転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる)= 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ(美衣子)=自律進化型人工知能。
・タカミムスビ=マルス人尖山基地管理修繕人工知能。バージョンアップした。
澁澤(しぶさわ)太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・ミッチェル=極東アメリカ合衆国大統領。
・ジョーンズ=極東アメリカ合衆国海兵隊司令官。
・パノフ=極東ロシア連邦大統領。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東派遣軍司令官。少将。
・ジャンヌ=ユーロピア国初代首相。
(ワン)=台湾自治区代表。


こちら地球

地球暦2020年2月14日【火星ボレアリス平野沿岸部、『ボレアリスシティ』】

 

日本列島が火星に転移して2度目のバレンタインデーである。

昨年のバレンタインは転移した翌月で国家非常事態宣言下で物資統制もあり、ささやかな内輪でのバレンタインだったが、今年のバレンタインはボレアリスシティにとっては『初めて迎える』人類イベントである。

 

日本本土や極東各国から祝いの物資が臨時で到着し、ボレアリスシティは(うたげ)に沸いていた。

 

そのボレアリスシティ中央地区の片隅(かたすみ)に有る連合軍通信指令センターでは、とある場所からの重大な通信を受信し続けていた。

『こちら地球。宇宙国家「アース・ガルディア」。日本列島の生存者、応答せよ。』

 

ロシア訛りの時もあれば、フランスや中国訛りもある。そもそも地球に宇宙国家等有ったのか?日本列島で過ごしてきた各国軍人は首を(ひね)った。

そして、この通信は即座に市ケ谷の火星研究機構に報告された。

 

「ついに来たか。」澁澤総理大臣が言った。

 

『今更我らに何の用ですかね?』

ケビン英国連邦極東首相が言った。

 

『地球は天変地異の嵐だ。こちらに支援なり、救助を求めるのは当然かもしれん。』

極東アメリカのミッチェル大統領が言った。

 

『我々は多大な犠牲を払って、やっと火星に第1歩を踏み出したばかりで、我々を見捨てた本国に支援する物資等有りません。』

極東ロシアのパノフ大統領が冷徹に言い放った。

 

『彼らは日本列島の生存者、と言いました。地球から日本列島の存在が確認されたのは明らかです。』ユーロピア自治国のジャンヌ首相が言った。

 

『私達の同胞はあの大変動が起きている地球に沢山生き残っている(はず)です。無下には出来ますまい。』台湾自治区の王代表が言った。

 

いくつかの国は発言とは裏腹(うらはら)な行動に出るであろう事は明白だったが、各国首脳はおくびにも出さずに現状は情報収集に努める。という無難な方針を決めて散会した。

 

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同日夜【極東ロシア連邦首都エトロプルク 大統領府】

 

パノフ大統領は極東首脳会議後、すぐに全幹部を集めて会議を開催した。

パノフは、ロシア人実業家が建国した宇宙国家が火星に通信を求めてきたことを報告し、極東ロシア連邦として独自に交信を行う姿勢を幹部に伝えた。

「あの宇宙国家は祖国の実業家が立ち上げた『ロシア国家』であり、我々は協力を惜しまない姿勢で臨む。また、我々が承継しつつあるマルス文明の解析にも参加してもらうように提案するつもりだ。」パノフ大統領はそう言った。

 

パノフは無惨な結果に終わった第一次上陸作戦の責任追求を予測してアース・ガルディアと連絡が取れ次第、極東ロシア連邦の全権を移譲しても構わないとまで考えていた。

マルス大地は寒さに強いスラブ民族に最適である。火星(この星で)我々民族が覇権(はけん)を握り、来る地球再生時の帰還に際しても有利な立場で国土を確保する事が出来るのだ。

 

パノフ大統領は側近たちに、アース・ガルディアと秘密裏に交信できる手段を講じるように指示した。

 

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同時刻【極東アメリカ合衆国 那覇DC 大統領執務室】

 

ミッチェル大統領は宇宙国家との交渉については対等な立場で臨み、宇宙国家政府内に居るであろう米国人派閥との連携を模索したいと考えていた。

 

極東アメリカ合衆国としての国力は日本国に遠く及ばないが、軍事力だけは火星最強である。

潰滅した本国(ステイツ)の生き残りに唯々(いいだくだく)諾々と従うのは論外である。

 

あの宇宙国家はロシア人の強い影響下にあるとは言え、多くの米国人が組織中枢に居るはずである。彼らと連携しつつ、極東アメリカ合衆国の意向を()む政策を宇宙国家に取らせれば良いのだ。

 

ミッチェル大統領は宇宙軍に所属する嘉手納(かでな)配備の『オーロラ』極音速戦闘機や『ズムウォルト型』レールガン装備駆逐艦に対し、秘かに迎撃準備を進めるように命令した。

 

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同時刻【東京都千代田区永田町 首相官邸 危機管理センター会議室】

 

澁澤総理大臣は、全閣僚と英国連邦極東、ユーロピア国、台湾自治区、大月と西野の付き添いで美衣子と結も同席させて緊急会議を開催した。

 

英国連邦極東とユーロピア国首脳は、美衣子と結の協力(実は秋葉原散策後に開発済)によりマルス文明技術を利用した『どこへもドア』で、会議に参加していた。

 

澁澤の方針は出来る事と出来ない事の区別を明確にして対応するものだった。

 

国交樹立を原則とし、大使館設置や治外法権など地球の国際法に準じて対応する。

人道的観点から物資供給は日本国民に影響が出ない範囲で応じる。

 

技術供与については、軍事利用を除いた上で実用可能なもののみ、データを提供する。

人員は派遣しない。人材交流もしない。

火星でのコロニー建設は極東各国首脳が集まる会議で協議する事。

 

澁澤の方針は極めて現実的であり、ある意味「よそ者」に厳しい国民性を裏打ちしている様に思えたが、同席した美衣子が

「もうすぐ火星に来る地球人集団は、日本列島の侵略者よ。あの集団を(まと)める者が属していた国が"最初に日本へ核ミサイルを発射した国"であることを忘れてはダメ!」

と強く宇宙国家を警戒した事も影響している。

 

また、

「彼らは自分達を地球の守護者と言っている。だけどそれは"自分のもの"だからこそ護る、と考えているから貴方達はもっと警戒した方がいい。」

と言った。

 

澁澤と美衣子のやり取りを聴いた英国連邦極東、ユーロピア国、台湾自治区は日本政府と歩調を合わせることで方針を決めた。

この2ヵ国と1地区は日本国と政治・経済、文化、人材交流で深く結び付いており、宇宙国家という「(まが)い物」には魅力を感じなかったのである。

 

また、ボレアリフシティ拡大や、地球復興についても独力での着手が難しい状況下で『極東米露の日本政府転覆計画』に加担した所でマルス人と親密に結び付いた日本国が転覆する見込みは無いと、英国連邦の情報機関 極東MI6が報告を(ひそ)かにしていたことも影響している。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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