転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島物育成環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・イワフネ=マルス人。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。豪胆。
・岬(みさき) 渚砂(なぎさ)=東南海大学教授。
・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍司令官。提督(中将)。
・ジョーンズ=火星協力機構宇宙軍少将。
・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。
・イゴール=宇宙国家アース・ガルディア創設者にして総代表。
・アマトハ=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。
・ゼイエス=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所 所長。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ジャンヌ=ユーロピア共和国首相。


シャンバラ攻略

地球暦2021年11月12日午後11時30分【神奈川県横浜市神奈川区 NEWイワフネハウス 3階 会議室】

 

会議室に集った面々は早速意見を交わした。

 

「残り時間半日だと普通に部隊を派遣して探索なんて悠長(ゆうちょう)な事は出来ません」

「地下都市ごと(つぶ)してしまえば」

 

「それはダメ」美衣子が口を(はさ)んだ。

「あの兵器を破壊すると"そこから"マグマが漏れてしまう。兵器の機能停止がベスト」

と言った。

 

「基地に急襲するか」

「基地の特定が出来ない」

「観測機で上空から地上探索レーダーを」

「火山灰が濃厚で普通の航空機はエンジンが灰でダメになる」

「仮にレーダーが作動していても、火山灰の性質によってはレーダーが何処(どこ)まで効くかも問題だ」

「場所の特定さえ出来れば」

「地下都市『シャンバラ』でしょう?そこの座標は承継データに無いのですか?」

「極東米露にありますね」

「ユニオンシティに有りませんか?アース・ガルディア時代のデータとして 」

「あれはブレイクスルーな代物(しろもの)でしたから、総代表が直接管理していました。我々にも分からないのです」

面々が悩む。

 

「えっと、美衣子。シャンバラの座標を言ってみなさい?」

大月が(ひざ)に乗る美衣子に言った。

 

「ん。北緯@#°=@」分、東経&"※$°?%分」

あっさり美衣子が言った。

 

一同はガックリきた。

 

「私は地球生命誕生からあらゆる事象のデータを蓄積しているから訊(き)かれたら、答えられる」

美衣子が心なしか(ちじ)こまって言った。

大月はそんな美衣子の頭を撫(な)でて慰めていた。

 

「だけど、(みんな)忘れているかもしれないけど、私はあくまでも人工知能システム。クローンの肉体にシステムを移植しているだけで、人間の様に錯綜(さくそう)した情報を選別する思考が出来ない事を覚えておいて」

美衣子が無表情で言った。

ひかりには、そんなこんな美衣子が悲しそうに見えた。

 

一同はそんなやり取りに沈黙していたが、岬教授の一言で破られる。

「中性子、ニュートリノビーム」

 

岬教授は、

「ニュートリノビームを月面基地から地下都市の座標に照射出来ませんかね?」

と言ってみた。

 

「中性子であれば、本国(ステイツ)に中性子爆弾が有るが?」

ジョーンズ少将が発言した。

「それでもいい。だけど地下都市は深さ6kmもあるからそこまで人類の中性子爆弾の効果が届かない」

結が指摘した。

 

「ニュートリノビームは物質を透過(とうか)する特性がある。仮に目標が地球の裏側に有っても『地球の中を通過して』裏側の施設にダメージを与える事が可能」

美衣子が説明した。

 

「一応言っておくわ。大量の中性子、ニュートリノビームを浴びた地下都市の人間が無事では済まない事を(きも)に銘じて。

あと、恐らくマグマエネルギーを誘発させるためのトリガーとして、核兵器を彼らは設置しているけど、ニュートリノビームを浴びた弾頭は正常に起爆しないで不完全爆発を起こすわ。

小さな不完全臨界爆発だけど、ヒロシマ並の核被害も覚悟しないといけないわ」

どうするの?と美衣子が一同に覚悟を迫った。

 

「やるしか有るまい」澁澤首相が言った。

「「我が国も同意します」」ケビン首相とジャンヌ首相もすかさず賛同した。

 

「あなた方の決断はやむを得ないと思います。

これ以上の破壊はアトランティスと同じ破滅しかありません。

ここまで進んだ歩みが無駄にならないように行動すべきです。

技術的助言であれば、瑠奈、結でも大丈夫でしょう」

アマトハが言った。

 

「地球をまた汚して済まない」ソーンダイク代表が言った。

 

「地下都市のイゴール派閥には気の毒だが、自業自得です。ミス・ミイコ、ご協力お願いします」

ソーンダイクが頭を下げた。

 

「瑠奈がすぐに作業を始めたいと言っている。月面ラボの周回加速器施設を活用できる」

結が答えた。

 

「とは言うものの、人手が欲しい」

「ユニオンシティの技術者がお手伝いします」

ソーンダイクが申し出た。

 

「ん。申し分ないけど大量のエネルギーが必要。具体的には原子力が人類の用意できるもの」

結が指摘する。

 

「宇宙戦艦の原子炉では不足かね?」

ジョーンズ少将が訊いた。

 

「20隻分有れば最適」結が答えた。

 

「我々の戦闘艦とユニオンシティの残存戦闘艦で何とか賄(まかな)えないか?」

「大丈夫」結が頷いた。

「ソーンダイク代表。よろしいでしょうか?」

澁澤首相が確認する。

 

「我々が狙われているのです。是非(ぜひ)も有りません!」

ソーンダイクが即答(そくとう)した。

 

「分かった。岬はここに残ってラボの改修監督をしてもらう」

美衣子が(こた)えた。

 

「ジョーンズは部下を連れてシベリアで愚か者を地下に封じ込めて」

結が言った。

 

「わかりましたミス・ムスビ」

ジョーンズ少将が了承した。

 

「アトランティスの兵器を機能停止させた後はどうするのですか?」

英国連邦極東のケビン首相が参加者達に訊いた。

 

「地下都市が崩壊していなければ、ユニオンシティの地球メガフロートから制圧部隊を派遣してイゴールを捕らえます」

ソーンダイクが答えた。

 

「間に合えば良いのですが」

ユーロピア共和国のジャンヌが心配そうに言った。

「ミス・ミイコ。アトランティスの地下都市は地球上にまだ有るのかね?」

 

「トルコとメキシコに大きいのが有る。愚か者の手下が居るわ」

美衣子が答えた。

 

「では、何としてもシベリアで終わりにせねばなりませんな」

ロイド提督が言った。

全員が頷いた。

 

同11月12日午後11時50分【月面都市『ユニオンシティ』宇宙軍港】

 

火星から旧在日米軍兵士が搭乗してきた小型シャトルが宇宙軍港の電磁カタパルトから射出されてシベリア地区北極圏タイミル半島に真っ直ぐに向かっていた。

 

アンゴルモア艦隊との戦闘で活躍したモビルスーツ部隊も連戦で疲労していたが、地球壊滅の危機を防ぐために志願して搭乗した。

元米軍横田基地のマードック司令と結が後方指揮に当たった。

 

ユニオンシティでは、居住区の市民で科学知識や土木技能の有る人間が総動員されて瑠奈の指示のもと、マルス人ラボ施設をニュートリノ発生用粒子加速装置に組み換える作業を行っていた。

 

同11月13日午前1時【南太平洋上 ユニオンシティ所属メガフロート『マリーンシティ』】

 

月面都市から飛来したマルス製の大小シャトルがメガフロート近くの海上に着水した。

メガフロートへの移動時にシャトルに乗った者も居たが、全長500mを超える三角形の機体を見るとあらためてその巨大さに圧倒されるのだった。

 

制圧部隊は地上活動に慣れたメガフロート駐留米軍を主力とする事になった。

シャトル到着前にメガフロート駐留部隊の中から特殊部隊、海兵隊の兵士を募り、制圧部隊が編成されていた。

「今回の任務は時間制限の有る、厳しいものになる。我々の働き次第でこれ以上の地球の破滅が防げるかも知れん!最優先目標は元総代表イゴールだ!絶対に逃すな!」

ジョーンズ少将がキビキビと訓示(くんじ)して部隊がシャトルに搭乗してシベリアに向かった。

 

同午前2時【月面都市『ユニオンシティ』メインサーバールーム兼作戦司令部】

 

「ジョーンズ少将の部隊がマリーンシティを飛び立ちました。シャンバラ到着まで2時間です」

通信オペレーターが報告した。

 

「ニュートリノビーム発射装置への接続テスト完了。粒子加速器試験運転異常無し」

ユニオンシティの技術者が報告した。

 

「結(むすび)姉さま、何時(いつ)でもニュートリノビームは撃てるけど、照準はどうやるっすか?」

メインサーバーに接続した瑠奈が結に()いた。

 

「シンプルにこれでいくわ」

結が遠隔操作で月面の重機を動かして巨大なスナイパーライフルを粒子加速装置に接続させた。

 

「これなら気分も出るでしょ?」

結がフンスと胸を張る。

 

「姉さん渋いっすよ!」瑠奈が絶賛した。

「だけどライフルの引き金はどこっすか?」

 

「これを、ここに座りながら撃つのよ!」

結が大型拳銃のような銃身の上部にスコープの付いた発射装置を手渡した。

「まるで波動〇みたいっすね!いけてます!」

瑠奈は興奮してテンションが上がっていた。

 

「やっぱりエネルギー充填(じゅてん)120パーセントで発射っすね!」

「それだと月面都市ごと消滅するから。100パーセントになったら目標に照準を合わせて撃つのよ!」

瑠奈に結がレクチャーした。

 

黒髪幼女とトカゲ娘のやり取りを背後で見ていたソーンダイク代表とマードック司令官はオロオロと顔色が悪くなるのだった。

 

「ニュートリノビームシステム、粒子加速」

「エネルギー加速。50、60、75、順調に加速中」

「目標照準。シベリア北極圏タイミル半島」

瑠奈がオペレーター席に()え付けた発射装置のスコープを作動させる。

「射線上航行物体は直ちに射線から離れろっ!」

ジョーンズ少将が地上で警告を発令した。

 

「粒子エネルギー加速さらに上昇!カウントダウンに入ります!」

オペレーターが瑠奈に引き継いだ。

「了解っすよ!」瑠奈がこたえる。

 

「エネルギー加速、96、97、98、99、100!」

瑠奈が灰色に覆われた地球シベリアに向けてトリガーを引くと、月面全体にブゥーンと低い駆動音と低周波振動が発生した。

「ニュートリノビーム発射中です!」

 

30秒ほどすると、駆動音と振動は治まった。

「ニュートリノビーム照射完了」

瑠奈がふぃーっと大きく息を吐いて後ろにいたソーンダイクにピースをした。

 

「目標地域への照射は成功。目標からの電磁波、レーザー等対抗シールドは発生していません!」

「シベリア地下都市は沈黙しました!」

地球観測システムのオペレーターがソーンダイクに報告した。

 

「ジョーンズ少将より入電。あと4分でタイミル半島上空に到達します」

「ジョーンズ。部隊を降ろす前に地下都市で核爆発や放射能災害が起きていないか見極めるのよ」

ジョーンズ少将に結が忠告した。

 

「了解しましたミス・ムスビ。地上及び地中レーダーとセンサーを総動員して地下都市を走査しろ!」

ジョーンズ少将が命令した。

 

【シベリア北極圏 タイミル半島地下都市 『シャンバラ』】

 

プラズマレーザでユニオンシティを狙っていたイゴール派閥の本拠地は大混乱に(おちい)っていた。

「インドラの矢 プラズマレーザーシステム、エネルギー供給システムダウン!システム管理サーバーブラックアウト!」

「シャンバラ都市機能のほとんどが停止しています!」

 

「マグマエネルギー誘発爆縮装置の核弾頭が不完全臨界しようとしています!異常な量の放射線が発生!」

「プラズマレーザ管制室、応答せよ!」

 

「バカな!?電磁パルス攻撃でも地下6kmのこちらまで電磁波は届かないはずだぞ!」

「強力な放射線で管制室が全滅しました!」

 

「ブラックアウト直前に大量の中性子を観測」

「中性子ビームの照射だと!?」

 

「間もなく爆縮装置核弾頭が不完全臨界状態になります!」

「緊急汚染警報!総員待避!地下トンネルでカッパドキア基地に避難しろ!」

「移動システム、全車輌のエンジンがダウンしています!」

 

「ソーンダイクめ!許さんぞ!絶対にーーー」

歯軋(はぎし)りするイゴールの視界が突然光に包まれて意識が断絶した。

 

「地下都市で核爆発発生!衝撃波来ます!」

上空に到達していたジョーンズ少将のシャトルは、地下都市からの不完全臨界放射線を既に感知してタイミル半島から急速離脱を始めた矢先だった。

 

「総員、地上を見るな!対閃光(せんこう)、対衝撃防御!」

 

地下都市『シャンバラ』の在ったタイミル半島から眩(まばゆ)いばかりの赤い閃光が漏れ出してヒロシマ型原爆と同規模の核爆発が発生した。

 

タイミル半島上空を離脱したシャトルのモニターには地上からゆっくりとキノコ雲が立ち上る様子が映し出されていた。

 

「愚かな」ジョーンズ少将が(つぶや)いた。

 

「地下都市は完全に沈黙。動いている物は、有りません。全滅です」

「引き続き地下都市周辺の監視を怠(おこた)るな!」

 

メガフロート都市『マリーンシティ』からの増援部隊はジョーンズ少将指揮の下、メキシコとトルコに別れて地下都市の制圧に振り向けられた。

両地下都市にはイゴール派閥の小規模な駐留部隊が居たが、短時間の戦闘でユニオンシティ軍に制圧された。

 

地球暦2021年(ガルディア暦4年)11月13日午前3時30分【シベリア北極圏 タイミル半島から120km離れた上空】

 

ジョーンズ少将は『シャンバラ』の監視を続けていたが、地下都市からの生存者は居なかった。

 

アース・ガルディア創設者にして総代表のイゴールとその派閥はこうして滅亡した。

 

同午前6時、月面都市国家ユニオンシティ政府代表ソーンダイクは、宇宙国家アース・ガルディアの消滅を正式に宣言した。

同時に、火星協力機構への参加を日本政府に申請し、火星の極東米露政府にはユニオンシティ国への帰属を命令した。

極東米露政府の臨時代表ダグラスマッカーサー三世はなす(すべ)もなくユニオンシティへの帰属を表明した後に辞任した。

極東米露政府は月面都市国家ユニオンシティに統合され、ユニオンシティ火星地方政府として再出発する事となった。

 

人類都市ボレアリフは地球から避難してきたユニオンシティ国民が火星環境に慣れるまでの間、火星協力機構加盟国に共同統治される事になった。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
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