転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

大月(おおつき) (みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
西野美衣子(ミーコ)=マルス人日本列島生態環境保護システムの人工知能。
鷹見結(むすび)=マルス文明尖山基地管理人工知能がバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・イワフネ=マルス人。ルンナが彗星の影響で破損した為に地球に降下した。
澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。
岩崎(いわさき)=内閣官房長官。
東山(ひがしやま)=内閣官房首相補佐官。西野の大学同期。
・ミッチェル=極東アメリカ合衆国大統領。
・パノフ=極東ロシア連邦大統領。


火星編 地球復興計画
粛清


地球暦2021年11月3日【東京都渋谷区 神聖女子学院大学附属小学校】

 

パン、パンパン

地球にいた頃と変わり無い澄みきった秋空に運動会開催を知らせる花火が小学校の運動場上空で白煙を上げた。

この日、瑠奈が通う小学校の運動会が開催された。

 

日頃からフリーダムな言動と行動力で優秀な教師陣を大いに悩ませる、(よわい)46億5000万歳を数える小学4年生の瑠奈は、元気にクラスメイトと共に入場行進していた。

美衣子と結は大月とひかりに肩車されながら上機嫌で瑠奈に手を振っていた。"叔父"のイワフネは自ら『撮影係』を志願してハンディカムで瑠奈を捉えていた。

 

「美衣子。運動会の種目に協力したんだって?」

大月が()いた。

 

「この前のオリンピックに比べると他愛(たわい)も無いわ」

大月に肩車されている美衣子がムフンと薄い胸を張っていた。

 

「私もそれなりに知恵を絞ったわ」

風雲ムスビ城の仕掛人がフンスとこちらも薄い胸を張り合うように張った。

 

大月は胸を張る二人を見ながら、そう言えば二人とも最近やたらと牛乳を飲むようになっていたな、と思い出した。

大月は小声で、

「マルス人に牛乳って効果あるのかな?」

とひかりに()いてみた。

 

ひかりは、

「そんなの気持ちよ!気持ち!」

と何故か頬を染めて大月の視線から身体を逸(そ)らした。

 

大月は何となくこの話題を掘り下げるといろいろ不味(まず)い展開になると予想し、(うなず)いただけでイワフネと運動場の片隅に家族観覧用のレジャーシートを敷くのだった。

 

運動会は大月とひかりの『予想に反して』円滑(えんかつ)に競技が進行していった。

 

たまに『パン食い競争』の菓子パンが参加者に喰いついてきたり、『障害物競争』がSASUKI仕様で参加者のリタイヤが続出する中、瑠奈が(やすやす)々とクリアーしたり、多少の突っ込み所は有るが、取り合えず騒動沙汰(そうどうざた)にならない展開に教師陣は嬉し涙を流し、大月達はホッとするのだった。

 

勿論、美衣子や結、瑠奈は運動場をダンジョン空間にする勢いで企画をしていたのだが、日本列島『外の世界』で不穏な動きが三姉妹に察知され、その『対応』で岩崎や東山と秘かに打ち合わせをした為に時間が足らず、企画が大人しくなってしまったという大人の事情が有った。

 

運動会は波瀾(はらん)もなく終わり、三姉妹とイワフネ、大月、ひかりは手を(つな)いで仲良く帰宅した。

久々に穏やかな休日はこうして終わろうとしていた。

 

同11月3日午後11時30分【人類都市ボレアリフシティ 米露合同政府庁舎 極東ロシア大統領執務室】

 

1週間前に失敗した大月拉致作戦の後始末に忙殺されていたパノフ大統領は、次の計画を模索していた。

「こうなれば、あのイワフネハウスとやらに潜り込むか、シドニア地区の施設を占拠するか、悩ましいな」

パノフ大統領はそう呟くとウォッカを飲みながら夜食のキャビァ入りサーモンサンドを食べた。

 

11月4日午前1時、パノフ大統領の身の回りの世話をする執事が執務室に入るとパノフ大統領が机に突っ伏しており、声を掛けても反応が無く、ピクリとも動かずにいた。

執事が執務室の前にいたSPに伝えると直ぐに医師が呼ばれ、心肺蘇生処置(しんぱいそせいしょち)がなされたが午前1時32分、パノフ大統領の死亡が確認された。

 

死因は青酸カリが含まれた夜食のサーモンサンドを食べた事による中毒死であった。

ロシア警察が捜査を開始したが、厨房(ちゅうぼう)の料理人が一人急病で帰宅しており、警察が自宅に突入したが、料理人の変死体が有るのみだった。

解剖の結果、料理人の死因は青酸カリによる中毒死だった。

 

また、家宅捜索で室内から総合商社角紅のサーモン注文票の控えが見つかった。注文票の商社担当者は大月満と記載されていた。

 

キャビアの注文票には注文者として西野美衣子のサインが有った。

極東ロシア検察庁はこの件について日本政府に通報し、重要参考人として身柄の引き渡しを要求した。

 

同時刻【アルテミュア大陸内陸部 ニューオレゴンコロニー 農場上空】

 

極東アメリカ大統領専用ヘリ『マリーンα(アルファ)』は内陸部の開拓コロニーの視察を終えたミッチェルを乗せてボレアリフシティへ帰還する途中だった。

 

「大統領。ボレアリフシティから緊急連絡です」

パイロットが通信を大統領のヘッドホンに切り替えた。

 

「なに!?」パノフの訃報(ふほう)を知らされたミッチェルは絶句した。

 

「奴ら、私達を粛清(しゅくせい)するつもりなのか!」

ミッチェルはわなわなと怒りに震えた。

 

「アース・ガルディアなどと言ってもソ連のKGBと変わらんではないか!」

次の瞬間、眼下に広がる麦畑の各所から携帯ミサイルが次々と発射されてミッチェルのヘリに命中した。

 

大統領専用ヘリは空中で爆発四散(ばくはつしさん)し、破片が炎上しながら真下の麦畑に落下した。

 

10分後、異常に気付いた2番機が墜落場所に着陸して生存者の捜索を行ったが、生存者は皆無(かいむ)だった。

 

2番機が到着する直前に、ステルスモードのブラックホークヘリが微(かす)かなローター音を立てて農場から離脱してボレアリフシティ郊外の海岸に停泊している偽装(ぎそう)タンカーに向かった。

彼らは火星五輪期間中に地球圏から来訪したアース・ガルディア選手団に同行した大会関係者だった。

 

11月4日午前7時 極東米露政府は両国の大統領が相次いで暗殺されたことを公表、両国大統領代行のマッカーサー三世によりボレアリフシティと沖縄、北方四島に戒厳令が布告された。

また日本政府に対し、大統領暗殺の重要参考人として日本人の大月満と西野美衣子の引渡しが繰り返し要求された。

 

日本政府は即座に事実無根の()(ぎぬ)であるとして引き渡しを拒絶した。

 

警察庁は、ロシア検察庁の家宅捜索で発見された注文票の筆跡は本人と一致しなかった事、大月は事件発生当日も日本国内に居たことも監視カメラや周囲の事情聴取で判明していた。更に大月は入社以来、発注部署に所属していない事も明らかにした。

 

列島各国世論の多くは、この事件の背後にアース・ガルディアが糸を引いているとの見方が支配的であり、極東米露の要求に強い不快感を示した。

 

日本列島各国世論の見方は"半分"正しかった。

火星で起きた暗殺事件はアース・ガルディア本国での政変が飛び火したものだったのである。

 

地球暦2021年(ガルディア暦4年)11月1日、アース・ガルディアの月面都市ユニオンシティが『都市国家ユニオンシティ』としてアース・ガルディアからの独立を宣言、ガルディア軍所属の旧米軍部隊がアース・ガルディア首都のコア・サテライトコロニーを急襲したのである。




ここまで読んで頂きありがとうございましたm(__)m
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