転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
(みさき) 渚沙(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。温和。
・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球へ降下した。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。



火星編 新天地
目覚め


地球暦2019年10月22日未明【東京都世田谷区 自衛隊中央病院 集中治療室】

 

大月はふと、目を()ました。しばらくぼんやりと天井を見つめ、思考を(はたら)かせようとしたが(ひど)寝起(ねお)きが悪い時のように頭が重く、身体はピクリとも動かせなかった。

声を上げようにも酸素吸入器(きゅうにゅうき)喉奥(のどおく)、おそらく気管(きかん)まで入っているのだろう。

どうにも出来(でき)なかった。

 

どうにも出来なかった、と頭の中でしゃべると不意(ふい)に涙が止まらなくなった。(のど)から嗚咽(おえつ)()み上げるがどうにもならない。

大月はただひたすらに涙を流し続けていた。

 

大月の変化に最初に気付いたのは、集中治療室隣の待合室(まちあいしつ)に居たミーコだった。

ミーコはユサユサと待合室のソフアーでコクりと眠る西野ひかりを動かして言った。

『彼が起きた』と。

その言葉を耳にした瞬間(しゅんかん)、ミーコでも目を見張(みは)る程の瞬発力(しゅんぱつりょく)で西野は飛び起き、集中治療室のモニターに目を凝(こ)らした。

目を細めてよくよく見ると、目を開けて、涙を流していた。

 

「ーっ!」西野は集中治療室に直通するインタホンに向かって、

「大月さんが起きました!」と叫んだ。

西野のコールとほぼ同時に、その夜のシフトで入っていた東南海大学の(みさき)教授が大月のベッドに()け付けて確認を始めた。

 

岬はモニターに向かって大きく手で()を作り、起きた事を知らせた。

西野は涙を流して喜んだ。

 

朝になると、祖父(そふ)仁志野(にしの)や東山と春日、イワフネ、岩崎官房長官まで駆け付けた。

皆、大月が昏睡(こんすい)状態を(だっ)したことを心から喜んだ。

その後、岬教授から西野ひかりと祖父、イワフネが別室に呼び出されて大月の現状と今後のリハビリについて説明した。

 

岬は極力(きょくりょく)感情を自制(じせい)しながら説明した。

「入院時にご説明した通り、大月さんの皮膚はまだ(ほとん)(うしな)われたままです。代用皮膚(だいようひふ)を毎日当てていますが、それでも全身からリンパ液が常に出続(でつづ)けています。意識のある状態で毎日、全身の皮膚(ひふ)を取り替える治療は想像を絶する痛みを(ともな)います」

西野の顔が引きつった。

 

「また、数ヵ月後に皮膚が定着(ていちゃく)再生成(さいせいせい)されても、皮膚が固まらないように、毎日身体を動かさないといけません。これも、相当な痛みを伴います。大月さんがこの苦痛に耐えられるかが今後の問題になるかもしれません」

岬は説明を終えた。

 

室内に沈黙(ちんもく)(ただよ)った。

 

麻酔(ますい)とかで痛みを緩和(かんわ)できないのですかな?」西野の祖父が訊いた。

「毎日麻酔をかけると、おそらく、薬物中毒(やくぶつちゅうどく)になりますね。確実に」岬が()げた。

 

「そこで、イワフネさんです」岬は不意(ふい)にイワフネを見つめた。

「もし、マルス人が(うろこ)()がされるような怪我(けが)を負った場合はどうするのでしょうか?」

岬が質問した。

 

イワフネは(しばらく)く考えると、

「我々は(うろこ)が再生されるまで、培養(ばいよう)カプセルに収容して、半冬眠(はんとうみん)状態で培養(ばいよう)カプセルから必要な成分を使って皮膚の再生を(こころ)みるでしょう」

と答えた。

 

岬は、訊いた。

「それは、尖山(とがりやま)の施設に有りますか?」

「有ります。調査中に負傷した隊員の治療に使いました」イワフネが答えた。

その返事を聞くなり岬は

(しばらく)くお待ちください」と言って部屋を飛び出していった。

 

数分後に、岬と岩崎官房長官が入ってきて、

「イワフネさん、大月さんの治療にご協力お願い出来ませんか?」と二人とも頭を下げてイワフネに(たの)み込んだ。

 

イワフネは苦笑(くしょう)して、

「分かりました。大月さんには沢山(たくさん)お世話になっています。我々も手伝いましょう」

と言った。

 

待合室に戻ると、ミーコが西野にしがみついてきて、「私もついていくよ」と言った。

 

東山と春日は、「後はこちらで何とか(まわ)してみるから心配無用だ」

「西野さん、大月さんを(よろ)しくお願いします」と言って来た。

 

仁志野(にしの)社長も、

「ひかりちゃん、ワシも岩崎さんや他の社員と()いた穴を何とかするから、気にせんと大月さんの面倒みるんやで」と(はげ)ました。

 

岬教授は、

「地球側の医療関係者として私もついて来てよろしいでしょうか?」とイワフネに(たず)ねると、

「私達ではヒトの治療経験が(とぼ)しいですから、是非(ぜひ)ご同行お願いします」と快諾された。

 

大月の搬送(はんそう)には、マルス側からの申し出でアダムスキー型シャトルが使われる事になった。

 

大月を乗せたストレッチャーがシャトルに近付くと、シャトルの下部から同じくストレッチャー形のカプセルが表れて大月をストレッチャーからスムーズにカプセルに収容した。

 

やがてイワフネ、西野、ミーコ、岬教授を乗せてアダムスキー型シャトルは尖山(とがりやま)に向かった。

 

尖山に行く途中から到着後も、(みさき)教授はイワフネ、()け付けたゼイエスとマルス人治療用(ちりょうよう) 培養(ばいよう)カプセルを地球人用に成分を調整する打ち合わせに没頭(ぼっとう)した。

 

1時間後、大月は急遽(きゅうきょ)成分調整(せいぶんちょうせい)されたヒト治療用(ちりょうよう)カプセルに収容(しゅうよう)された。

 

治療用カプセルには身体から()み出たリンパ液や老廃物(ろうはいぶつ)汚物(おぶつ)を分解し、皮膚や焼けた内臓器官(ないぞうきかん)を再生させる溶液(ようえき)()たされている。呼吸器官が修復されると肺が直接溶液を取り込んで酸素吸収が出来る様になるらしい。

現代医学は動物実験でさえ、倫理的(りんりてき)に問題ありと物議(ぶつぎ)をかもしていた新技術である。

それをヒト用に調整した岬の能力は天才的と言える。

 

こうして大月の皮膚再生治療は無事、始まった。

岬とゼイエスの手探(てさぐ)りによる治療は続けられた。

 

岬とゼイエスの共同医療技術(きょうどういりょうぎじゅつ)模索(もさく)データは、『タカミムスビ』から自衛隊中央病院に日々(ひび)転送(てんそう)され、火生研医師団と地球人医師にも取扱い可能な簡易型『溶液治療カプセル』が開発されて厚労省の特例で即時認可された。

 

このカプセルは、治療に当たる医師や看護士の負担を軽減すると同時に、患者自身の苦痛も和らぐ事から、火星転移直後に国際線旅客機に乗って被曝した多数の乗員乗客、空自偵察機の高瀬少佐、米露艦隊負傷者の治療(ちりょう)に大いに役立(やくだ)った。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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