転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍司令。
・ジョーンズ=極東アメリカ合衆国海兵隊司令官。少将。
・鷹匠(たかじょう)=アルテミュア大陸上陸作戦日本側指揮官。准将。
・名取=海上自衛隊潜水艦『そうりゅう』艦長。
・天草(あまくさ) 治郎(しろう)=JAXA理事長。


A-Day (第二次アルテミュア大陸上陸作戦)

地球暦2020年1月1日午前6時【北海道北部 宗谷岬(そうやみさき)沖250kmの火星シレーヌス海】

 

極東アメリカ海軍航空母艦「セオドア・ルーズベルト」CIC(戦闘管制室)

 

「アルテミュア大陸ボレアリフ平野上陸地点まであと50km」

海上管制官が報告した。

 

「先行する日本潜水艦『そうりゅう』『じんりゅう』からは海底及び進路上の敵対生物反応無しとの報告」

「『かが』『ひゅうが』哨戒(しょうかい)ヘリも艦隊側面は異常なしとの事です」

自衛隊の鷹匠(たかじょう)大佐が報告した。

 

「提督、そろそろかと」

海兵隊"少将"のジョーンズが、上陸作戦司令官のロイド提督に告げた。

 

全艦隊共通回線に通じるピンマイクのスイッチを入れると、ロイド提督は矢継(やつ)ぎ早に指示を出し始めた。

 

「全艦隊、上陸準備!潜水艦隊は海中ドローン発進、発熱ポッドを起動させてワームを(おび)き出せ!

E2-C AWACS(エイワックス)(早期警戒管制機)、艦隊防衛艦艇はソナー、レーダーを総動員して巨大ワームと飛来生物を警戒せよ。

上陸支援艦艇、空母所属攻撃機部隊は指定ポイントへの砲爆撃準備! 所定のポイントへ進出せよ。

1度撃ったら停止命令が出るまで砲爆撃をひたすら続けよ!

上陸部隊、工兵は車輌と航空機に搭乗開始だ!

地上の安全が確保されるまではその棺桶(かんおけ)で待機しろ!」

「速度そのまま、攻撃機部隊発進!」

作戦司令官のロイド提督(中将に昇進)が命令した。

 

火星の一番長い1日、後に『A-Day』と呼ばれる第二次アルテミュア大陸上陸作戦が始まった。

 

上陸艦隊本隊の前面に20隻を超える日米英露潜水艦隊が展開し、一斉に発熱ポッド搭載ドローンを発進させた。

「潜水ドローン、艦隊正面10キロまで到達」

ソナー員が報告する。

「潜水ドローン、発熱ポッド最大出力!海底から15m離れた位置を航行しながらワームを(おび)き出せ!」

潜水艦隊司令の名取大佐が指示する。

 

日米英露潜水艦隊から10km前方の海底付近を()うように潜航するドローン搭載化学反応ポッドが周囲の海水を熱く揺らめかせる。

 

次の瞬間、海底を突き破った巨大ワームが潜水ドローンを丸呑みしてドローン部隊の半数が消えた。

「ワーム出現、数5!」

ソナー員が報告する。

 

「残りのドローンを我々の魚雷攻撃範囲に誘導!」

名取大佐が指示する。

「全艦隊ホーミング魚雷発射!近接信管セット!」

 

『そうりゅう』を始めとする日米英露潜水艦隊が全力の魚雷攻撃を行った。

80本近い魚雷が5体の巨大ワームに殺到した。

 

巨大ワームは強い熱源を持つ潜水ドローンを食べ尽くす事に夢中になっていたために魚雷への反応が僅かに遅れた。

潜水艦隊の存在に気付いた5体のワームが頭を後ろに向けた瞬間にワームの周辺で80発の魚雷が炸裂(さくれつ)した。

 

ソナー員がヘッドホンを外してしまう程の大爆発が治まると巨大ワームは(おびただ)しい数の細かい肉片と化して海中を漂っていた。

巨大ワームの亡骸(なきがら)から大量の血液と肉片が海中に拡散した所に後続のワーム群が殺到した。

 

「前方7km地点の海底から更に巨大ワーム!数13!」

ソナー員が緊迫した声で名取に報告した。

「全艦隊、残弾全てを前方7kmに撃ち込め!」

名取は全力攻撃を命じると、

「司令部へ、我々は後方で弾薬補給に移る」

と戦線からの一時後退を報告した。

 

上陸艦隊 旗艦(きかん)『セオドア・ルーズベルト』CIC(戦闘指揮所)

「連合潜水艦隊、海中ワーム8個体を撃破!全弾撃ち尽くしたので後退します!」潜水管制官が報告した。

 

「上空待機中の対潜ヘリ群は前方7キロ地点に急行せよ!魚雷と爆雷を全弾投下!」

ロイド提督が巨大ワーム群の殲滅(せんめつ)を指示する。

 

上陸艦隊上空を旋回していた50機余りの対潜ヘリが前方に全速力で向かうと、指示された地点を高速で通過する際に搭載した魚雷や爆雷を次々と投下していった。

艦隊正面の海面が、遠目に見ても分かるほどに爆発で泡立(あわだ)った。

 

「前方ワーム群排除に成功!」

「よし、この機を逃すな!攻撃機部隊は指定されたポイントにミサイルと爆弾投下!

『シールズ』『スペツナズ』ヘリボーン出撃!上陸地点に地中レーダー設置、死守せよ!アイアンドームシステムを上手く使え」

ロイド提督が作戦第2段階への移行を指示した。

 

「こちら司令部。キヤッスル1に爆撃管制を任せる」

航空管制官が上陸地点の(はる)か上空を飛行する航空自衛隊E3Aセントリー早期警戒管制機(AWACS)に告げた。

 

「キヤッスル1、了解した。これより爆撃管制に入る」

AWACS(エイワックス)が返答した。

 

「キヤッスル1から全ホークへ、指定ポイントにナパーム全弾投下!効果範囲の重複を優先。くれぐれも高度を落とすなよ、巨大ワームやサソリモドキに喰われるぞ!」

AWACSが日米のF35やF2攻撃機に熱源を地上に集中させるように指示した。

 

数十機の攻撃機がナパーム弾を投下し、上陸地点から少し内陸部の平地に数ヵ所の大きい熱源が発生した。そしてその熱源を目指して巨大な"動く砂山"が無数に群がろうとしていた。

 

ナパーム弾の投下と時を同じくしてボレアリフ海岸にコードネーム"パンサー"こと極東米軍特殊部隊『シールズ』と極東ロシア連邦特殊部隊『スペツナズ』がブラックホークヘリやミル15大型輸送ヘリで降下した。

 

航空自衛隊のC2大型輸送機が極東米陸軍の拠点対空防衛兵器『アイアンドーム・システム』と地中探査レーダーが入ったコンテナを海岸近くの平地に投下した。

 

「こちらパンサーアルファ、アイアンドームと地中レーダーの投下地点に到着した。損傷は無い模様、これから設置する!」

シールズとスペツナズに随行(ずいこう)した米露工兵部隊が素早くレーダーを設置し、アイアンドームシステムの組み立てを始めた。

 

「ん?来たな。キヤッスル1より司令部と全艦隊に告ぐ、上陸地点から5キロ内陸平地に百を超える多数の巨大ワーム群を確認。地中から更に後続の巨大ワーム群が接近中」

 

上陸作戦司令部のロイド提督は、

「全艦隊は5キロ内陸に、全砲弾とミサイルを発射せよ」と命令した。

 

20隻余りの戦闘艦艇からハープーン対艦ミサイル、トマホーク巡航ミサイル、SSN(潜水艦発射ミサイル)等各種ミサイルが一斉に発射され、

極東米海軍特殊駆逐艦『ズムウォルト』から"レールガン"が強力な蒼白い光を(まと)って撃ち出され、高空から極東米露戦略爆撃機が巨大なMOAB(全ての爆弾の母)弾頭を惜しげもなく投下した。

 

地上や地下深くから接近する巨大ワームは人類が生み出した"鉄の嵐"をまともに受けて周囲の土砂ごと空中に吹き飛ばされバラバラの肉塊となって赤い大地に降り注いだ。

 

更に極東米空軍"極音速戦闘機"『オーロラ』が初めて実戦参加し、マッハ6の"極音速"で巨大ワーム群にマイクロ波とパルスレーザーを浴びせて巨大ワームを次々と焼き払った。

 

内陸部が爆炎と鉄の嵐に包まれていた頃、ロイド提督は上陸の機会を活(い)かすべく、主力上陸部隊を強襲揚陸艦艇から発進させた。

エアクッション挺や、揚陸艦、CH47大型ヘリに搭乗した米露海兵隊を主力とする上陸部隊はアパッチ対戦車やミル28戦闘ヘリの護衛を受けて海岸に上陸し、予め特殊部隊シールズとスペツナズが確保した海岸近くの高地に拠点を築いた。

 

更に後続のロシア陸軍を主力とする機甲師団が上陸し、拠点に展開した。

「司令部へ、こちらグリズリー1、目標地点到着。展開完了した」

ロシアなまりで報告が入る。

 

ボレアリフ平原上空を旋回するもう1機のAWACSが地平線の彼方から接近する黒い(かすみ)のような虫の群を探知した。

「キャッスル2より全部隊に警告!上陸地点から10キロ内陸に無数の小型飛翔体群を確認―――サソリモドキの大群が巨大ワームの死骸に向かって接近中」

 

「こちら司令部、『ブレーンズ』の意見を聞きたい」

ロイド提督が海上自衛隊護衛空母『かが』に搭乗している火星研究機構の火星生物対策チーム(ブレーンズ)に意見を求めた。

 

「こちらブレーンズ。サソリモドキの大群はワームの死骸だけでは足りないだろう。ワーム死骸と共に焼き払い、殲滅(せんめつ)するのが一番有効だ」

ブレーンズのリーダーである天草がロイド提督の司令部に返答した。

 

「司令部より全作戦部隊へ、上陸地点に接近する全ての火星生物をあらゆる火力で殲滅せよ。ヘリ部隊は高度を落とすな、奴等に喰われるか、ローターに(バグ)が詰まって墜落するぞ!」

副官のジョーンズ少将が注意を喚起(かんき)した。

 

「グリズリー1、我々は5キロ以内に侵入したバグズを攻撃する」

ロシア機甲師団指揮官が司令部に告げた。

「了解、グリズリー1。これから弾薬補給を開始する。遠慮せずにぶちかましてくれ」

司令部が返答した。

 

「同志諸君。シレーヌス海の屈辱を晴らす時が来た。偉大な祖国陸軍の真髄を全軍に見せつけろ!特殊戦車部隊も戦列に入り、最大射程でマイクロ波照射!」

機甲師団指揮官が命令した。

 

ロシア陸軍主力戦車T90の125mm砲がサソリモドキ群に一斉射撃される。また、最新鋭戦車『アルタイ』も武骨な四角い砲搭を旋回させて130mm砲を放つ。

戦車砲弾は空中に群れるサソリモドキの真ん中で炸裂し、爆風と破片、焼夷弾の火炎を撒き散らした。サソリモドキは鉄と炎に包まれてボトボトと赤い大地に落ちると地中を進んでいた巨大ワームが飛び出して死骸を吸い込んでいった。

 

飛び出してきた巨大ワームにも戦車砲弾が直撃し、頭を失ったワームが地面でのたうつようにもがいたが、サソリモドキ群が殺到して巨大ワームは傷口から喰われていった。

 

戦列に加わったロシア特殊戦車部隊はアルタイ戦車に似た四角い砲搭を持つが、そこに砲身は無く、替わりに付けられた横長の湾曲したシルバープレートがサソリモドキに向けられると、低い駆動音と共にマイクロ波が照射された。

 

サソリモドキ群は巨大な電子レンジとも言える特殊戦車部隊のマイクロ波を浴びると、体内から熱い体液を噴き出して破裂しながら地面に落下していった。

 

最初の上陸部隊が降り立ってから3時間が経つ頃には、巨大ワームやサソリモドキの大群は探知されなくなり、散発的に接近する巨大ワームやサソリモドキの小さな群が戦闘ヘリや戦車砲弾の鉄の嵐を浴びて粉砕されていた。

 

「これで一息つけるか?」

ロイド提督が(つぶや)くが、

 

「キャッスル1緊急!多数の弾道飛翔体(だんどうひしょうたい)が上空から上陸地点に向かっている。これは―――、岩石か」

「キャッスル2緊急!内陸30キロから無数の岩石が噴出しているのを見つけた。噴火か?違う―――、ワームだ!巨大ワームの群が岩石を吐き出しているぞ!」

「グリズリー、飛来する岩石200個以上を確認した。迎撃する」

「こちらブレーンズ。巨大ワームは人類のミサイルや砲弾を真似(まね)している」

 

「なんてクレイジーな奴等(やつら)だ」

ジョーンズ少将が戦慄する。

「なに、心配いらんよ。対砲兵戦だと思えば良いのだ」

ロイド提督が言うと、

 

「キャッスル2、全艦隊、部隊に岩石を吐き出す群のポイントを送信せよ。

全軍に()ぐ、キャッスル2から送信されるポイントに撃ち込める物を全て発射せよ。

アイアンドーム、イージスシステムは対空防御戦闘開始!」

全力の砲爆撃と"ワーム弾"防衛を命じた。

 

A-Dayの最後は巨大ワーム対人類の砲撃戦となった。

イージス艦隊から迎撃ミサイルが矢継ぎ早に発射され、陸上ではアイアンドーム短距離19連装迎撃ミサイルが次々と発射されて飛来する岩石を空中で(くだ)き続けた。

"ワーム弾"発射地点にはロシア軍の定番兵器である『カチューシャ』多連装ロケット弾や203mm榴弾砲が流星雨の様に降り注いで巨大ワームの群を抹殺(まっさつ)した。

 

それでも巨大ワームの岩石は人類の迎撃をくぐり抜けて上陸部隊と艦隊に降り注ぎ、数発が護衛空母や揚陸艦艇に命中し沈没は(まぬが)れたものの、大破して戦線を離脱し北海道に向かった。

命中した岩石には無数の小型ワームが詰まっており、艦内で海兵に襲い掛かったが、自動小銃や火炎放射器で駆逐(くちく)された。

小型ワームの存在はブレーンズが予測しており、対抗策も取られていたのである。

 

巨大ワームと予想外の大砲撃戦は1時間で巨大ワーム群が殲滅(せんめつ)されて終了した。

1月1日午後6時40分、上陸部隊司令官ロイド提督は火星研究機構と極東各国に上陸作戦成功を報告した。

 

作戦開始から約半日に渡った激戦が終了した。

火星の一番長い日は、夜を迎えようとしていた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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