転移列島   作:NAO

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【このお話の登場人物】

・高瀬(たかせ) 翼(つばさ)=航空自衛隊 偵察機操縦士。少佐。


観測

地球暦2019年1月3日午前0時30分【茨城県大洗沖70kmの太平洋】

 

高度30000フィートの太平洋上を北に向かう航空自衛隊のRF4E偵察機に搭乗している高瀬翼少佐は特別に黒く塗りつぶされたキャノピーに覆われたコクピットの中で冷静に各種観測任務を続けていた。

 

「こちらヤタガラス、針路正面に向けて赤外線レーザー、炭素レーザー、索敵レーダーを照射する。オクレ。」

 

赤い高空を飛ぶRF4Eから、赤や緑の糸状の線が針路前方に伸びていく。

「っ!!こちらヤタガラス、各レーザー、レーダー、前方30kmでブロック!」

高瀬が緊張した声で報告する。

 

「了解した。ヤタガラスは針路を反転して南西に向かえ。オクレ。」

「ヤタガラス、ラジャ。」RF4Eは翼を翻すと今度は日本列島に沿って南下した。

 

「こちらコントロール、ヤタガラスの針路を確認した。地上撮影カメラを最大望遠モードにセットせよ。オクレ。」

「ヤタガラス、最大望遠モードにセット完了、オクレ。」

「こちらコントロール、そのままの針路で超音速背面飛行を5分継続せよ、オクレ。」

「...こちらヤタガラス、耳が遠くなった。もう一度指示を頼む、オクレ。」

 

通常、こうした操縦士の返答はコントローラーに向けた明らかな抗命行為に等しく、懲罰モノである。

 

しかし、今度は管制官とは違う声で、

「こちらジェネラル。馬鹿げた指示だと私も思う。だが、今我が国で宇宙(そら)を視れるものは貴官以外に誰もいないのだ。可能か?」

 

航空幕僚長自ら通信に応じたことに高瀬は事態の深刻さを認識した。

 

「ヤタガラス、失礼しました。これより任務遂行する、オクレ。」

 

RF4E偵察機はアクロバット飛行さながらの背面姿勢をとりながら、マッハ1.5を超える超音速で日本列島与那国島南端まで天空の撮影を行った。

デジタル撮影された映像は直ちに市ヶ谷の防衛省統合幕僚本部と府中の航空総隊司令部に自動送信された。

 

30分後、高瀬は無事、百里基地に着陸した。

離陸前の美しい塗装は焼け焦げて跡形もなく、機体からはうっすらと白煙が上がっていた。

 

駆け付けた整備員が作業用ドローンのセンサーで機体を計測したところ、地球上では考えられない高レベルの有害な各種宇宙線に被曝した痕跡(こんせき)が検出された。

整備員は直ちに滑走路から退避して、そのまま自衛隊中央病院に直行した。

 

ヘルメットで分からないが、熱でのぼせたような、やや赤く膨れた顔に気付かないまま、高瀬はコクピットから出ると、あっという間に白い放射線防護服に包まれた化学部隊隊員に担がれてストレッチャーに乗せられ、大急ぎで自衛隊中央病院に搬送された。

 

自衛隊救急車の中で高瀬は激しい嘔吐(おうと)を繰り返し、病院到着時には意識不明となっていた。

 

高瀬は、致死量に近い放射線を1度に浴びて急性放射線被曝を発症しており、集中治療室の中で化学学校の教官でもある専門医の懸命な被曝治療を受け、一命を取りとめた。

 

高瀬の状態を知った航空幕僚長と管制官は翌朝、辞表を提出したが、それぞれの上官に一喝(いっかつ)され、受理されなかった。

 

高瀬が命懸(いのちが)けで撮影した映像と観測データを解析した防衛省統合幕僚本部とJAXA(ジャクサ)は、その内容に驚愕(きょうがく)した。




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