転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島物育生態環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・イワフネ=マルス人15000年前、月(観測ラボ『ルンナ』)が彗星により損傷した時、自動的に地球に降ろされた。
・アマトハ=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長
・ゼイエス=マルス人。アカデミー特殊宇宙生物理学研究所技術担当。
澁澤(しぶさわ)太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
東山(ひがしやま)=内閣官房首相補佐官。西野の大学同期。
・ソーンダイク=宇宙国家アース・ガルディア、英語圏代表代議員。


ヨーロッパ救出作戦/ 帰還

地球暦2020年10月10日【地球衛星軌道上 マルスアカデミー地球調査ラボ『ルンナ』】

約10日をかけて火星からルンナ表面に到着した結達は、最初にルンナのメインサーバールームを探し始めた。

 

ルンナ表面は岩石とクレーターの痘痕(あばた)だらけの荒涼とした月面だが、(むすび)シャトルナビゲーター(航法装置)だった頃の記憶を辿(たど)ると、とあるクレーターのひび割れた底にラボ施設が()き出しになっている箇所(かしょ)を見つけた。

 

結と半冷凍睡眠から醒めた東山や英国・ユーロピア特殊部隊員は、ウェットスーツに似た軽い『宇宙服』を着用するとシャトルを出てクレーターの底に向かった。

 

『ルンナ』ラボの中は暗いが構造的にはダイモス宇宙基地に類似している様だった。

もっとも、ダイモス宇宙基地の原型がルンナラボから来ているので当然なのだが。

 

ラボの端末からメインサーバールームにアクセスした結は、自分の尖山基地時代の要領でラボ機能を復旧させていった。

 

――――――――――――

 

地球暦2020年10月15日【欧州各地の主要都市又は主要軍事施設周辺地域】

 

北半球一帯に降り注ぐ火山灰にまみれながら寒さに震える人々は、その通信(呼び掛け)を聴いて一瞬自分の耳を疑った。

 

「私達は火星に転移した日本在留イギリス及びEUの臨時政府です」

 

「現在、私達は日本政府及び火星文明支援のもと、火星から宇宙船を派遣してヨーロッパ各地に在留されている日本人と、救出を希望する各国の方々を収容する準備をしています」

 

「この通信を聴いた方々で火星の日本列島に在る、私達コミュニティに帰属される事を希望する方は、この通信周波数で返答してください」

 

「救出を希望される方々はこちらが指定する場所に何とか辿(たど)り着いてください。困難な状況でしょうが、その場所へは2日後に必ず救出用宇宙船が到着して集まった全員を救出します。それまでは、(まと)まって指定場所近くの平らな土地で待機してください」

 

「尚、私達は宇宙国家アース・ガルディアとの連携は一切していません」

 

「生き残った皆様に神のご加護を」

そう言って通信は終わった。

 

この日、同じ内容の通信が欧州特定地域へ3時間 (ごと)に発信された。

 

この通信を聴いた生き残りのNATO軍関係者と一部政府組織が呼び掛けに呼応して避難民の取りまとめを行い、次々と返答した。

 

――――――――――

地球暦2020年10月17日午前8時【スカンジナビア半島 スウェーデン ストックホルム郊外】

 

事前の連絡通りの時間に、雪雲と火山灰に覆われた暗い空を突き破るように現れた直径500mは有る巨大な二等辺三角形をした宇宙船が現れると、フィヨルド大地の難民キャンプに集まった避難民は巨大な宇宙船に息を呑んだ後に歓声を上げた。

 

彼らは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの生き残り数万人であった。

 

自衛隊とユーロピア・英国極東特殊部隊員が、避難民の誘導を行い、アース・ガルディア登録国民も含めて地球に残る者が居ないか確認を取り、希望者のみ宇宙船でルンナラボへピストン輸送で送られた。

 

ルンナラボの仮居住区に着いた避難民達は、火星との通信でユーロピア国ジャンヌ首相から火星の日本列島について説明を受けた。

全員が火星ユーロピア国への帰属を希望した。

その中には昔、傷心だった幼いひかりを暖かく迎え入れて育てた老夫婦も居た。

 

地球暦2020年10月17日午前7時【イギリス グラスゴー近郊】

この地域に行った指向性通信に応えたのはイギリス軍生き残りが保護していた避難民数万人だった。

ルンナラボから複数の大型上陸用シャトルが向かい、搭乗していた自衛隊と英国極東軍特殊部隊が火山灰と煤(すす)にまみれた避難民を誘導し、ピストン輸送で希望者全員をルンナラボに収容した。

 

ルンナラボに到着した避難民は、惑星間通信で英国連邦極東のケビン首相と話し、火星の英国連邦極東にこれから移動する説明を受けた。

全員が火星の英国連邦極東行きに同意した。

 

同時刻【フランス 東アルプス山脈麓】

ユーロピア国ジャンヌ首相の要請でこの地域に呼び掛けを行った結果、フランス軍の生き残りやフランス、スイス、ドイツ等近隣諸国からの避難希望者が数万人集まった。

 

ユーロピア特殊部隊と自衛隊特殊部隊が彼らの中で、アース・ガルディア登録国民と住み慣れた故郷に居残る事を決めた人々を除いた避難希望者を、スカンジナビア方面救出用の大型シャトルがピストン輸送の途中に立ち寄って全員を収容した。

 

――――――

避難民の収容中に、東山はアース・ガルディア米派閥のソーンダイクとひ密かにシャトル内部で面会していた。

「アース・ガルディアのスペースコロニー環境は現在大変に劣悪です」

疲れきった顔で民政局代議員でもあるソーンダイクは東山に実情を伝えた。

 

「衛星軌道上のコロニーには避難民の収容限度3000人に対し、現在5000人近くが文字通りに詰め込まれています」

「少ない水と食糧で、コロニーの治安も悪化しています。暴動の有ったコロニーは総代表によって宇宙空間で分解されています」

 

東山は想像を絶する状況に絶句した。

 

「我々アース・ガルディアは火星の占領よりも、地球圏での安全地帯を拡げる事が急務なのです」

ソーンダイクが言った。

 

「貴国が使用しているシャトルの1機でも、避難民の収容に使えないだろうか?」

ソーンダイクが懇願(こんがん)した。

 

東山は、

「シャトルは全て火星に向かうために必要です」

と答えつつ、この会話を聴いている『結』に代案を相談していた。

結から回答が有った。

 

「もし、ソーンダイク代議員が日本政府に協力して頂けるなら、月面基地に仮設居住区を設けてそちらにあなた方の仲間を収容されてはいかがでしょう?"たった"5000人程度ですが」

東山がソーンダイクに提案した。

 

ソーンダイクは協力を確約し、情報提供を約束した。

――――――

 

ルンナラボの仮居住区でようやく落ち着いた欧州各地の避難民達は、火星から呼び掛けを行った英国連邦極東やユーロピア国を頼って、全員が火星行きを希望して半冷凍睡眠カプセルに入った。

 

こうして、ルンナラボとシャトルを活用した欧州避難民救出作戦で救出された日本人を除く人々の大半は主に英国連邦極東、ユーロピア国に帰属する事になり、火星に到着した避難民は10万人を超えた。

 

また、()えて地上に踏みとどまった避難民には可能な限りの物資とルンナラボ経由の通信設備を供与した。

 

全ての避難民が火星に到着した数ヵ月後、英国連邦極東ケビン首相とユーロピア共和国ジャンヌ首相が、NEWイワフネハウスを訪問し、アマトハ、ゼイエス、イワフネ、瑠奈、結と美衣子に心からの感謝をした。

結と美衣子は両国への招待を受けたが、

「大月とひかりの新婚旅行のついでに寄る」

と言われて、両首脳は苦笑した。

両首脳は大月とひかりも招待した。

大月とひかりは赤面して何も言えなかった。

 

――――――――――――

地球歴2020年10月27日午前7時【NEW イワフネハウス】

 

「お父さん、お母さんただいまよ」

美衣子と結は、二人よりも小柄なヒト型クローン少女を(あいだ)にはさんで手を(つな)いで帰宅した。

 

ヒト型クローン少女は、ルンナラボのメインシステムが結によって"転移させられた"『妹』である。

地球生物保管倉庫に遺伝子収集用の幼い(めす)個体を、結がルンナラボ補修時に発見していたのである。

 

「お父さん、お母さん初めまして。瑠奈(るな)と申しますです」

クローン少女がペコリとお辞儀をした。

 

「よろしく、瑠奈。お帰り、美衣子に結。無事で何よりだよ」

大月は笑顔で3人を迎えた。

 

その日は帰還パーティーがダイニングで開かれて、NEWイワフネハウスの全員と救難艦のリア艦長も招いてささやかながら、賑やかに開かれた。

リア艦長が火星料理に驚嘆して涙を流しながらカエルの唐揚げを頬張る一幕もあった。

もちろん、少量ながら救難艦乗組員に火星料理の差し入れを後日行い、大いに喜ばれた。

 

――――――――――――

日本政府と休戦合意したアース・ガルディア艦隊はダイモス宇宙基地での補修を終えて地球に帰還し、日本政府と訣別(けつべつ)したアース・ガルディア派閥の極東米露軍がアルテミュア大陸に移動した事で、両者の軍事衝突の危機はしばらく遠のいた。

2年後の地球との再接近時に再び戦火が上がるのは確実だが。

 

――――――――――――

地球暦2020年10月28日午後1時【シドニア地区ナザレ 旧マルスアカデミー 宇宙港】

小山の様に巨大なオウムアムル型救難艦の前で地球人とマルス人の小集団が別れを惜しんでいた。

 

「大月さん、ひかりさん、澁澤首相、岩崎さん、みなさんお世話になりました」

ゼイエスが挨拶した。

 

「ゼイエスさん、お元気で。」

「マスター。無茶な研究は控えてくださいね」

「姉さんマスター、アマトハと仲良くすることです」

ひかりや美衣子、結が別れの言葉を送っていた。

 

「澁澤首相、日本と友好国の皆さんによろしくお伝えください」

アマトハが澁澤とがっちり握手した。

 

「イワフネ。長命種とはいえ、身体に気を付けろよ。あまり『さらりーまん』し過ぎるなよ」

ゼイエスがイワフネに言うとイワフネは苦笑した。

 

「そろそろ出発の時間です」

リア艦長がアマトハとゼイエスに告げた。

 

「ミーコ。ちょっとこっちに来なさい」

ゼイエスが美衣子を呼ぶと、美衣子がとてとてと歩いて来た。

 

「いざというときは、この座標も使いなさい」

ゼイエスは美衣子と握手しながら思念でプレアデスコロニーの一角に在る『地球型惑星』座標を伝えた。

""今はまだ誰にも言わないように""と注意しながら。

 

やがてアマトハとゼイエス、ユダやモウゼ達尖山基地隊員が救難艦に乗り込むと、巨大な小山が(かす)かな駆動音と共にふわりとシドニア宇宙港から浮き上がり、そのまま遥か上空まで上昇した。

 

巨大な小山が小さな粒くらいになると不意にその粒は光の尾を引いて宇宙(そら)の彼方に消えていった。

 

「行ってしまったな」

澁澤が感慨深く言った。

「ええ。ですが人類に初めて他の星の友人が出来た瞬間でもありますね」

岩崎が応えた。

 

大月とひかりは手を繋いで、美衣子と結は二人にそれぞれ肩車され、瑠奈(るな)もイワフネ『叔父さん』(美衣子命名)に肩車されながらいつまでもプレアデス救難艦が去っていった宇宙(そら)を見上げていた。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
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