転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる)= 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ(美衣子)=惑星生態系維持管理自律進化型人工知能。
・ゼイエス=マルスアカデミー宇宙生物理学者。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・桑田=防衛大臣。
・名取=航空宇宙自衛隊強襲護衛艦『ホワイトピース』艦長。大佐。
・高瀬 翼=新型機動兵器パイロットとして前線復帰。
天草(あまくさ)治郎(しろう)=JAXA理事長。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ジャンヌ=ユーロピア共和国首相。
・アレクセイエフ=宇宙国家アース・ガルディア火星派遣艦隊司令。


火星編 戦女神の星
呼応


地球暦2020年9月10日午後1時【英国連邦極東首都 『ダウニングタウン』】

 

アース・ガルディア艦隊の到着まであと二週間となったこの日、澁澤とアマトハはケビン首相、ユーロピアのジャンヌ首相と"ティータイム"を過ごす為にダウニングタウンの首相官邸に(おもむ)いた。

 

実際には欧州救出作戦への協力要請である。

いつも通りに気さくに迎えてくれたケビン首相とジャンヌ首相にアマトハはささやかな朗報とも言える報告を行った。

「実は日本政府の要請を受けてマルスアカデミーの調査ラボ、地球では『月』と呼ぶのでしたね、そのラボを修復する準備が整いました」

 

続いて澁澤首相が、

「日本政府としては、月のマルスアカデミーラボに配備している大型シャトルを使用して欧州地域の在留日本人を救出しますがその際、貴国の避難民で希望する方も一緒に救出しようと考えています。出来れば欧州地域の適切な救出ポイントと、避難民へのメッセージ等に貴国軍事関係者の協力をお願いしたいのです」

ケビンとジャンヌに頭を下げた。

 

二人の極東欧州首相は驚いてカップの中身を(こぼ)しそうになったが、姿勢を正すと澁澤首相に協力を申し出た。

 

ティータイムの後に両首相は、直ちに特殊部隊と軍事顧問団、宇宙科学者を種子島に演習名目で派遣した。

 

種子島のJAXA施設で日英ユーロピアの救出部隊がマルスアカデミー協力のもと、具体的な救出計画を策定した。

欧州の救出ポイントとして、英国グラスゴー郊外、東アルプス山脈 (ふもと)、ストックホルム郊外の盆地(ぼんち)選定(せんてい)した。

 

避難民の輸送はルンナに配備されている(はず)

大型シャトル(収用人数5000人) 4機を同時に各地へ向かわせて月との間をピストン輸送し、ルンナラボに半冷凍睡眠状態で収容、全員救出後に大型シャトルを星間航行仕様に改造し、火星との間をピストン輸送させる。

 

大型シャトルに積載余裕が有る場合は英仏海軍の原子力潜水艦を搭載し、月面ラボの電磁カタパルトで射出、無人慣性航行で火星に向かわせる。

火星到着後は衛星フォボスで宇宙船に改造し、一部は火星海洋上で使用する為に大型シャトルで運搬する。

 

潜水艦を後々の為に利用するアイデアは英仏軍事顧問団の発案である。

 

また、火星から月に向かうシャトルが種子島の電磁カタパルトから射出される際、強烈なGがかかる負担を軽減する為に、日欧科学者と自衛隊、英仏特殊部隊隊員は半冷凍睡眠カプセルに収容したままでシャトルに搭乗(とうじょう)する事となった。

 

種子島宇宙センターではガルディア艦隊の到着直前まで、欧州救出作戦の準備と地球人に合う半冷凍睡眠カプセルへの仕様変更、派遣メンバーの健康診断と半冷凍睡眠テストに追われた。

 

この動きを極東米露に(さと)らせないために救出準備期間中、日欧極東連合軍は種子島沖で大規模な海上演習と周辺空域で宇宙からの飛行物体を迎撃する訓練が行われ、公開された。

 

――――――――――――

地球暦2020年9月30日【鹿児島県種子島 JAXA宇宙センター】

 

ゼイエスと天草が共同で開発した、『大気圏外打ち上げ用電磁カタパルト』から次々と小型シャトルが夜更(よふ)けの空に発射されていた。

 

このシャトルは月面基地ルンナ補修を目的とした小型宇宙船で、火星の種子島から遠隔操作も可能なドローンやマルスクローンも複数搭乗していた。

 

また、英国連邦極東とユーロピア国から志願した特殊部隊兵士と、自衛隊特殊部隊、外務省の若手職員及び東山が冷凍睡眠カプセルに入ってシャトルに搭乗した。

彼らは救出作戦で避難民を保護・誘導する予定である。

 

マルス人クローン達は月面到着後、ゼイエスが開発した心身同調システムでイワフネ達尖山隊員がクローンに精神体を転移されてルンナラボ復旧とその後のヨーロッパ救出作戦の拠点造りを行う予定である。

今回は基地保安システム機能を持つ(むすび)も同行している。

 

このルンナ補修作戦と欧州救出作戦は火星に接近しつつあるアース・ガルディア『アンゴルモア』艦隊への切り札になるはずであった。

 

――――――――――

地球暦2020年10月1日午前4時【火星衛星軌道】

 

地球衛星軌道から発進したアース・ガルディア政府の派遣艦隊は、大型軍事シャトルに多数の貨物コンテナや軍事衛星を組み込んだサテライトを合体させたピョートル型惑星間航行宇宙戦艦3隻と、X34中型軍事シャトルを6機随伴(ずいはん)した人類初の宇宙艦隊である。

宇宙戦闘力では人類史上最強を誇り、アース・ガルディア市民からは『アンゴルモア(恐怖の代名詞)艦隊』と畏怖(いふ)の念を込めて呼ばれた。

 

アンゴルモア艦隊は、3か月間の行程(こうてい)を終えて火星衛星軌道上に到着した。

 

日本政府の予想に反してアンゴルモア艦隊は衛星軌道上に(とど)まらず、アルテミュア大陸の人類都市ボレアリフと極東ロシア連邦の首都エトロブルクに地上部隊を降下させた。

また、極東アメリカ合衆国 嘉手納(かでな)基地にガルディア軍X34軍事シャトルとSR92"超極音速"戦闘機部隊が着陸した。

 

アース・ガルディア艦隊に呼応(こおう)した動きについて、極東米露政府から日本政府への事前通知や事後報告は一切無かった。

 

同日午前11時、極東米露政府、アース・ガルディア政府の連名で日本政府に対し、北海道と沖縄諸島の領土割譲(りょうどかつじょう)を要求する書面が首相官邸に届けられた。

 

日本政府は直ちに要求を拒絶(きょぜつ)し、火星研究機構から米露を除名、極東米露と締結(ていけつ)していた相互防衛条約、自由貿易協定の相手方 不履行(ふりこう)を理由とした破棄と両国地域からの日本人退去、本州地域の米軍基地封鎖を通告し、全自衛隊の防衛出動を命じた。

また、英国連邦極東、ユーロピア国、台湾自治区は日本政府から通知を受けて戦時警報を発令し、自衛軍を出動させて臨戦態勢に突入した。

 

――――――――――――

 

地球暦2020年10月1日午前5時【富山県立山市 尖山マルス基地】

 

ガルディア艦隊から降下部隊が極東米露入りしていた頃、美衣子はゼイエスや航空宇宙自衛隊の整備士と共に尖山基地に保管していたモビルスーツの最終点検をしていた。

 

美衣子が点検していたのは秋葉原散策以降、"こんなこともあろうかと"澁澤と岩崎におねだりして予算を捻出(ねんしゅつ)してもらい、密かに造り上げたモビルスーツ部隊である。

「美衣子博士!全機発進準備完了です」

整備兵士が美衣子に敬礼して報告した。

 

美衣子は(うなず)くと、隣に居る『ホワイトピース』艦長の名取大佐を見る。名取大佐は、

「博士。ここまでして頂きありがとうございます。後は予定通りでよろしいですか?」と訊いた。

 

美衣子は、

「そうよ。高瀬達モビルスーツ部隊はこのまま尖山(ここ)基地から発進して私の後についてきなさい。整備士と艦長以下の乗組員は私とマスターゼイエスがシャトルで「ダイモス基地」に運ぶわ。ダイモス基地に着いたら、ホワイトピースにモビルスーツ部隊を収容してガルディア艦隊の背後(はいご)から牽制(けんせい)よ。細かい指示は名取(なとり)大佐に任せるわ」

と言った。

 

「了解しました、博士(マスター)。各員に告ぐ。これから我々航空宇宙自衛隊の初任務だ。秋葉原で特訓した成果を出して、博士(マスター)や国民を守れ!」

と名取が訓示(くんじ)した。

 

竜巻に(おお)われた尖山基地の山頂ゲートが開くと、美衣子とゼイエスが操縦するアダムスキー型シャトルとマイヤー型シャトルが飛び出し、山腹の特設滑走路から、モビルスーツ部隊が電磁カタパルトから次々と発進した。その数6機である。

 

高瀬隊長が乗る赤いモビルスーツ『バンダム』とオリーブ色の『ザクゥ』はカタパルト発進後、背中のバックパックから後退翼を展開してシャトルの後を追うように編隊を組んで空高く飛んで行った。

 

首相官邸の総理大臣執務室から航空宇宙自衛隊の出撃をモニターで視ていた澁澤は、

「なかなかの勇姿(ゆうし)だな」

と感心しながら言うと、

「まさか美衣子さんと結さんがあそこまで入れ込んでくれるとは、有り難いことです」

と岩崎が(こた)えた。

 

「桑田君、後は君達プロ軍人の出番だ。アース・ガルディア艦隊をしっかり(おさ)えてくれ」

と防衛大臣を激励(げきれい)した。

桑田はしっかりと(うなず)いた。

 

「さて、後は大月家に説明だな」

澁澤が笑いながら言った。

「ここまで尽くして頂いた美衣子さんがご飯抜きでは申し訳ありませんからね」

岩崎も笑いを(こら)えながら(うなず)いた。

 

NEWイワフネハウスを訪問した澁澤と岩崎は、ひかりが用意した朝食を食べながら美衣子と結、ゼイエスの『活躍』について説明し、"お仕置き"の免除(めんじょ)を要請した。

大月とひかりは唖然(あぜん)としながらも、了承した。

 

【火星衛星軌道上 アース・ガルディア『アンゴルモア』艦隊 旗艦(きかん)『ムルマンスク』】

 

「司令!わが艦隊後方10kmから接近する識別不明の大型艦艇1隻を探知しました」

ブリッジ要員がアレクセイエフ司令に報告した。

 

「いつの間に後ろに付いたんだ」

アレクセイエフが(つぶや)くと、

 

「火星衛星『ダイモス』の影に隠れて本艦レーダー索敵(さくてき)を逃れていた様です」

戦闘管制オペレーターが答えた。

 

「識別不明艦から小型挺(こがたてい)6機発進。こちらに向かって来ます!」

「全艦隊臨戦態勢、対空防御!」

「識別不明艦から通信。『こちら日本航空宇宙自衛隊。アース・ガルディア艦隊に告ぐ。直ちに火星宙域から退去せよ』です」

 

「小型挺更に接近、距離3km。光学目視で確認出来ます」

「モニターに出せ」

 

『ムルマンスク』戦闘管制ブリッジのメインモニターに、白い大型宇宙戦艦をバックに赤いモビルスーツを先頭に編隊を組んだ6機の軌道兵器が映し出された。

 

即座に某アニメを連想したアレクセイエフは、

「どこのお伽噺(とぎばなし)だ」

(あき)れた様に言ったが、

 

「返信。バカメ」と通信オペレーターに命じた。

即座に日本の戦艦から、

「月に代わってお仕置(しお)きする」

と意味不明な1文が送られてきた。

もちろん美衣子が送信したものである。

 

火星衛星軌道上で人類史上初めての宇宙戦争が始まろうとしていた。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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