転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる)= 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ(美衣子)=惑星生態系維持管理自律進化型人工知能。
・タカミムスビ=マルス人尖山基地管理修繕人工知能。バージョンアップした。
東山(ひがしやま) 龍太郎(りゅうたろう)=20代後半。西野の大学同期。首相補佐官。
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長ゼイエスの善き理解者。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。温和。


ミーコとムスビ

地球暦2020年2月2日【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣官房執務室】

 

「テレビ番組ですか?」大月が訊いた。

「はい。基本的には日本社会の色々な出来事をマルスの方々に面白おかしくトークして頂く形になります。たまにアマトハさんやゼイエスさんをお招きしてトークに加わって頂く事を考えています」内閣官房広報担当者が言った。

 

「そしてこの番組を通じて、日本社会に自然と溶け込める雰囲気を作る事が目的です」

岩崎官房長官が付け加えた。

 

「では、美衣子と結がメインになりますね。彼女達はこれから大月家の一員として末永くこの国のお世話になるわけですから」

とゼイエスがアドバイスした。

 

「美衣子ちゃんと結ちゃんの社会勉強になるから面白い企画かも」とひかりが賛成する。

 

「これは録画になりますか?」大月が訊いた。

 

「出来れば生放送で今の世相についてトークして頂きたいのでそこを何とか」

と広報担当者と東山が手を合わせてお願いしてきた。

 

「ご存知ないかも知れませんが、(うち)の美衣子と結は"非常"に毒舌ですがよろしいのですか?」

大月が最大の懸念事項(けねんじこう)について確認した。

 

「では一度、スタジオでリハーサルをして関係者の皆さんに()ていただきましょう」

広報担当者が提案した。

 

NEWイワフネハウスに戻った大月とひかりは、美衣子と結にテレビ出演の話をすると、

「私達でテレビ界の"大御所"になるの」「姉さまなら大河や朝の連ドラを超えられますわ」

と何故か視たこともないはずの番組名を出して喰い気味で了承した。

 

大月は悪い予感しかしなかったが、ひかりは何故かコロコロと笑っていた。

 

翌日、某国営放送のスタジオパークで本番形式のリハーサルが行われた。

 

「それでは行きます!スタート!」ディレクターが合図を出した。

 

(仮)番組名「ミーコとムスビの時事放談」

 

ミーコの強い申し出でミーコが自作したNEWイワフネハウスの大月家リビングが再現され、食卓のテーブルでミーコとムスビが並んでポタージュスープを(すす)るシチュエーションで始まった。

 

カボチャのポタージュをふうふう冷ましながらミーコとムスビがチロチロと舌を出しながら味わっていた。

「今日もひかりのポタージュは絶品だわ」

「まったくです姉さま」

 

「ところで今日は私達でトークをしないといけないらしいわ」

「まあ、どうしましょう」

 

「何故かテーブルに今日の新聞とネットニュースが表示されたタブレット端末が有るわ」

「テンプレな展開ですわ。これをネタにするのですか?」

 

「ムスビ、どこからそんな言葉を覚えてきたのかしら。おそろしい子だわ」

「そんなにほめられると照れますわ」

 

「まあいいわ。まずは新聞からいきましょう」

美衣子が新聞各紙を一瞥(いちべつ)すると片っ端から破り捨てた。

 

「姉さま、紙吹雪は綺麗(きれい)ですが掃除が大変ですわ。それでどうされたのですか?」

「全部フェイクニュースよ。紙の無駄だわ。後で岩崎に文句を言いに行きましょう」

 

「どうしてフェイクニュースだと分かるのですか?」

「決まっているでしょう」美衣子が結とお(そろ)いのワンピースを着た胸をとん、と叩いて言った。

 

「ソースは私よ」

「なるほど、納得しましたわ」

ガツンッと、画面の外で大月がモニターに頭をぶつけた音が聞こえてきたが、

 

「お父さん、うるさいわよ」

「お母さんの夜のしつけが今一つですわ」

ドガシャッと、今度は画面の外でひかりがモニターに頭をぶつけた音が聞こえてきた。

 

そんな雑音を無視した二人は、

「姉さま、次のネタを探しましょう。『ねっとにゅーす』を見ましょう」

二人が並んでタブレット端末を(のぞ)き込む。

 

「ふぅ」美衣子はため息をつくと、

(むな)しいわ」と言った。

「そうですねぇ」結も同意した。

 

「人間は他人のつがいの事を知りたがり過ぎよ」

「世の中には知らいほうが良いこともあるわ」

 

「知る権利がありますわ姉さま」

「そんなに知りたいなら自分で足を運びなさいな」

美衣子がさらっと言った。

 

「あら、澁澤が批判されているわ」

「でも澁澤しか出来ない仕事よ」

 

「『そうり』とは大変なお仕事ね」

「批判だけしている人よりは仕事しているわ」

 

「お受験なんて、人間は苦行が好きなのね」

「そんな古い知識を無理矢理覚え込まされるなんて、『せんたーしけん』を考えた人は相当な鬼畜野郎ですわ」

 

「でも、この『ぐるめれぽーと』は素晴らしいわ」

「姉さま、結も大トロが食べたいです」

 

「はい!カーットぉっ!!」こめかみに青筋を浮かべたディレクターが叫んだ。

大月は"これで官房長官のお説教確定だ"と覚悟した。

 

阿修羅(あしゅら)のような表情をしたディレクターが大月に近づくと、

「素晴らしい!新鮮すぎます!」と絶賛した。

 

「国営放送の教育番組でありながら、このお堅い殻を吹き飛ばすリアクションと毒舌(どくぜつ)!これは神番組間違いありません!」

 

"この内容は教育で流せるの?"と大月はドン引きしながら今後の二人を予想して質問する。

「二人はマルス人の中でも極めて異質です。気まぐれでいつどんな放送事故が起きるか分かりませんよ!?」

 

「それが良いのです。今の"火星日本列島"は先行き不安で視聴者は安心を求めています。お二人が安定したフリーダムな振舞いをすることで、逆境に置かれた国民の閉塞感(へいそくかん)を吹き飛ばしてくれるのです」

少し真面目な顔でディレクターが太鼓判(たいこばん)を押した。

 

大月は首をひねりながら、ひかりはクスクス笑いながら、美衣子と結の手を繋ぎながら家に帰った。

 

NEWイワフネハウスに帰宅すると、留守電に東山からメッセージが入っていた。

曰く、首相官邸でもリハーサル映像が生放送され、内閣官房執務室の職員が爆笑していたのでまたよろしくとの事だった。

大月は美衣子に耳打ちし、帰宅した東山は地下の浴場に入った瞬間に大分県の別府温泉に片道転送されるのだった。

 

帰宅したイワフネとアマトハ、ゼイエスに美衣子と結のテレビ出演について意見を求めると、

「日本社会に馴染(なじ)む良い機会です」

と快諾されるのだった。

 

ゼイエスはテレビ番組に興味を持った様だった。

 

こうしてマルス人姉妹の番組『ミーコ&ムスビの時事放談』は国営放送の教育チャンネルで毎週金曜日の夕方、ゴールデンタイムに全国放送された。

第1回目は先日のリハーサル収録をそのままノーカットで放送された。

 

番組終了直後から国営放送に問い合わせや感想が殺到し、概ね好意的な内容で番組スタッフと大月は胸を撫で下ろした。

 

第2回目以降も美衣子と結は番組に興味を持たず、フリーダムに振る舞って全国各地を廻って公開放送を楽しんだ。

特にゼイエスやアマトハ回でのミーコとムスビの"掛け合い"は視聴者の多くを楽しませた。

 

ミーコとムスビ(ゼイエス回)

「今日は私のマスターを紹介するわ」

「姉さまマスターですわ」

 

「マスター、今日も日本は概ね元気よ」

「イワフネはさっきハマチの生け()に落ちたけど概ね元気だわ」

 

「最近マスターの名前が鉄道マイスターに変更されているわ」

「イワフネは交渉スキルが2上がったわ」

 

「マスター今日の実験大丈夫なんですか?」

「イワフネは海老を育てられるのかしら」

 

「でもマスター、第5惑星のメタンを燃やして太陽にする実験は危ないわ」

「イワフネがマニュアル車を運転するのは危ないわ」

 

「あ、マスター帰っちゃった」

「お忙しいのですわ」

 

番組終了後、ゼイエスは内緒(ないしょ)の実験がバレてアマトハにめちゃめちゃ怒られたという。

 

ミーコとムスビ(アマトハ回)

「今日はマスターの同僚を紹介するわ」

「プロフェッサーアマトハいらっしゃいませ」

 

「いつもマスターがやらかしてすいません」

「姉さまに頭を下げさせるマスターは鬼畜ですわ」

 

「違うわムスビ、マスターはこの世の(ことわり)を探究しているの。だからいろんな事に『ちゃれんじ』するのよ」

「マスターは勇者ですわ」

 

「勇者は孤独なものよ」「哀愁(あいしゅう)を誘いますわ」

 

「この前もアマトハに怒られて孤独になっていたわ」

「クールですわ」

 

「でも直ぐに立ち直ったわ」

「不屈のマスターぱねえですわ」

 

「今度は第2惑星の熱い地面に氷の彗星を落として雲を作るらしいわ」

「大自然にちゃれんじですわ」

 

「あら、アマトハが勝手に帰ってしまったわ」

(うろこ)の下からでも分かるくらい青筋が出ていましたわ」

 

番組終了直後、オリンポス山の研究所にある電磁カタパルトから金星に向けて冷凍爆弾を発射しようとしていたゼイエスはアマトハに捕まり、罰として信州にあるニュートリノ研究所の増強拡張工事を一人で行わされた。

 

ゼイエスの魔改造でニュートリノ研究所の加速速度は大幅に増加し、しばしば半物質や極小ブラックホールが観測される等様々な研究用途に使用可能となったが、反面、管理が難しい代物(しろもの)となり、『火星の火薬庫』とまで言われるようになったという。

 

アース・ガルディア艦隊来訪までの期間、毎週金曜日のゴールデンタイムに放映される二人の番組の視聴率は、驚異的な70%台を維持し続けた。

反面東山は毎週土曜日に胃腸科に通うことが多くなった。

 

ちなみにゼイエスは密かにJR各社に接触し、鉄道の旅番組に出たいと『売り込み』をかけた。

JR各社はゼイエスの売り込みを歓迎し、各社持ち回りでゼイエスを全国の鉄道路線旅に招待し、ゼイエスは趣味と鉄道改造の実益を兼ねて大月達とは別に日本各地を廻る事となった。

ゼイエスの鉄道一人旅はJRと旅行会社のタイアップで『そうだ火星行こう』の番組名で毎週金曜日夜に放送され、多くの鉄道ファンが視聴した。視聴率ではミーコとムスビに及ばないが、コアな熟年視聴者層の熱烈な支持を受け、常に40%台の視聴率を叩き出した。

 

総理大臣執務室でテレビを視ていた澁澤総理大臣と岩崎官房長官だったが、

「マルス人融和(ゆうわ)計画はこれで上手く行くだろう」

「ええ、予想外の地方旅行ブームでJRの収益増加はもちろん、ゼイエスさんのアイデアで赤字路線が見事にリニューアルされて人気が出ています。地方自治体の観光収支にプラスの影響を与えている事から各地の自治体は番組誘致に躍起(やっき)の様ですな」

 

「私は毎週こっぴどく野党やマスコミが叩かれるミーコとムスビの番組を絶賛したいな。下手な党首討論よりよっぽど素直な政治談義をあの二人はやってくれる」

と言っておおらかに笑った。

 

岩崎は、

「今度(れん)ちゃんに埋め合わせしないとな」

と心の中で苦笑していた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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