転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=マルス人日本列島物育成環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。

・イワフネ=マルス人。地球調査隊長。

・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。豪胆。
・岩崎(いわさき)=内閣官房長官。政治の裏表に精通。
・東山(ひがしやま)=内閣官房首相補佐官。西野の大学同期。
・天草士郎=JAXA理事長。

・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍司令官。提督(中将)。
・ジョーンズ=火星研究機構宇宙軍少将。
・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。
・イゴール=宇宙国家アース・ガルディア創設者にして総代表。
・アレクセイエフ=宇宙国家アース・ガルディア、ロシア語圏防衛担当代議員。アンゴルモア艦隊司令。

・アマトハ=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。
・ゼイエス=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。


インドラの矢

【地球と月の中間地点 地球衛星軌道上 ラグランジュポイント】

 

ラグランジュポイントでの宇宙艦隊戦は激戦となっていた。

 

航空宇宙自衛隊のモビルスーツ部隊が放つキャノン砲とミサイルが雨あられとガルディア軍の重巡洋艦に降り注ぐと、重巡洋艦は各所から空気を含んだ火炎や水蒸気を噴出(ふんしゅつ)させながら轟沈(ごうちん)していった。

 

ガルディア軍のミグ89宇宙戦闘機はユニオンシティ防衛軍の宇宙戦闘艦に突進して至近距離で対艦ミサイルを発射して離脱を図ったが、ボフォース社製自動追尾型対空砲火を機体に浴びるとバラバラと破片を派手に撒(ま)き散らしながら回転して別のユニオンシティ防衛軍の戦闘艦に激突して、戦闘艦もろとも爆散(ばくさん)した。

 

「『ペンシルバニア』『ヘレナ』『オレゴン』相次いで爆散!『ニューオリンズ』大破、戦線離脱します」

「なんで奴等(やつら)はあそこまで戦うのだ」

ジョーンズ少将はアンゴルモア艦隊の死力(しりょく)を尽くした戦い振りに驚愕(きょうがく)しながらも怪訝(けげん)に思った。

 

「これ以上の損害は今後の戦局に不利になる。アンゴルモア艦隊の戦闘力は充分に()いだ(はず)だぞ!」

ジョーンズ少将が戦況パネルを見ながら言った。

「はい。開戦時に比べ、アンゴルモア艦隊の戦闘力は50%を切っています」

副官が応えた。

 

「全艦隊、針路反転。ユニオンシティ基地に一時後退する」

ジョーンズ少将が命じた。

 

【アンゴルモア艦隊旗艦『ムルマンスク』】

 

「反乱軍艦隊、反転の気配!月面に撤退します」

「ダメだ!撤退させるな!何としても食らい付け!損害に構うな!我々に後は無いのだぞ!」

アレクセイエフ司令官が将兵を叱咤(しった)した。

 

アレクセイエフはイゴールから、

「ユニオンシティ軍と開戦したら、どちらかが最後の一兵になるまで交戦せよ」

と命令されていた。

 

アレクセイエフは命令の意図を特に訊(き)くことなく従った。

ジョーンズ少将並に政治的感性に(とぼ)しいアレクセイエフとしては、総代表の命令には何らかの意図があるのでそれに従えば間違いがない。と確信していた。

イゴールが部下を時間稼ぎ程度、としか見ていないなどとはアレクセイエフは思っていなかった。

 

その思いと確信は、アレクセイエフの旗艦『ムルマンスク』がモビルスーツ部隊とF7支援戦闘機の集中攻撃を受けて爆散する最期(さいご)の瞬間まで続いた。

 

「アンゴルモア艦隊旗艦『ムルマンスク』轟沈!残存戦力 (なお)も我が艦隊に突撃して来ます!」

 

「信じられない!バンザイ突撃のつもりか!」

思わずジョーンズ少将が叫ぶ。

 

アンゴルモア艦隊は戦闘不能になった艦船を除き、最後の一機まで戦い続け、全滅した。

 

月面都市国家ユニオンシティは、アース・ガルディアに代わって地球衛星軌道上を掌握(しょうあく)した。

 

地球暦2021年11月12日午後11時【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 大月家】

 

食後のカボチャプリンを食べてご満悦(まんえつ)だった美衣子が突然大月の(ひざ)の上から離れて立ち上がると、

「結!瑠奈!"あれ"を止めさせなさい!絶対にダメ!!」

と叫んだ。

大月とひかりは驚いたが様子を見ることにして傍(そば)で見守っていた。

 

やがて無表情で次々と何処(どこ)かと話し合っていたが、

「お父さん、澁澤と岩崎に『すぐに』話したいの」

 

大月は「分かったよ」とだけ応えてひかりに目で合図した。

 

ひかりは岩崎の携帯に連絡を取ると、美衣子に

「澁澤総理とすぐに話せるわよ」

と言った。

 

美衣子は

「お母さんありがとう。3階で『みんなで』話し会うわよ」

 

と言うと、大月の背中にしがみついて「おんぶ」をせがんだ。

大月は特に何も言わずに美衣子をおんぶして3階の旧マルス大使館として使われていた執務室に向かった。

 

執務室に着くと、既に美衣子のメッセージを受け取ったのか、イワフネ、岬教授、JAXA理事長の天草、協力機構の琴乃羽教授、東山首相補佐官が座り、壁面に埋め込まれた多くのモニターには澁澤首相、岩崎、ジョーンズ少将、ロイド提督、英国連邦極東ケビン首相、ユーロピア共和国ジャンヌ首相、そしてプレアデス星団に帰還したアマトハとゼイエスまでもが顔を(そろ)えていた。

 

美衣子は全員の顔を見渡すとこう言った。

「シャンバラの愚か者がアトランティスの遺産を、インドラの矢と言う地球を再び破滅させる兵器を使うわ」

 

集まった全員は絶句するしか無かった。

 

美衣子はイワフネと過去に収集したデータを基にアトランティス文明の大量破壊兵器について説明した。

段階的技術承継を受け、最新兵器を生み出した列島諸国人類は到達不可能なアトランティス文明の軍事技術に驚愕(きょうがく)するしかなかった。

 

「イゴールがマグマエネルギーを利用したプラズマ兵器をユニオンシティに発射するのですね?」

ロイド提督が美衣子に質問した。

 

「あの愚か者はアトランティス文明の末路までシベリアで再現するでしょうね」

美衣子が皮肉げに言った。

 

「あの地下都市『シャンバラ』に住んでいたアトランティス人は、兵器の使用後に地下から噴出した有毒火山ガスで全滅した。

もっとも最悪だったのはシベリア地区の大規模地殻変動が当時の地球全域に波及して、アトランティス大陸とムー大陸で繁栄した二大文明が滅亡したことよ」

憂鬱(ゆううつ)な顔の美衣子は話し続け、

 

「今、インドラの矢を使うと大変動中の地球環境にトドメを刺すことになるわ。今以上の火山活動は人類に有害な大気を充満させてしまう。大気の浄化、火山灰の酸性化を中和する事は出来るけど、途方もない時間を必要とするの」

 

「何としてもシャンバラに有るあの兵器を使わせない事が一番よ。その為の作戦はあなた達が考えて。ちなみに、残り時間は半日よ」

 

そう言うと美衣子は部屋の隅に居た大月の(ひざ)に戻った。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
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