転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=内閣総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・名取=航空宇宙自衛隊強襲護衛艦『ホワイトピース』艦長。大佐。
天草(あまくさ) 治郎(しろう)=JAXA理事長。
空良(そら)=国立天文台所長。
・アレクセイエフ=宇宙国家アース・ガルディア火星派遣艦隊司令。
・イワフネ=マルス人。第3惑星調査隊長。15000年前、月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、生存者と共に自動的に地球に降ろされた。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。
・リア=マルスアカデミープレアデスコロニー救難艦艦長。


プレアデスからの船

アンゴルモア艦隊が日本政府の停戦勧告を受け入れた頃、宇宙の彼方から(つい)にイワフネ達を迎えに来たプレアデス星団から救難船が火星に接近しつつあった。

 

【オウムアムル型光速救難艦『プレアデス』】

「火星衛星軌道に2000リ」

オペレーターが艦長に報告した。

「予定通り衛星軌道に乗ります。減速せよ」

救難艦艦長のリアが指示した。

 

「マルスのアマトハ所長から通信です」

「モニターに出してください」

 

「遠路ありがとう。良く来てくれました」

アマトハがリア艦長に感謝した。

「任務ですからお気になさらずに。それで、どうされました?」

 

「実はちょっと現地人がね」

アマトハはリア艦長に地球人の事情を説明するのだった。

 

地球暦2019年10月1日午前8時【東京都三鷹市 国立天文台三鷹キャンパス】

 

「空良さん!マルスアカデミーの船をキャッチしました。」研究員が報告した。

「今、どの辺りだ?」空良が訊く。

「火星衛星軌道まで500kmです。」

「市ヶ谷と永田町に連絡だ!」

 

同時刻【NEW イワフネハウス】

 

「やはり君は残るんだな」アマトハが確認する。

 

「ええ、私は地球人類が今度こそ困難を乗り越えて進歩する世界を見てみたい」

イワフネがアマトハと、ゼイエスに言った。

 

「分かった。だが、こんな状況下で母星に帰るのも、あれだな」

アマトハがニヤリと笑って、迎えのオウムアムル型救難艦のリア艦長に連絡を取って打ち合わせを始めた。

 

同日午前8時30分【火星衛星軌道上 強襲揚陸艦『ホワイトピース』】

 

自力航行不能となったアンゴルモア艦隊の戦艦を牽引するホワイトピースはダイモス宇宙基地に向かっており、アンゴルモア艦隊は機動兵器の編隊に包囲されていた。

 

「前方5kmに衛星ダイモスです。」

航宙オペレーターがアレクセイエフに告げた。

 

「あれが日本の宇宙基地なのか」

アレクセイエフは唖然(あぜん)としていた。

 

火星衛星ダイモスはもともと地球観測用のマルスアカデミー『ラボ』が設置されていたが、美衣子と天草、琴乃羽(ことのは)により宇宙戦艦建造ドックとメンテナンススペース、宇宙港が増設され、レーダー施設や火星観測センサー、地球観測望遠鏡、対空ミサイル、近接防御バルカン砲がダイモスの至る所に備え付けられ、宇宙要塞と言ってもおかしくない様相(ようそう)となっていた。

 

ちなみにもうひとつの衛星『フォボス』も、現在英ユ科学者と軍事顧問団がJAXA(ジャクサ)支援のもと、独自の防衛施設を建設していた。

おそらく、地球から運んでくる原子力潜水艦を宇宙戦艦に改造して配備するのだろう。

 

アンゴルモア艦隊の戦艦3隻はエアロック用も含めた3枚の防御扉を通過し、メンテナンススペースに入港した。

同時に防御扉が閉まってメンテナンススペースに空気が満たされた。

メンテナンススペースの端から透明なチューブ型タラップがアンゴルモア艦隊の戦艦乗降口に接続されると、アレクセイエフや乗組員は必要な消毒検査をセンサーで受け、護身用の銃所持を認められ基地内に案内された。

 

ダイモス宇宙基地の通路は広く、金属製で光沢があり、うっすらと光っているので通路にはめ込まれた電灯と併せればかなり明るい。

更に通路は自動式でヒトが歩く速度で左右別々に稼働しており、無重力空間で足を落ち着けて移動する有用な手段となっていた。

基地の食堂に着くと、交渉にあたるアレクセイエフと副官の二人以外はその場で休憩と食事が提供され、アレクセイエフ達は更に基地の奥深くに向かった。

 

やがて基地司令官室に案内されると、中では宇宙基地司令官の名取艦長(大佐)とJAXAの天草が待っていた。

名取と天草はアレクセイエフと副官に自分達は日本政府の全権を委任されている事を伝え、休戦交渉を行いたいと告げた。

 

「私はアース・ガルディア宇宙艦隊司令官のアレクセイエフだ。まず最初に丁重に我々を迎えて頂き感謝する」

アレクセイエフが言った。

 

「その上で、私は()えて言わなければならない。我が宇宙国家アース・ガルディアは火星に奪われた日本を解放する使命を持って火星に来た。日本政府が我々の主張に同意する事を希望し、火星上の同志政府からの要求を受け入れて頂きたい」

アレクセイエフが毅然(きぜん)とした態度で名取に言った。

 

「我が国が不本意ながら火星に転移した事実は認めます。しかし、我が国は『誰にも』奪われておりません。過酷な環境の下、1億1000万の国民は懸命(けんめい)に、新しい環境で日々を有意義(ゆういぎ)に過ごしております。ですからご心配なく」

JAXAの天草が答えた。一応、文民統制(シビリアンコントロール)の形で、軍人が直接政治的交渉に臨むのを防ぐ狙いがある。

 

「あなた方は不当にも異星文明の干渉(かんしょう)を受け、火星上で多くの犠牲者が出ていると聞いておりますぞ」

アレクセイエフが反論した。

 

「それは全くの事実無根(じじつむこん)です。日本政府は火星の原住民マルス人と友好関係を結んでおります。

火星上の犠牲者ですが、転移直後に宇宙放射線被曝患者が発生しましたが、マルス人からの医療技術提供により快方に向かっております。また、火星大地に進出した際には火星の『野生生物』から襲撃されましたが、こちらも対抗手段を確立し、現在は問題ありません。

不当な干渉はむしろ、我が国にロシア(あなたがた)と中国が行った核攻撃であり、その影響で我々が転移してしまったのです。この事についてアース・ガルディアはどの様な釈明(しゃくめい)をするのです?」

天草が反論した。

 

「宇宙国家アース・ガルディアは地球上のあらゆる国家とは一切の関係を持っておりません。我々は宇宙からの脅威に対して地球を守る為の国家ですから」

アレクセイエフが責任を否定した。

 

「我が国も『かつて』地球上の一国家でした。今は火星の一国家として異星文明と友好的な日々を過ごしており、脅威等一切ありません。余計なお節介(せっかい)と言うものです。むしろ、貴国及び火星上の同調者が我が国の脅威です」

天草がアース・ガルディアの主張を否定した。

 

「ふむ。これ以上は不毛な議論になりそうだ。この内容は本国の総代表に報告しよう。それと報告にあたり、実際に日本列島がどの様な現状か、異星文明とどの様な友好関係を築いているのかこの目で見てみたいのだが」

アレクセイエフが火星上の視察を要請した。

 

「貴国艦隊がこれ以上の敵対行動を止め、火星上の同志を撤退させるならば考えましょう」

天草が条件を出した。

 

「貴国の要求はわかった。こちらも1度本国に連絡と火星上の同志に戦闘行為の中止を命令するために少し時間を頂きたい」

 

「わかりました。では3時間後にまた此処(ここ)でお会いしましょう。それまでは食堂で休まれるもよし、船に戻るもよしとしましょう。くれぐれも基地内での不穏な行動は控えて頂きたい」

天草はそう言うと司令官室の外で警備していた自衛隊員にアレクセイエフ達を食堂に案内させるように命じた。

 

アレクセイエフ達が司令官室を出ていくと、名取と天草は司令官室のモニターに、

「交渉の第一段階が終了しました」

と報告した。モニターがチカッと光ると、

「こちらも音声のみだが全て聴かせてもらった。天草理事長、名取大佐、ご苦労さまでした」

モニターから澁澤首相が二人を(ねぎら)った。

 

「やはり、美衣子さんの言った通りの連中ですね。地球の指導者気取りには(あき)れましたが」

天草が言った。

 

「司令官の火星視察はどうされますか?」

名取大佐が澁澤に判断を求めた。

 

「それについてはこちらも考えがあります。間もなく火星軌道上にマルスアカデミーの迎えの船が到着します。彼らに便乗させて火星に降りてもらいましょう」

岩崎官房長官がニヤリと笑いながら言った。

 

基地の食堂では、日本で放送中のテレビ番組が自由に視れたので、ガルディアの軍人達は色々なチャンネルを次々と試していた。

中でも衝撃的だったのは、マルス人の番組でトカゲ姉妹のトークとトカゲが電車で一人旅をする番組だった。

 

トカゲ姉妹が屈託なくゲストの日本人をいじり倒す毒舌番組だが、ブラックユーモア好みのロシア人には受けたようだった。

 

【火星アルテミュア大陸 人類都市ボレアリフシティ 極東ロシア連邦軍基地司令部】

 

「何故です?我々は圧倒的な勝利をこの都市でおさめましたぞ!」

陸軍司令官がアレクセイエフ艦隊司令に反駁(はんばく)する。

 

「同志陸軍司令官殿。我が艦隊は宇宙空間で日本自衛隊の圧倒的戦力に負けたのだ。彼らは貴国の軍より(はる)かに強力だ。こちらは修理や補給をするのにも事欠いている実情なのだ。一時的で構わないのから占領した区域から基地に戻ってもらえぬだろうか」

アレクセイエフが苦心して説得した。

 

「それならばこの都市を人質にすれば良いではありませんか 」

いかにも旧ソ連軍時代らしい主張をする陸軍司令官にアレクセイエフは、

 

「日本政府はそちらにほとんど自国民を置いていないはずだ。彼らは躊躇(ちゅうちょ)せずに衛星軌道上からボレアリフを攻撃するでしょう」

アレクセイエフの指摘に陸軍司令官は押し黙った。

 

1時間後、ボレアリフシティ中央部、連合軍司令部から米露部隊は駐留基地に帰還した。

 

3時間後、アレクセイエフは日本政府の主張を受け入れ、極東米露都市で共に敵対行動を停止した。地上降下部隊はシャトルが全機撃墜されたため、火星に留め置かれる事となった。

 

更に1時間後、全長1kmはある巨大なマルスアカデミー救難艦がダイモス基地に寄港し、驚いているアレクセイエフを乗せて火星シドニア地区に降下した。

降下中の艦内でアレクセイエフは初めてマルス人のリア艦長と面会し、またしても驚愕(きょうがく)しつつ、礼儀正しく挨拶した。

この段階でアレクセイエフはほとんど毒気(どくけ)を抜かれていた。

 

シドニア地区の旧マルスアカデミー本部でアマトハはリア艦長や救難艦クルーと面会し、イワフネや尖山基地のマルス人達も久しぶりの母星からの同類訪問に歓喜した。

 

アレクセイエフは、同行した名取大佐と共にイワフネが操縦するアダムスキー型シャトル(アレクセイエフから見ると空飛ぶ円盤そのものだが)で東京の首相官邸に向かい、澁澤首相との会談に臨んだ。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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