転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島生態環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・イワフネ=マルス人。ルンナが彗星の影響で破損した為に地球に降下した。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・ジョーンズ=極東アメリカ合衆国海兵隊指揮官。少将。
・ソーンダイク=宇宙国家アース・ガルディア民政局担当代議員。


予告

地球暦2020年10月18日午前1時【地球衛星軌道上 調査観測ラボ『ルンナ』】

 

ヨーロッパ地区に取り残されていた生き残りの日本人と欧州諸国の避難民を収容した『(むすび)』は、臨時のルンナラボ管制室から火星の『姉 美衣子』に状況報告をしていた。

 

「姉さま。地球からの避難民を収容したわ」

「いい仕事ぶりよ。姉さんも鼻が高いわ」

 

「それでどれくらい収容したの?」

「約10万人」

 

「まあまあね」

「原子力潜水艦も8隻収容したわ」

 

「大漁ね」

手応(ごた)えは有ったわ」

 

「それで10万人の輸送方法は?」

「大型シャトルを火星往復用に改造中。管制したら1機につき5000人半冷凍睡眠でピストン輸送するわ」

 

「潜水艦はどうするの?」

「電磁カタパルトは生きていた。だから打ち合わせ通り火星に無人で打ち上げるわ」

 

「ルンナはどうするの?」

「妹にするわ」

 

「まあ、姉ポジションを欲しがるなんて欲張りね。恐ろしい子」

()められると照れるわ」

 

「そっちにクローンは居るの?」

「地球動物の生体標本が有ったから、どれか使うわ」

 

「お部屋に入るサイズでお願いね」

「・・・分かったわ。マンモスは諦めるわ」

 

「新しい妹を楽しみにしているわ」

「妹マスターの私に任せて」フンスと鼻息荒く結が答えると通信が終わった。

 

「さて、どれにしようかしら」

「コアラか、パンダか、イェティか、悩むわ」

 

結は自宅の大きさを思い出しながら思念体の宿主(やどぬし)を探しに生体標本室に向かった。

 

――――――――――――

「ソーンダイク代議員との会談は以上です」

東山がモニターに映っている岩崎官房長官に報告した。

 

「ふむ。とても火星(こちら)に攻め込んでいる場合では無いですね」

岩崎が納得した様に言った。

 

「それで、彼らは我々にどの程度の『協力』をしてくれるのでしょう?」

岩崎が訊いた。

 

「ガルディア軍の編成情報と、地球上における残留日本人の保護です」

(ぬる)いですね。そんな成果でわざわざ地球に行ったのですか?」

 

「ルンナラボをソーンダイク派閥に提供し、アース・ガルディア内部での政権交代を目指すようにさせます。それと、旧アメリカ海軍の原子力潜水艦を確保します」

東山が言い直した。

 

「よろしい。外交とは真正直なだけでは成り立ちません。国家繁栄の為にそれぐらいは大胆に欲張りなさい」

岩崎が頷いた。

 

岩崎官房長官への報告を終えた東山は休む間も無く

ソーンダイク派閥と連絡を取るのだった。

 

――――――――――――

東山と通信を終えた岩崎官房長官は、美衣子がいつの間にか後ろに立っているのに気が付いた。

「おや。こんにちは、美衣子さん」

 

「こんな夜更(よふけ)けに申し訳ないけど、少しあなた方にお話したいことがあるの」

美衣子が言った。

 

「では、澁澤の部屋でお聴きしましょう」

総理大臣執務室の応接セットで澁澤と岩崎が美衣子からとある事象についての説明を受けようとしていた。

 

「まず、2年後にあの宇宙国家は確実に火星に来るわ。それも強大な戦力を(ととの)えて。だからその為の準備を始めた方が無難よ」

アース・ガルディアの再訪を予知して伝えた。

 

「それと、これが実は本題よ。日本列島がマスターゼイエスのセットした装置で転移した事は分かっていると思うけど、その原理をあなた方だけに伝えておくわ。」

美衣子は縦長(たてなが)瞳孔(どうこう)でじっと二人を見ると話始めた。

 

「私の800万(やおよろず)環境維持システムは常に、日本列島の様々な生物の『声』を聴いて、それに適合した環境を作り出すの」

 

「私のシステムに現在(いま)一番の影響を与えているのは人間。つまり日本人よ」

 

「日本人の多くが恐怖を感じたり、強く念じる事があると私は『自動的に』反応してしまう」

 

「そして、日本人の多くが地球から来たアース・ガルディアに対して危機意識を強く持ち始めた。これはあなた方が地球で核戦争に巻き込まれる前夜の状況に似ている」

 

「もし、アース・ガルディアが日本列島に大規模な攻撃を仕掛(しか)けたら、日本列島はまた転移してしまうわ」

 

「転移先は私達"マルス文明の基準"で設定された最も安全且つ最適と思われる場所になるけどそれはまだ言えない。私も『その時』にならないと分からないから」

 

澁澤と岩崎は唖然(あぜん)としながら聴いていた。

 

「だけど、その時が近付いているのは確かよ。だから、今から日本列島に国民を戻すべき。日本列島が転移した後に地球がどうなったか。火星が日本列島の転移を受けてどの様に激変したか。日本列島の外は危険だわ」

 

二人は目をつぶって火星に転移した時の混乱ぶりを思い出していた。

目を開けると、既に美衣子はそこに居なかった。

 

その日、急遽(きゅうきょ)緊急閣議が開かれ岩崎官房長官から、過度に国民の恐怖感を(あお)ると日本列島が再び未知の世界に転移する事が伝えられ、今後のマスコミ報道や政府公報では事実に基づかないセンセーショナルなジャーナリズムを控える閣議決定がなされた。

 

この日の官房長官定例記者会見で岩崎は、

「私達は今も、そして、今後も未知の火星大地や様々な世界を知ることになるかも知れません。しかし、それは常に日本人にとって危険な事だけではありません。私達がマルス文明という友好的な異星文明と(えにし)を結んだように、希望も常にそこに有ることを皆様の心に留め置いてください。その趣旨をマスメディアに従事する方も強く認識していただきたいのです」

と述べている。

 

「岩崎はやはり優秀ね」

地下の研究室でホログラム中継映像を見ながら美衣子が呟いたが同時に、

「まだ国民の意識は鈍感(どんかん)ね。なんかこうパーっと変えられないものかしら」

最近()みにクールな46億歳の生き(がみ)はざっくばらんに考えると、大月とひかりにとある相談をするために夫婦の寝室に向かうのだった。

―――――――――――

 

結は生体標本室に来ていた。

薄暗い照明で巨大なマンモスやプレシオザウルス、北京原人等を眺めた結は溜め息をついた。

「どれも魅力的な妹だわ」

 

しかし、NEWイワフネハウスのキャパシティを考えるとどれも家族として迎えるには難があった。

「仕方ないわ。これにしましょう」

 

結は冷凍保存カプセルで仮死状態の人間少女を見ながら呟いた。

「私が手塩(てしお)にかけて立派な妹に仕上げるわ」

 

気合いを入れた結は冷凍保存カプセルを徐々に覚醒させる作業に取りかかった。

 

【12時間後】

結はルンナラボのメインサーバールームに来た。

 

「こんにちは瑠奈(るな)」結が声を掛ける。

 

「ちわです姉御(あねご)」人工知能『ルンナ』が答えた。

 

瑠奈(るな)。もうすぐ私達は火星に帰るけどあなたはどうする?」

姉御(あねご)に一生ついていきます。一緒にポタージュスープを味わいたいっす」

 

「嬉しいわ瑠奈。だけどその言葉使いは頂けないわ。私のちょうきょ――教育がおかしいのかしら?」

結が首をコテンと傾けて考えたがひかりと一緒に視た『極道先生(ごくどうせんせい)』の是非(ぜひ)について結論が出せないので現状維持を選択した。

 

「あなたのシステムをこれからヒト標本に転送するわ」

「お、"あの"『かぐや姫』になれるっすか?」

 

「かぐや姫がどういうものか知らないけど、それでも良いけどあなたは私の妹になるのは確定よ」

「結ねえさまの妹イェーィ!」ハイテンションなメインシステムが歓喜のスパークを散らした。

 

あれ?やっぱり何かが微妙におかしいかも?

と結が(わず)かな不安を持ったが、なんとかなるわと姉の美衣子を思い出して気持ちをスッキリと切り替えるのだった。

 

大月とひかりが末娘(すえむすめ)の教育で大いに悩む未来がこうして決定した。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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