転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島生態環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能。クローンに移植され、バージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・イワフネ=マルス人。ルンナが彗星の影響で破損した為に地球に降下した
・岩崎(いわさき)=内閣官房長官。


風雲、ムスビ城

火星衛星軌道からガルディア艦隊が撤退し、月面都市を拠点とした北米大陸救出作戦が一定の成果を出しつつある現在、火星日本列島は2年後のアース・ガルディア艦隊来訪に備えねばならなかった。

月面ユニオンシティのソーンダイク派閥との定期通信も始まり、小型無人シャトルを通じたささやかな物資交換や地球復興と月面都市拡充に必要な資材の支援も行われていた。

 

モビルスーツ部隊の増設、火星協力機構宇宙軍の拡充、再転移対策等を考えながら地球復興を模索する2年間になりそうだった。

 

そんな慌ただしい世相の中、美衣子と結と瑠奈の三姉妹は大月家のリビングでハロウィンで使ったカボチャのポタージュを味わっていたが、

「まずいわね」

「美味しいですよ姉さま」

「最高の味ッスよ!」

てんでバラバラの感想を口にしたが、

 

「ポタージュは絶品だけど、人々の不安が消えない」

ポツリと美衣子が呟いた。

 

「むしろ増していますね」

「人間は複雑ッスね!」

結と瑠奈も同意した。

 

「このままでは2年後を待たずして日本列島が転移してしまうわ」

「それはまずいわ」

「最高に不味いッス!」

 

「とりあえず、考えはあるのだけど」

美衣子がとある計画を告げた。

 

地球暦2021年3月【東京都千代田区永田町 首相官邸 内閣官房執務室】

 

美衣子達三姉妹は大月とひかりに付き添われて岩崎と面会していた。

「なるほど、国民感情を和らげたいと」

 

岩崎がふむふむとうなずいた。

「具体的なお話を伺いましょう」

 

「娯楽よ」美衣子が言い放った。

大月はちょっとお腹がいたくなった。

 

「スポーツ、バラエティ、教養よ」

美衣子が説明する。

「私は火星オリンピックのサポートをするわ。商品は金銀銅メダルのほかに、私と結が発明したお宝グッズの数々よ」

 

「私は『風雲ムスビ城』をやるわ。トラップ仕込みの私が作った遊び用のダンジョンを攻略できた人にお宝グッズよ」

結が名乗り出た。

 

「自分は『極せん』でテレビデビューして日本の芸能界を明るくするッス」

瑠奈が一番怪しい計画を宣言した。

 

「わかりました。瑠奈さん以外、採用しましょう。瑠奈さんは、日本人と同じ外見ですからまずは日本社会を学ぶところからですね」

「ガーン」瑠奈が思わずよろめいた。

 

「瑠奈はとりあえず、小学四年生位からスタートさせてください」

大月が岩崎に要請した。

 

こうして美衣子は、極東諸国が参加する火星五輪のメインスポンサーとなり、2021年10月に東京を開催地として行われることとなった。

オリンピック準備のために外務省は極東米露と協議し、参加要請受諾の代わりに極東米露との鉱物資源をはじめとする輸出入が日本列島と再開されることになった。

 

結は、内閣官房広報係に相談して民放とNHKが共同番組で放映することになり、富山県立山市の尖山マルス基地跡を結がダンジョンとして作り替え、公募した一般市民と攻略隊長のイワフネ叔父さんが参加する設定で毎週参加者を(つの)る事となった。

 

瑠奈だけは首相官邸を訪ねた翌日、大月とひかりに笑顔で見送られながら赤いランドセルを背負って(しつけ)に厳しい某私立女子大学付属小学校に入学した。

 

地球暦2021年4月【NHK・民放共同 視聴者参加型番組『風雲ムスビ城』】

 

2年前の初夏に突如発生した謎の竜巻に覆われて以来、殆ど姿を見せなかった立山市郊外にそびえる尖山がその日は穏やかな自然浸食形成された三角形の綺麗(きれい)な山体を(あらわ)していた。

 

その尖山の登山道入口に戦国武将の(よろい)

着込んだイワフネが、5000万人のNHK受信料を支払った応募者から選抜された500人の足軽装束や西洋騎士、迷彩色の近代軍服を着た参加者を前に緊張しながら訓示した。

 

「よくぞ集まってくれた我が精鋭達よ!邪悪なる者が築いた悪夢の砦を今日こそは我らの手で討ち滅ぼさん!」

参加者達が(とき)の声を挙げた。

 

「全軍突撃!」イワフネ隊長が軍配を降り下ろした。

 

「ウオォ‼」

登山道から一斉に500人が突撃して尖山の山頂を目指した。

登山道に足を踏み入れた途端に尖山の風貌がピカッと光ると黄金色のピラミッドに変貌(へんぼう)した。山の中腹辺りには不気味なひとつ目がギョロリと参加者を見下ろした。

 

登山道の地面から突然オイルが噴き出して登山道をヌルヌルにして参加者は次々と足を滑らせて登山道入口まで滑り落ちていった。

 

不気味なひとつ目の上にフワリと『ムスビ』が浮き上がって参加者を見下ろして宣告した。

「このガマの油坂を15分で乗り越えられない者はまた来週よ」

 

200mのガマの油で覆われた山道を参加者は慎重に四つん這いになりながら、時には岩や倒木を利用して滑らない場所から坂の上を目指した。

 

300人が脱落した。

脱落した参加者には富山の薬売り謹製のガマの油が 配布された。

 

油まみれの体で坂の上まで登りきった勇者達の前に中腹の不気味なひとつ目が巨大な池となって行く手を阻んでいた。

だがよく見ると、池の縁から向こう側まで飛び石が幾筋もの経路で配置されていた。

 

池の向こう側には屋外用シャワー施設があり、暖かい湯が油を落としてくれるだろう。

 

シャワー室の前にドラキュラマントを羽織ったムスビがテンション高めに煽った。

「さあ、勇気有るものはこの飛び石を使って池のこちら側に来てみるが良い!」

 

参加者は我先に飛び石に殺到するが、油にまみれた足を飛び石で滑らせてしまい、次々と池に転落していった。

 

転落した参加者は水中ドローンに救助され、

『立山の美味しい水』350mmペットボトルを貰った。

時間制限は無かったが、飛び石の中には踏んだ途端に水没する"ニセ飛び石"が所々に存在しており、後続の挑戦者達は必死で罠場所を覚えて安全なルートを見つけようした。

 

何とか池を渡りきった挑戦者達は温泉シャワーで油を落としてさっぱりとした顔でリフレッシュするのだった。

140人が生き残った。

 

シャワー施設の向こう側には扉が3つあり、扉の向こうには何枚もの板で封鎖された登山道が有った。

「さあ、我が生け(にえ)どもよ。悪魔の扉をくぐると良い!」

 

参加者は右か左か真ん中か選んで扉を開けて飛び込んでいった。

 

《右の扉》

開けた途端に登山道入口に「戻って」しまう結謹製『どこへもドア』であった。

 

《真ん中の扉》

山道を(ふさ)ぐ板に体当たりすると薄いベニヤ板でいとも容易(たやす)く突破でき、次の板に体当たりすると今度は和紙でベリベリと破って最後の板に体当たりすると紙のように薄い鋼板で大抵の参加者は身体を打ち付けて板に跳ね返されてリタイア宣告され、参加賞の和紙20枚を貰った。

 

《左の扉》

山道を塞ぐ板は金色に神々しく輝いていた。それでも体当たりすると金紙であり、あっさりと通過できた。その先には労を労う金の(さかずき)が置かれていた。

この扉を選んだのは38名だった。

 

金の盃を手に取った勇者達は山道の先にある200mある吊り橋に辿(たど)り着いた。

吊り橋の前に立看板があり、『このはしわたるべからず』とマジックで書かれていた。

 

吊り橋の向こう側には、一升瓶(いっしょうびん)を重そうに抱えた結がプルプルと足を震わせながら待ち構えていた。

『さあ、我が美酒を金の盃で飲み干すものこそ最後の戦いに挑めるのだ!』

結は今にも一升瓶を落としそうだった。

 

一休さんの逸話を知る勇者は吊り橋のど真ん中を無難に渡りきり、『お疲れさまでした』と結から一升瓶に入った麦茶を注がれていた。

 

吊り橋の縁の綱を掴んだ者には橋の左右から大小の雪玉が打ち付けられた。

中には直径3m超えの大玉もあり、直撃を受けた参加者は吊り橋から奈落の底に転落していった。

 

奈落の底は天然温泉であり、美しい富山湾が結の演出でホログラムに映し出され、脱落した悔しさを暖かい温泉で(いや)した。

 

勝利の麦茶を口に出来たのは25名だった。

 

最後の試練は、山頂手前で立ちふさがるマリオカートに乗った結達NEWイワフネハウスの面々だった。

 

吊り橋の近くにはいつの間にか人数分のマリオカートとヘルメットが置かれていた。

マリオカートのフロントに30センチの的が付いており、ヘルメットのてっぺんにも10センチの的が付いていた。

挑戦者達に拳銃よりふた廻りほど大きい遊戯用赤外線レーザー銃が渡された。

『さあ、地獄行きのタクシーに乗って挑むがよい!』

バルカンレーザー機関銃を手にした結が宣言した。

 

イワフネハウスの面々は挑戦者達と同じ銃と的を装備していた。

 

挑戦者達のマリオカートが一台でも山頂にたどり着いたらムスビ大魔王の敗けである。

 

今まで難関に居なかったイワフネ隊長はちゃっかりバルカンレーザー銃を手に味方のマリオカートに乗って号令した。

『全車突撃!』

 

尖山の山頂手前でマリオカート同士による決死の攻防戦が繰り広げられた。

 

瑠奈のマリオカートに挑戦者のレーザーが集中砲火を浴びせたが、『走り屋』の瑠奈は巧みなドライビングテクニックでドリフトしながら挑戦者達に肉薄するとレーザー銃で応戦して戦果を挙げていた。

 

一方、意外と美衣子は不器用でマリオカートにも関わらず、いきなりエンストしてリタイアした。

 

大月はそのメタボ体形故に的にされやすく、早い段階で挑戦者のレーザーをフロントの的に受けてリタイアした。

 

結とひかり、岬教授は3人で巧みなチームプレーを披露し、『赤い三連星』の必殺技"ゼットストリームアタック"で挑戦者達のマリオカートを次々と刈りとっていった。

 

最後にイワフネ隊長のカートだけになった段階で挑戦者側の敗北となった。

「勇者達よ!来週も待っているぞ!」

結が視聴者を挑発すると尖山は再び竜巻に覆われて見えなくなった。

 

『風雲ムスビ城』はその年のテレビアクション部門で最優秀作に選ばれる事になる。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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