転移列島   作:NAO

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【このお話の主な登場人物】

・大月(おおつき) 満(みちる) = 40代。一応主人公。総合商社角紅社員。内閣官房室に出向中。
・西野 ひかり= 20代後半。一応ヒロイン。総合商社角紅社員。社長の孫娘。
・西野美衣子(ミーコ)=日本列島物育成環境保護システムの人工知能。
・鷹見結(タカミムスビ)=マルス文明尖山基地管理人工知能だったがバージョンアップされた。
・大月瑠奈(るな)=マルス文明地球観測天体(月基地)管理人工知能『ルンナ』。月基地に保管されていた日本人標本から誕生。
・澁澤(しぶさわ) 太郎(たろう)=日本国総理大臣。豪胆。
・岩崎(いわさき) 正宗(まさむね)=内閣官房長官。
・岬(みさき) 渚砂(なぎさ)=東南海大学教授。
・天草 士郎=JAXA理事長。
・琴乃羽(ことのは) 美鶴(みつる)=火星協力機構マルス文明承継担当 教授。
・空良(そら) 透(とおる)=国立天文台所長。
・ロイド・サー・ランカスター=英国連邦極東軍司令官。提督(中将)。
・ソーンダイク=月面都市国家『ユニオンシティ』代表。
・ゼイエス=マルス人。プレアデスコロニーアカデミー特殊宇宙生物理学研究所所長。
・ケビン=英国連邦極東首相。
・ジャンヌ=ユーロピア共和国首相。


地球復興会議

地球暦2021年11月20日午前9時【東京都千代田区永田町 首都官邸】

 

アース・ガルディア国家崩壊から1週間後、火星協力機構加盟国が集まって地球復興に向けた話し合いが行われた。月面都市国家ユニオンシティのソーンダイク代表は惑星間通信での参加である。

 

「地球上での大変動が発生して2年が()とうとしています。しかし、未だに世界各地での天変地異は収まる様子が有りません。」

ユニオンシティのソーンダイクが口火を切った。

 

「具体的には地殻変動と地軸移動(ポールシフト)が断続的に続いており、地震と火山噴火、磁場(じば)の乱れによる有害宇宙放射線が生き残った人類への脅威になっています」

 

「また、噴火で生じた大量の火山灰が大気中に(ただよ)い、海中にも降り積もっているため、海洋・湖沼での水質の酸性化が顕著(けんちょ)に進み、珊瑚礁(さんごしょう)をはじめとする生態系の壊滅が進んでいます」

 

「加えて海面上昇により水没した原子力発電所に貯蔵されていた放射性廃棄物による放射能汚染、中東地域を始めとする産油国油田地帯の原油 掘削(くっさく)施設から流出した原油汚染が徐々に進んでいます。」

 

月面都市から地球環境を観測してきた国立天文台の空良(そら)が報告した。

 

何処(どこ)から手を付ければ良いのか、途方(とほう)に暮れますな」

英国連邦極東のケビン首相がため息をついた。

 

「大変動の元から調べないと対策の立てようが有りません」

ユーロピア共和国のジャンヌ首相が発言した。

 

「ジャンヌは良いことを言う」

同席していた大月の膝に座る美衣子(ミーコ)が言った。

 

「この大変動は、日本列島とその周辺の海水を含む巨大質量が一気に消失した事が原因」

美衣子が答えた。

 

「失われた質量に対応出来るよう地球環境が自律的なバランス再編から大変動が起き続けている、と言うことですか?」

ソーンダイクが訊いた。

 

「そう。バランス再編にどのくらい時間がかかるのか、予測は難しい。あえて実例を上げるならば、恐竜時代に落下した巨大隕石災害 (ジャイアント・インパクト)からの再生と同じ」

美衣子が答えた。

 

参加者達は茫然(ぼうぜん)として地球大変動の想像を絶する規模に認識をあらたにした。

 

「そのような大災害、もはや人類の手には負えないのではありませんか?」

台湾自治区の(ワン)代表が発言した。

 

「しかし、自然に任せるまま何世紀も地球を放置して良いものでしょうか?」

澁澤首相が言った。

 

「他国からの攻撃が元凶(げんきょう)とは言え、我が国の国土が問題を引き起こしたならば、我が国は少なくともこの状況で手を引くのは早すぎると思います。やれるだけやって、その結果で考えたい」

澁澤が言い切った。

 

「以前、美衣子さんは火山灰なら中和出来るとおっしゃいました。酸性化対策ならばアルカリ性である石灰粉(せっかいふん)を北半球に散布(さんぷ)すればよいでしょう。私達でも出来る方法はあるはずです」

岩崎官房長官が発言した。

 

「問題は地殻変動の鎮静化(ちんせいか)方法です」

天草があらためて指摘した。

 

「日本列島分に見合う質量を持つ岩石を火星か、金星から集めて旧日本列島跡に軟着陸、設置すれば良いのでは?」

空良(そら)所長が提案した。

 

「考えは正しいけど、他の惑星からはダメ」

美衣子がダメ出しした。

「各惑星自身の質量バランスが崩れてしまうから、火星からの岩石持ち出しは、火星での地殻変動発生を意味するわ」

 

一同はしばらく黙考(もっこう)した。

 

やがて、琴乃羽(ことのは)教授が

「火星と木星間にあるアステロイドベルト(小惑星帯)から(いく)つか運んで来るのはどうでしょうか?」

と遠慮がちに言った。

 

「悪くないわ」

美衣子が評価した。

 

「地球への運搬(うんぱん)手段と大気圏突入時の熱と衝撃対策と設置方法も課題ですな」

ロイド提督が指摘した。

 

「火星と月にあるシャトルや戦艦の推力(すいりょく)では力不足」

結(ムスビ)が指摘した。

 

「プレアデスのおっきい船なら行けるんじゃなぃっすか?」

瑠奈(ルンナ)が思い付きを口にした。

 

「マスターに聞いてみる。マスター、どう思う?」

美衣子がいきなりその場でプレアデス星団のゼイエスを呼び出した。

 

新しいモニターが一つ現れて、研究室一杯に張り巡らせたプラレール整備に(いそ)しむゼイエスの後ろ姿が映し出された。

「ミーコ、私は今忙しいのだ。このブルートレイン『九つ星』の線路を敷いたらーーーって、ええっ?!」

 

ゆっくりと振り向いたゼイエスの(うろこ)に覆われた顔が心なし赤く染まったように見えた。

 

「コホンっ、失礼しました。お久しぶりですね皆さん」

ゼイエスが無理矢理平静さを(よそお)って挨拶(あいさつ)した。

 

「マスター、アステロイドベルトの岩を地球に日本列島と同じ質量分置きたい。オウムアムル型の船を何隻か貸して欲しい」

美衣子が言った。

 

「ほお、それは面白い。もう少し詳しく話しなさい」

ゼイエスが宇宙物理科学者の顔で言った。

美衣子が地球環境を安定させる手段としての地球質量バランス再生方法を説明した。

やがて、ゼイエスは

「うむ。ミーコの考え方は正しいでしょう。手間のかかる方法ですがオウムアムル型の船団を使ってアステロイドベルトの小惑星を数十個、船団で囲(かこ)ってそのまま地球上に設置するのは可能でしょう」

と答え、少し考えた後に、

 

「基本的にマルスアカデミーは、初期コンタクトした文明には過度に干渉しない事になっています。アマトハや、プレアデスコロニー首脳にも諮(はか)らねばならないでしょう」

事の重大性を指摘した。

 

ゼイエスが参加者達を見ながら言った。

「より具体的な再生計画を教えて頂きたいのですが」

 

「マスターゼイエス、お忙しいところ、突然のお話で申し訳ございませんでした。基本的には美衣子さんの言われた方法を我々は考えています。詳細が決まりましたらこちらからご連絡します」

岩崎官房長官がそう答えて通信を終えた。

 

「我々はもっと真剣に考えないと助けを乞(こ)うことも出来ませんね」

岩崎が参加者達を見回して言った。

 

「ところで、」澁澤が気になっていたことを発言した。

「地球上の国々はどうなったのでしょうか?」

 

ソーンダイクが発言を求め、説明を始めた。

「衛星軌道上からの観測と通信 傍受(ぼうじゅ)、地上の旧ガルディアコミュニティのネットワークから情報を収集している限りでは、大半の国家が崩壊したとの事です」

 

「北半球の欧米、アジアの中国、ロシアは地球大変動で国家体制が崩壊して(わず)かにスイスと周辺数都市が自衛しつつ孤立している状況です」

 

「ほとんどの国家が崩壊したために、国連やNATO(北大西洋条約機構)、上海条約機構、ASEAN(東南アジア諸国会議)、アフリカ連合(AU)、湾岸協力機構(GCC)などの国際機関や条約機構組織は機能しておらず、事実上消滅しました」

ソーンダイクが嘆息して首を振りながら説明を続ける。

 

「インドとパキスタンは大変動の津波とヒマラヤ山脈エベレストの大規模山体崩壊により政府自体が壊滅、東南アジア諸国も同様です」

「オーストラリアとニュージーランドは沿岸部の主要都市が津波と地震で壊滅、大陸中央の砂漠地帯で中小の地域コミュニティが(かろ)うじて存続しています」

 

「中東地域はイスラエル以外の国家が全て天変地異による大混乱の中で自然消滅してしまい、部族・地域単位で僅かな生存者が放浪(ほうろう)している状態です。イスラエルは辛うじて国家組織の維持に成功していますが、物資の不足で治安維持可能な地域が日々減少しているようです」

 

そこでソーンダイクが一旦言葉を切って澁澤を見つめた

「澁澤首相。実はイスラエルのニタニエフ首相から澁澤首相とお会いしたいとのメッセージを預かっています。あの国もこのままではじり貧になりますから、打開策を相談したいのでしょう」

「分かりました。お会いしましょう。会談場所などは後程こちらからお返事しましょう」

 

澁澤は岩崎官房長官に準備を指示した。

ソーンダイクは説明を再開した。

 

「アフリカ大陸は、最南端の南アフリカ共和国ケープタウン周辺が都市機能を維持している以外は政府と呼べる組織は有りません。大陸中を無数の避難民が放浪し、軍隊崩れの犯罪組織が盗賊と化して避難民を襲撃しており、完全に無法地帯です。旧反政府ゲリラや武装宗教組織が盗賊に合流している始末で世紀末的様相を(てい)しています」

 

あまりに悲惨な状況に会議の参加者は全員が沈黙してしまった。

地球復興会議の初日はこうして終わった。

 

ーーーーーー

東京の首相官邸から横浜にあるNEWイワフネハウスへの帰り道で大月は、三姉妹についてひかりと話して気づいたことを美衣子たちに伝えることにした。

 

「ねえ、美衣子。美衣子はシャンバラ会議の時に自分は人工知能に過ぎないと言っていたけど一つ見落としている事があると思うんだ」

大月が膝の上でくつろぐ美衣子に話しかけた。

 

「確かに美衣子たちはデータを集積してプログラミングされた通りの思考と行動しか出来ない人工知能としての「一面」はあると思う」

 

「でもね。それだと、なんで結と瑠奈の思考と行動は美衣子と違うのだろうね?まるで人間の、性格の違う姉妹と何ら変わりがないと思う」

美衣子が大月の膝の上から大月の顔を見上げる。

 

「ゼイエスから以前聴いた事だけど、美衣子達は「自律進化型」、自分で(りっ)して進んでゆく人工知能だよね」

三姉妹は頷いた。

 

「それって、人間と変わらないんじゃないかなぁ?人類だって基本的には自分を律して、人生経験を積んで日々過ごしているよ?」

 

「美衣子達は既に充分「人間らしい」、いや「人間となんら変わらない」と思うよ。発想の貧弱さを気にするかもしれないけど、それは「人間として生活している経験」がまだ浅いから仕方ないことだと思うよ。だから結も瑠奈も今まで通りに伸び伸びと過ごせば良いんじゃないかな」

 

SPが運転するワゴン車の中で美衣子達三姉妹は、NEWイワフネハウスに帰るまで無言でじっと大月の両腕と背中にしがみついていた。

そんな四人をひかりは嬉しそうに見つめながら大月の手を握りしめるのだった。




ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m
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