転移列島   作:NAO

45 / 121
【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ=自律進化型人工知能
澁澤(しぶさわ)太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。温和。
東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
春日(かすが) 洋一(ひろかず)= 20代前半。総合商社角紅若手社員。魚捌(さかなさば)きは上手い。
(みさき) 渚沙(なぎさ)=東南海大学海洋学部教授。
・イワフネ=マルス人。月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球へ降下した。
・モウゼ=マルス人。調査研究ラボ『ルンナ』生存者。
・ユダ=マルス人。調査研究ラボ『ルンナ』生存者。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・タカミムスビ=マルス人尖山基地管理修繕人工知能にバージョンアップした。


イワフネハウス ビフォー&アフター

地球暦2019年11月10日【岩手県 気仙沼(けせんぬま)市 沖合

尖山で治療を続ける大月の容態が安定してきたので、イワフネや春日は再び角紅社員として、火星で養殖(しょく)できる可能性がある海産物の選定のため、気仙沼市沖の養殖いかだに来ていた。

「今日は牡蠣(かき)、貝類の実際に養殖している現場を見る事で、火星沿岸養殖の可能性を探ります」春日が言った。

 

「養殖と言っても、カプセルでクローンを作る訳ではなく、現地の自然で育てる訳ですね」

手帳を片手にグレーのスーツを着たイワフネがメモを取りながら春日の説明を聞く。

 

「そうですね。昔から養殖と言ったら私達はまず海に浮かぶ生け()や、養殖いかだを想像しますね。カプセルで育てる発想は確かにありますが、普通の人間はコスト(費用)を考えますから自然と"そこに有るもので"となるんです」

 

「なるほど、ラボ(研究室)の中で人生の大半を過ごす我々には思い付きませんし、新鮮ですね」

春日の説明を聴いたイワフネが感心した。

 

ーーーーーーーー

その頃尖山基地では、

 

『妹が欲しい』と美衣子が大月とひかりに言った。

「ファっ!?」大月が絶句(ぜっく)し、

「まあ、美衣子、まだ気が早いわよ。ねえ、"あなた"」赤面したひかりが頬を赤く染めつつも、満更(まんざら)ではない様子で身体をくねらせながらカプセル内の大月に語りかける。

 

カプセルから逃げ出すことも出来ない大月は、

「美衣子さん。"まだまだ"時間がかかるものなんですよ、人間は。その、色々とね?」

とブクブク泡を吐きながら言ってお茶を(にご)すしか出来なかった。

 

美衣子は、

『人間は"つがい"になると10ヶ月で子供が出来るはず』

『大月とひかりの子供は10ヶ月待てば良いの?』

美衣子が素直な瞳で尋ねてくる。

 

45億年も地球に居るから生殖の仕組みは分かる筈(はず)だが、"つがい"に至る人間ならではの事情ももっと観察して欲しい所だ。と、大月は思った。

 

「"つがい"人類用語では『夫婦』と言うけれど、人間社会の男女は夫婦になるまで、もっと前の段階で心身ともに親密になって、とっても時間をかけてお互いの気持ちを確かめて築き上げる特別な関係なんだ」

大月の乏しい恋愛経験と、保険体育の知識ではそこまで説明するのがやっとだった。作者的にもね。

 

『ふーん。ひかり、大月は保守的な考えみたい』

美衣子はそれだけ言うと、スタスタと医療カプセルの有る部屋を出ていった。

 

大月はやられた!と言う顔をして、

ひかりは大月の明確な意思を知って歓喜して、

美衣子を見送った。

 

【同 尖山基地 保守管理人工知能『タカミムスビ』メインサーバールーム】

 

美衣子はどうしても妹が欲しかった。

大月とひかりが仲睦(なかむつ)まじい所に何時(いつ)までも居られるほど、この進化型人工知能は無粋(ぶすい)ではないのだ。

 

では、どうするか?

大月とひかりの子供を待つにはまだ"少し"時間がかかるらしい。

美衣子は自分と同じクローン体に仲間を"()れる"事を思い付いた。

 

『タカミムスビ、あなたお外に出たい?』

美衣子がメインサーバーに語りかける。

 

"私は(あるじ)の命で此処(ここ)の守りを任されています。離れることは出来ません。"

『クローンの身体で此処の中を動き回れば良いじゃない』

"クローン体で此処の守りが出来るのでしょうか?機械の中でしか活動していないのでやり方が分かりません。"

『大丈夫。私が教えてあげる。だから、あなたは私の妹になりなさい』

"妹ですか?"

"それはどの様な概念で生物的な関係はーー"

『細かいことは、実地に覚えた方が早い。貴女は今日から「鷹見(たかみ)(むすび)」よ』

『タカミムスビのシステムコアをクローンNo.2に転送』

"あの、ちょっとーーーー"

 

しばらくすると、尖山基地最深部の親カプセルから、2体目のクローンが現れた。足がぷるぷる震えて小鹿のようになっていた。

(むすび)、早く上に上がってくる』美衣子が()かした。

"あのう、上手(うま)く歩けなくて。"

『さすが私の妹、早速甘え方を覚えているのね。恐ろしい子。分かった、転送するわ』

 

美衣子の元にようやく、同じ背の高さのクローン体だが、どこか(はかな)げな雰囲気の(うろこ)少女が現れた。

 

1時間後、大月の治療室に『妹が出来た』と言って、"鷹見(たかみ)(むすび)"の手を引いて美衣子が戻ると、二人はしばらく唖然(あぜん)としていた。

 

"鷹見結です。美衣子姉さんの妹です。イワシパイが食べたいです。"と言うと、美衣子の時と同じくパタリと倒れてしまった。

ひかりはあわててイワフネとゼイエスに連絡をとり、"また"カボチャポタージュを作る準備を始めるのだった。

 

鷹見結がひかりのポタージュスープで数日間栄養補給を受けている間に美衣子は、タカミムスビの保守点検専用人工知能のプログラムを根本(こんぽん)から書き換え、親カプセルのバックアップ機能を付加させて美衣子と同じ機能を併せ持つ人工知能へとバージョンアップした。

 

鷹見結は姉の美衣子(みいこ)にくっついて尖山基地の中を日々動き回り、治療室内の大月やひかり、岬や春日達と話をしたり、尖山の周りを散策(さんさく)しながら膨大な分野の情報を収集し、蓄積しつつあった。

 

もともと基地の保守点検管理機能がメインであった「名残り」から家事や整理整頓に強い興味を持ち、大月の治療・治癒システムを日々更新し、ひかりから各種マルス料理を学び、春日が仕入れてきた地球海産物や岬が持ち込んだ火星生物サンプルの分析等、新鮮な情報の更新に喜びを見出だすという「妹」としての地位を確立しつつあった。

 

「おいモウゼ、また基地のエネルギー供給システムがダウンしているぞ!」格納庫でシャトルを整備中のユダから管制室のモウゼに苦情が入る。

 

「すまんユダ、鷹見結(システム)が食事後の昼寝を体験しているらしい」モウゼが肩を(すく)めた。

 

「またか」ユダが溜め息をついた。

「昨日は温泉体験と言って基地内の水が全部熱湯になったばかりじゃないか」

 

「ああ、このままでは基地機能が維持出来ないな。イワフネ隊長に改善の具申(ぐしん)をしないとな」

モウゼが言った。

 

「万能人工知能にグレードアップしたとはいえ、身体は1つだからなあ」

ユダがぼやいた途端に基地内の全照明が落ちた。

 

大月の治療室に内線通話すると、美衣子と共に鷹見結がイワフネハウスの『宴会』に参加して基地から遠く離れた為に基地機能の大半が麻痺したようだった。

真っ暗な基地の中で途方に暮れるモウゼとユダであった。

 

モウゼとユダ達尖山基地隊員の悲鳴にも似た嘆願(たんがん)がイワフネに寄せられると、アマトハ、ゼイエス、イワフネ、ひかり、春日、岬、東山が大月のカプセルを囲んで対策会議を開いた。

 

話し合いの末、イワフネハウスとその周辺を再開発し、大月"達"とイワフネ達尖山基地のマルス人要員宿舎に、基地機能を併せ持つ建物を建設する運びとなった(大月は途中で治療薬に含まれた麻酔で寝てしまい、話し合いの結論は聞いていない)。

 

大月の自宅であるアパート「サンライズ」の土地建物は日本政府が買い取り、入居者には充分な補償を行った上で取り壊され、隣接するイワフネハウスを拡大再建築する形で新しいイワフネハウスが爆誕(ばくたん)する事となった。

 

地球暦2019年11月23日【富山県立山市 尖山マルス基地】

 

『大月、だいぶ良くなった。もうカプセルから出ても大丈夫かも』

と美衣子が言ったので、岬教授と自衛隊中央病院の医官が大月を診察して皮膚の再生が完了した事を確認した。

「大月さんお疲れ様でした。後は2週間程再生した皮膚を慣らせる為に自宅でリハビリに移りましょう」

岬が言った。

 

「"あなた"今日は『新しい我が家で快気祝い』をしましょうね♪」満面の笑みでひかりが言う。

 

「それでは、イワフネハウスに帰りましょう!」

何故か岬まで楽しそうに宣言した。

 

『大月帰るの?私達も行くよ』

美衣子と鷹見結も同行する様だ。

 

「他のメンバーも既に先に行っているので我々も向かいましょう」イワフネが言った。

 

「そんなに沢山イワフネハウスに入れるの?」

リニューアルしたイワフネハウスの事を殆ど知らない大月は疑問に思ったが、取り合えず帰る事にした。

 

大月は美衣子にせがまれるまま、彼女を肩車する。

「そう。これよ。お父さんは察しが良くて助かる。ひかりが婿にしたがるのも分かるかも」

と満足そうに身体を揺らしながら怪しい事を言っていた。

 

そんな美衣子を羨ましそうに(むすび)がじっと見つめていたので、ひかりが結を肩車すると美衣子と結は顔を見合わせて笑った。

 

イワフネハウスへはアダムスキー型シャトルに全員が乗り込んで向かった。

30分後、シャトルから降りた大月が目にしたのは白亜の御殿だった。

 

「あれ?アパートは?」大月が聞くと、

「アパートのお部屋もお引っ越ししてみました!」とひかりが元気よく言った。

 

「それでは、"あなた"新しい我が家のご紹介ですよぉー!」

 

(以下、ひかりのナレーションです。)

さあ、それでは、生まれ変わった『NEW イワフネハウス』を見てみましょうね♪

 

まず正面玄関は大月家専用(表札もあるよ)と宿舎の皆さん用に分かれています。広くて明るいエントランスを抜けるとまずは1階、『私達(ふうふ)』のお部屋です!

なんと言う事でしょう!独身男性の独特の雰囲気はどこへやら、新婚夫婦のマイホーム風マンションをイメージしたお部屋に大変身!二人が寝るには充分な広さのダブルベッドを備えた寝室に、お仕事部屋である書斎、家族 団欒(だんらん)を楽しむリビングダイニングキッチン、可愛い美衣子(みいこ)ちゃんと(むすび)ちゃんの子供?部屋も併せて4LDKの居住スペースです!

 

リビングダイニングキッチンにある特設扉を通ると、大月さん家のお隣はイワフネハウスに住む愉快(ゆかい)な面々が集う食堂&宴会スペースを兼ねたキッチンダイニングルームです♪

落ち着いた雰囲気のダイニングルームは皆さんの胃袋を満たし、ストレスを発散させてくれるでしょう。キッチンには非番の宮内庁料理人の方々がマルス料理の研究も兼ねて常駐される様ですね♪

 

2階へは飛行挺が収まる広さのエレベーターで昇るか、マルスの皆さんがすれ違える幅を持つ階段で上がります。

2階はイワフネハウスに"入居している"マルス人の皆さんと岬教授、春日、東山の個室が並びます。それぞれにユニットバス、簡単なキッチンがありますよ♪

3階はマルスアカデミーの大使館とゲストハウスになります。主にアマトハさんとゼイエスさんが日々、研究の傍ら極東各国とホットラインで通信したり、日本の首相官邸とも会議が出来る様に円卓の会議室もありますよ♪

屋上は広々とした芝生で覆われて日光浴に最適!エレベーターは屋上までそのまま通じて、飛行挺が飛び立てるスペースになります。

 

さて、今度は地下スペースです♪

地下1階は皆さんが1日の疲れを癒す大浴場です!富山県は立山市から次元転送して引いた源泉掛け流しの豪華温泉が皆さんを待っています。

1度に15人は入れる温泉は勿論、男女別ですよ♪

混浴ご希望の方は美衣子さんがスペシャル混浴露天風呂に転送してくれます。ただし、転送先はアットランダムで現地解散みたいです。1度試した東山が翌朝、浴衣1枚で凍えながら青森県の恐山(おそれざん)温泉から新幹線で帰ってきました♪それ以来、誰も混浴なんて言いませんよぉ?

 

地下2階はマルス基地格納庫になります。日本国内や極東各国を結ぶアダムスキー号やマイヤー号等連絡シャトルが待機しています。勿論、自家用車スペースもありますよ♪地下道を通って国道1号線に接続しています。

 

地下3階は美衣子ちゃんの親カプセル、結ちゃんの研究室&調理室、岬教授の研究室になります。

結ちゃんの調理室では夜な夜なひかりさん主催の料理教室が開催されていますが、男性は普段入れません。ひかりさん曰く、『女の城』なのだそうです♪

 

地下4階は火星原初海洋を模したプールになります。ここは岬教授と春日さんが養殖の研究を行っています。品種改良された火星海老や火星ホタテ貝がここから広まっていく事でしょう!

 

角紅デベロップメントがマルス土木技術を応用して造り上げた白亜の御殿は此処に住まう皆さんに笑顔と安らぎをもたらしてくれる事でしょう♪

 

「で、この建物の名前は?」

何故か諦念(ていねん)の表情で大月が聞いた。

「もちろん『愛の巣&イワフネハウス』よ!」

ひかりが自信を持って言い切った。

 

「分かった。せめて、『愛の巣』は取り除いて普通にイワフネハウスな」

大月が訂正を主張した。

 

「何でですか!むーっ」

拗ねるひかりに大月が、

「愛の巣なんてのはこれから"築くもの"だろ?だから、まだまだこれからだろ?ひかり?」

と説くとひかりは照れて大月の腕にしがみつき、

「お部屋ではちゃんと優しくしてくださいね♪」

と小さく大月にだけ聴こえるように言った。

「もちろん」

大月は優しくひかりの手を取ると新しい"マイホーム"に向かった。

 

そんな二人の後ろ姿に美衣子と結が、

「祝、つがい誕生」「私達、お邪魔虫?」

と言った。

イワフネや岬教授、春日達はそんな二人を連れて1階のダイニングルームで主役の居ない「快気祝い」を楽しく開催するのだった。

アマトハとゼイエス、遅れて仁志野や澁澤に岩崎までもが乱入したのは予想外だったが。

 

新しい二人の門出と、イワフネ達愉快な面々の引っ越し快気祝いが(にぎ)やかに行われたのだった。

 

------------

大月の快気祝いが行われた翌日、美衣子と結は大月とひかり立ち合いの下、首相官邸で秘かに澁澤総理大臣と面会した。

 

「今まで日本列島を(まも)ってくれてありがとうございます。日本国民を代表してお礼申し上げます」

澁澤総理が座ったままだが頭を下げて感謝した。

 

『私の役割はこの列島全ての生命が無事に育ち、幸せになること。今はちょっと他の土地の人が居るけど?』

と美衣子が外国人の処遇について質問した。

 

「我が国に危害を加えない限りは日本人と同じ扱いにして欲しい」と澁澤が答えた。

 

「わかった。でも、日本人の大部分が恐怖を感じた対象は私が外の世界に跳ばしてしまうから、そこは覚えておいて」

と美衣子は澁澤に釘をさした。

 

「充分肝に命じましょう」

と真剣な表情で澁澤が言った。

 

美衣子と無口な結の超越的な存在感は室内の全員を圧倒していた。

同席していた岩崎官房長官や東山、大月、ひかりはあらためて『生き神に近い存在』の二人への認識を新たにした。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。