。

大月は自分の家庭事情を(ほとん)ど話さなかったので、思った以上に今まで苦労していたであろう事が推察(すいさつ)された。

 

「この度は、大事な息子様に大怪我(おおけが)をさせてしまい、社長として面目次第(めんもくしだい)もござません!」

仁志野が(たたみ)(ひたい)(こす)り付けて謝罪した。

ひかりも同じく謝罪した。

 

「先程、政府の方がいらして、ひたすらあやまって帰って行きましたが、一体何が何だか分からないのです。」まるで頭痛を(こら)えるような表情で二人に向き合った。

 

大月君(かれ)は、息子さんは、火星と火星人の事については、日本で『直接経験している』数少ないわが社のスペシャリストなんです」

「そこをアメリカさんに目をつけられて、(おが)み倒されて、大丈夫だからと政府も彼にお願いして、アメリカ軍に付いていったらこんなことに......社長としてもっと注意すべきでした!ほんまに申し訳ございません!」

 

「そう......ですか」大月の母はまるで他人事(たにんごと)の様な反応を示した。

 

不思議に思ったひかりは大月の母をよく見ると、眉間(みけん)(しわ)を寄せて(うつむ)いている。

 

「あの、お母さま、大丈夫ですか?お加減(かげん)がーー」

ひかりが言い終わらないうちに、大月の母はそのまま仁志野の方に正座したまま、つんのめって倒れてきた。

「っ!お母さん!どうされました?大丈夫ですか!?」仁志野とひかりが声をかけるが、大月の母は呂律(ろれつ)が回らず意味不明な事を口走った。

 

「あかん!ひかり、救急車や!脳梗塞(のうこうそく)や!」仁志野が叫んだ。

西野は()ぐに岩崎の携帯に連絡すると、岩崎が大月と同じ自衛隊中央病院への搬送を手配した。

 

自衛隊の救急車が到着した時、大月の母は(すで)に意識を失っており、ドクターヘリで搬送(はんそう)された。

検査の結果、大月の母は脳梗塞(のうこうそく)診断(しんだん)され、集中治療室に入れられた。

大月の母が通院していたかかりつけの診療所によると、以前から高血圧を指摘されていたようだった。

 

仁志野もひかりも、あまりに(ひど)い悲劇の連鎖(れんさ)呆然(ぼうぜん)と病院の治療室前で立ち尽くすしかなかった。

 

ーーーーーーーーーー

同8日早朝 【東京都千代田区 市ケ谷(いちがや) 防衛省中庭】

 

米露艦隊を撃破し大月を襲ったワームの死骸(しがい)は、巨大過ぎて運搬(うんぱん)が困難な為、中庭を即席の屋外(おくがい)生物体(せいぶつたい)研究所として日英の科学者と化学防護部隊が徹夜で分析に当たっていた。

 

澁澤首相が憤怒(ふんど)の表情で現場を訪れて、日英関係者を激励(げきれい)した。

「マルス生態系の予想を越えた苛烈(かれつ)さを私達は大きな犠牲(ぎせい)を払って思い知らされました。しかし、この星と(かか)わりを持たねばならない以上、マルス生態系の研究分析は一刻(いっこく)も早く()されなければなりません」

 

澁澤は息を吸って、こう言った。

何故(なぜ)なら、巨大ワームも火星に進出した米露(べいろ)艦隊の様に、此方(こちら)に来ることが出来るのですから」

 

この言葉に日英兵士と科学者達は戦慄(せんりつ)し、奮起(ふんき)した。

そしてその日から、この『市ケ谷(いちがや)火星生物体研究所(略称:火生研)』は昼夜(ちゅうや)()わず活動する。

 

極東米露(べいろ)政府の協力も得て、米露艦隊の生存者からも詳細な聞き取りが行われ、様々な角度から巨大ワーム襲撃時の様子や米露艦隊の対応を分析、来(きた)る日に備えた研究が行われた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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