転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島生態環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能がバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
・岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
・東山(ひがしやま)=内閣官房首相補佐官。西野の大学同期。
・琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)=JAXAマルス文明解析チーム所属。


宴の後始末

地球暦2021年10月25日午前6時【アルテミュア大陸 シドニア地区ナザレ 旧マルスアカデミー地下研究所】

 

英国連邦極東BBCとユーロピア共和国のチャンネル2(ドゥ)の合同取材チームがJAXA琴乃羽(ことのは)の案内で旧マルスアカデミー地下研究所地区を撮影に訪れていた。

同行していた英国連邦極東の特殊部隊の隊長が琴乃羽に声をかけた。

「琴乃羽教授。日本列島から緊急連絡です」

 

琴乃羽が手渡された通信機を取ると通話先は岩崎官房長官であり、先程大月が不審な車に拉致されて"そちらに転送された"ので特殊部隊で救出して欲しいとの内容だった。

 

「隊長。私達で対応出来るのですか?」

「わかりませんミス・コトノハ。しかし、日本首相府の緊急要請ですから事態は深刻と判断します」

「取材チームには話して待機してもらいましょう」

琴乃羽が英ユの取材チームに事態を伝え、撮影中断を詫(わ)びると、取材チームが危険を承知で救出作戦に同行取材したいとの申し出てきた。

琴乃羽が通信機で岩崎に相談すると、自己責任で許可された。

 

取材チームは誰も辞退しなかった。

琴乃羽は薄々気付いていたが、彼らは火星転移前から、諜報機関の世を(しの)ぶ仮の姿でマスコミ関係者となっているのだ。身のこなしも軽い。

こうして特殊部隊に率いられた取材チームと琴乃羽は研究所地区の中央広場に着いた。

 

「ここで待てとの事です」特殊部隊隊長が言った。

 

しばらくすると、中央広場の中心部にある円形の大きな台座が音もなく水色に輝き出した。

琴乃羽達が声も出せずに台座を見ていると、やがて1台の黒いワゴン車が現れた。

 

欧米人が目深(まぶか)に被った帽子で運転席におり、全員が武装していた。

「みんな伏せろ!」特殊部隊隊長が叫んだ。

 

直後にワゴン車から4人の黒いアサルトスーツを着用した完全武装の兵士がM16ライフルを連射しながら飛び出してきた。

 

琴乃羽達は慌てて伏せながらも特殊部隊隊員に引きずられるように中央広場から離れて通路の陰に避難した。

同時に特殊部隊が応戦を始め、激しい銃撃戦となった。

 

激しい銃撃戦のなか、琴乃羽と勇敢にカメラを回す取材チームが通路の床に伏せていると、床が(わず)かに規則的に振動するのが身体に伝わってきた。規則的な振動はだんだん大きくなると100m程通路の奥から隊列を組んだ人影が見えてきた。

 

頭を伏せながらも隊列を見たBBC取材チームの一人が顔面蒼白になって恐怖の叫び声を上げた。

「ジーザス!スカイネットが来た!」

 

行進をする隊列から伝わる振動はザッザッ、ではなくカシャッカシャッと軽快な音に聞こえた。

特殊部隊が徐々に後退しながら取材チームの元に戻ると隊長が、

「全員伏せたまま通路の端に移動しろ!」と叫んだ。

 

琴乃羽と取材チーム、特殊部隊が通路の左右に四つん這いになりながら移動すると、行進してきた隊列の様子がハッキリ見えた。

 

隊列は全員がメタリックなスケルトン(骸骨)で銃のような物を構えながら近付いてきた。

まさに某近未来アクション映画のスカイネット軍隊その物だった。

「発砲止めろ!」隊長が指示すると隊員達は銃を下ろして取材チームの盾になるように動いた。

 

スケルトン兵士の4列縦隊16体は左右の特殊部隊と取材チームには目もくれずに通り過ぎると、真っ直ぐに黒いワゴン車に向かって行った。

 

ワゴン車の兵士達から恐怖の絶叫が上がり、スケルトン兵士に激しい銃撃が浴びせられたが兵士の隊列が崩れることはなく、1体も倒れないままワゴン車の兵士に近付くと構えていた銃口からブーンという駆動音と共に電光が(ほとばし)った。

 

スケルトン兵士の放った小型レールバルカン砲はパルスレーザーの様にワゴン車の前に居た兵士に突き刺さり、兵士は身体中がスパークに覆われて倒れた。

隊列のスケルトン兵士はワゴン車を囲むように散開すると一斉に電光の雨をワゴン車の周囲に居た兵士達に浴びせて全員を射殺した。

琴乃羽達は戦慄の眼差しで冷や汗を流しながらその光景を見ていた。

 

スパークと電光の嵐が治まると、ワゴン車の中から一人の兵士が大月の首に銃口を突き付けながら現れた。

「骸骨野郎!人質がどうなっても良いのか?」

兵士がロシア語で叫んだ。

 

「奴等は極東ロシアの特殊部隊(スペツナズ)だったのか?」

琴乃羽の隣に来ていた隊長が言った。

 

「ミス・コトノハ。あの人質はミスターオオツキで良いのかね?」

「はい。確かに大月さんです!」

 

大月に銃口を突き付けている兵士が

「骸骨野郎は全員銃を捨てろ」と命令した。

 

スケルトン兵士は全員が銃を床に捨てた。

 

安心した武装兵士が、

「よし、次はーーー」

 

と言い終わらないうちに先頭のスケルトン兵士の頭が大月に銃を向けていた兵士を直撃した。

兵士はスケルトン兵士の頭4個の直撃を受けてワゴン車に叩きつけられた。

同時にスケルトン兵士の腕が延びて大月をスケルトン兵士側に引き寄せた。

 

ワゴン車には残りのスケルトン兵士の頭が殺到し、ワゴン車はひしゃげてやがてガソリンに引火すると炎上した。車内に置いていた手榴弾等の弾薬が過熱されて爆発し、叩きつけられた兵士もろとも吹き飛んだ。

 

スケルトン兵士の頭は多少の焦げ目がついたものの、また自らの胴体に戻った。

大月は拉致直後から意識を失っている様子で、ぐったりしてスケルトン兵士に抱えられていた。

 

大月を抱えたスケルトン兵士が琴乃羽に近付くと、琴乃羽に大月を差し出してきたので、特殊部隊の隊長と二人で大月を受け取ると、スケルトン兵士の隊列は通路の奥に戻って行った。

 

スケルトン兵士と入れ替わりに奥から美衣子、結、瑠奈の三姉妹が現れて大月に近付くと身体を診察した。

「ん。お父さんは麻酔を射たれているわ」

「解毒が必要かしら」

「新種の神経ガスっすね」

 

琴乃羽が、

「麻酔薬は時間が経てば効果が消えるのではないの?」

と聞くと三姉妹はうなずいた。

 

「幸いお父さんは軽いやつを射たれていたから問題ないわ」美衣子が言った。

 

「2時間程度で目が覚めるわ」結が肯定した。

「暴投鎮圧用っすね」瑠奈が分析結果を言った。

 

「琴乃羽。時間稼ぎありがとう。あのままここの奥で立て(こも)られると機械兵士と大事になったから助かったわ」

美衣子がそう言うと三姉妹が琴乃羽達に頭を下げた。

 

「じゃ、私達はお父さんを家に連れて帰るわ」

そう言うと三姉妹は大月を(かつ)ぎ上げていつの間にか通路に現れていた扉をくぐると向こう側に出ていった。

三姉妹が出ていくと扉は忽然(こつぜん)と消え去った。

 

琴乃羽達は唖然(あぜん)として扉が有った所を見つめていたが、

「ミス・コトノハ。私達はこの後どうすれば?」特殊部隊隊長が困惑して聞いてきた。

 

ーーーーーーーーーー

『どこへもドア』からNEWイワフネハウスに戻った大月と美衣子達はひかりと東山に迎えられ、大月は寝室に寝かされた。駆け付けた自衛隊医師の診察でも軽度の全身麻酔を射たれているだけで数時間で目覚めるとの診断に、ひかりは安堵(あんど)した。

 

東山は、美衣子達から武装兵士の話を聴くと官邸に戻って行った。

 

「間に合って良かったわ。ありがとうね美衣子、結、瑠奈」

ひかりが3人を抱き締めてお礼を言った。

 

「たまたま琴乃羽達が居たから時間稼ぎが出来たわ」美衣子が言った。

 

「そう。良かったわ。琴乃羽さん達はどこに?」

「「「あ、」」」

 

ひかりは東山に琴乃羽達の事を伝え、東山の手配により、英国連邦極東(ダウニングタウン)のケビン首相が持つ『どこへもドア』で、琴乃羽達と特殊部隊は長崎に帰還した。

 

またゼイエス研究所の施設がスケルトン兵士の他にもジュラシックパーク並の物騒な代物が沢山有り、余りにも危険なので美衣子達三姉妹で物理的にもシステム的にも地上に出ることが無いように応急処置で封鎖した。

 

数ヵ月後、この封鎖施設に英国連邦極東とユーロピア共和国の特殊部隊が訓練目的で侵入したが、程なくして行方不明となり、月面ユニオンシティで発見されることになる。

月面で保護された彼らは恐慌状態でしきりに『審判の日が来た!』とブツブツ呟いており、イワシパイと引き換えに美衣子が脳神経治療カプセルを提供して治療されるまで尖山予備基地に収容されていた。

 

この出来事から、シドニア地区の旧マルスアカデミー地下研究区域は『ヘル・シティ(地獄都市)』と欧米軍事関係者から恐怖の代名詞として呼ばれるようになった。

 

【東京都千代田区永田町 首相官邸】

 

「大月君が無事で何よりだ」澁澤がホッとして言った。

 

「本当に。しかし、大月君を狙うとは。警護を更に強化すべきでしょうか?」

「いや、今回は内調を持ってしても裏をかかれたのだ。諜報組織の本場には(かな)わんよ」

 

「ケビン首相の話では、武装兵士がロシア語を話し、M16を使用していたとの事ですが、やはり」

「ああ、ミッチェル達も焼きが回ったのかもしれん」

 

「アース・ガルディアからのプレッシャーが有ったのだろうよ。米露の思惑が裏目に出たようだな」

澁澤はそう言うとソファにもたれた。

 

「これ以上 火星(こちら)で揉め事は御免だ。ソーンダイクに動いて(もら)うしかないな」

澁澤は岩崎にそう言うと、ケビン首相やユーロピア共和国のジャンヌ首相と連絡を取り始めた。

 

同日午後7時【NHKニュース】

「英国連邦極東のBBCとユーロピア共和国のチャンネル2(ドゥ)は、トップニュースで横浜市に住む日本人会社員が武装した何者かに拉致されて救出されるまでの一部始終を撮影した映像の一部を公開しました。

両放送は、実行犯は複数おり、全員特殊部隊との銃撃戦で射殺されたと報じています。

首相官邸はNHKの取材に対し、民間人の安全のため、否定も肯定もしない、とのコメントを発表しました」

 

英国連邦極東特殊部隊と武装兵士の銃撃戦、爆発するワゴン車、(顔は隠されている)大月が特殊部隊隊長に抱き抱えられている場面の映像が流されていた。

スケルトン兵士と美衣子達が映るシーンはカットされていた。

 

「政府関係者によりますと、拉致実行犯について人類都市ボレアリフの極東米露政府に照会中との事です。また、官邸の関係者は、事件の背後にアース・ガルディアが深く関与している可能性を示唆しました」

 

「火星オリンピック終了直後に起きたこの事件に、日本列島各国からは和平ムードを台無しにされた怒りの声が拡がっています」

 

日本列島各国とアース・ガルディア陣営との対立は再び高まるのだった。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
次話から第七章『地球復興計画』に入ります。
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