転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき)(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ=自律進化型人工知能。
春日(かすが) 洋一(ひろかず)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌(さかなさば)きは上手い。
(みさき) 渚砂(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。
東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。


相思相愛

地球暦2019年11月2日【富山県立山市尖山 】

 

巨大ワームの胃酸(いさん)で全身を焼かれた大月の治療が始まって、一月になろうとしていた。大月の感覚的には目覚めて10日程だが、培養(ばいよう)溶液(ようえき)の中で(ただよ)っているだけなので時間感覚があやふやになっていた。

 

そんな大月にずっと付き()う西野は、毎日治療カプセルの(かたわら)で大月に話し()け続けた。

一日中二人きりで、最初 大月は照れていたが、自然と人恋しくなり、思うまま、とりとめなく、話し始めた。たわいもない雑談だが、そんな雑談でも気さくに付き合う西野が新鮮で(いと)しく思えた。

 

そんな大月にある日、西野は「ミーコ」こと『西野 美衣子(みいこ)』を紹介した。

意識を取り戻した直後に、東山と岩崎官房長官から、西野と『ミーコ』が大月救出に奮闘した事を伝えられていた大月は、

「初めまして美衣子さん。助けてくれてありがとう。ひかりも遅くなったけど、本当にありがとう」と感謝した。

 

美衣子は治療カプセルに近付くと、

「よろしくね『お父さん』」と挨拶した。

 

大月は ? と思ったが、続いて彼女が

「あなたの存在がひかりを助け、幸せの(もと)になっている。ひかりが大月の事を強く想わなければ私は機械の中に閉じ(こも)ったままかも知れない。だから貴方の事は『お父さん』、と呼ばせて貰うわ」

と滑らかな鱗に覆われた華奢(きゃしゃ)な身体の胸を張ってフンスと大月を見つめた。

 

大月は納得し、受け入れたが、

「まだ結婚していないのに子持ち!?」

と焦るが、

 

後先(あとさき)なんか些細(ささい)な問題です!」

とひかりにプンスカと(にら)まれると、

「分かった。美衣子、よろしくね」と微笑んだ。

 

「大月は理解が早くて助かる」

満足そうに美衣子が言った。

 

大月は培養溶液の中でも多少の発声(はっせい)が可能な機器を声帯(せいたい)に付け、カプセル外の音は頭蓋骨(ずがいこつ)に音振動を伝える機器を利用して、ひかりや美衣子と一日中話す事が出来た。

 

大月家の事、面倒事ばかりおこす(なや)ましい父親、体調が心配な母親、父親の影響で思わぬ苦労をした学生時代と、(むく)われない仕事勤(しごとづとめ)の最近まで、大月にまとわりつく呪縛(じゅばく)は彼の精神を長く(むしば)んでいたのかも知れない。

 

そんな大月のカミングアウトを、ひかりと美衣子は茶化したり軽蔑(けいべつ)したりせず、真面目(まじめ)に聞いた。

 

そしてひかり自身も、震災で家族を失って祖父に引き取られた事、以外と人見知りのボッチであることを正直に語った。

大月自身あの震災を経験しており、何度も(うなず)きながらひかりの話を聴いていた。

 

ある日大月はひかりとこんな会話を繰り広げた。

 

「俺は稼ぎも少ないし、こんな歳だからこれ以上は偉くなれない」

大月がふと、言った。

 

「私が稼いで"あなた"を偉くして見せます!」

自信たっぷりにひかりが言い切った。

 

「逆玉とか要らないからね」

大月はむず(かゆ)くなって一応抵抗した。

 

「"あなた"はあなたにしか出来ない仕事を頑張ってください。私はちゃんと見ているから」

 

「俺はまだ何か出来るのかな?」

「焦らず一緒に探しましょう」

 

「俺は結構ヤキモチ焼きなんだ」

奇遇(きぐう)ですね。私もヤンデレる自信がありますよぉ」

 

「そこまで尽くしてくれても、リターンは少ないぞ?」

「足りない分は "これからのあなたの人生" で払ってくださいね」

 

「出世払いだと割りが合わないと思う」

「お釣りが沢山来る予感がしますよぉ」

と言ってひかりは笑った。

 

「やっと年貢の納め時に気がつきましたねぇ」

ひかりが大月をコーナーまで追い詰めた。

 

「年貢の一括払いは無理だ。"一生払い"にしてくれ」

「ホントにしょうがない方ですねぇ」

涙を(こら)えながら満面の笑みでひかりが大月のカプセルにそっと口づけをした。

 

美衣子は一連のやり取りを離れた所から見ていた。

そして二人に気付かれないように、そっと治療室を出るのだった。

ーーーーーーーーー

 

たまたまその日、大月の見舞(みま)いに来た春日は、大月の治療に(たずさ)わる東南海大学の(みさき)教授と話す機会が有った。

 

「以前、イワフネさんに連れてもらって火星の海を見たのですが」

と春日が話すと岬の(ひとみ)がキラリと光って春日の話に食い入るように聞き入った。

 

「ほおー、海の色が薄いと?」岬が(たず)ねる。

「ええ、イワフネさんはまだ生物が少ないからだと言っていましたね。でも、海老(えび)とかは養殖(ようしょく)出来るかも知れませんね。有機質(ゆうきしつ)の成分やプランクトンを食べますからね」

春日が答えた。

 

「火星の海はこれからですよ!直接行けたらとっても嬉しいんですが」

「でもワームやサソリモドキがいますからねぇ」

春日の(トーン)が落ちる。

 

「後は、陸上の動物?いや、昆虫でしょうかね?サソリモドキはときめかないです」

春日がうんざりした顔をした。

 

岬は、

「春日さん、火星の生き物についてもっと教えて下さい!」

と春日に食い付いた。

 

春日はしまったと思ったが、海洋生物のスペシャリストと話す良い機会だと思い、その日は遅くまで岬と語り合った。

 

その日を境に、大月の見舞いに春日が訪れると、その後は、岬にせがまれて火星の話題をする機会が多くなったが、同年代の女性であり、飾らない性格の(みさき)凪沙(なぎさ)に春日もまんざらではなかった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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