地球暦2019年10月22日午後4時20分【北海道 稚内市沖の宗谷湾】
「巨大ワームは宗谷湾から富岡、声問間の砂浜から国道238号線に上陸します。」
RF4E偵察機から任務を引き継いだE3A セントリーAWACS(早期警戒機)が宗谷湾上空を旋回する。
市ヶ谷の防衛省から緊急出動を命じられた稚内駐屯地の陸上自衛隊第2師団第2特科連隊の99式155mm自走砲が国道40号線を南下し、稚内市街に向かった。
既に稚内市街は火砲の射程範囲に入っている。
青森県三沢基地の極東米軍F16攻撃機20機、空自のF2攻撃機20機が精密誘導爆弾を搭載して稚内市上空を旋回していた。
HBCテレビ稚内放送局の吉田記者は、上空を轟音で旋回する大規模な戦闘機の編隊と、目の前の国道40号線を南下する陸自の自走砲を見ると、カメラマンを連れて局を飛び出した。
「近くで何らかの戦闘があるのか?」
先程のJアラートと関係あるのだろうか。吉田はカメラマンと共にタクシーに乗ると自走砲の後ろについていった。
不幸なことに、稚内市は少子化と過疎化が進んで財政難に陥っており、防災無線とJアラートの連動に充分な予算を充てていなかった。この為、北海道知事の緊急防災無線も稚内市には伝わらなかった。
AWACSから戦域管制官が混成迎撃部隊の指揮を執る。
「こちらオオタカ、ワームの動きはこちらで把握している。目標は時速60kmで稚内市街に進行中。全部隊はこちらの指示に従って攻撃を行え。奴は熱源に惹かれる。口から強力な酸性の胃液を噴射する。注意せよ!各員、絶対に車外に出るな!溶けて死ぬぞ!」
管制官が警告した。
「こちら2連隊特科。配置に着いた」155mm自走砲から報告が入る。
「トール1、ホーク1、稚内市上空に到達」空自と極東米軍からも報告が入る。
吉田の乗ったタクシーは陸自の自走砲を側道を使って追い越し南稚内駅前まで来た。そこで、消防と警察にタクシーを停められ、避難指示を受けタクシーから降りると避難する市民と共に駅舎内に向かったが、既に数百人の避難市民が居るので駅前で待つしかなかった。
吉田は駅前の人混みから離れると、何やら地響きのような揺れを感じた。荻見地区辺りか?吉田はカメラマンに駅の南東を映すように指示した。
その頃上空のAWACSでは、戦域管制官が攻撃命令を出そうとしていた。
「オオタカ、攻撃ポイントを各員に送信した。確認せよ!」
「攻撃はなるべく一斉射撃、編隊単位での爆弾集中投下で面制圧を意識しろ!」
夕暮れの砂浜に上陸したワームは、勢いを落とすことなく国道238号線を滑るように移動し、稚内市街に向けて北上した。
戦域管制官は地上レーダーと赤外線センサーでワームを見据えながらワームへのカウントダウンを始めた。
「攻撃カウントダウン!5、4、3、2、1、撃てぇー!」
萩見交差点に通り掛かったワームは、突然空中から鉄の砲弾と爆弾の嵐に巻き込まれた。
激しい砲爆撃は30秒程続き、交差点からは大きな爆炎ときのこ雲が立ち上った。
南東の方角から飛来する戦闘機の編隊と、猛烈な爆発音や爆炎が上がったのを吉田達はしっかりと撮影した。
同時に足元になんとも言えない不気味な地響きが伝わって来ていた。
やがて宗谷湾から吹き付ける強い風で爆炎と煙が流されると、明らかに手負いの巨大ワームが交差点でのたうち回っていた。
過酷な火星環境で鍛えられた生命力はまだワームに残っており、もがきつつも稚内市街に向かい始めた。
南稚内駅前からズームレンズで捉えるまでもなく、吉田の目には巨大ワームの不気味な姿が写っていた。
「何の冗談だよ。これは、ーー」
余りにも非現実的な光景に吉田達は固まってしまっていた。
上空のAWACSは、
「第2射攻撃ポイント送信!カウントダウン!5、4、3、2、1、撃ぇー!」
立ち直る隙を与えずに戦域管制官が攻撃命令を下す。
国道40号線を少し北上した所で再び巨大ワームは爆発の嵐に包まれるのだが、ほんの僅かな瞬間、ワームの口から強力な酸性胃液が稚内市街に向けて放たれた。
ワームの酸性体液は宗谷湾からの北風で僅かに押し流されて稚内市街手前、宗谷本線南稚内駅周辺に降り注いだ。列車を待つ市民数百人が短時間で成す術もなく溶けていった。
吉田達テレビクルーも呆然と巨大ワームを目の当たりにして動けず、撮影中のカメラを遺してその場で溶解した。
ワームは戦闘機の爆撃と砲弾の嵐でズタズタに引きちぎられて、稚内市街の手前に骸を晒す事となった。
後日、現場で吉田達テレビクルーのカメラ映像がHBC放送局から親局を通じて全国に放映され、戦闘の凄まじさに加え、吉田達が降り注いだ胃液で溶けていく最期を視た視聴者は、余りの酷さにテレビの前で顔面蒼白になった。
日本史上初の火星巨大ワーム本土上陸と、吉田達の遺した衝撃的な映像により、日本国民の間に火星生物討伐の気運が高まっていった。