転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・ミーコ(美衣子)=惑星生態系維持管理自律進化型人工知能。
・イワフネ=マルス人。ルンナが彗星の影響で破損した為に地球に降下した。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・ロイド提督=英国連邦極東軍司令官。中将。
・ジョーンズ=極東アメリカ合衆国海兵隊指揮官。少将。
・ダグラス・マッカーサー三世=極東アメリカ合衆国中央情報局長官。
・ミッチェル=極東アメリカ合衆国大統領。
・パノフ=極東ロシア連邦大統領。
・イゴール=宇宙国家アース・ガルディア 総代表。
・アレクセイエフ=宇宙国家アース・ガルディア火星派遣艦隊司令。
・ソーンダイク=宇宙国家アース・ガルディア内政局局長。


休戦交渉

地球暦2020年10月2日午前10時【東京都千代田区永田町 首相官邸 会議室】

 

「我々日本国政府及び英国連邦極東、ユーロピア国、台湾自治区は、アース・ガルディア国の火星からの退去を求める」

澁澤首相が通告した。

 

「退去がなされない場合、我々は地球衛星軌道にある月を地球圏から離脱させる用意がある」

といきなり切り札を提示した。

 

「そのような事が出来るものか。月は確かにマルス文明の置き土産らしいが損傷して機能停止していると報告を受けている。」

ポーカーフェイスのアレクセイエフ司令官が言った。

 

「司令官殿、貴殿は勘違いしています。我々はマルス文明の段階的技術承継を経て、月面への到達手段を確立し、施設の補修要員も既に派遣しています。何なら月の裏側からシベリア辺りに電磁カタパルトから水でも入れたカプセルを落としましょうか?火山の沈静化に役立つかはわかりませんがね」

 

「それでもかつてあなた方が我が国にICBM(核ミサイル)を150発撃ち込むよりは手緩(手ぬる)いと思いますが」

岩崎官房長官が遠回(とおまわ)しに、地球圏への攻撃が可能な事を伝えた。

 

アレクセイエフが歯噛(はが)みした。

 

澁澤首相は別の提案も行った。

「我々は、地球に取り残された我が国及び欧州友好諸国の生存者を救出し、月面基地に一時収容した後、我が国に帰還させる作戦も進めています。

これは、アース・ガルディアへの敵対有無に関わらず進行させて頂きます。

こちらが救出した避難民に貴国の登録国民が居たならば、そちらのコア・サテライトに送り届けましょう。

貴国が手一杯ならば、日本政府としては、火星の人類都市ボレアリフ郊外に開拓地キャンプを設け、

数万人規模の避難民を受け入れる事も可能です」

 

「地上生存者本人が拒否しない限り、如何(いか)なる政治信念が有ろうとも我が国は救出します。

貴国はどのような対応を取るか後ほど連絡を頂きたい」

澁澤首相が伝えた。

 

この件についてはアレクセイエフ自身は特に反対するつもりは無かった。地球か火星か選ぶだけなのだから。

また、軌道上コロニーの定員がほぼ満員であり、この点が解決出来れば火星に敵対姿勢で(のぞ)むことは無いだろう。

これは、総代表の判断事項だなとアレクセイエフは思った。

 

「その提案は少なくとも私には魅力的に映る。ただ、総代表の判断事項になるので少し時間を頂きたい。

我々は何もこれ以上人類を減らす必要も無いだろうと思っている」

とアレクセイエフ司令官が言った。

 

「分かりました。貴国の賢明な判断に期待します。貴国が日本政府の要求を受け入れて頂けるならば、貴国艦隊の修理と補給をダイモス基地で行う用意があります。必要な資財があれば、手配します」

澁澤が言った。

 

再びイワフネが操縦するアダムスキー型シャトルで宇宙戦艦『ムルマンスク』に戻ると、アレクセイエフ司令官は、イゴールへの報告を行う為自室に入った。

 

【アース・ガルディア コア・サテライト】

「そうか、火星の日本政府は手強(てごわ)いな」

イゴール総代表が困難な交渉をしているアレクセイエフの苦境を察して言った。

 

「彼らの兵器は我々の技術レベルを(はる)かに超えています。また、日本政府自体も火星の過酷な環境で国力が(きた)えられているようでかなり強気です」

アレクセイエフが報告した。

 

「総代表。我々は火星に日本と同志達が築いた都市を占領しています。交渉で火星都市の一部区画を我々の避難民収容先として確保することで、今回は(ほこ)(おさ)えられればと愚考(ぐこう)します」

アレクセイエフが新たな提案を総代表に具申(ぐしん)した。

 

「火星遠征した割りには合わんぞ」

イゴールは不満げな表情だ。

 

「火星の極東ロシアとアメリカは火星文明技術を承継しつつあり、我々がいずれその技術を取得して対抗できたときに再度日本政府に(いど)むべきでは?」

 

「火星文明の技術か」

イゴール総代表は少し思案すると、

 

「よろしい。その方向で交渉を頼む。出来れば火星文明技術の一部でも持ち帰ってくれれば有り難い」

アレクセイエフの提案を承認した。

 

【極東アメリカ合衆国 嘉手納基地】

火星衛星軌道上の母艦に戻る(すべ)を失った嘉手納のガルディア降下部隊員の身柄は海兵隊で預かることとなり、辺野古(へのこ)基地に彼らは移された。

 

辺野古基地で形式的に海兵隊司令官のジョーンズ少将の検閲(けんえつ)を受けた際、一人の兵士が少将に握手を求め、ジョーンズ少将が握手に応じると兵士が何かの巻き紙をジョーンズ少将の手の中に押し付けてきた。

慌てたジョーンズ少将はその兵士を問いただそうとしたが、既に部隊列に戻っており誰か判別はつかなかった。

 

自室に戻ったジョーンズ少将が小さな巻き紙を広げると、

『アース・ガルディアのアメリカ人達より、日本政府と独自の対話を秘かに望む。通信チャンネルは*§☆#∞』

と連絡先が記されていた。

 

恐らく、あの宇宙国家はロシア人が幅を効かせているが、対抗派閥(たいこうはばつ)が少なからずあると言うことか。

アメリカ合衆国の生き残りが多数居ることにジョーンズ少将は少しだけ安堵(あんど)した。

 

さて、このメッセージを誰に渡せば良いか?

恐らく、CIAに悟られないようにするには軍ルートでは難しく、那覇政府にコネはない。火星研究機構からも除名されているので使えない。

ジョーンズは考えた末、とある人物に会うことを決意した。

 

午後6時【神奈川県横浜市 NEWイワフネハウス】

 

「あなた、ジョーンズさんという方が会いたいと玄関にいらしているわ」

ひかりが大月に言った。

 

「お父さんを火星に連れ込んだ司令官よ」

ダイモス基地から帰ってきた美衣子がひかりに言った。

ひかりは無表情になると、

「あなた、台所からお塩持ってきて頂戴(ちょうだい)!。追い払うわよ!」

 

「いやいやダメだって!向こうも会いたくないのに来てるんだから、理由があるはずだよ」

大月がひかりを(なだ)めて言った。

 

「美衣子。ジョーンズさんをリビングに案内しなさい」

大月は気が進まないがジョーンズ少将と会うことにした。

 

リビングで対面した大月にジョーンズは、

「あの時は申し訳無かった」

と開口一番で頭を下げた。

 

「少将閣下。頭を上げてください。私ももっと事前の情報をよく考えてお伝えすべきだったと後悔(こうかい)しているのです」

大月があの時の懺悔(ざんげ)を口にした。

 

「失礼ながら閣下(かっか)降格(こうかく)されても尚、上陸作戦の副官として再びチャレンジされ、成功しています。あの成功が無ければ皆さんの生活はアメリカ人にとってもっと希望のないものになっていたと思います。だからお互いこの話はやめにしましょう」

 

大月が続けて

「しかし、今日はどうされたのですか?しかもこのご時世(じせい)に」

ジョーンズの意図(いと)

を訊いた。

 

「これだ」

ジョーンズ少将が大月に小さな巻き紙のようなメモを手渡した。

 

辺野古(へのこ)でガルディア兵士から預かったものだ。私が那覇(なは)に報告出来んものだ」

 

中身を読んだ大月は、

「そうですね。私から内閣官房に直接渡します。進展が有れば、貴方を火星研究機構にスカウトするかも知れません。海兵隊から少し離れるかも知れませんが大丈夫ですか?」

とある程度の予測される未来を告げて確認する。

 

「構わんよ。宇宙国家とやらに迎合(げいごう)する今の那覇DCは狂っている。離れるには良いタイミングだ」

ジョーンズがきっぱりと言った。

 

10月2日午前9時【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣官房執務室】

 

「これですか?」

岩崎官房長官が大月に訊いた。

 

「はい。ジョーンズ少将はガルディア兵士から直接手渡された様です」

「この内容だと宇宙艦隊を派遣した政府組織とは別のグループが有ることになりますね」

 

「ロイド提督のお知恵を借りてみては如何でしょうか?」

大月が提案した。

 

「事によっては新たな火種(ひだね)になるやも知れません。関係者を増やしてリスク分散すべきではないかと」

 

「ふむ。火星研に連絡をしましょう」

岩崎官房長官が言った。

 

市ケ谷の火星研から呼び出されたロイド提督はジョーンズ少将のメッセージを大月に見せられてこう言った。

「宇宙国家も一枚岩ではないという事ですね」

「連絡を取る事に問題ないでしょう」

 

「通信を多用するとガルディア政府の主流派に感づかれる可能性があります」

岩崎官房長官が懸念を示す。

 

折角(せっかく)のチャンスかもしれんな。欧州救出作戦遂行時に現地で接触してはどうだろう?」

澁澤が言った。

 

「そうですね。現地は混乱していますから出会っても不審に思われる事は無いでしょう」

ロイド提督が同意した。

 

NEWイワフネハウスに帰った大月は美衣子に、

「月面に結が着いたら、アース・ガルディアのアメリカ派閥に連絡をとって地球上で向こうと会うように東山さんに伝えて欲しいな」

とお願いした。

 

美衣子は、

「夕食はひかりのバンバンジーで取引よ」

と了承した。

 

夕食後、美衣子はマルス通信システムでルンナに向かっている結の小型シャトルにメッセージを送信した。

――――――――――――

 

10月3日 岩崎官房長官は極東アメリカ合衆国海兵隊司令官ジョーンズ少将と横須賀のコマンド・ケイプで在日米軍基地の封鎖について協議した。

 

日本政府はジョーンズ少将が在日米軍基地の全指揮権を持って中立の立場を貫くならば、日本政府は特に基地の封鎖を行わないと伝えた。

特に、軍人と軍属の行動の自由も認める内容であり、自衛隊との共同訓練は部隊単位ならば可能との判断を示した。

 

ジョーンズ少将は指揮権については那覇ペンタゴンが決める事であり、自分ではどうにも対応が難しいと返答した。

 

岩崎官房長官は、アース・ガルディアの講和を主張する米国人派閥とコンタクトが取れたことを伝えた。

「ソーンダイク派閥は現在衛星軌道上の艦隊を派遣する勢力とは違う考えの様ですね」

と岩崎が言った。

 

岩崎官房長官は、妥協案として日本政府と米露を除く極東各国と共同で火星研究機構を拡大し、火星協力機構を設立し、火星協力機構軍として在日米軍を再編成して参加する事を提案してジョーンズ少将の返答を待つこととなった。

――――――――――――

同日夕刻【極東アメリカ合衆国 那覇DC政府庁舎 大統領執務室】

 

「ジョーンズ少将からの報告では、我が軍の在日部隊を火星協力機構と言う極東各国の共同軍に編入してはどうかと、日本政府の提案が有ったようです」

CIAのダグラス・マッカーサー三世がミッチェル大統領に報告した。

 

「マッカーサー。まだ彼を罷免(ひめん)しなかったのかね?」

ミッチェルが訊く。

 

「たとえ中立と言えども日本列島への牽制には在日米軍部隊の存在が必要不可欠です。ジョーンズ少将は叩き上げのプロ軍人です。政治的野心は無いがゆえに将兵の信望も厚く、少将の罷免は軍内部の混乱を招きかねません」

マッカーサー三世が答えた。

 

「そうか。しかし、動かせない軍など張り子の虎と変わらんぞ」

ミッチェルが不満を漏らす。

 

「アース・ガルディアの強硬派が殆どロシア熊の手先でしかも、穏健派の主流がステイツ出身者とは完全に予想外だったな。これでは我が国主導の日本政府転覆計画等無理だ。本気で日米戦争に挑むしか無いぞ」

 

「戦力的には圧倒する筈でしたが、日本政府は予想外のかくし球を持っていましたね。マルス文明との交流が非常に上手くいっているのでしょう」

 

「イゴールの誘いに乗ったのは失策だったか」

ミッチェル大統領が呟いた。

 

極東アメリカ合衆国政府は、人類都市ボレアリフをガルディア軍と共に占領した段階で引き返しがつかなくなっていた。

そして、その状況は極東ロシア連邦も同様であった。

 

「この期に及んでもはや日本政府に降るのは不可能だ。衛星軌道上の同志に我々は殲滅させられてしまう」

 

パノフ大統領は悲壮な覚悟を決めていた。

「那覇のミッチェル大統領とホットラインで協議する。我々は火星大陸に本拠を移すしかない」

 

地球暦2020年10月4日、極東米露はアルテミュア大陸の人類都市ボレアリフを両国の首都と定め、政府機関、軍司令部の移転を発表した。

 

在日米軍基地の駐留部隊もアルテミュア大陸への移動命令が出されたが、応じた部隊は僅かだった。

 

――――――

地球暦2020年10月5日、再び東京で澁澤首相とアレクセイエフ司令官は休戦交渉を行い、アース・ガルディア避難民の収用先として人類都市ボレアリフの統治を極東米露と3ヵ国で行い、日本政府とその他の極東各国は日本列島に引き上げる事で合意した。

 

極東米露はアレクセイエフを通じて日本列島との貿易を望んだが、澁澤は断った。

極東米露はアルテミュア大陸で自給自足の国家運営を行う事になった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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